黒住 隆行
1999年2月15日
人間のコミュニケーションにおいて顔が重要な役割をはたしていることが知ら れている. そして,ネットワークを介したコミュニケーションにおいて顔の重要な情報で ある個人性や表情が伝送できれば,より親密かつ効率の良いコミュニケーショ ンができると考えられる. 本研究はそのようなコミュニケーションを実現するために顔画像から個人性及 び表情の解析を行うことを目的としている.
顔画像から個人性や表情を解析する代表的手法として主成分分析 (Principal Components Analysis;PCA)がある. PCAは抽出した特徴ベクトル (ex. 顔画像の輝度値,顔形状,オプティカルフロー,etc) の集合から, 射影成分の分散が大きい射影軸をあらかじめ求めておき, 特徴ベクトルをその射影軸への射影成分(主成分)で表す手法である. しかし,PCAにより求まった主成分は個人性や表情,照明等の様々な影響が混 合した成分である. よって,PCAにより個人性を解析する場合,表情,照明等のばらつきによって 解析結果が大きく影響されるという問題がある.
このような影響を軽減する方法としてフィッシャーの線形識別を多クラスに拡 張した重判別分析(Multiple Discriminant Analysis;MDA)を用いる方法がある. MDAは級内分散と級間分散の比が大きい軸を求める手法である. 本研究では従来のPCAに基づく固有空間法を変形して得た, 級間分散と級内分散の差が大きい軸を求める手法(本稿では本手法のこと をクラス特徴に基づく固有空間法(Eigenspace Method based on Class features:EMC)と呼ぶ)を提案する. そして,EMCとMDAのそれぞれを使用し,任意の顔パターンに対して個人性ま たは表情の特徴を表す軸,すなわちEMC,MDAにおける固有ベクトルを導出す る. その固有ベクトルで顔パターンを変換して得た特徴ベクトルにより個人性と表 情の解析を行う. また,手法の妥当性を示すため,クラス特徴に基づく固有空間法と重判別分析 を50人の人物の個人識別と7表情の表情識別に適用した結果と固有ベクトルの 表す顔画像の傾向も示す.