神経マーケティングに関する研究


脳機能イメージング装置への期待
脳活動を絵で表現できる機器の開発が進んでいます.サービスは一言で言えば「プロセス」ですから,動的かつ客観的測度で人間の脳活動を測定できる装置は,これからのサービス研究への応用が大いに期待できます.脳活動を見ると言えば,これまではfMRIや脳波計を使っての実験が活発になされてきましたが,最近では光トポグラフィーと呼ばれる,脳内のヘモグロビン濃度の変化を多点で測定することで画像化する装置も注目されています.比較的安価かつ無侵襲(要は体を過度に傷つけない)に人間の脳活動を測定することができます.

脳で説明する
私たちはこの技術をサービスのマーケティングに応用し,サービス価値提案に対して興味を持っているときの脳活動や,商品の使用イメージを持つときの脳活動を分析しています.私は純粋な脳科学者ではありませんので,主にサービスマーケティングの立場から,企業の専門家と共同で取り組んでいます.研究ではこれまで次のことを分析してきました.
  • 温泉旅館ウェブページや化粧品広告を見たときの印象評価
  • 商品広告を見たときに「実際にそれを自分が使ったらどうだろうか(使用イメージの想起)」という行動に至ったときの前頭葉の脳活動
  • 携帯型の光トポグラフィーを用いたサービス空間の評価
  • 動画広告の印象評価
興味を持ったページを見ている時と興味を持ち得なかったページを見ている時で,前頭葉の脳活動のプロセスが大きく異なることや,使用イメージが起こった場合はそうでない場合と比べて脳活動の起伏が激しいことがわかっています.

これから
光トポを用いたマーケティング研究は日々進化しています.下記はチャレンジですが,新しい傾向を見いだしています.
  • 人間の思考を司るとされている前頭葉の活動に注目して研究をしていますが,「どの領域がどのような活動特性がある」等の,エリアを指定した上での詳細分析が必要
  • 脳活動だけでなく視線計測も合わせて総合的に人間の認識に即したマーケティング研究.現段階ではその途中であり,統合的なデータ分析手法の開発は今後の課題.
  • 更に今後は脳活動の傾向から被験者をクラスタリングしてアンケートの主観評価や視線の特徴を分析する等の,今までとは逆のアプローチを検討し,マーケティングツールとしての有用性を分析.
  • などなど


本学知識科学研究科 白肌研究室修士課程修了生 井上正男君が 第3回サービス学会 学生奨励賞 を受賞


去る平成27年4月8日―9日にて金沢にて行われた,第3回サービス学会全国大会において,本学知識科学研究科 白肌研究室修士課程修了生 井上正男 君が学生奨励賞 を受賞しました.サービス学会は,サービスに関する広範な知識を体系化することで,様々な産業課題の解決に寄与し,サービスに関わる「社会のための学術」を構築することを目的に設立されました.2013年に第1回の国内大会が行われ,2015年4月現在で415名の会員を有します.学生奨励賞は,前年度,はこだて未来大学において行われた第2回サービス学会における研究報告の中から,特に優れた,また,新しい視座をサービス研究に与える学生論文に対し与えられるものです.

受賞研究は「高級消費財購買意思決定におけるImage in Useの脳活動分析」というタイトルで,消費者が価格の高い商品を購入する際の意思決定に注目した研究です.商品を閲覧した際に,「実際にそれを使って,生活にどのような変化がおこるか」想像している(あるいはしていない)際の脳活動を,高級九谷焼の購買をケースに実験し,被験者への聞き取りデータと共に分析しています.サービス学会では,こうした,財の使用価値を消費者が想像する行為を,脳活動データと紐づけて考察している点を高く評価され,今後の更なる研究の促進を期待されました.

受賞者である井上君は,既に本学を修了し,企業人として新たな一歩を踏み出していますが,この一報を受けて本人より,下記のメッセージを受けています.

「このような栄誉ある賞をいただき,嬉しく思います.指導教員である白肌准教授はもとより,脳活動研究を初期より支援していただいた小坂教授,そして共同研究企業の皆様に心より御礼を申し上げます.これを励みに,一層精進していきたいと思います.」