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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。ナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる! ~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~
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国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
ナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる!
~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~
ポイント
- 液体金属に生体分子を吸着させた複合体へのガンマ線照射によりコア-シェル型の構造を持つナノ粒子の作製に成功
- ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子がEPR効果により腫瘍に集積し、マウスに移植したがんの可視化と、光熱変換によるがん治療が可能であることを実証
- 当該ナノ粒子と近赤外光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出に期待
| 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学領域の都 英次郎准教授とセキ ウン大学院生(博士前期課程)は、量子科学技術研究開発機構(理事長・平野 俊夫、千葉県千葉市)、高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部(群馬県高崎市)の田口 光正上席研究員(「生体適合性材料研究プロジェクト」プロジェクトリーダー)、木村 敦上席研究員と共同で、量子ビーム(ガンマ線*1)架橋技術を用いて、ガリウム-インジウム合金から成る液体金属*2 表面に様々な生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)がコートされ、安定な状態を保つことができるコア-シェル型*3 のユニークな構造を有すナノ粒子の作製に成功した(図1)。得られたゼラチン-液体金属ナノ粒子は、EPR効果*4 によって大腸がんを移植したマウス体内の腫瘍内に集積し、生体透過性の高い近赤外レーザー光*5 により、がん患部の可視化と光熱変換による治療が可能であることを実証した。さらに、マウスがん細胞とヒト正常細胞を用いた細胞毒性試験と生体適合性試験を行い、いずれの検査からもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。当該ナノ粒子と近赤外レーザー光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出が期待される。 |
【研究背景と内容】
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温で液体の金属(液体金属)は、高い生体適合性と優れた物理化学的特性を有することが知られており、とりわけナノ粒子化した液体金属をバイオメディカル分野に応用する研究に大きな注目が集まっている。研究チームでも、液体金属をがん患部に送り込むことができれば、生体透過性の高い近赤外レーザー光を用いることで、患部の可視化や光熱変換を利用した、新たながんの診断や治療が実現できるのではないかと考え、研究をスタートさせた。
液体金属をナノ粒子化するためには煩雑な合成プロセスが必要であり、ナノ粒子化した液体金属の構造や機能を溶媒中で安定的に保持させることは難しい。そこで、研究チームは、液体金属をがん患部まで送り、がん細胞内に取り込ませるために、液体金属表面に生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)を吸着させたコア-シェル型ナノ粒子の作製を試みた。Ga/In液体金属と生体分子の混合物に超音波照射することで、コア-シェル型ナノ粒子を形成できることを見出したが、そのままではナノ粒子の構造を水中で安定的に維持させることはできなかった。
この問題を解決するために、ナノ粒子表面の生体高分子がバラバラにならないよう、量子ビーム(ガンマ線)架橋反応を利用すれば、架橋剤などの細胞毒性を有する薬剤を用いることなく、生体高分子の特性を保持したまま安定化できると考えた。この方法でガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子は、30日以上の粒径安定性を有していること、細胞に対し高い膜浸透性を有し毒性が無いこと、近赤外レーザー光照射により発熱が起こることが確認できたため、がん患部の可視化と治療効果について試験を行った。
大腸がんを移植して10日後のマウスに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を投与し、4時間後に740~790 nmの近赤外光を当てたところがん患部だけが蛍光を発している画像が得られ、当該ナノ粒子がEPR効果によりがん組織に取り込まれていることが分かった(図2(左))。そこで、当該ナノ粒子が集積した患部に対して808 nmの近赤外レーザー光を照射したところ、光熱変換による効果で26日後には、がんを完全に消失させることに成功した(図2(右))。
さらに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性と生体適合性を評価した。2種類の細胞[マウス大腸がん由来細胞(Colon-26)、ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(MRC5)]を培養する培養液中に、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を、添加量を変えて投与・分散させ、24時間後に細胞内小器官であるミトコンドリアの活性を指標として細胞生存率を測定した結果、細胞生存率の低下は見られず、細胞毒性はなかった(図3)。また、ゼラチン-液体金属ナノ粒子をマウスの静脈から投与し、生体適合性を血液検査(1週間調査)と体重測定(約1ヵ月調査)により評価したが、いずれの項目でもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は、今回開発した生体高分子のナノ粒子コーティング技術が、革新的がん診断・治療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく、ナノテクノロジー、光学、量子ビーム工学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものである。
本成果は、2021年12月20日に先端材料分野のトップジャーナル「Applied Materials Today」誌(Elsevier発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、日本学術振興会科研費(基盤研究A)及び総合科学技術・イノベーション会議 官民研究開発投資拡大プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM:PRISM)の支援のもと行われたものである。

図1. ガンマ線を利用した生体分子-液体金属ナノ複合体の合成と当該ナノ粒子を活用した光がん療法の概念。
LM: 液体金属、NIR: 近赤外、FL: 蛍光。

図2. ナノ粒子をがん患部に集積・可視化(左)し、光照射によりがんを治療(右)。

図3. CCK-8法によるゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性評価。
赤:マウスの大腸がん細胞、グレー:ヒトの正常細胞、
RIPA: Radioimmunoprecipitation Buffer(細胞や組織の溶解に
使用される緩衝液、本実験の陽性対照に利用)
【論文情報】
| 掲載誌 | Applied Materials Today |
| 論文題目 | Sonication- and γ-ray-mediated biomolecule-liquid metal nanoparticlization in cancer optotheranostics |
| 著者 | Qi Yun, Atsushi Kimura, Mitsumasa Taguchi, Eijiro Miyako* |
| 掲載日 | 2021年12月20日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1016/j.apmt.2021.101302 |
【関連研究情報】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、先端科学技術研究科物質化学領域の都研究室では、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性(光発熱特性)に注目し、これまでに、"三種の神器"を備えた多機能性グラフェン(2020年4月23日 JAISTからプレス発表)、ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ(2020年8月17日 JAISTからプレス発表)、がん光細菌療法の新生(2021年2月16日JAISTからプレス発表)などの光がん療法を開発している。
量子科学技術研究開発機構(QST)、先端機能材料研究部プロジェクト「生体適合性材料研究」では、量子ビーム微細加工技術による先端医療デバイスの創製の一環として、これまでに、診断や創薬における微量検体の分析性能が数10倍に!(2019年6月25日 QSTからプレス発表)、平面状の細胞シートが立体的に!細胞が自分の力でシートを3次元化(2021年7月14日QSTからプレス発表)などの機能性材料作製技術を開発している。
【用語説明】
*1 ガンマ線
ガンマ線とは、放射性同位元素(コバルト60など)の崩解によって放出される量子ビームの一種。
*2 液体金属
室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス約39℃)、ガリウム(融点約30℃)、ガリウム-インジウム合金(融点約15℃)がある。
*3 コア-シェル型
コアは核、シェルは殻を意味し、一つの粒子で核と殻の素材が異なるものをこのように呼ぶ。
*4 EPR効果
100nm以下のサイズに粒径が制御された微粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみがん組織に到達して患部に集積させることが可能である。これをEPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)という。
*5 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
令和3年12月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/12/21-1.htmlリチウムイオン2次電池の急速充放電を実現する負極活物質を開発 ~バイオベースポリマー由来高濃度窒素ドープカーボン~
リチウムイオン2次電池の急速充放電を実現する負極活物質を開発
~バイオベースポリマー由来高濃度窒素ドープカーボン~
ポイント
- リチウムイオン2次電池の急速充放電技術の価値が国際的に高まっており、これに適した材料の開発が期待されている。
- 耐熱性バイオベースポリマーであるポリベンズイミダゾールを焼成することにより、高濃度窒素ドープカーボンを得ることに成功した。
- 得られた窒素ドープカーボンを負極活物質としてアノード型ハーフセルを構築し充放電試験を行ったところ、本活物質は急速充放電に対してグラファイトとの比較において大幅に優れた適性を示した。
- 急速充放電に適した電極材料として、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用展開が期待される。
| 北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野 稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 松見 紀佳教授(物質化学領域)、金子 達雄教授(環境・エネルギー領域)、バダム ラージャシェーカル講師(物質化学領域)、東嶺孝一技術専門員、Yueying Peng元研究員、Kottisa Sumala Patnaik(博士前期課程2年)は、リチウムイオン2次電池*1の急速充放電を可能にする新たな負極活物質の開発に成功した。 |
【研究背景と内容】
今日、次世代リチウムイオン2次電池開発においては、高容量化、高電圧化、難燃化など多様な開発の方向性が展開されている。なかでも最も重要性を増しているものとして、急速充放電の実現が挙げられる。現状、ガソリン車にガソリンスタンドで給油するためには数分を要するのみであるため、電気自動車(EV)が要する長い充電時間は、消費者の購買意欲を低減させている主要因の一つと考えられる。そのような状況にもかかわらず、多くの国々は将来的なガソリン車の生産中止の意向を決定しており、今後、急速充電に対応する関連技術の国際的な価値は極めて高いものとなっていくことが予想される。これらの背景のもと、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)においても超高速充電(XFC:extreme fast charging)の目標として15分以内での充電の実現を掲げてきた。
アノード(負極)側の活物質において、充放電速度の向上に適用可能な設計戦略としては、炭素系材料における層間距離の拡張によりイオンの拡散速度を上昇させることに加え、窒素などのヘテロ元素ドープが潜在的に有効な手法として検討されてきた。しかし、層間距離やヘテロ元素濃度を自在に制御する手法は確立されていない。
そのような背景のもと、本研究グループでは、含窒素型芳香環密度が高く高耐熱性を有するバイオベースポリマー*2のポリベンズイミダゾールを前駆体とすることにより、焼成後に高濃度窒素ドープハードカーボン*3を得た(図1)。バイオベースポリマーを前駆体とすることにより、低炭素化技術としての相乗的効果が期待される。得られた材料は17 wt%という高濃度の窒素を有していた。低分子前駆体の場合には焼成過程で多量の含ヘテロ元素成分が揮発してしまうが、高耐熱性高分子を前駆体とすることで大幅に窒素導入率を向上させることができた。
また、ポリベンズイミダゾールを800℃で焼成して得られた窒素ドープカーボンに関してXRD測定で層間距離(dスペーシング)を観測すると3.5Åであり、通常のグラファイトの3.3Åと比較して顕著に拡張した(図2A)。一般に、広いdスペーシングは系内のリチウムの拡散を促し、リチウム脱挿入の速度を向上させる。ラマンスペクトルはId/Ig比が0.98と極めて高く、(通常のグラファイトでは0.18)、効果的な欠陥の導入によりイオン拡散において好影響を有することが期待された(図2B)。また、XPSスペクトル(N1s)においては、窒素がグラファイティック窒素、ピロリジニック構造、ピリジニック構造等としてそれぞれ導入されている様子を観測した(図2C)。
得られた窒素ドープカーボンを負極活物質としてアノード型ハーフセル*4を構築し充放電試験を行ったところ、本活物質は急速充放電に対して優れた適性を示した。同様の充放電条件においてグラファイトと比較して大幅に優れた放電容量を示した(図3)。また、13分充電条件(0.74 Ag-1)においては1,000サイクル後に153 mAhg-1 (容量維持率89%)を示し、1.5分充電条件(7.4 Ag-1)においては1,000サイクル後に86 mAg-1 (容量維持率90%)を示すなど、良好な耐久性を示した。さらにフルセルにおいても好ましい充放電挙動を示した。
なお、本研究は、戦略的イノベーション創出プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)の支援のもとに行われた。
本成果は、Chemical Communications (英国王立化学会)オンライン版に11月25日(英国時間)に掲載された。
【今後の展開】
前駆体である高分子材料においては様々な構造の改変が可能であるほか、焼成条件の相違においても様々な異なる高濃度窒素ドープハードカーボンの化合物が得られ、さらなる高性能化につながると期待できる。
前駆体高分子には様々な有機合成化学的アプローチを適用可能であり、本研究が示すアプローチにより、急速充放電能を示す負極活物質材料における構造―特性相関の研究の進展が期待できる。
今後は、企業との共同研究(開発パートナー募集中、サンプル提供応相談)を通して将来的な社会実装を目指す。急速充放電技術の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開を期待したい。


図2. (A) 800oCで焼成したポリベンズイミダゾール(窒素ドープカーボン)とグラファイトのXRDパターンの比較、(B) 800oCで焼成したポリベンズイミダゾール(窒素ドープカーボン)とグラファイトのラマンスペクトルの比較、(C) 800oCで焼成したポリベンズイミダゾール(窒素ドープカーボン)のXPS N1s スペクトル

図3. (A) 800oCで焼成したポリベンズイミダゾール(窒素ドープカーボン)及びグラファイトを用いて作製した負極型ハーフセルの充放電レート特性、(B) 800oCで焼成したポリベンズイミダゾール(窒素ドープカーボン)及びグラファイトを用いて作製した負極型ハーフセルの長期サイクル特性、(C) 各レートにおける(0.37, 0.74, 3.72, 7.44, 11.16, 18.60 Ag-1 )800oCで焼成したポリベンズイミダゾール(窒素ドープカーボン)を負極活物質としたハーフセルの長期サイクル特性
【論文情報】
| 雑誌名 | Chemical Communications |
| 題目 | Extremely Fast Charging Lithium-ion Battery Using Bio-Based Polymer-Derived Heavily Nitrogen Doped Carbon |
| 著者 | Kottisa Sumala Patnaik, Rajashekar Badam, Yueying Peng, Koichi Higashimine, Tatsuo Kaneko and Noriyoshi Matsumi* |
| 掲載日 | 2021年11月25日(英国時間)にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1039/d1cc04931c |
【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 バイオベースポリマー:
生物資源由来の原料から合成される高分子材料の総称。低炭素化技術として、その利用の拡充が期待されている。
*3 窒素ドープカーボン:
典型的にはグラフェンオキシドにメラミン等の含窒素前駆体化合物を混合した後に焼成することにより作製される。従来法では可能な窒素導入量に制約があり、急速充放電用活物質の合成法としては不十分であった。一方、電気化学触媒やスーパーキャパシター用など様々なアプリケーションへの用途も広がりつつある材料群である。
*4 アノード型ハーフセル:
リチウムイオン2次電池の場合には、アノード極/電解質/Liの構成からなる半電池を意味する。
令和3年12月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/12/09-1.html学生の筑間さんと渡部さんが2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会において優秀ポスター賞を受賞
学生の筑間 弘樹さん(博士前期課程2年、物質化学領域、谷池研究室)と渡部 康羽さん(博士後期課程3年、生命機能工学領域、藤本研究室)が2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会において優秀ポスター賞を受賞しました。
北陸地区講演会と研究発表会は、毎年秋に、金沢大学、福井大学、富山大学、北陸先端科学技術大学院大学のいずれかの大学にて開催しています。特別講演のほか、ポスター発表があり、200~300名が参加しています。
今回、2021年度北陸地区講演会と研究発表会は、11月12日にオンラインにて開催されました。
■受賞年月日
令和3年11月16日
【筑間 弘樹さん】
■発表題目
触媒ナノ粒子の構造決定を目的としたニューラルネットワークポテンシャルの構築
■発表者名
筑間弘樹、高棹玄徳、BEHLER Jörg、谷池俊明
■研究概要
近年の計算機や第一原理計算の発展によって複雑な材料の高精度なシミュレーションが可能となった一方、第一原理計算の限界は物理化学的な直感や実験結果に基づいて初期構造を推定する経験的な過程にあった。この問題を解決するため、第一原理計算と遺伝的アルゴリズムを組み合わせた非経験的構造決定が試みられてきたが、第一原理計算手法の計算コストが構造決定の律速であった。本研究では、過去研究によって蓄積されたZiegler-Natta触媒一次粒子に関する第一原理計算データセットを用いて、第一原理計算を高精度に再現できるニューラルネットワークポテンシャル(NNP)を構築することで非経験的構造決定を高速に再現することに成功した。
■受賞にあたって一言
この度は、2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会におきまして、ポスター賞をいただけたことを光栄に思います。終始熱心なご指導を頂きました谷池俊明教授のご指導なしでは決して得られるものではなかったと思います。共同研究者である高棹玄徳さんには研究の方針や考察の方法など、細部にわたるご指導をいただきました。ゲッティンゲン大学のBEHLER Jörg教授には数々の適切なご助言、ご協力をいただきました。ここに感謝いたします。さらに、谷池研究室の皆様にこの場をお借りして心より御礼を申し上げます。
【渡部 康羽さん】
■発表題目
超高速RNA光架橋反応を用いた16S rRNA検出困難領域を標的とした新規FISH法の開発
■発表者名
渡部康羽、渡辺ななみ、藤本健造
■研究概要
生体内においてRNAは様々な高次構造を形成するため、核酸プローブの侵入を阻害していた。本研究では、複雑な高次構造を形成する大腸菌16S rRNAの検出困難領域を標的とした光操作法の開発を行った。複数の光架橋性核酸プローブを用いることにより、複雑な高次構造を有するRNAに対する光架橋反応を実現した。
■受賞にあたって一言
この度は、2021年度日本化学会北陸地区講演会と研究発表会におきまして、このような賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究の遂行にあたり、日頃よりご指導いただいている藤本健造教授にこの場をお借りして心より御礼申し上げます。また、多くのご助言やディスカッションに乗って頂いた藤本研究室の皆様に深く感謝いたします。
令和3年11月25日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2021/11/25-1.html物質化学領域の木田助教の研究課題が澁谷学術文化スポーツ振興財団の研究助成に採択
公益財団法人 澁谷学術文化スポーツ振興財団の研究助成「大学の新技術、研究活動への奨励金」に物質化学領域の木田 拓充助教の研究課題が採択されました。
澁谷学術文化スポーツ振興財団では、大学における学術研究の充実を目的とした奨励金の給付事業を行っています。「大学の新技術、研究活動への奨励金」は、石川県内の大学において、機械・電子・電気・化学・情報処理・環境関係等の研究を行う教授・学生等のグループ又は個人を対象とし、成果が期待される新技術開発の研究に対して給付されます。
*詳しくは、澁谷学術文化スポーツ振興財団ホームページをご覧ください。
■研究者名
物質化学領域 木田 拓充助教
■採択期間
令和3年11月~令和4年10月
■研究課題名
振動分光法を用いた重水素化プローブ分子鎖の直接観察による高分子の変形メカニズムの解明
■研究概要
ポリエチレン(PE)をはじめとする結晶性高分子材料は、非常に優れた延伸性や柔軟性、加工性を示すことから、我々の日常生活で幅広く利用されています。結晶性高分子材料は内部に結晶と非晶が入り混じった複雑な構造を有しており、例えば結晶と結晶を繋ぐ分子や、非晶内に浮遊する分子鎖など、さまざまな構造状態の分子鎖が存在しています。材料の変形過程において、これらの分子鎖はそれぞれ異なる力学応答を示すため、各構造状態の分子鎖量の違いによって物性は大きく変化します。そのため、最近では各構造状態の分子鎖量を最適化することにより、従来の高分子材料に比べて飛躍的に優れた物性を有する高性能高分子を開発する試みが盛んに行われてきました。本研究では、我々が有する精密合成技術を駆使することで、特定の分子鎖のみを重水素化し、赤外分光法などの振動分光法で重水素化分子鎖の運動状態を直接観察することに挑戦します。各分子鎖の力学応答を正確に把握することができれば、材料設計者が希望する物性を達成するために必要な分子鎖構造を予測することが可能となり、高性能高分子開発のための重要な知見となることが期待されます。
令和3年11月24日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/11/24-2.html環境・エネルギー領域の高田助教と物質化学領域の木田助教の研究課題が小笠原敏晶記念財団の研究助成に採択
公益財団法人 小笠原敏晶記念財団の研究助成「一般研究助成」に環境・エネルギー領域の高田 健司助教および物質化学領域の木田 拓充助教の研究課題が採択されました。
小笠原敏晶記念財団では、わが国の産業の発達に寄与することを目的として、理学・工学の領域において健全な発展の一助となる助成活動が行われています。一般研究助成は、高分子分野における、新素材・加工技術・新機能に関する研究開発に対して助成する制度です。
*詳しくは、小笠原敏晶記念財団ホームページをご覧ください。
- 採択期間:令和4年4月~令和5年3月
- 研究課題名:主鎖型ポリ桂皮酸ブロックポリマーのミクロ相分離構造の制御と光変形性の精密制御
- 研究概要:光エネルギーを運動エネルギーへと変換することができる光変形性材料はサスティナブルマテリアルとして注目されており、その変形挙動の制御や機能化法の確立が急務の課題となっています。本研究では、私たちが従来から研究してきた光応答性材料の開発と、有機分子触媒を利用したリビング重合技術を発展させ、ポリマーのミクロ相分離にもとづく多彩な変形挙動を有した新しい光応答材料の創出を目的としています。
- 採択にあたって一言:本研究課題を採択頂き大変嬉しく存じます。また、小笠原敏晶記念財団、および本助成の選考委員会の皆様に深く感謝申し上げます。本研究が、地球の環境・エネルギー問題に資するものになるよう邁進してまいります。また、本研究に関して多大なアドバイスをいただいた金子達雄教授はじめ、様々な知見を頂いた研究室の皆様、および研究協力者の方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
- 採択期間:令和4年4月~令和6年3月
- 研究課題名:重水素化プローブ分子鎖の直接観察による高分子材料の結晶化機構に与える分子量分布の影響の解明
- 研究概要:高分子材料において、分子量分布(分子鎖長分布)は材料物性を決定する最も重要な分子パラメータの一つです。我々の日常生活で多く利用されているポリエチレン(PE)は分子鎖が部分的に結晶化する結晶性高分子に分類され、分子量分布の平均値や分散度の違いで結晶度や結晶厚など結晶構造が著しく変化し、結果として材料物性に大きな違いが現れます。従来の研究においても、分子量分布の形状と結晶構造の関係についてはさまざまな報告が行われてきましたが、具体的にどの分子量成分が、どのように結晶構造の形成に影響を与えているかを理解することができませんでした。本研究では、重水素化プローブ法という技術を用いることで、特定の分子量成分の結晶化挙動を独立かつ直接に観察します。具体的には、母材として用いる分子量分布が広い軽水素化PEに対して、特定の分子量の重水素化PEを微量添加することで、特定の分子量成分のみが重水素化された試料を調製します。分光測定を用いることで軽水素化PEと重水素化PEを別々に検知することができるため、特定の分子量成分の結晶化挙動を直接観察することができ、結晶化機構に対する分子量分布の影響を解明することが期待されます。
令和3年10月26日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/10/26-1.html応用物理学領域の村田研究室の論文がThe Journal of Physical Chemistry Letters誌の表紙に採択
応用物理学領域の江口 敬太郎助教、村田 英幸教授の論文が米国化学会(ACS)刊行のThe Journal of Physical Chemistry Letters誌の表紙(Front cover)に採択されました。
■掲載誌
J. Phys. Chem. Lett. 2021, 12, 38, 9407-9412
掲載日2021年9月23日
■著者
Keitaro Eguchi* and Hideyuki Murata*
■論文タイトル
Evolution of the Ionization Energy in Two- and Three-Dimensional Thin Films of Pentacene Grown on Silicon Oxide Surfaces
■論文概要
分子薄膜が2次元構造から3次元構造に成長するにつれて、分子薄膜のイオン化エネルギーが小さくなることが理論計算により予測されていますが、実験的には確認されていませんでした。本研究では、光電子収量分光法を用いて2次元と3次元構造におけるペンタセン薄膜のイオン化エネルギーを測定し、ペンタセンを20層積層した3次元のペンタセン薄膜では、2次元のペンタセン薄膜に比べて、イオン化エネルギーが約0.2 eV小さくなることを初めて実証しました。
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.1c02723
表紙詳細:https://pubs.acs.org/toc/jpclcd/12/38

令和3年10月6日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/10/6-1.htmlメムキャパシタと自律局所学習を用いるニューロモーフィックシステムを開発
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| 学校法人 龍谷大学 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 |
メムキャパシタと自律局所学習を用いるニューロモーフィックシステムを開発
超コンパクト・低電力消費の人工知能への応用を期待
ポイント
- メムキャパシタと自律局所学習を用いるニューロモーフィックシステムを開発した。従来の人工知能と比べると、劇的なコンパクト化・低電力消費が期待できる。
- メムキャパシタとして、強誘電体キャパシタを用いることで、構造を単純なものとし、薄膜の液相プロセスを用いることで、作製プロセスも単純なものとしており、将来の高集積化が容易となる。DC電流が無く、過渡電流も減り、電力消費が大幅に減る。
- 自律局所学習として、メムキャパシタのヒステリシス特性を上手く利用することにより、結合強度の制御回路など無しに、ニューロモーフィックシステムに学習させることができ、やはり将来の高集積化が容易となる。
- 研究の成果は、「IEEE Transactions on Neural Networks and Learning Systems」(Impact Factor=10.451)に掲載。
【概要】
| 龍谷大学 先端理工学部電子情報通信課程の木村睦研究室は、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 中島 康彦教授、北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 徳光 永輔教授(応用物理学領域)らと共同で、メムキャパシタと自律局所学習を用いるニューロモーフィックシステムを開発しました。 メムキャパシタは、印加電圧の履歴によりキャパシタンスが変化する回路素子で、本研究では、強誘電体キャパシタを用いることで、構造を単純なものとし、Bi3.25La0.75Ti3O12 (BLT)の薄膜の液相プロセスを用いることで、作製プロセスも単純なものとしており、将来の高集積化が容易となります。従来の大規模な模倣回路やメモリスタ(可変抵抗素子)の代わりに、メムキャパシタ(可変容量素子)を用いるため、DC電流が無く、過渡電流も減り、電力消費が大幅に減ります。 また、自律局所学習は、単一素子が自分自身の駆動条件のみで特性を変化させる学習方式であり、やはり将来の高集積化が容易となります。従来のシナプス素子の結合強度の制御回路など無しに、メムキャパシタの電圧履歴のキャパシタンス特性を上手く利用することにより、メムキャパシタだけで、ニューロモーフィックシステムに学習させることができます。 従来の人工知能と比べると、劇的なコンパクト化・低電力消費が期待できます。 |
【研究の背景】
「人工知能」は、現在、さまざまな用途に用いられ、将来、SDGs・Society 5.0・IoTといった未来社会に不可欠な情報インフラです。人工知能のための代表的な技術が、生物の脳の機能を模倣することで、自己組織化・自己学習・並列分散処理・障害耐性などの特長をもつ「ニューラルネットワーク」です。しかしながら、従来のものは、ハイスペックなハードウェアで実行される複雑・長大なソフトウェアで、人工知能のために最適化されておらず、コンピュータのサイズは巨大で、電力消費は膨大であり、また、並列分散処理・障害耐性などの特長は限定的でした。ニューラルネットワークを基本的なハードウェアのレベルから生体の脳の構造で模倣し、ニューロン素子やシナプス素子を実装するのが、「ニューロモーフィックシステム」です。しかしながら、従来のものは、人工知能としての最適化が不十分で、上記の特長は完全には得られていませんでした。この原因は、(1) 大規模な模倣回路やメモリスタ(可変抵抗素子)を使うため、DC電流・過渡電流が大きく、電力消費が大きい (2) 大規模なシナプス素子の結合強度の制御回路を使うため、サイズが大きいということによります。
【研究の目的】
そこで、本研究では、ニューロモーフィックシステムにおいて、(1) 模倣回路やメモリスタ(可変抵抗素子)の代わりに、メムキャパシタ(可変容量素子)を用いるため、DC電流が無く、過渡電流も減り、電力消費が大幅に減る (2) シナプス素子の結合強度の制御回路の代わりに、自律局所学習を用いるため、サイズが小さいということを目的とします。
【メムキャパシタ】
メムキャパシタは、印加電圧の履歴によりキャパシタンスが変化する回路素子です。本研究では、強誘電体キャパシタを用いることで、構造を単純なものとし、Bi3.25La0.75Ti3O12(BLT)の薄膜の液相プロセスを用いることで、作製プロセスも単純なものとしており、将来の高集積化が容易となります。ここでは、クロスバー型でメムキャパシタを作製し、印加電圧の履歴により強誘電体キャパシタの自発分極が変化することで、キャパシタンスが変化する回路素子を実現しています。

メムキャパシタ
【自律局所学習】
自律局所学習は、単一素子が自分自身の駆動条件のみで特性を変化させる学習方式であり、やはり将来の高集積化が容易となります。メムキャパシタの電圧履歴のキャパシタンス特性を上手く利用することにより、シナプス素子の結合強度の制御回路など無しに、メムキャパシタだけで、ニューロモーフィックシステムに学習させることができます。学習フェーズでは、シンプルに、クロスバー型の横電極と縦電極に電圧を印加するだけで、必要なキャパシタンスの変化が誘起されます。推論フェーズでも、シンプルに、横電極に電圧印加し、縦電極の電圧を読み取るだけです。

自律局所学習
【ニューロモーフィックシステム】
メムキャパシタと自律局所学習を用いるニューロモーフィックシステムを、実際に組み立てました。アルファベットの「T」と「L」を記憶させ、わずかに異なるパターンを入力するとき、記憶した「T」または「L」のより近いほうが出力されることを確認しました。この動作は「連想記憶」というもので、文字認識や画像認識に直接に応用できるものであると同時に、問題設定により、さまざまな人工知能の取り扱う課題に応用できるものです。

ニューロモーフィックシステム

連想記憶の実験結果
【研究の意義と今後の展開】
従来の人工知能では、たとえば、いま最も有名なコグニティブシステムは、サイズは冷蔵庫10台ほど、電力消費は数百kWと言われています。本研究の基本的な成果をもとに、同様の機能のシステムを構築することを想定すると、サイズはLSI 1チップ、電力消費は20W程度と、劇的なコンパクト化・低電力消費が期待できます。SDGs・Society 5.0において、世界的なエネルギ危機を回避し、IoTにおいて、各々の機器へ搭載することが可能となります。なお、先行研究として、メモリスタと外部学習を用いるニューロモーフィックシステム(M. Prezioso, Nature, 521, 61, 2015)と比較すると、本研究で同様の機能が、低電力消費のメムキャパシタと、外部学習なしの局所自律学習で、実現できています。
【論文情報】
| 論文名 | Neuromorphic System using Memcapacitors and Autonomous Local Learning (メムキャパシタと自律局所学習を用いるニューロモーフィックシステム) |
| 掲載誌 | IEEE Transactions on Neural Networks and Learning Systems (TNNLS) |
| 著者 | 木村 睦(龍谷大学・奈良先端科学技術大学院大学)、石崎 勇真、宮部 雄太、吉田 誉、 小川 功人、横山 朋陽(龍谷大学)、羽賀 健一、徳光 永輔(北陸先端科学技術大学院大学)、 中島 康彦(奈良先端科学技術大学院大学) |
| DOI | 10.1109/TNNLS.2021.3106566 |
| 掲載日 | 2021年9月1日にオンライン版に掲載 |
令和3年9月3日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/09/03-1.html物質化学領域の木田助教の研究課題が服部報公会の研究助成に採択
公益財団法人 服部報公会の研究助成「工学研究奨励援助金」に物質化学領域の木田 拓充助教の研究課題が採択されました。
服部報公会では、工学に関する研究を奨励援助し、もって学術及び科学技術の振興と進歩発展に寄与することを目的とした事業が行われています。工学研究奨励援助金は、工学の発展に寄与する基礎的研究で、単なる調査ではなく理論的あるいは実験的研究を行い、1年間に一応の進展が期待される研究に贈呈されます。
*詳しくは、服部報公会ホームページをご覧ください。
■研究者名
物質化学領域 木田 拓充助教
■採択期間
令和3年10月~令和4年9月
■研究課題名
構造不均一性の導入による高強度・高延伸性熱可塑性エラストマーの開発
■研究概要
熱可塑性エラストマーは、結晶化して架橋構造として振る舞うハードセグメントと、柔軟で屈曲性に優れたソフトセグメントで構成された高分子材料であり、各セグメントの長さや分率を調製することで材料の性質を柔軟的なものから剛直的なものまで幅広く制御することが可能です。従来の研究では、熱可塑性エラストマーは精密合成法で合成されることが多く、各セグメントの長さや分率、分布が高度に制御された、均一な構造を有する熱可塑性エラストマーが開発されてきました。本研究では、異なる構造状態を有する熱可塑性エラストマーをブレンドすることで、わざと構造状態に不均一性を導入します。我々の有する世界最先端の構造解析技術と物性評価技術を駆使することで、物性向上のための最適な不均一構造の導入法を突き止め、従来の熱可塑性エラストマーと比べて劇的に物性を改善することを目指します。
令和3年8月30日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/08/30-3.html物質化学領域の長尾准教授の研究課題が村田学術振興財団の研究助成に採択
公益財団法人 村田学術振興財団の研究助成に物質化学領域 長尾 祐樹准教授の研究課題が採択されました。
村田学術振興財団では、エレクトロニクスを中心とする自然科学の研究及び国際化にともなう法律、経済、社会、文化等に係る諸問題に関する人文・社会科学の研究に対して研究助成が行われています。
*詳しくは、村田学術振興財団ホームページをご覧ください。
■研究者名
物質化学領域 長尾 祐樹准教授
■採択期間
令和3年7月~令和4年6月
■研究課題名
分子配向制御による全固体電池の界面デザイン
■研究概要
高分子は柔軟さや自己修復性が付与可能なため、将来的には、折り曲げ可能な固体電池の開発が期待されています。この実現には、電解質に対する電極および活物質の界面設計が不可欠です。界面の特徴の1つに、高分子特有の主鎖や官能基の分子配向等の構造変化がイオン伝導性に強い影響を与えるケースが報告され始めています。長尾准教授の研究グループでは、燃料電池に応用可能なプロトン伝導性高分子薄膜の界面におけるプロトン伝導性と分子配向の相関について研究を行ってきました。例えば、高プロトン伝導性高分子であるNafionは、界面の影響を受けた薄膜では配向構造を示すことが明らかにされています。さらに、酸化物界面と金属界面ではその配向構造が異なります。その構造の違いによってプロトン伝導度も異なります。これらの研究はまだ体系的に実施されておらず、特にデバイスや電池において重要な知見となる金属系材料や炭素系材料などの導電性表面における、高プロトン伝導性高分子界面のプロトン伝導性は十分に明かにされていない状況です。
本研究では、全固体蓄電界面のイオン伝導性や分子配向を同定することで、全固体電池の性能向上と共に課題となるイオンの拡散律速を抑制する次世代蓄電池の界面をデザインすることを目指します。
令和3年7月12日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/07/12-1.html新型コロナウイルスの重症化に関与するタンパク質ORF8の特異な性質を発見
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石川県公立大学法人 石川県立大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 |
新型コロナウイルスの重症化に関与するタンパク質ORF8の特異な性質を発見
| 新型コロナウイルスの重症化に関与するタンパク質ORF8は、過酷な環境下でも高い安定性、復元力を保つという特異な性質を持つことを発見しました。ORF8は、70度においても天然状態を保持し、70度以上で変性させても、温度が下がると天然状態に戻ること、酸性条件で変性するが、弱アルカリ条件にすると天然状態に戻ることを明らかにしました。 |
【概要】
石川県立大学 森正之准教授が中心となり、今村智弘講師、東村泰希准教授、松本健司教授および北陸先端科学技術大学院大学 生命機能工学領域の大木進野教授と共同で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の重症化関与タンパク質ORF8の特異な性質を発見しました。本研究成果は、速報誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に公開されました。
SARS-CoV-2が引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、基礎疾患や肥満の罹患者が重篤化しやすく、全世界で大問題となっています。新型コロナウイルスが持つORF8タンパク質は、SARS-CoV-2において特徴的なタンパク質です。これまでの解析により、ORF8は、免疫機能に重要な役割を持つMHCクラスIタンパク質の働きを抑え、細胞障害性T細胞を介した免疫応答を損なう働きがあることが報告されております。さらに、ORF8遺伝子領域が欠失したSARS-CoV-2株や1つのアミノ酸残基が変異したORF8(L84S)を持つウイルス株では、重症化しにくいことが報告されています。このことから、ORF8タンパク質は、COVID-19の重症化に関与することが示唆されています。
ORF8タンパク質は分子内に3か所のジスルフィド結合(S-S結合)を持ち、さらにS-S結合で二量体になる複雑なタンパク質です。そのため大腸菌での均一なORF8の合成は極めて困難です。しかし、我々は、タバコ培養細胞(タバコBY-2細胞)を用いて均一なORF8タンパク質の大量合成に成功しました(図1)。
タンパク質は一般的に、熱や酸、アルカリの影響を受けると、ひもが絡まったような変性という状態になって沈殿します。通常は、生卵が加熱されるとタンパク質が変性しゆで卵になるように、いったん変性したタンパク質は元の状態に戻りません。ORF8タンパク質がどのような条件で変性するかはその機能を知るうえで重要です。そこで、本研究では、タバコBY-2細胞で合成した野性型ORF8と変異型ORF8(L84S)の温度およびpHを変化させORF8の状態変化を核磁気共鳴(NMR)装置で解析しました。その結果、ORF8は耐熱性がとても高く70度付近まで天然状態を保持し、70度以上で変性しました。しかし、一般的なタンパク質と異なり、温度を下げると天然状態に戻ることがわかりました(図2)。またORF8は、弱酸性条件で変性してしまうこと、中性条件に戻すと元の天然状態に戻ることがわかりました。これらの結果は、ORF8が特別安定なタンパク質であることを意味します。また、興味深いことに、変異型ORF8(L84S)はORF8に比べて熱および酸への耐性がより高いことがわかりました(図2)。これらの特異な性質は、OFR8の機能と関係していることが予想されます。今後、この知見をもとにした解析を行うことにより、COVID-19の重症化をおさえる治療法が確立する可能性が期待されます。
【発表論文】
| 論文タイトル | Similarities and differences in the conformational stability and reversibility of ORF8, an accessory protein of SARS-CoV-2, and its L84S variant |
| 論文著者 | Shinya Ohki; Tomohiro Imamura; Yasuki Higashimura; Kenji Matsumoto; Masashi Mori |
| 雑誌 | Biochemical and Biophysical Research Communications |

図1 タバコ培養細胞を用いたORF8タンパク質の大量生産
タバコBY-2細胞で生産したORF8タンパク質は全て二量体を形成する。(A) ORF8タンパク質を合成するタバコBY-2細胞 (B)タバコBY-2細胞の大量培養 (C)培養液中に放出されたORF8タンパク質 (D)精製しNMR解析に用いたORF8タンパク質。WT:野生型ORF8タンパク質、L84S: 変異型ORF8タンパク質、矢じり:ORF8タンパク質、M:分子量マーカー

図2 ORF8 (wild type)とその変異体L84Sの各温度での1H-NMRスペクトルのメチル基領域の拡大図 *印は、昇温後に再びその温度に戻したことを表す。
ORF8、L84Sともに70度くらいまではスペクトルに大きな変化が見られない。これは、立体構造が保持されていることを示している。ORF8では70度、L84Sでは75度のときにピークが広幅化し、特に0 ppm付近ではピークが消失しかかっている。これは、試料が多量体化もしくは会合により熱変性状態になったことを示している。ところが、両試料ともに温度を下げたときのスペクトルは実験開始時のスペクトルと一致している。これは、変性状態の試料が天然状態に戻ったことを示している。
【用語説明】
細胞傷害性T細胞:リンパ球T細胞の一種。異物となる異常細胞(ウイルス感染細胞、がん細胞など)を認識し、それらを攻撃して破壊する細胞。
MHCクラスIタンパク質:免疫応答に関わるタンパク質。細胞内のタンパク質に由来するペプチド断片を細胞表面に輸送し、細胞障害性T細胞に提示するタンパク質。
ジスルフィド結合(S-S結合):2つのシステインによって形成される共有結合で、タンパク質の立体構造形成に重要な役割をはたす。
二量体:2個のタンパク質が、物理的・化学的な力によって形成した分子。
核磁気共鳴(NMR)装置:強力な磁場中に置いた試料に電磁波を照射して応答信号を得る装置。信号を解析することで、試料の構造や運動性を知ることができる。
令和3年6月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/06/09-1.html高分子薄膜における水素イオンの界面輸送で新知見
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| 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人 名古屋工業大学 学校法人立教学院 立教大学 国立大学法人 山形大学 |
高分子薄膜における水素イオンの界面輸送で新知見
ポイント
- カルボン酸基の濃度を制御した弱酸性高分子を合成し、水素イオンの輸送を薄膜状で評価
- カルボン酸基は、少なくとも二種類の状態で存在
- カルボン酸基が低濃度になると、カルボン酸基が薄膜界面により多く存在
- カルボン酸基の濃度の低下に伴い水素イオンの輸送経路は内部輸送から界面輸送が支配的
| 北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 物質化学領域の長尾 祐樹 准教授、スワンスントン アトチャヤ氏(大学院博士後期課程在籍)は、名古屋工業大学・大学院工学研究科 生命・応用化学専攻の山本 勝宏 准教授、立教大学・理学部の永野 修作 教授、山形大学・学術研究院(理学部主担当)の松井 淳 教授との共同研究で、燃料電池や生体活動等で重要となる水素イオンの輸送において、モデル高分子薄膜のカルボン酸基の濃度を制御することで、水素イオンの輸送経路が薄膜内部と界面で切り替わる現象を発見しました。本成果により、エネルギー変換システムの高度化やイオンを能動的に制御するための界面分子設計に関する研究の加速が期待されます。 本研究成果は、2021年5月21日(英国時間)に電気化学会刊行のElectrochemistry誌のオンライン版で公開されました。なお、本研究は日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究(C)、科研費基盤研究(B)、科研費 新学術領域研究「ハイドロジェノミクス」の支援を受けて行われました。 |
【研究背景と内容】
生体系ではタンパク質等の高次構造が、イオン輸送チャネルの制御を行い、イオン輸送の外場刺激応答を実現しています。また、生体材料界面でのイオン輸送は1960年代から議論が続いています。この機能を人工的に設計・構築することは未だ容易ではありません。長尾准教授らは、イオンの中でも水素イオンに着目し、水素イオンを人工的かつ能動的に制御するための要素技術に関して研究を推進してきました。
酸の素である水素イオンは、材料中を輸送されることで燃料電池や生体活動等のエネルギー変換システムで重要な役割を果たします。この水素イオンは、材料内部の非常に小さなスケールの通り道に沿って輸送されると考えられてきました。近年、エネルギー変換システムの高度化に伴い、高性能化のために材料の内部だけでなく端(エッジ)である界面の分子設計も重要視されています。しかし、材料界面における水素イオンの輸送に関する基礎研究は十分に行われていません。今回長尾准教授らは、生体材料ではなく、酸の素の一種であるカルボン酸基の濃度を制御した合成高分子を用いて、薄膜中の水素イオンの通り道について研究を実施しました。その結果、水素イオンが薄膜内部を通る道が不足すると、水素イオンは薄膜の表側と裏側に相当する薄膜界面に沿って輸送されることを明らかにしました。
本研究では、ポリスチレンと呼ばれる高分子の側鎖にカルボン酸基が化学修飾された高分子を合成しました(図1)。比較のためにカルボン酸基の濃度を高いものから低いものまで四種類合成しました。高分子を薄膜化し、赤外線を用いて分子構造を調べた結果、酸の素となるカルボン酸基の状態が少なくとも二種類あることがわかりました。一つはカルボン酸基が単体で存在する状態(フリーな状態)、もう一つは二つのカルボン酸基がお互いに向き合った二量体で存在する状態(ダイマー状態)でした。ダイマー状態は、二つの水素イオンが二つのカルボン酸基に挟まれた状態となり、水素結合と呼ばれる結合で安定化されています。研究グループは、カルボン酸基の濃度を高くすると、フリーな状態のカルボン酸基の量が相対的に増加し、ダイマー状態のカルボン酸基の量が減少する傾向を見出しました。さらに、カルボン酸基の濃度が低い場合には、フリーなカルボン酸基が薄膜の内部ではなく界面により多く存在することも明らかにしました。高分子薄膜中ではカルボン酸基は均一に存在しておらず、その濃度によって存在状態が異なることもわかりました。
この結果から研究グループは、カルボン酸基の濃度を低くすると、薄膜界面にフリーなカルボン酸基が集合し、水素イオンが薄膜内部ではなく界面に沿って輸送される仮説を検討しました。具体的には、水素イオン輸送の性能指標の一つにあたる水素イオン伝導度の評価を、インピーダンス法と呼ばれる手法を用いて実施しました。結果は仮説を裏付けるものであり、カルボン酸基の濃度が高い薄膜では、水素イオンが薄膜内部で輸送されることが支配的であるのに対して、カルボン酸基の濃度が低い薄膜では、水素イオンは薄膜内部ではなく薄膜界面に沿って輸送されることがわかりました(図2)。これはフリーなカルボン酸基が薄膜の内部ではなく界面により多く存在することと、薄膜内部には水素イオンの輸送にあまり寄与しないと思われるダイマー状態のカルボン酸基が多いためであると考えられます。この結果から、水素イオンは材料内部を必ずしも通らずに、通りやすい道があれば材料の端である界面に沿って輸送されることもあることが示されました。

図1 本研究に用いた高分子材料

図2 高分子薄膜における水素イオンが輸送されるイメージ。内部輸送(上)と界面輸送(下)
【今後の展開】
高分子材料中の水素イオンの輸送は、材料内部の通り道に沿って輸送されると考えられてきました。しかし本研究では、酸の素や構造の状況によっては、水素イオンは材料内部ではなく界面に沿った輸送が支配的になることがわかりました。このイオンの界面輸送は無機材料では既に知られていましたが、高分子材料においても界面輸送が可能であることから、界面の分子設計に活かせる可能性があります。また、これまで説明できなかった水素イオンの輸送現象の理解にアプローチすることもできるかもしれません。特にカルボン酸基は生体活動で重要な役割を担っています。今後長尾准教授らは、エネルギー変換システムの高度化に加え、イオン輸送の人工的かつ能動的な制御を目指して、得られた知見を活かしていきます。
【研究資金】
・日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(C)(JP18K05257)
・日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(B)(JP21H01997)
・日本学術振興会(JSPS)科研費 新学術領域研究「ハイドロジェノミクス」(JP21H00020)
【論文情報】
| 雑誌名 | Electrochemistry |
| 題名 | "Interfacial and Internal Proton Conduction of Weak-acid Functionalized Styrene-based Copolymer with Various Carboxylic Acid Concentrations" |
| 著者名 | Athchaya Suwansoontorn, Katsuhiro Yamamoto, Shusaku Nagano, Jun Matsui, Yuki Nagao* |
| 掲載日 | 2021年5月21日(英国時間)に著者原稿版がオンラインで掲載 |
| DOI | 10.5796/electrochemistry.21-00042 |
令和3年5月28日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/05/28-1.html応用物理学領域の麻生助教と環境・エネルギー領域の桶葭准教授の研究課題が旭硝子財団の研究助成に採択
公益財団法人 旭硝子財団の研究助成「物理・情報分野 研究奨励」に応用物理学領域 麻生 浩平助教、「化学・生命分野 若手継続グラント」に環境・エネルギー領域 桶葭 興資准教授の研究課題が採択されました。
旭硝子財団は、次世代社会の基盤を構築するような独創的な研究への助成事業を通じて、人類が真の豊かさを享受できる社会および文明の創造に寄与しています。
「研究奨励」プログラムでは、若手研究者による基礎的・萌芽的な研究が支援されます。また、「若手継続グラント」プログラムでは、過去3年間に同財団の「研究奨励」プログラムを終了した若手研究者の中から意欲と提案力のある将来有望な研究者が選抜され、研究が支援されます。
*詳しくは、旭硝子財団ホームページをご覧ください。
「物理・情報分野 研究奨励」
【研究者名】応用物理学領域 麻生 浩平助教
■採択期間
令和3年4月1日~令和5年3月31日
■研究課題
固体内イオン伝導の解明に向けた電子顕微鏡とデータ科学による動的解析
■研究概要
リチウムイオン電池では、充放電に伴って電池内部をリチウムイオンが移動していきます。しかし、イオンがどのように移動していくのかは未だによく分かっていません。そこで本研究では、ナノメートル程度の空間スケール、かつ従来よりも短い時間スケールでリチウムイオンのダイナミクスを可視化することを目指します。実験手法として、電池を動作させて電気特性を測定しながら電池の構造を観察する、オペランド電子顕微鏡法を用います。オペランド電子顕微鏡像は大量の画像からなる動画として得られるため、手動での解析は困難です。そこで、動画からイオンの移動に関わる情報のみを抽出するために、データ科学の手法を活用します。リチウムイオンは電池内部でどのように動いていくのかという問いに対して、これまでにない実験的な知見を与えられると期待しています。
■採択にあたって一言
旭硝子財団、ならびに選考委員の皆様に心から感謝いたします。本研究を進めるにあたり数々のご協力を頂きました研究室の方々、ナノマテリアルテクノロジーセンターの皆様、および共同研究者の皆様方に感謝申し上げます。
「化学・生命分野 若手継続グラント」
【研究者名】環境・エネルギー領域 桶葭 興資准教授
■採択期間
令和3年4月1日~令和6年3月31日
■研究課題名
多糖の非平衡環境下における時空間マター
■研究概要
ソフトマテリアルの散逸構造はシンプルな数式で表現されるが、過渡的現象の議論にとどまっており、材料化には困難を極めています。これに対し本研究では、多糖の非平衡環境下における界面現象を時空間的に解明します。これによって、生体組織の幾何学構造形成に倣ったマテリアルデザインが拓かれると同時に、高分子科学、コロイド科学、流体科学などを背景としたバイオミメティクス戦略の展開が期待できます。
■採択にあたって一言
採択頂き大変嬉しく存じます。旭硝子財団、および本助成の選考委員会の皆様に深く感謝申し上げます。また共同研究者の皆様、および研究室の皆様に深く感謝申し上げます。科学と技術の発展に貢献できる様、誠心誠意励んで参ります。
令和3年5月14日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/05/14-2.html消化酵素で分解するナイロンを開発 ―プラスチック誤飲事故の軽減、海洋生態系維持へ―
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| 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 独立行政法人 環境再生保全機構 |
消化酵素で分解するナイロンを開発
―プラスチック誤飲事故の軽減、海洋生態系維持へ―
ポイント
- 海洋プラスチックごみは誤飲するなど海洋生物への悪影響がある
- 従来の生分解性プラスチックは性能が低い問題がある
- 植物由来分子であるイタコン酸とアミノ酸からナイロンの開発に成功
- 従来ナイロンよりも高性能かつ人工胃液で分解・崩壊する性質を発見
| 環境再生保全機構(ERCA)が実施する環境研究総合推進費の一環として、北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域の金子 達雄教授らは、植物由来分子であるイタコン酸とアミノ酸であるロイシンからバイオナイロンを合成する手法を見出し、従来のナイロンよりも高耐熱・高力学強度であり、かつ胃に含まれる消化酵素であるペプシンで分解するバイオナイロンを開発しました。 海洋プラスチックごみ問題が深刻化する中、鳥類やクジラ類などの海洋生物が誤ってプラスチックごみを飲み込むことによる生態系への被害が問題視されています。生分解性プラスチックの中には海洋環境で分解するものがあり、中には消化酵素で分解するものも開発されているため本問題を解決するために重要であると考えられています。しかし、そのほとんどは柔軟なポリエステルであり耐熱性や力学強度の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。今回、金子教授らは、麹菌などが糖を変換して生産するイタコン酸および天然分子として有名なロイシンなどを原料にして、一般的なナイロンの原料の一つであるヘキサメチレンジアミンなどを反応させることでバイオナイロンを合成する条件を見出しました。得られたバイオナイロンはガラス転移温度が100℃を超え、力学強度が85MPaを超える高性能ナイロンであることも確認されました。これはナイロン中に硬い構造であるヘテロ環が含まれることに起因します。 また、アミノ酸には右手と左手の関係のような鏡像体が存在することが知られていますが、この鏡像関係にある一対のアミノ酸を混合するとナイロンの物性が向上することも見出されました。特に、L-ロイシンから得られるナイロン樹脂は胃中の消化酵素であるペプシンの存在下で崩壊し分子量も低下することが分かりました。今後、海洋ごみの中でも被害の多い釣り糸や漁網などへの応用を目指し、さらには自動車エンジン周りなどで使用されているナイロンを代替する物質として設計する予定です。将来的には海洋ごみ問題解決への道しるべを提供するだけでなく、大気中二酸化炭素削減などへの波及効果も考えられます。 本成果は2021年4月30日に独国科学誌「Advanced Sustainable Systems」(インパクトファクター4.87(2019-2020))のオンライン版で公開されました。 |
| 本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。 研究開発期間:令和2年度~4年度(予定) 事業名 :環境再生保全機構(ERCA)環境研究総合推進費 開発課題名 :「バイオマス廃棄物由来イタコン酸からの海洋分解性バイオナイロンの開発」 チームリーダー:金子達雄(北陸先端科学技術大学院大学 教授) ERCA環境研究総合推進費は、気候変動問題への適応、循環型社会の実現、自然環境との共生、環境リスク管理等による安全の確保など、持続可能な社会構築のための環境政策の推進にとって不可欠な科学的知見の集積及び技術開発の促進を目的として、環境分野のほぼ全領域にわたる研究開発を推進しています。 |
<開発の背景と経緯>
植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオマスプラスチックは材料中に二酸化炭素を固定することにより、二酸化炭素濃度を削減し、低炭素社会構築に有効であるとされています。その中でも生分解性を有するものは、昨今深刻化する海洋プラスチックごみ問題の解決の糸口を与えるものと注目されています。特に、鳥類やクジラ類などの死骸の胃の中を調査するとプラスチックごみが蓄積している場合があり、それが原因で死に至った可能性が指摘されています。つまり、プラスチックごみの誤飲による生態系への被害が問題視されています。生分解性プラスチックの中には海洋環境で分解するものがあり、中には消化酵素で分解するものも開発されているため本問題を解決するためのキー材料となると考えられています。しかし、生分解性プラスチックのほとんどは柔軟なポリエステルで耐熱性や力学強度の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。たとえばPHBHと呼ばれる脂肪族ポリエステルは代表的な海洋分解性プラスチックを与えますが、その主骨格は一般的な工業用プラスチックに用いられる高分子に比べて柔軟であり、そのガラス転移温度は0℃付近であり室温での使用のためには高結晶化が余儀なくされます。また力学強度も20-30MPa付近です。(参考:ポリエチレン、塩ビ、ポリプロピレンなどの汎用プラスチックは20-70 MPa程度)
研究チームは、麹菌などが糖を変換して生産するイタコン酸を用いてバイオナイロンを開発することを目的として研究を進めていますが、アミノ酸であるロイシンなどを導入した新たなモノマーを合成し、一般的なナイロンの原料の一つであるヘキサメチレンジアミンなどを反応させることでバイオナイロンを合成する条件を見出しました(図1)。得られたバイオナイロンはガラス転移温度が100℃を超え、力学強度が85MPaを超える高性能ナイロンであることも確認されました(表1)。この高性能発現はナイロン中に硬い構造であるヘテロ環が含まれることに由来します。
最後に、L-ロイシンから得られるナイロン樹脂を合成し、これが胃中の消化酵素であるペプシンの存在下で崩壊(図2)し分子量も低下することが見いだされました(図3)。今後、海洋ごみの中でも被害の多い釣り糸や漁網などへの応用を目指し、さらには自動車エンジン周りなどで使用されているナイロンを代替する物質として設計する予定です。将来的には海洋ごみ問題解決への道しるべを提供するだけでなく、大気中二酸化炭素削減などへの波及効果も考えられます。
<代表的作成方法>
ロイシン由来のジカルボン酸1-((S)-1-カルボキシ-3-メチルブチル)-5-オキソピロリジン-3-カルボン酸とヘキサメチレンジアミン(1.3g、10mol)をそれぞれアセトニトリルに溶解させた後に溶液を混合することでナイロン塩を析出させました(収率96%)。白色のナイロン塩を真空乾燥後170-180℃、50-60 rpmで激しく攪拌しバルクで重合しました。6時間後、粘性のあるポリマー溶融物が形成されました。これをDMFに溶解しアセトンに再沈殿することで精製を行いました。
<今回の成果>
今回の成果は大きく分けて2つ示すことができます。
1)鏡像関係にあるアミノ酸を分子鎖で混合したナイロンを合成することで、結晶化度および熱的力学的物性が向上することを発見
一般に再生可能な原料から得られる高分子は、熱的力学的性能が低く製造コストも高くなります。したがって、化石ベースのリソースと比較してパフォーマンスを向上させることができる合成アプローチを開発し、バイオベースのモノマーを利用することが重要です。ここでは、再生可能なイタコン酸とアミノ酸(D-またはL-ロイシン)から派生した新規な光学活性ジカルボン酸の生産に成功しました。まず、イタコン酸由来のイタコン酸ジメチルを出発物質として、剛直な不斉中心を持つ複素環式ジカルボン酸モノマーを高純度で得ました。これらのモノマーからアモルファスでありホモキラリティーを有するD-またはL-ロイシン由来のポリアミドを合成し、かつこれらをモノマー段階で混合したもの、オリゴマー段階で混合し追重合を行ったものを対象として研究を進めました(図1)。その結果、D-ロイシン由来のポリマー鎖とL-ロイシン由来のポリマー鎖との複合体は結晶化し、その結晶化度は36%に達しました。これは、キラル相互作用に由来するものと考えられます。得られた樹脂は、ガラス転移温度Tgが約117°C、溶融温度Tmが約213°Cであり、ポリアミド11などの従来のポリアミド(Tg約57°C)よりも高い値を示しました。さらに2.2〜3.8 GPaの高いヤング率および86〜108 MPaの高い力学強度を示しました(表1)。
2)バイオナイロン樹脂がペプシンの作用により崩壊し分解することを発見
バイオナイロンの酵素分解を、哺乳類の胃の消化酵素であるペプシンを使用して調べました。少量(150 mg)のポリアミド樹脂(Mw; 24,300-26,400 g / mol)と1 wt%のペプシン(5 ml)をpH 4.0のバッファーに入れて分解試験を行いました(対照実験はペプシンなし)。サンプルをインキュベーター内で37°Cで6週間振とうした結果、時間の経過に伴い平均分子量が24,300〜26,400 g / molから14,600〜16,500 g / molに減少することがわかりました(図3)。ペプシンによるナイロンの分解中の視覚的変化も崩壊現象として確認されました(図2)。研究チームは以前に、イタコン酸由来ポリアミドのピロリドンの開環反応を報告しましたが、今回発見した酵素分解はピロリドンの開環を誘発したと考えられます。ここで発見したペプシン分解は、哺乳類が当該ナイロン系プラスチックを誤飲した場合でも、哺乳類の消化管の安全性を維持することにつながる可能性があります。
<今後の展開>
本成果によりイタコン酸由来バイオナイロンの構造的な広がりが提案できました。今後、海洋ごみの中でも被害の多い釣り糸や漁網などへの応用を目指し、さらには自動車エンジン周りなどで使用されているナイロンを代替する物質として設計する予定です。将来的には海洋ごみ問題解決への道しるべを提供するだけでなく、大気中二酸化炭素削減などへの波及効果も考えられます。
<参考図>
図1 (A)イタコン酸とアミノ酸からなるジカルボン酸モノマーの合成
(B)(A)のジカルボン酸とヘキサメチレンジアミンからのバイオナイロンの重合反応式
表1 バイオナイロンの物性表


図2 バイオナイロンがペプシン存在下で崩壊していく様子
図3 ペプシンを作用させたD-ロイシン由来バイオナイロンのGPC
【論文情報】
| 雑誌名 | Advanced Sustainable Systems |
| 題名 | High-performance BioNylons from Itaconic and Amino Acids with Pepsin Degradability (ペプシン分解性を示すイタコン酸とアミノ酸からの高性能バイオナイロン) |
| 著者名 | Mohammad Asif Ali,Tatsuo Kaneko* |
| 掲載日 | 2021年4月30日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1002/adsu.202100052 |
令和3年5月10日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/05/10-1.html世界初!個々の原子間の結合強度の測定に成功 ―強くて伸びる白金原子の鎖状物質―
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| 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人 金沢大学 |
世界初! 個々の原子間の結合強度の測定に成功
―強くて伸びる白金原子の鎖状物質―
ポイント
- 個々の原子の並びを見ながら、その結合強度を測る手法(顕微メカニクス計測法)の開発
- 白金原子が一列に並んだ鎖状物質を作製し、その結合強度を測定
- 結合強度が高く、よく伸びる白金原子の鎖状物質
- 原子スケールで制御された機能性物質探索への期待
| 北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 応用物理学領域の大島 義文教授、富取 正彦教授、張家奇 大学院生(博士後期課程)、石塚慧介 大学院生(博士後期課程)、環境・エネルギー領域の前園 涼教授、本郷 研太准教授、及び金沢大学・理工研究域 数物科学系の新井 豊子教授は、International School for Advanced Studies (SISSA)のErio Tosatti教授との共同研究で、物質を構成する個々の原子の並びを観察しながら、その結合強度を計測できる顕微メカニクス計測法を開発した。この手法を使って、白金原子が一列に並んだ鎖状物質が強い結合強度を持つとともに、白金の塊(バルク)と比較してかなり大きく引き伸ばしても破断しないという特異な性質を持つことを発見した。実験結果を第一原理計算で解析したところ、この鎖状物質は、エネルギーが最小になる安定構造を取っているわけではなく、その形成に必要な張力が極小な構造であることを突きとめた。この鎖状物質がもつこの特有な性質の解明は、今後ますます期待される原子スケールで制御された機能性物質の創製に指針を与える大きな成果である。 本研究成果は、2021年4月29日(米国東部標準時間)に科学雑誌「Nano Letters」誌のオンライン版で公開された。なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費, 18H01825, 18H03879、笹川科学研究助成, 2020-2006、ERC ULTRADISS Contract No. 834402, the Italian Ministry of University and Research through PRIN UTFROM N. 20178PZCB5の助成を受けて行われた。 |
原子が鎖状に並んだ1次元物質の力学的性質は、同じ組成や構造を持つバルク物質と大きく異なることが理論計算によって予想されていた。しかし、1次元物質の性質はわずかな原子の変位にも敏感に変化するため測定例が少なく、解明が進んでいない。原子配列構造とその力学的性質の相関を明らかにできれば、1次元物質などの性質を決めるメカニズムの解明に繋がる。このメカニズムこそが、1次元物質を活用した新しい原理で動作する電子デバイスやセンサー開発の指針となる。
最近、私たちは、原子配列を直接観察できる透過型電子顕微鏡(TEM)のホルダーに細長い水晶振動子を組み込んで、原子スケール物質の原子配列とその機械的強度の関係を明らかにする顕微メカニクス計測法を世界で初めて開発した(図1)。この手法では、水晶振動子の共振周波数が、物質との接触で相互作用を感じることによって変化することを利用する。共振周波数の変化量は物質の等価バネ定数に対応するので、その変化量を精密計測すればナノスケール/原子スケールの物質の力学特性を精緻に解析できる。水晶振動子の振動振幅は27 pm(水素原子半径の約半分)で、TEMによる原子像がぼやけることはない。この手法は、従来の手法(小さなSi製テコを利用してその変位から力を計測する手法、TEM-AFM法[*1])では困難だった結合強度の高精度測定を実現している。
本研究では、このTEMホルダー内部で白金原子鎖を150個作製してその特性を詳細に調べ、白金原子鎖における原子結合強度が25 N/mであることを突きとめた。この値は、白金のバルク結晶の原子結合強度20 N/mよりも25%高い。また、原子間結合の長さ(0.25 nm)は最大0.06 nmも延びることが分かった。これは原子結合の最大弾性ひずみが24%になることを示しており、バルク結晶の値(5%以下)と比較して著しく高い(図2)。さらに、第一原理計算の結果を合わせて考察することで、このような特異な原子結合の性質は、白金原子鎖がエネルギー的に最安定な構造ではなく、形成に必要な張力が極小となる構造を取ることによって生まれることがわかった。
本研究は、1次元物質がもつ特異な原子結合に関わる性質を明らかにし、理論計算と組み合わせることによって形成メカニズムを突きとめた点に大きな成果がある。今後ますます期待される原子スケールで制御された機能性物質の創製に指針を与える大きな成果である。

図1.個々の原子の並びを観察しながら、原子間の結合強度を計測する顕微メカニクス計測法。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてナノ物質の構造観察をしながら、長辺振動水晶振動子(LER)を用いて物質の結合強度を計測できる。この測定によって、赤矢印で示す部位の白金原子鎖の原子間結合強度が25 N/mであることがわかった。
図2. 左上は透過型電子顕微鏡(TEM)像、左下はそのシミュレーション像である。原子4個からなる原子鎖が得られている。その観察時に測定された電気伝導(コンダクタンス量子単位G0でプロット)とばね定数の時間変化を、それぞれ右上と右下に示す。赤い矢印で示す領域は形成した原子鎖を破断することなく引っ張ることができた時間帯である。毎秒0.08 nmの速度で引っ張っており、白金原子鎖は破断なく約0.1 nm伸びた。
【論文情報】
| 雑誌名 | Nano Letters |
| 題名 | Peculiar Atomic Bond Nature in Platinum Monatomic Chains |
| 著者名 | Jiaqi Zhang, Keisuke Ishizuka, Masahiko Tomitori, Toyoko Arai, Kenta Hongo, Ryo Maezono, Erio Tosatti, Yoshifumi Oshima* |
| 掲載日 | 2021年4月29日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1021/acs.nanolett.1c00564 |
【用語解説】
[*1] TEM-AFM法(透過型電子顕微鏡と原子間力顕微鏡を組み合わせた測定法)
従来の測定法の一つ。ナノ物質に接触したSiカンチレバーを引っ張ると、Siカンチレバーがたわむ(変位する)。このたわみ(変位)から、ナノ物質に負荷されている力を求める。一方、この負荷された力によって変形したナノ物質を透過型電子顕微鏡によって計測することで、このナノ物質の機械的強度を得る。ただし、10 nm以下のサイズをもつナノ物質は1Åしか変形しない(原子間距離は2-3Åである)。このような変形を高い精度で測定することは難しく、ナノ物質の強度測定にばらつきが出てしまうという課題があった。
令和3年4月30日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/04/30-1.html生体分子モーターで動く人工筋肉、光で自在に作製可能 ― マイクロ・ソフトロボットの3Dプリントの実現に期待 ―
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| 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 国立大学法人 大阪大学 |
生体分子モーターで動く人工筋肉、光で自在に作製可能
― マイクロ・ソフトロボットの3Dプリントの実現に期待 ―
ポイント
- 光照射した場所に自在な形状に作製できる人工筋肉の開発に成功
- 遺伝子工学的に改変した生体分子モーターからなる光応答性の分子システムを開発
- ミリメートルスケールの微小機械の駆動を実証
- マイクロロボットやソフトロボットの3Dプリントの実現に期待
| 北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 生命機能工学領域の平塚祐一准教授、杜釗 大学院生(博士前期課程)は、岐阜大学・工学部の新田高洋准教授、大阪大学・大学院工学研究科 機械工学専攻の森島圭祐教授、王穎哲 大学院生(博士後期課程/特任研究員)との共同研究で、筋肉のような収縮性のファイバー(以下、人工筋肉)を、光照射した場所に自在に形成させることに成功した。この人工筋肉は、生物の動きに関わるタンパク質である生体分子モーターを遺伝子工学的に改変することにより実現した。光の照射形状を変えることで自由な形状・大きさの人工筋肉が造形でき、ミリメートルスケールの微小機械の動力に利用できることを実証した。この成果は将来、これまで困難であったマイクロロボットやソフトロボットの3Dプリンタによる製造への応用が期待される。 本研究成果は、2021年4月19日(英国時間)に科学雑誌「Nature Materials」誌のオンライン版で公開された。なお、本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(JPNP15009)、日本学術振興会(JSPS)科研費 新学術領域研究「分子ロボティクス」の支援を受けて行われた。 |
【研究背景と内容】
生物のエンジン「筋肉」は、モータータンパク質[*1]と呼ばれる生体分子モーターから構築されており、数百マイクロメートル(マイクロは100万分の1)から数十メートルまでスケーラビリティにとんだアクチュエータである。生物のエネルギー源(アデノシン三リン酸 (ATP))を用いて高い効率で力学的仕事を行うという、従来のアクチュエータと比べ質的に異なる特性を持ち、これまでには無い産業分野での応用が期待されている。しかし、筋肉自体または筋肉細胞をアクチュエータとして利用する試みは基礎研究レベルでは報告されているが、筋肉細胞の安定性・保存性の問題やアクチュエータとして組み込む技術が未発達のため、実用化には至っていない。また、筋肉組織の構成分子はほぼ同定されているが、それら構成分子から筋肉を再構築する技術は知られていなかった。
本研究では、生体内の収縮性ファイバーの形成過程に着想を得て、人工筋肉を自在に形成させる分子システムを開発した。モータータンパク質の一種であるキネシンを遺伝子工学的に改変し、フィラメント状にすることにより、レールタンパク質である微小管[*2]と混ぜるだけで、モータータンパク質の動的な機能により自己組織的に人工筋肉を形成させることができた。さらに、光照射によりモーター分子のフィラメント化を開始させ、照射した部位のみに人工筋肉を形成させることを可能とした(図1)。この人工筋肉を大きさ数ミリメートルの機械構造内に形成させることにより微小機械を駆動させることに成功した(図2)。
筋肉のような柔軟で低エネルギー・低環境負荷なアクチュエータの産業応用は期待されているが、上述のように実用化には至っていない。本研究では、生体の運動素子であるモータータンパク質分子を数ミリメートル以上の組織に構築することにより、生物の筋肉に似た機能・性質を持つ人工筋肉の製造を可能とした。特に光照射により人工筋肉の形成を開始可能なことから、たとえば光造形型の3Dプリンタに組み込めば人工筋肉の光造形などが可能になることが将来期待でき、生体材料で駆動するマイクロロボットやソフトロボットの3Dプリント技術の基盤技術となる可能性が高い。
【今後の展開】
本研究で開発された人工筋肉は、現時点では形成・収縮が同時に起こり、かつ収縮は一回のみで用途も限定される。今後、制御用の分子システムを開発することにより、可逆または振動可能な人工筋肉を開発しマイクロロボットやソフトロボットへの実装を目指す。

図1.光照射による人工筋肉形成のコンセプト図
モータータンパク質の一種キネシンを遺伝子工学的に改変し、光照射によりキネシンがフィラメント状になるように設計(K456m13とCaMLMM)。キネシンフィラメントは自身の運動能により微小管を引っ張り、自己組織的に筋肉に似た収縮性の繊維を形成する。

図2. 人工筋肉の応用例
大きさ数ミリメートルのシリコンゴム製の微小構造の周囲に、光照射により人工筋肉を形成させ、その構造を駆動させた。右上)マイクログリッパ:光照射後に人工筋肉(オレンジ色)が形成し、20秒後にグリッパが閉じる。右下)昆虫型デバイス:人工筋肉により左右に動く。左上)ロボットアーム型デバイス。左中)微小歯車の組み立て。左下)細胞サイズの微小ビーズの集積。
【研究資金】
・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(JPNP15009)
・日本学術振興会(JSPS)科研費 新学術領域研究「分子ロボティクス」(JP24104004)
・日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(B)(JP18H01407)
【論文情報】
| 雑誌名 | Nature Materials |
| 題名 | "A printable active network actuator built from an engineered biomolecular motor" |
| 著者名 | Takahiro Nitta, Yingzhe Wang, Zhao Du, Keisuke Morishima and Yuichi Hiratsuka* |
| 掲載日 | 2021年4月19日(英国時間)にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1038/s41563-021-00969-6 |
【用語解説】
[*1] モータータンパク質(motor protein)
生体の動きに関与するタンパク質の総称。大きさ数ナノメートル〜数十ナノメートルの分子で、代表的なものとして筋収縮に働くミオシン、細胞内の物質輸送に働くキネシン、鞭毛運動等に働くダイニンなどが挙げられる。これらは繊維状のタンパク質であるアクチンまたは微小管の上を生体のエネルギーであるATP(アデノシン三リン酸)の加水分解エネルギーを利用して一方向に動く。
[*2] 微小管(microtubule)
細胞骨格を構成する繊維状タンパク質のひとつ。大きさ数ナノメートルのチューブリンが筒状に重合することにより直径25ナノメートルの管状の繊維を形成する。キネシンやダイニンなどモータータンパク質が動くレールとして働く。
令和3年4月20日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/04/20-1.htmlリチウムイオン2次電池の長期的耐久性の課題解決に資する超高耐久性バインダーを開発
リチウムイオン2次電池の長期的耐久性の課題解決に資する
超高耐久性バインダーを開発
ポイント
- リチウムイオン2次電池の長期的耐久性の課題の解決に資する超高耐久性負極バインダーの開発に成功した。
- 1700回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示した。
- 本バインダー材料を用いた系ではPVDF系で顕著であった電解液の電気分解が抑制された。
- 充放電サイクル後に、本バインダー材料を用いた電池系ではPVDF系と比較して大幅に低い(45%減少)内部抵抗が観測された。
- 各種電気化学測定により、負極内部のリチウムイオンの拡散性に優れていることが分かった。本バインダー系ではイオンの拡散係数がPVDF系を15%上回った。
- ヤング率、引張強度のいずれにおいても本バインダーはPVDFと比較して大幅に優れた力学的強靭さを示した。
- 電極―電解質界面抵抗を低減できる高耐久性バインダーとして、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が期待される。
| 北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 物質化学領域の松見 紀佳教授、環境・エネルギー領域の金子 達雄教授、バダム ラージャシェーカル講師、アグマン グプタ博士後期課程学生、アニルッダ ナグ元博士研究員は、リチウムイオン2次電池*1の耐久性を大幅に向上させる負極バインダー材料(図1)の開発に成功した。 リチウムイオン2次電池は、一般ユーザーが広く認識しているように充放電能力が経年劣化することが知られている。この問題は、EV用途を始めとする高付加価値製品においては更に深刻な課題となる。リチウムイオン2次電池の劣化要因は極めて多岐にわたるが、様々な電極内における副反応によるバインダーを含む電極複合材料の変性、電極/集電体の接着力の劣化が主要因の一つと考えられている。 本バインダー材料は、アセナフテキノンと1,4-フェニレンジアミンとを酸触媒の存在下で重縮合することにより合成した(図2)。 開発したリチウムイオン2次電池用バインダーは、長く検討されてきたポリフッ化ビニリデン(PVDF)と比較すると、LUMO*2,3が低い電子構造的特徴を有し(図3)、その結果として電解液の過剰な分解による厚い被膜形成を効果的に抑制した。 サイクリックボルタンメトリー*4後に見積もられたイオン拡散係数はPVDF系と比較して15%高い値となった。また、リチウム脱挿入ピークの電位差(オーバーポテンシャル)は本バインダー材料系においてPVDF系と比較して100mV減少し、より容易なリチウムイオンの拡散を支持する結果となった。充放電後の電池セルの界面抵抗*5も本バインダーにおいて大幅に低い値を示した(62Ω;PVDF系では110Ω)(図4)。 その結果として本バインダー高分子系では1735回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示し、非常に優れた耐久性が明らかとなった(図5)。 長期充放電後の負極のXPS測定より、バインダー材料由来の窒素原子に由来するピークが明瞭に観測されたことから、電極表面に形成されている被膜は極めて薄いことが示唆された。また、バインダー構造の一部が顕著にリチウムドープされていることも明らかとなった。長期充放電後の負極のSEM像では、PVDF系では500サイクル後に大きなクラックの形成と共に集電体から剥離した様子も観測されたが、本バインダー系では1735サイクル後にも僅かなクラックの形成が観測されるにとどまった。 なお、本研究はJST未来社会創造事業の支援を受けて実施された。 |
本成果は「ACS Applied Energy Materials」(米国化学会)オンライン版に2月17日に掲載された。
| 題目 | Bis-imino-acenaphthenequinone-Paraphenylene-Type Condensation Copolymer Binder for Ultralong Cyclable Lithium-ion Rechargeable Batteries |
| 著者 | Agman Gupta, Rajashekar Badam, Aniruddha Nag, Tatsuo Kaneko and Noriyoshi Matsumi |
| DOI | 10.1021/acsaem.0c02742 |
【今後の展開】
セル構成や充放電条件を最適化し、最も優れた特性を有する蓄電デバイスの創出に結びつける。
更に異なる材料組成から成る高容量負極材料への適用を進めつつある。
電極―電解質界面抵抗を大幅に低減できる機能性高分子バインダーとして、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が見込まれる。





【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 LUMO:
電子が占有していない分子軌道の中でエネルギー準位が最も低い軌道を最低空軌道(LUMO; Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*3 HOMO:
電子が占有している分子軌道の中でエネルギー準位が最も高い軌道を最高被占軌道(HOMO; Highest Occupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*4 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
*5 電極―電解質界面抵抗:
エネルギーデバイスにおいては一般的に個々の電極の特性や個々の電解質の特性に加えて電極―電解質界面の電荷移動抵抗がデバイスのパフォーマンスにとって重要である。交流インピーダンス測定を行うことによって個々の材料自身の特性、電極―電解質界面の特性等を分離した成分としてそれぞれ観測し、解析することが可能である。
令和3年3月1日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/03/01-1.html





