研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。特殊なダイヤモンドの針を開発し超高速で変化する電場の局所計測に成功
![]() ![]() ![]() |
| 国立大学法人筑波大学 国立大学法人 慶應義塾大学 |
特殊なダイヤモンドの針を開発し
超高速で変化する電場の局所計測に成功
NV中心と呼ばれる格子欠陥を導入したダイヤモンドを原子スケールの空間分解能を持つ原子間力顕微鏡(AFM)の探針(プローブ)に用い、二次元層状物質の表面近傍の電場をフェムト秒(1000兆分の1秒)・ナノメートル(10億分の1メートル)の時空間分解能で計測することに成功しました。
| ダイヤモンドの結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、すぐ隣に炭素原子の抜け穴(空孔:Vacancy)ができることがあります。これをNitrogen-Vacancy(NV)中心と言います。そして、NV中心を導入したダイヤモンドに電界を加えると、その屈折率が変化するようになります。これは電気光学(EO)効果と呼ばれる現象で、ダイヤモンド単体では実現していませんでした。 本研究チームはこれまでに、NV中心を導入した高純度ダイヤモンドに1000兆分の1秒という極めて短時間だけパルス光を放出するフェムト秒レーザーを照射し、ダイヤモンドのEO効果を計測することで、ダイヤモンドの格子振動ダイナミックスを動的に高感度に検出することに成功しています。このことは、ダイヤモンドが超高速応答するEO結晶として利用可能で、電場を検出する探針(ダイヤモンドNVプローブ)となり得ることを示しています。 そこで本研究では、NV中心を導入したダイヤモンドの超高速EO効果と、原子スケールの空間分解能を有する原子間力顕微鏡(AFM)技術とを融合し、フェムト秒(fs=1000兆分の1秒)の時間分解能とナノメートル(nm=10億分の1メートル)の空間分解能で局所的な電場のダイナミックスを測定できる、時空間極限電場センシング技術を開発しました。そして、このセンシング技術を用いることで、二次元の原子層が層状に重なった二次元層状物質であるセレン化タングステン(WSe2)試料の表面近くの電場を500 nm以下かつ100 fs以下の時空間分解能でセンシングできました。 ダイヤモンドNVプローブはスピンや温度の変化にも感度があるため、本研究成果は、電場の検出に加え、磁場や温度を検出するためのセンシング技術としても展開されることが期待されます。 |
【研究代表者】
筑波大学数理物質系
長谷 宗明 教授
北陸先端科学技術大学院大学ナノマテリアル・デバイス研究領域
安 東秀 准教授
慶應義塾大学理工学部
ポール フォンス 講師(研究当時、同大学同学部電気情報工学科教授)
【研究の背景】
ダイヤモンド中の不純物には窒素やホウ素などさまざまな種類があります。その中でも、点欠陥に電子や正孔が捕捉され、発光を伴う種類のものはダイヤモンドを着色させるため、「色中心:カラーセンター」と呼ばれます。色中心には周辺環境の温度や磁場の変化を極めて敏感に検知して量子状態が変わる特性があり、温度や電場を読み取る量子センサー注1)として用いられています。
量子センサーの中でも、ダイヤモンドに導入した窒素―空孔(NV)中心注2)と呼ばれる複合欠陥を用いたセンサーは、まだまだ発展途上の技術ですが、高空間分解能・高感度が要求される細胞内計測やデバイス評価装置のセンサーへの応用など、新しい可能性が期待されています。
本研究チームは、フェムト秒(1000兆分の1秒)の時間だけ近赤外域の波長で瞬くフェムト秒超短パルスレーザー注3)を用い、NV中心を導入したダイヤモンドの電気光学(EO)効果注4)を実時間分解計測することで、ダイヤモンドの格子振動ダイナミックスを動的に高感度に検出することに成功しています参考文献 a)。このことは、ダイヤモンドが超高速応答するEO結晶になり、電場検出の探針(プローブ)となり得ることを示すものです。
これまでもダイヤモンドを原子間力顕微鏡(AFM)注5)と組み合わせた電場センシングの試みはなされていましたが、局所ダイナミックスを動的に評価できる手法はほとんどありませんでした。特に時間分解能に関しては、発光測定に基づく従来の手法ではナノ秒程度が限界であり、ピコ秒以下の超高速時間分解能に関しては、全く開拓されていませんでした。
【研究内容と成果】
本研究では、量子光学(フェムト秒超短パルスレーザーを用いたダイヤモンドのEO効果)と走査プローブ顕微鏡(SPM)の一種である原子間力顕微鏡(AFM)技術を融合することで、光の回折限界を超える空間分解能に加えて、今までの検出限界を超える超高速時間分解能で局所的な電場計測を実現することを目指しました(図1)。
極めて不純物が少ない高品質のダイヤモンド結晶の表面近傍(深さ40nm)に、密度を制御したNV中心を導入し、そのダイヤモンド結晶をレーザーカットおよび集束イオンビーム(FIB)技術注6)を駆使することで、先端径が500 nm以下のダイヤモンドNVプローブに加工することに成功しました。このダイヤモンドNVプローブを、フェムト秒超短レーザーを組み込むことが可能な、ピエゾ抵抗効果注7)に基づく自己センシング方式注8)のAFMのカンチレバーに取り付けました(図2)。
このシステムを用いて、まずガリウムヒ素(GaAs)半導体基板の表面電場を調べました。フェムト秒超短パルスレーザーの出力光をビームスプリッタで約10対1に分岐し、強い方を励起のためのポンプ光、弱い方を探索のためのプローブ光とします。電子が電流を運ぶn型GaAs試料は高強度のポンプ光で励起され、プローブ光はダイヤモンドNVプローブに入射されます(図3a)。まず、ダイヤモンドNVプローブの有無による時間分解EO信号の検出感度を確認するため、ダイヤモンドNVプローブを用いないマクロ計測により時間分解EO信号を計測したところ、励起直後(Time delay=時間遅延0 ps)に立ち上がり、数ps(ps=1兆分の1秒)以内に緩和しポンプ光を当てる前に戻る信号が得られました(図3b)。またNVセンターを導入したダイヤモンドNVプローブを通じて、n型GaAsの表面電場を検出することに成功しました(図3c)。ダイヤモンドNVプローブの導入によりEO信号の大きさは約1/42に減少しましたが、局所計測に成功したと言えます。
さらに二次元層状物質注9)であるセレン化タングステン(WSe2)単結晶をシリコン基板上に転写した試料を用いて実験を行いました。このWSe2試料では、場所によって結晶の厚さが異なっていますが、光学顕微鏡で銀白色のバルク(Bulk)結晶(厚さが10原子層以上の結晶)を見つけ、このバルク結晶と接する紫色の単層(1 ML)部分との界面に着目しました(図4a)。この厚さの異なる界面を用いて、局所的な表面電場の計測を行ったところ、単層部分とバルク部分のキャリア特性を反映した表面電場信号を、500 nm以下かつ100 fs以下の時空間分解能でセンシングすることに成功しました(図4a,b)。また時間分解EO信号の減衰を指数関数を用いてフィッティング(モデル化)したところ、単層部分では約200フェムト秒で緩和する成分のみが観測されました。一方、バルク部分では、この成分に加えて、約2psで緩和する遅い成分の寄与があることが分かりました(図4c)。このことは、単層部分では電場は基板との相互作用などで高速に緩和するのみなのに対し、バルク部分では、表面電場と結合したキャリアのバンド内緩和やバレー間緩和注10)が寄与していることを示しています。n型GaAsの時間分解EO信号による電場検出感度を見積もると、約100 V/cm/
(Hzは周波数)となりました。これは発光測定に基づく従来の手法で得られたマイクロ秒時間領域でのDC(直流)電場センシングと同等の検出感度を達成したことになります。最近のマイクロ秒時間領域でのAC(交流)電場センシングに関する検出感度には2桁及びませんが、本手法ではDC(直流)電場センシングと同等の検出感度で500 nm以下かつ、100フェムト秒というマイクロ秒を遙かに凌ぐ高い時空間分解能が得られることが示されたと言えます。
【今後の展開】
今回開拓した時空間極限センシング技術は、例えば炭化ケイ素(SiC)などのパワー半導体材料や燃料電池材料内での局所電場検知、トポロジカル絶縁体における局所電場検知など、基礎物理・化学のための基盤技術となることが期待されます。また、NV中心を含むダイヤモンドNVプローブはスピンや温度の変化にも感度があるため、本研究のアプローチは、電場の検出に加え、磁場や温度を検出するためのセンシング技術としても展開可能であると言えます。例えばレーザー医療や分子レベルでの細胞の計測や制御を通じて、癌の治療をはじめとする量子生命科学の分野にも波及しうる革新的な展開が期待されます。
【参考図】

| 図1 本研究で行なった実験の概要図 ダイヤモンドNVプローブを用いた超高速ポンプ・プローブ電場センシング測定の概略図。試料上の各指定点においてAFMプローブを垂直に接近・後退させる「ピンポイントモード」で測定を行った。また試料はピエゾスキャナーを用いてx-y方向に走査される。 |

| 図2 本研究で作製したダイヤモンドNVプローブ概要図 (a) FIBで作製したダイヤモンドNVプローブ(探針)の走査型イオン顕微鏡像。マイクロメートルサイズに加工されたダイヤモンド結晶の一部が探針となっている。(b) ダイヤモンドNVプローブの探針部分のフォトルミネッセンス画像。赤色の部分から探針の直径が500 nm以下であることが分かる。(c)カンチレバーに取り付けたダイヤモンドNVプローブの光学顕微鏡像。カンチレバーは自己センシング方式用の回路部分の上部に位置しており、その先端に探針部分を含むダイヤモンドNVプローブが取り付けられている。 |

| 図3 ダイヤモンドNVプローブを用いたn型GaAs表面の電場センシング (a)ダイヤモンドNVプローブ先端近傍の表面バンド曲げと接触モードの配置図。表面状態はフェルミエネルギー(EF)を示すベル形状の破線で表され、下側のバンドは電子(-)で占有されている。VBは価電子帯、CBは伝導帯を示す。(b)ダイヤモンドNVプローブを用いないマクロ計測によるn型GaAsウェハーからの時間分解電気光学信号。(c)ダイヤモンドNVプローブを用いたn型GaAsからの局所的時間分解電気光学信号。(b)のマクロ計測の場合に比べてEO信号の大きさは約1/42になっているが、検出感度が十分であることが確認された。 |

| 図4 WSe2のEO信号の時空間測定 (a) ダイヤモンドNVプローブを用いた60 µm ×60 µm領域のトポグラフ画像。色の薄い部分がバルク(Bulk)結晶である。左上の挿入図は光学顕微鏡像であり、銀白色の部分はバルク(Bulk)結晶である。 局所計測では、単層(1ML)領域(P4)からバルク(Bulk)領域(P11)までを500 nmステップで計測する。(b)ダイヤモンドNVプローブを用いて得られた局所的な時間分解電気光学信号。P4からP11に行くに従い、単層(1ML)からバルク(Bulk)領域を測定している。図(b)の黒実線は、単一指数関数(単層=1ML領域のデータについて)または二重指数関数(バルク領域のデータについて)を用いたフィッティング(モデル化)を示す。(c) P4からP11の異なる位置における500 nmステップで得られた時間分解電気光学信号へのフィッティングにより得られた緩和時間定数。エラーバーは標準偏差を示す。 |
【用語解説】
量子化した準位や量子もつれなどの量子効果を利用して、磁場、電場、温度などの物理量を超高感度で計測する手法のこと。
ダイヤモンドは炭素原子から構成される結晶だが、結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、すぐ隣に炭素原子の抜け穴(空孔:Vacancy)ができることがある。この窒素と空孔が対になった「NV(Nitrogen-Vacancy)中心」はダイヤモンドの着色にも寄与する色中心と呼ばれる格子欠陥となる。NV中心には周辺環境の温度や磁場の変化を極めて敏感に検知して量子状態が変わる特性があり、この特性をセンサー機能として利用することができる。このため、NV中心を持つダイヤモンドは「量子センサー」と呼ばれ、次世代の超高感度センサーとして注目されている。
パルスレーザーの中でも特にパルス幅(時間幅)がフェムト秒(1000兆分の1秒)以下の極めて短いレーザーのこと。光電場の振幅が極めて大きいため、2次や3次の非線形光学効果を引き起こすことができる。
物質に電場を加えると、電場の強度に応じて物質の屈折率が変化する効果のこと。
先端が鋭い探針で試料の表面を走査し、探針と表面との間に働く微少な力を測定して表面構造を原子スケールの高分解能で観察することができる顕微鏡のこと。AFM探針は、バネのようにしなるカンチレバーの先端に取り付けられており、コンタクトモードでは、この探針と試料表面を微小な力で接触させ、カンチレバーのたわみ量が一定になるように探針・試料間距離をフィードバック制御しながらX―Y方向(水平方向)に走査することで、表面形状を画像化できる。
イオンビーム(荷電しているイオンを高電界で加速したもの)を細く絞ったものである。物質の微細加工、蒸着、観察などの用途に用いられる。
半導体材料などに機械的なひずみ(力による変形)を与えたとき、材料の電気抵抗が変化する効果のこと。
通常のAFMでは、レーザー光をカンチレバー背面に照射し、反射したレーザービームの位置変化を位置センサーで計測することで、カンチレバーのたわみ量(表面構造によりたわんだ量)を読み取る。カンチレバーのたわみ信号を光で読み取ることから、これを光てこ方式と呼ぶ。一方、自己センシング方式のAFMでは、光てこ方式のようにレーザーと一センサーを必要とせず、ピエゾ抵抗効果などのカンチレバー自身の物理量の変化からカンチレバーのたわみ量を読み取ることができる。
共有結合が二次元方向だけに伸びている結晶のこと。原子一層レベルの二次元原子層が、ファンデルワールス力で積層して三次元結晶を形成している。炭素の二次元原子層であるグラフェンが積層したグラファイト、近年盛んに研究されるようになった遷移金属カルコゲナイドなどがある。本研究で調べたセレン化タングステン(WSe2)も遷移金属カルコゲナイドである。
半導体などにおいて、バレーとは電子バンドの極小点を指す。異なるバレー間にキャリアが散乱(遷移)することでエネルギーを失う緩和過程をバレー間緩和と呼ぶ。
【研究資金】
本研究は、科研費による研究プロジェクト(25H00849, 22J11423, 22KJ0409, 23K22422, 24K01286, 24H00416, 23H00264)、および国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST「ダイヤモンドを用いた時空間極限量子センシング」(研究代表者:長谷 宗明)(JPMJCR1875)の一環として実施されました。
【参考文献】
a) T. Ichikawa, J. Guo, P. Fons, D. Prananto, T. An, and M. Hase, 2024, Cooperative dynamic polaronic picture of diamond color centers. Nature Communications. 15, 7174 (10.1038/s41467-024-51366-x).
【掲載論文】
| 題名 | An ultrafast diamond nonlinear photonic sensor. (超高速ダイヤモンド非線形光センサー) |
| 著者名 | D. Sato, J. Guo, T. Ichikawa, D. Prananto, T. An, P. Fons, S. Yoshida, H. Shigekawa, and M. Hase |
| 掲載誌 | Nature Communications |
| 掲載日 | 2025年9月25日 |
| DOI | 10.1038/s41467-025-63936-8 |
令和7年9月26日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/09/26-1.html糖鎖による抗体ダイナミクスの制御機構を解明 ~分子経絡が抗体医薬設計の新たな鍵に~
![]() ![]() |
| 大学共同利用機関法人 国立大学法人 東京科学大学 公立大学法人 名古屋市立大学 ⼀般財団法人 国立大学法人 大阪大学 国立大学法人 |
糖鎖による抗体ダイナミクスの制御機構を解明
~分子経絡が抗体医薬設計の新たな鍵に~
自然科学研究機構(生命創成探究センター)の谷中冴子 准教授(現 東京科学大学 准教授)、加藤晃⼀ 教授(生命創成探究センター、名古屋市立大学)らは、抗体の糖鎖修飾、特にガラクトース付加が、抗体分子の構造と動態に及ぼす影響を原子レベルで解明しました。
本研究の成果は、国際科学雑誌 「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」に掲載予定です。論文は日本時間2025年8月5日の週にオンライン公開される予定であり、DOIおよび掲載URLは公開後に付与されます。
【発表のポイント】
私たちの体には、病原体から身を守るための免疫システムが備わっています。その中心的な役割を担うのが「免疫グロブリンG(IgG)」注1) と呼ばれる抗体です。IgGは、特定の抗原を認識して結合するだけでなく、Fc受容体や補体といったエフェクター分子との相互作用を通じて、様々な免疫応答を誘導します。本研究では、IgGのFc領域 注2) に結合した「糖鎖」の修飾が、IgGの動的な構造変化を制御し、その結果として免疫機能が調節されるメカニズムを、計算科学と実験科学を融合したアプローチで明らかにしました。特に、本研究では、糖鎖修飾による影響が、あたかも私達の体の中に張り巡らされた経絡のように、分子レベルで伝播していく「分子経絡」注3) の重要性に着目しました。
【研究の背景】
治療用抗体は、がんや自⼰免疫疾患など、さまざまな疾患の治療に用いられています。抗体の効果は、標的抗原への結合だけでなく、Fc領域を介したエフェクター機能 注4) の発揮によっても大きく左右されます。Fc領域の糖鎖修飾 注5) は、抗体のエフェクター機能を調節する重要な因子であり、そのメカニズム解明は、より効果的な抗体医薬品の開発につながると考えられています。
【本研究の手法と成果】
研究グループは、遺伝子工学的手法と酵素反応を組み合わせることで、糖鎖構造が異なるIgG1-Fcを調製しました。これらについて、安定同位体標識NMR分光法 注6) を用いてFc領域の動的構造を解析するとともに、分子動力学シミュレーション 注7) によって糖鎖修飾がFc領域のコンフォメーション変化に与える影響を評価しました。また、動的ネットワーク解析を用いて、「分子経絡」を同定しました。NMR分光法と分子動力学シミュレーションの結果から、ガラクトース 注8) 残基は糖鎖の動きを止める「錨」およびFc領域全体の動きを抑える「楔」としてはたらき、フコース 注9) 除去は特定のFc受容体との結合に関与するアミノ酸残基の動態を変化させることが明らかになりました。これらの結果は、糖鎖修飾がIgGのFc領域の動的構造を制御し、エフェクター機能を調節するメカニズムを原子レベルで理解する上で重要な知見となります。特に、「分子経絡」の存在は、糖鎖修飾の効果がFc領域全体に伝播する様子を示唆しています。

| (図)(A)糖鎖のガラクトース残基での構造変化がFc分子内を伝わる様子を示している。(B)ガラクトース残基は糖鎖(黄色の丸)の動きを止める「錨」およびFc領域全体の動きを抑える「楔」としてはたらき、エフェクター分子との相互作用を助けている。 |
【成果の意義および今後の展開】
本研究成果は、治療用抗体の開発において、Fc領域の糖鎖修飾を最適化するための合理的な設計基盤を提供します。今後は、糖鎖修飾と抗体の構造・機能相関に関するさらなる研究を進めることで、また「分子経絡」の操作という新たな視点を取り入れることで、より効果的かつ安全な抗体医薬品の開発に貢献できると期待されます。
【用語解説】
【論文情報】
| 掲載誌 | Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America |
| タイトル | Exploring Glycoform-Dependent Dynamic Modulations in Human Immunoglobulin G via Computational and Experimental Approaches |
| 著者 | Saeko Yanaka, Yoshitake Sakae, Yohei Miyanoiri, Takumi Yamaguchi, Yukiko Isono, Sachiko Kondo, Miyuki Iwasaki, Masayoshi Onitsuka, Hirokazu Yagi, Koichi Kato*(*責任著者) |
| DOI | |
| 掲載日 |
【著者情報】
東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所)
名古屋市立大学大学院薬学研究科)
【研究サポート】
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP20K15981 および JP23K24018 谷中冴子、JP19H01017 および JP24H00599 加藤晃⼀)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP21ae0121020 および JP23ak0101209 谷中冴子、JP21ae0121013 加藤晃⼀)、文部科学省研究大学総合研究育成事業:研 究大学強化促進事業(CURE)課題番号JPMXP1323015488(Spin-LプログラムNo. spin24XN014)、生命創成探究センター共同利用研究(24EXC901、25EXC603)、および科学技術振興機構(JST)戦略的 創造研究推進事業(CREST)(JPMJCR21E3 加藤晃⼀)の助成を受けたものです。また、本研究は文部 科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(分子・物質合成)、大阪大学蛋白質研究所共同利用・共 同研究拠点 NMRCR-16-05, 17-05, 18-05, 19-05, 20-05, 21-05、計算科学研究センター(24-IMS-C197)、文部科学省先端研究設備共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)JPMXS0441500024、国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出(DEJI2MA)プロジェクト、およびヒューマングライコームプロジェクトの支援を受けて行われました。
令和7年8月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/05-1.html第1回超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナーを開催
6月3日(火)、本学イノベーションプラザ2階 シェアードオープンイノベーションルームにおいて、「令和7年度第1回超越バイオメディカルDX研究拠点エクセレントコアセミナー」を開催しました。
本セミナーでは、本学に新たにクロスアポイメント教員として着任したHak Soo CHOI 教授(ハーバード大学医学部 放射線腫瘍学講座 教授)を講師に迎え、「Bioengineering and Nanomedicine Program for Cancer Theranostics」をテーマに講演いただきました。
冒頭では、寺野稔 学長による開会挨拶が行われ、CHOI教授の着任に対する歓迎の意が述べられるとともに、今後の国際共同研究のさらなる発展に向けた期待が示されました。
CHOI教授の講演では、がんの診断と治療を同時に行う「セラノスティックス」の実現に向けた最先端の研究成果が紹介されました。とりわけ、独自に開発された蛍光イメージング技術と、薬剤の物理化学的特性と生体内動態の関係性に基づいた薬物設計戦略により、組織特異的な近赤外蛍光プローブの開発が進められていることが説明されました。これらの技術は、がん組織の可視化、画像誘導手術、光線治療などへの応用が期待されており、ナノ医療および分子イメージング分野における今後の展開に重要な示唆を与える内容となりました。
本セミナーは、CHOI教授と本学物質化学フロンティア研究領域の栗澤元一 教授との長年にわたる共同研究を背景に開催されたものであり、国際的な研究連携の深化とともに、若手研究者や学生との学術的交流の促進を目的としています。当日は、参加者との活発な質疑応答や意見交換も行われ、充実した議論の場となりました。
今後も本学では、超越バイオメディカルDX研究拠点の中核的活動として、世界トップレベルの研究者との交流を通じた学際的かつ国際的な研究の推進と、次世代研究者の育成に積極的に取り組んでまいります。


セミナーの様子
令和7年6月5日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/06/05-2.html令和7年度TeSH GAPファンドプログラム『ステップ1』に本学から5名が採択されました
令和7年度TeSH GAPファンドプログラム『ステップ1』の採択者が決定し、本学からは以下5件の研究開発課題が採択されました。
| テック分野 | |
| 人間情報学研究領域 鵜木 祐史 教授 |
音声なりすまし対策のための深層情報ハイディング法/検出法の開発 |
| 物質化学フロンティア研究領域 西村 俊 准教授 |
小規模で効率的な反応評価システムが担う触媒インフォマティクスの事業展開 |
| 物質化学フロンティア研究領域 上田 純平 准教授 |
傷も付かない半永久高輝度透明蓄光セラで究極の低環境負荷光材料を実現! |
| 環境分野 | |
| バイオ機能医工学研究領域 廣瀬 大亮 講師 |
酸化物薄膜トランジスタ型センサとAIの融合技術による"誰でもできる"食品のかんたんスマート品質チェックシステムの提供 |
| 加藤 裕介 博士後期課程学生 | 革新的凍結保存技術による豚精液の凍結保存事業 |
(参考)TeSH HP>R7年度 TeSH GAPファンドプログラム『ステップ1』採択者
TeSHは、2024年2月にJSTの"大学発新産業創出基金事業(2023-2027)スタートアップ・エコシステム共創プログラム"の"地域プラットフォーム"の一つに選ばれました。TeSHが支援するGAPファンドは、基礎研究の成果をビジネスとしての可能性を評価できる段階まで引き上げる「ステップ1」と、概念実証からスタートアップ組成までを支援する「ステップ2」からなります。
令和7年5月27日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/05/27-1.html物質化学フロンティア研究領域の都教授らの論文がSmall Science誌の表紙に採択
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの「磁石と光で機能制御可能なナノ粒子の開発に成功!-高性能がん診断・治療に向けて-」に係る論文が、生物・化学系のトップジャーナルSmall Science誌の表紙に採択されました。本研究は、文部科学省科研費 基盤研究(A)(23H00551)、文部科学省科研費 挑戦的研究(開拓)(22K18440)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)(JPMJTR22U1)、大学発新産業創出基金事業スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)ならびに本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものです。
■掲載誌
Small Science, Volume 5, No. 5
掲載日:2025年5月4日
■著者
Yun Qi, Eijiro Miyako*
■論文タイトル
Multifunctional Magnetic Ionic Liquid-Carbon Nanohorn Complexes for Targeted Cancer Theranostics
■論文概要
本研究では、カーボンナノホーン表面に磁性イオン液体、近赤外蛍光色素(インドシアニングリーン)、分散剤(ポリエチレングリコール-リン脂質複合体)を被覆したナノ粒子の作製に成功しました。得られたナノ粒子は、ナノ粒子特有のEPR効果のみならず、磁性イオン液体に由来する磁場駆動の腫瘍標的能によって、大腸がんを移植したマウス体内の腫瘍内に効果的に集積し、磁性イオン液体に由来する抗がん作用に加え、生体透過性の高い近赤外レーザー光により、インドシアニングリーンに由来するがん患部の可視化とカーボンナノホーンに由来する光熱変換による多次元的な治療が可能であることを実証しました。さらに、マウスを用いた生体適合性試験などを行い、いずれの検査からもナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかりました。当該ナノ粒子と近赤外レーザー光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出が期待されます。
表紙詳細:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smsc.202570019
論文詳細:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/smsc.202400640
プレスリリース詳細:https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/03/06-1.html
令和7年5月8日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/05/08-2.html学生の松本さんと石須さんがSI2024において優秀講演賞を受賞
学生の松本創大さん(令和7年3月博士前期課程修了、ナノマテリアル・デバイス研究領域、HO研究室)と石須滉大さん(令和7年3月博士前期課程修了、ナノマテリアル・デバイス研究領域、HO研究室)が、第25回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2024)において、優秀講演賞を受賞しました。
SI2024は、「サステナブルな社会を目指すシステムインテグレーション」をテーマに、SI部門設立25周年の記念大会として、令和6年12月18日~20日にかけて、岩手県のアイーナいわて県民情報交流センターにて開催されました。
優秀講演賞は、SI部門講演会において発表された全ての発表を対象として審査が行われ、講演会実行委員会によって選出されるものです。
※参考:SI2024
■受賞年月日
令和7年2月17日
【松本創大さん】
■研究題目、論文タイトル等
口径変化が可能な吸着型ソフトロボットハンド
■研究者、著者
松本創大、HO, Anh Van
■受賞対象となった研究の内容
松ぼっくりの形状から着想を得た、吸着口を可変できるソフトロボットハンドを開発した。把持したい物体の形状、重さ、大きさに対して適切な口径を変化させることができるロボットハンドを開発し、吸着力実験と把持実験を通してロボットハンドとしての性能を評価した。
■受賞にあたって一言
自分の研究が評価されて、光栄です。今後ソフトロボットが社会実装されるための1手段になってくれることを願います。
【石須滉大さん】
■研究題目、論文タイトル等
深い接触を許容するビジョンベース触覚センサを用いた回転物体における初期滑り検知
■研究者、著者
石須滉大、Luu Quan、HO, Anh Van
■受賞対象となった研究の内容
ロボットの物体把持のために初期滑り検知が必要。視覚ベース触覚センサを使ってこれまでよりも簡単な方法で初期滑りの特徴を検知した。
■受賞にあたって一言
まずは、本研究を支えてくださったLuu QuanさんとHo, Anh Van教授に深く感謝申し上げます。本研究がソフトロボット学の発展に貢献できれば光栄です。


令和7年5月7日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/05/07-1.html生きたままの細胞の微細構造に迫る ~再生医療、創薬分野における研究・開発の発展に貢献~
![]() ![]() |
株式会社 東レリサーチセンター 国立大学法人 |
生きたままの細胞の微細構造に迫る
~再生医療、創薬分野における研究・開発の発展に貢献~
| 株式会社東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区日本橋本町一丁目1番1号、社長:吉川正信、以下「TRC」)は、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学(所在地:石川県能美市旭台一丁目1番地、学長:寺野稔)物質化学フロンティア研究領域の松村和明教授と共同で、生きている細胞の微細な構造を解析する新しい方法を開発しました。 細胞は、細胞膜や細胞質、細胞小器官などさまざまな部分から成り立っています。これらの構造を「細胞の微細構造」と呼び、細胞のさまざまな機能を発現するために重要な役割を果たしています。細胞の微細構造は非常に小さく、通常は電子顕微鏡1)や超解像蛍光顕微鏡2)を用いて観察します。TRCと松村和明教授の研究チーム(以下、「研究チーム」)は、小角X線散乱3)を用いて、ナノメートルスケール(1億分の1メートル)のレベルで細胞の微細構造を解析する新しい方法を開発しました。この方法は、低温など特殊な環境での観察も可能で、新たな細胞の微細構造の観察法として期待されます。また、近年注目されている「相分離生物学」4)では、細胞内のタンパク質や核酸の凝集や分散などの相分離現象が、細胞の柔軟な機能発現に重要な役割を果たしているとされています。今回用いた小角X線散乱では、相分離構造を高感度で観測することができ、細胞生物学や再生医療の発展に貢献することが期待されます。 この研究成果は、2024年7月8日公開のBiophysical Chemistry誌に掲載されました。また、この研究は北陸先端科学技術大学院大学の超越バイオメディカルDX研究拠点の支援を受けて行われました。 |
【背景】
細胞の周りの環境(例えば浸透圧)が変わると、細胞の大きさが変わることはよく知られています。しかし、それだけでなく、細胞膜の張力や細胞内のタンパク質の集まり方も影響を受けます。このような変化は、新規モダリティ医薬品5)の開発や再生医療の分野で重要な知見となっています。
従来、細胞の微細構造の観察は電子顕微鏡や超解像蛍光顕微鏡によって行われてきました。しかし、電子顕微鏡では、煩雑な前処理や真空下での観察のため、生きたままの細胞の観察は難しく、また、蛍光顕微鏡では、解像度はサブマイクロメートル程度であり、微細構造の観察が難しい場合があります。したがって、さまざまな環境で生きたまま、かつ、非常に小さなスケールで細胞の微細構造を観察する新しい方法が求められています。
【研究の概要】
これに対して研究チームは、大型放射光施設SPring-8のBL08B2ビームライン6)で、小角X線散乱を用いて細胞の微細構造の解析を行いました。その結果、細胞内のさまざまな構造からの信号が検出され、それらが環境の変化に敏感に反応していることがわかりました。例えば、タンパク質を作るリボソームは、低浸透圧(水分が多い)ではサイズが膨張しますが、高浸透圧ではリボソームのサイズが収縮し、リボソーム間の距離が近づく様子が観察されました。また、高浸透圧下では、細胞膜が折りたたまれてマルチラメラ構造を作ることや、タンパク質や核酸の凝集状態が変化することが明らかになりました(図1)。これらの結果は、タンパク質の生成や放出に関連する現象と考えられます。抗体タンパク質の品質や産生量と細胞の微細構造の関係性が明らかになることで、抗体医薬品の開発への貢献が期待されています。

図1. 細胞の小角X線散乱信号の浸透圧に対する変化。高浸透圧で特に明瞭な散乱信号が検出され、さまざまな細胞微細構造の変化が起こっている。
【今後の展開】
細胞の微細構造の解明は、創薬や再生医療などの分野で注目されています。細胞の機能(抗体産生や接着・増殖・分化など)を最適化するために、さまざまな環境で細胞の微細構造を詳細に解明することが重要です。今回開発した小角X線散乱による細胞の微細構造解析法は、従来の電子顕微鏡や蛍光顕微鏡の限界を補完し、これまで観察が難しかった不定な構造(相分離)の観察にも有効です。また、従来の顕微鏡観察では困難であった低温や高温などの環境でも構造変化を捉えることが可能です。特に低温環境での細胞の微細構造解析は、細胞や組織の凍結保存への応用が可能であり、新型コロナウイルスで注目されたワクチンの凍結保存技術の発展にも寄与が期待されます。これらの技術は、食料不足や移植医療、創薬分野の課題解決や研究・技術開発への貢献が期待されています。
【用語説明】
試料に電子線を照射し、反射あるいは透過電子像を得る方法。ナノメートルスケールの細胞小器官の形態観察が可能であるが、煩雑な前処理や真空下での観察のため、生きたままの細胞を観察することは不可能である。
特定のタンパク質を蛍光分子で標識することで、その対象物を明るく輝かせ、可視光の波長の限界を超えた分子レベルの解像度で細胞を観察できる方法。ただし、蛍光標識した対象が凝集している場合などは、可視光の限界を超えて見分けることはできない。また、蛍光分子の選択は困難なこともあり、観察環境での蛍光活性の確認も必要である。
X線を物質に照射したときに生じる散乱を観測する方法。X線の散乱は物質中の分子の並び方によって異なる散乱を起こし、物質のナノメートル(10億分の1メートル)スケールの構造を調べることができる。
細胞内で起こるタンパク質や核酸などの生体分子の相分離に関する生物学分野の一つ。生体分子の相分離によって膜のない細胞小器官が形成されることで、細胞の外部環境の変化に瞬時に応答していると考えられている。細胞内の相分離現象が、細胞内の化学反応やシグナル伝達に重要な役割を果たしている可能性があり、新たな生物学として近年注目を集めている。
従来の低分子化合物を用いた医薬品とは異なる仕組みで作用する医薬品。従来の医薬品では効果が限定された疾患や患者に対して、新たな治療法を提供できる可能性があり、近年、研究・技術開発が進められている。生物由来の抗体や核酸、遺伝子、細胞医薬品などが該当する。
SPring-8 は兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す理化学研究所の施設。SPring-8 では、この放射光を用いて、物質科学や生命科学などの幅広い研究が行われている。BL08B2ビームラインは兵庫県が設置したビームラインであり、放射光の産業利用支援を目的としている。
【掲載論文】
| 掲載誌 | Biophysical Chemistry, 312 (2024) 107287. |
| 論文題目 | Nanoscale intracellular ultrastructures affected by osmotic pressure using small-angle X-ray scattering |
| 著者 | Masaru Nakada, Junko Kanda, Hironobu Uchiyama, Kazuaki Matsumura |
| DOI | https://doi.org/10.1016/j.bpc.2024.107287 |
| 公表日 | 2024年7月8日(オンライン公開) |
令和6年7月10日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/07/10-1.html多機能ナノ粒子を用いて、無傷のリソソームを迅速かつ高純度に単離する手法を開発
![]() |
国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人東北大学 |
多機能ナノ粒子を用いて、無傷のリソソームを迅速かつ高純度に単離する手法を開発
ポイント
- 磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞のリソソーム内腔へエンドサイトーシス*1経路で高効率に送達することに成功
- ハイブリッドナノ粒子の細胞内輸送過程をプラズモンイメージング*2によって精確に追跡することで、高純度にリソソームを磁気分離するための最適培養時間を容易に決定可能
- リソソーム内腔にハイブリッドナノ粒子を送達後、細胞膜を温和に破砕し、4℃で30分以内にリソソームを磁気分離することで、細胞内の状態を維持したままリソソームの高純度単離に成功
| 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長:寺野 稔、石川県能美市) 先端科学技術研究科 前之園 信也 教授、松村 和明 教授、平塚 祐一 准教授の研究チームは、東北大学(総長:大野 英男、宮城県仙台市)大学院生命科学研究科の田口 友彦教授と共同で、磁気分離能(超常磁性)とバイオイメージング能(プラズモン散乱*3特性)を兼ね備えた多機能ナノ粒子(磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子)を用いて、細胞内の状態を維持したままリソソームを迅速かつ高純度に単離する技術を世界で初めて開発しました。 |
【背景と経緯】
リソソームは60を超える加水分解酵素とさまざまな膜タンパク質を含む細胞小器官(オルガネラ)で、タンパク質、炭水化物、脂質、ヌクレオチドなどの高分子の分解と再利用に主要な役割を果たします。これらの機能に加えて、最近の発見では、リソソームがアミノ酸シグナル伝達にも関与していることがわかってきています。リソソーム機能障害に由来する疾患も数多く存在します。そのため、リソソームの機能をより深く理解することは基礎生物学においても医学においても重要な課題です。
リソソームの代謝物の探索は、近年急速に関心が高まっている研究分野です。たとえば、飢餓状態と栄養が豊富な状態でリソソームの代謝物を研究することにより、アミノ酸の流出がV-ATPaseおよびmTORに依存することが示されました(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017, 358, 807)。このように、外部刺激に応答したリソソームの動的な性質を調べるためには、リソソームを細胞内の状態を維持したまま迅速かつ高純度に分離する必要があります。
一般的に、リソソームの単離は密度勾配超遠心分離法*4によって行われていますが、密度勾配超遠心分離法には二つの大きな問題があります。まず一つ目の問題として、細胞破砕液にはほぼ同じ大きさと密度を持ったオルガネラが多種類あるため、得られた画分にはリソソーム以外の別のオルガネラが不純物として混ざっていることがよくあります。したがって、リソソーム画分のプロテオミクス解析を行っても、完全な状態のリソソームに関する情報を得ることができません。二つ目の問題として、分離プロセスに長い時間がかかるため、リソソームに存在する不安定なタンパク質は脱離、変性、または分解される可能性があります。この問題も、リソソームに関する情報を得ることを大きく妨げます。
これらの問題を克服するために、リソソームを迅速に単離するための他の技術が開発されました。たとえば、磁気ビーズを用いた免疫沈降法*5によってリソソームを迅速に分離できることが示されました(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017, 358, 807)。しかし、この手法では、ウイルスベクターのトランスフェクションなどによって抗体修飾磁気ビーズが結合できるリソソーム膜貫通タンパク質を発現させる必要があります。この方法は、密度勾配超遠心分離法よりも高純度のリソソーム画分が得られますが、リソソーム膜のタンパク質組成とその後のプロテオミクス解析に悪影響を与える可能性が指摘されています(J. Singh et al., J. Proteome Res., 2020, 19, 371-381.)。
【研究の内容】
本研究では、無傷のリソソームを迅速かつ効率的に分離する新たな単離法として、アミノデキストラン(aDxt)で表面修飾したAg/FeCo/Ag コア/シェル/シェル型磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子(MPNPs)をエンドサイトーシス経路を介してリソソームの内腔に集積した後、細胞膜を温和に破砕し、リソソームを磁気分離するという手法を開発しました(図1)。リソソームの高純度単離のためには、エンドサイトーシス経路におけるaDxt結合MPNPs(aDxt-MPNPs)の細胞内輸送を精確に追跡することが必要となります。そこで、aDxt-MPNPsとオルガネラの共局在の時間変化を、aDxt-MPNPsのプラズモンイメージングとオルガネラ(初期エンドソーム、後期エンドソームおよびリソソーム)の免疫染色によって追跡しました(図2)。初期エンドソームおよび後期エンドソームからのaDxt-MPNPsの脱離と、リソソーム内腔へのaDxt-MPNPsの十分な蓄積に必要な最適培養時間を決定し、その時間だけ培養後、リソソームを迅速かつマイルドに磁気分離しました。細胞破砕からリソソーム単離完了までの経過時間(tdelay)と温度(T)を変化させることにより、リソソームのタンパク質組成に対するtdelayとTの影響をアミノ酸分析によって調べました。その結果、リソソームの構造は細胞破砕後すぐに損なわれることがわかり、リソソームを可能な限り無傷で高純度で分離するには、tdelay ≤ 30分およびT = 4℃という条件で磁気分離する必要があることがわかりました(図3)。これらの条件を満たすことは密度勾配超遠心分離法では原理的に困難であり、エンドサイトーシスという細胞の営みを利用して人為的にリソソームを帯磁させて迅速かつ温和に単離する本手法の優位性が明らかとなりました。
本研究成果は、2022年1月3日(米国東部標準時間)に米国化学会の学術誌「ACS Nano」のオンライン版に掲載されました。
【今後の展開】
本手法はリソソーム以外のオルガネラの単離にも応用可能な汎用性のある技術であり、オルガネラの新たな高純度単離技術としての展開が期待されます。

図1 磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いたリソソームの迅速・高純度単離法の概念図

| 図2 COS-1細胞におけるaDxt-MPNPsの細胞内輸送。 (A)aDxt-MPNPsの細胞内輸送の概略図(tは培養時間)。 (B)aDxt-MPNPsとリソソームマーカータンパク質(LAMP1)の共局在を示す共焦点レーザー走査顕微鏡像 (核:青、aDxt-MPNPs:緑、リソソーム:赤)。 aDxt-MPNPsはプラズモンイメージングによって可視化。 スケールバーは20 µm。 |

| 図3 単離されたリソソームのウエスタンブロッティングおよびアミノ酸組成分析の結果。 (A)ネガティブセレクション(NS)およびポジティブセレクション(PS)画分。 (B)PS画分の共焦点レーザー走査顕微鏡画像(緑:aDxt-MPNPs、赤:LAMP1)。 (C)NSおよびPS画分、および細胞破砕液のウエスタンブロット結果。 (D)異なる温度でtdelayを変化した際に得られたリソソーム画分のアミノ酸含有量の変化。 水色(4℃、tdelay = 30分)、青(4℃、tdelay = 120分)、ピンク(25℃、tdelay = 30分)、 および赤(25℃、tdelay = 120分)。 |
【論文情報】
| 掲載誌 | ACS Nano |
| 論文題目 | Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanoparticles (磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いた完全な状態のリソソームの迅速かつ温和な単離) |
| 著者 | The Son Le, Mari Takahashi, Noriyoshi Isozumi, Akio Miyazato, Yuichi Hiratsuka, Kazuaki Matsumura, Tomohiko Taguchi, Shinya Maenosono* |
| 掲載日 | 2022年1月3日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1021/acsnano.1c08474 |
【用語説明】
*1.エンドサイトーシス:
細胞が細胞外の物質を取り込む過程の一つ
*2.プラズモンイメージング:
プラズモン散乱を用いて、光の回折限界以下のサイズの金属ナノ粒子を光学顕微鏡(蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡など)で可視化すること
*3.プラズモン散乱:
金属ナノ粒子表面での自由電子の集合振動である局在表面プラズモンと可視光との相互作用により、可視光が強く散乱される現象
*4.密度勾配超遠心分離法:
密度勾配のある媒体中でサンプルに遠心力を与えることで、サンプル中の構成成分がその密度に応じて分離される方法
*5.免疫沈降法:
特定の抗原を認識する抗体を表面修飾したビーズ用い、標的抗原が発現したオルガネラを細胞破砕液中から選択的に分離する免疫化学的手法
令和4年1月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/01/05-2.html学生の加藤さんがCVG2025において経済産業大臣賞・ビジネス大賞を受賞
学生の加藤裕介さん(博士後期課程3年、メディカルサイエンス研究領域、松村和明研究室)が、第22回キャンパスベンチャーグランプリ全国大会(CVG2025)において、経済産業大臣賞・ビジネス大賞を受賞しました。
学生ビジネスプランコンテスト「CVG2025」は、令和8年2月24日に東京・霞が関の霞山会館にて開催され、全国8地域の地方大会を勝ち抜いた12組の学生がプレゼンテーションを行い、ビジネスプランを競い合いました。
同大会は会場での開催に加え、YouTubeによるライブ配信も行われました。
※参考:CVG
受賞者インタビュー
■受賞年月日
令和8年2月24日
■プラン名
豚凍結精液の販売ビジネス
■提案者
加藤裕介
■受賞対象となったビジネスプランの内容
養豚事業者向けに、豚の精子を凍結する技術を開発・提供する事業を提案した。まずは豚精子用の凍結保護剤販売ビジネスとして開始し、その後凍結精液を販売するビジネスへと移行する。育種改良に携わるブリーダー・ブランド豚を扱う会社へのサービス、海外展開の可能性など、多様なニーズの存在をアピールした。
■受賞にあたって一言
このたびは経済産業大臣賞・ビジネス大賞を頂き、大変光栄に存じます。本事業の共同研究者であり、指導教員である松村和明教授に、この場を借りて心より御礼申し上げます。また、本事業における研究開発およびビジネス可能性の評価には、TeSH GAPファンドプログラムよりご支援をいただいております。内田史彦特任教授をはじめTeSHプログラムに携わられている皆様と、日頃より多くのご助言をいただいている北陸RDXの水野惠介様に、深く感謝申し上げます。
本受賞にあたり、審査において養豚業界に対する解像度を高く評価していただけました。市場調査やヒアリングにご協力いただいた皆様のお力添えに、この場を借りて深く感謝申し上げます。特に、令和7年9月の家畜改良センターでの研修経験は、養豚業界への理解をより具体的で鮮明なものにしてくれました。当時お世話になりました皆様に厚く御礼申し上げます。
関連記事:学生の加藤さんがCVG中部2025において大賞を受賞
令和8年7月13日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/07/13-1.htmlベタレイン色素の新たな生合成経路を解明 ― ゴムフレニンI合成酵素 cDOPA6GT を世界で初めて発見 ―
![]() |
石川県公立大学法人 石川県立大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 |
ベタレイン色素の新たな生合成経路を解明
― ゴムフレニンI合成酵素 cDOPA6GT を世界で初めて発見 ―
ポイント
- ツルムラサキおよびセンニチコウから、ゴムフレニンI生合成に関わる新規糖転移酵素cDOPA6GTを発見
- タバコ培養細胞を用いたゴムフレニンIの人為的大量生産系の構築に成功
- ゴムフレニンIが、ベタニンより高い熱安定性を示すことを発見
| 石川県立大学の重久亮太 修士課程学生、森正之 教授、今村智弘 准教授、高木宏樹 教授、北陸先端科学技術大学院大学 大木進野 教授、山口拓実 准教授らの研究グループは、ベタレイン色素を生産するツルムラサキ(Basella alba)およびセンニチコウ(Gomphrena globosa)を用いて、ゴムフレニンI生合成に関わる新規糖転移酵素cDOPA6GTを発見し、ベタレイン色素の新たな生合成経路を明らかにしました。 本研究成果は、植物科学分野の国際研究誌「New Phytologist」に掲載されました。 |
研究背景と概要
ナデシコ目植物の多くがベタレイン色素*1 を生産し、赤色系のベタシアニン*2 と黄色系のベタキサンチンに大別されます。ベタシアニンは、基本骨格であるベタニジンにグルコースが付加されることで形成されます。この修飾では、分子内の5位または6位にグルコースが付加されることが知られており、5位に付加したものをベタニン型、6位のものをゴムフレニン型と呼んでいます(図1)。ベタレイン生産植物の多くはベタニン型ベタシアニンを生産しますが、ゴムフレニン型を生産する植物は限られています。
それぞれのタイプを決定する酵素について、ベタニン型では、ベタニジンの5位にグルコースを付加する酵素(Betanidin 5-O-glucosyltransferase、B5GT)と、ベタニジンの前駆体であるシクロドーパの5位にグルコースを付加する酵素(cyclo-DOPA 5-O-glucosyltransf-erase、cDOPA5GT)が報告されています(図1右)。一方、ゴムフレニン型については、ベタニジンの6位にグルコースを付加する酵素(Betanidin 6-O-glucosyltransferase、B6GT)は、これまでに1例しか報告されていませんでした(図1左下)。そのため、ゴムフレニン型ベタシアニンの生合成機構の全体像は未解明のままであり、20年以上にわたり未解決の課題となっていました。
本研究では、ゴムフレニン型ベタシアニンを生産していることが知られているツルムラサキ*3 とセンニチコウ*4 を対象として、ゴムフレニンI*5 の生合成に関わる酵素遺伝子の探索を行いました。両植物はゲノム情報が公開されていなかったため、RNA-seq*6 解析によって取得した遺伝子発現情報から転写産物の配列を再構築し、候補遺伝子を抽出しました。まず、これまでに報告されているB6GTのアミノ酸配列を手がかりに候補遺伝子を選抜し、ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法*7 によって機能解析を行いました。しかし、ゴムフレニンIを合成する酵素は見いだせませんでした。この結果は、ツルムラサキとセンニチコウにおいて、ゴムフレニンIの生合成に未知の酵素が関与している可能性を示していました。
そこで、私たちは、これまで報告のなかったベタニジンの前駆体であるシクロドーパの6位にグルコースを付加してゴムフレニンIを合成する新たな経路の存在を想定し、その反応を担う酵素(cyclo-DOPA 6-O-glucosyltransferase、cDOPA6GT)の探索を行いました(図1左上)。ベタニン型ベタシアニンでは、複数の植物種でcDOPA5GTが報告されていることから、キヌアのcDOPA5GTのアミノ酸配列を手がかりに、相同性解析を行いました。その結果、ツルムラサキから2つ、センニチコウから1つの有力な候補遺伝子を見いだしました。これらの候補について、機能解析を行った結果、ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GT1およびBacDOPA5/6GT2は、ベタニンとゴムフレニンIの両方を生産すること、一方でセンニチコウ由来のGgcDOPA6GTはゴムフレニンIのみを生産することが明らかとなりました(図2)。これにより、長年未解明であったゴムフレニン型ベタシアニンの生合成において、世界で初めてcDOPA6GT経路の存在を実証しました。
次に、ゴムフレニンI合成活性を示した遺伝子を、他のベタシアニン生合成遺伝子とともにタバコ培養細胞(BY-2細胞)へ導入し、ゴムフレニンIの人為的生産系の構築を行いました。その結果、遺伝子を導入した培養細胞は赤色を呈し、蓄積した色素を精製し、NMR*8 による構造解析を行ったところ、ゴムフレニンIであることが確認されました(図3)。さらに BacDOPA5/6GT1、BacDOPA5/6GT2およびGgcDOPA6GTを導入した培養細胞では、ゴムフレニンIが高濃度で蓄積していることが確認されました。これらの結果から、ゴムフレニンIの人為的生産系の構築に成功しました。
さらに、タバコ培養細胞で生産したゴムフレニンIとベタニンを用いて、それぞれの熱安定性を評価しました。その結果、ゴムフレニンIは、ベタニンに比べて有意に高い熱安定性を示しました(図4)。そこで、両色素の分子構造シミュレーション*9 解析を行った結果、ゴムフレニンIではグルコース部分と色素骨格との間に、ベタニンには見られない分子内水素結合が形成される可能性が示されました(図4)。この分子内水素結合が、ゴムフレニンIの高い熱安定性に寄与していると考えられます。
本研究により、長年未解明であったゴムフレニン型ベタシアニンの生合成機構が明らかとなり、世界で初めてcDOPA6GT経路の存在が実証されました。本成果は、ベタレイン色素の生合成機構の理解に貢献するとともに、熱に強い天然色素の開発や利用技術の高度化、新たな機能性天然色素の創出につながることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業(ARIM)の支援を受けて実施されました。

図1 ゴムフレニン型およびベタニン型ベタシアニンの生合成経路
・本研究により、世界で初めてcDOPA6GT(黄色)の経路を実証した。

| 図2 ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法による候補遺伝子の機能解析 (a,b)ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GTsの活性評価(c, d)センニチコウ由来のGgcDOPA6GTの活性評価 ・BacDOPA5/6GTsおよびGgcDOPA6GTがゴムフレニンIの合成に関与することが明らかとなった。 |

| 図3 タバコ培養細胞によるゴムフレニンIの人為的生産系の構築 (a,b)ツルムラサキ由来のBacDOPA5/6GTsを用いた生産系の構築(c,d)センニチコウ由来のGgcDOPA6GTを用いた生産系の構築 ・タバコ培養細胞を用いたゴムフレニンIの安定的な人為的生産系を構築することに成功した。 |

| 図4 ゴムフレニンIの熱安定性評価(a)熱処理前のゴムフレニンIおよびベタニン (b)熱処理後のゴムフレニンIおよびベタニン(c)熱処理後のゴムフレニンIおよびベタニンの残存率(%)(d, e)分子構造シミュレーションによるゴムフレニンIとベタニンの構造解析。黄矢印は分子内水素結合を示す。 ・ゴムフレニンIはベタニンに比べて熱安定性が高いことが示された。また、ゴムフレニンIでは、ベタニンには見られない分子内水素結合が形成される可能性が示された。 |
【用語の説明】
ナデシコ目植物に含まれる水溶性の植物色素。赤紫色のベタシアニンと黄色のベタキサンチンに大別される。
ベタレイン色素の一種で、赤色から赤紫色を示す色素群。ビートやツルムラサキ、センニチコウなどに含まれる。
熱帯アジア原産のつる性野菜。若葉や茎が食用として利用され、赤紫色のベタレイン色素を蓄積する。
熱帯アメリカ原産の観賞植物。色鮮やかな苞を長期間維持することから広く利用されている。ベタレイン色素を蓄積する代表的な花卉である。
ベタシアニンの一種。ベタニンと同じ分子式を持つが、グルコースの結合位置が異なる位置異性体。本研究の中心となった色素であり、ベタニンより高い熱安定性を示す。
次世代シークエンサーを用いて、細胞内で発現しているmRNAを網羅的に解析し、どの遺伝子が働いているかを調べる技術。
植物細胞に遺伝子を導入する性質を持つ土壌細菌であるアグロバクテリウムを利用して、植物葉内に目的遺伝子を一時的に導入し、その機能を評価する実験手法。
原子核スピンの共鳴現象を利用して、分子構造を高精度に解析する分析手法。化合物の構造決定に広く利用されている。
コンピューター上で分子の立体構造や分子内の相互作用を予測・解析する手法。本研究では、ゴムフレニンIとベタニンの構造を比較し、熱安定性の違いに関与する可能性のある分子内水素結合を解析した。
【発表論文】
| 論文タイトル | A cyclo-DOPA 6-O-glucosyltransferase-mediated route for gomphrenin I biosynthesis in Basella alba and Gomphrena globosa |
| 論文著者 | Tomohiro Imamura*,†, Ryouta Shigehisa†, Akio Miyazato, Nami Matsumura, Kaisei Miyaki, Tenta Segawa, Masahide Yoshizumi, Hiroki Takagi, Takumi Yamaguchi, Shinya Ohki, and Masashi Mori* (*:責任著者、†:共同筆頭著者) |
| 雑誌 | New Phytologist |
| DOI | 10.1111/nph.71340 |
| 掲載日 | 2026年6月7日 |
令和8年6月19日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2026/06/19-1.html本学同窓会が令和7年度同窓会総会・講演会を開催
3月22日(日)、東京サテライトにおいて、同窓会主催(本学後援)による同窓会総会・講演会が開催されました。
橋本昌嗣同窓会長の開会挨拶で幕を開け、この一年の活動を振り返るとともに、本学修了生の活躍ぶりが紹介されました。
続いて、寺野学長、永井理事(研究振興、社会連携担当)・副学長、飯田理事(学生、教育連携担当)・副学長が登壇し、大学の近況紹介を行いました。Matching HUBやTech Startup HOKURIKU(TeSH)をはじめとする産学官連携活動、研究力強化に向けた学内組織改革、産業界で活躍しうる博士人材の育成等、本学の重点取組について説明があり、また修了生による日頃の支援に対し感謝の意が述べられました。
引き続き行われた講演会では、3名の修了生から、在学当時の思い出や現在の仕事に活きている学びを交えつつ講演があり、会場は大いに盛り上がりました。
当日は、オンライン参加も含め、修了生と本学教職員合わせて約70名が参加し、世代や専門分野を超えて親睦を深めました。
○情報科学修了生の講演
「IOWNで切り拓く光技術による量子情報科学の未来」
高杉 耕一 氏(NTT株式会社 未来ねっと研究所 主席研究員)
(1997年3月 情報科学研究科 博士前期課程修了、國藤研究室)
○マテリアルサイエンス/材料科学修了生の講演
「知的たくましさと体験の重要性:インダストリとアカデミアの狭間で」
和田 透 氏(北陸先端科学技術大学院大学 助教)
(2010年3月 マテリアルサイエンス研究科 博士後期課程修了、寺野研究室)
○知識科学修了生の講演
「JAISTでの知識創造研究を活かした現在の研究・教育について」
吉永 崇史 氏(横浜市立大学 国際マネジメント研究科 教授)
(2007年9月 知識科学研究科 博士後期課程修了、遠山研究室)

橋本同窓会長による開会挨拶

寺野学長による大学の近況紹介

修了生による講演会の様子
| ~修了生の皆さまへ~ 「同窓会システム」の登録情報の更新をお願いします。 本学及び同窓会からの連絡は、同窓会システムに登録されている「転送先メールアドレス」にお送りしますので、 常に最新の情報に更新いただきますようお願いいたします。 登録方法の詳細は、こちらからご覧ください。 https://www.jaist.ac.jp/careersupport/graduates/ |
令和8年3月31日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2026/03/31-1.html学生の加藤さんがCVG中部2025において大賞を受賞
学生の加藤裕介さん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、松村研究室)が第23回キャンパスベンチャーグランプリ中部(CVG中部2025)において大賞を受賞しました。
キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)は、国内外で最も歴史ある表彰事業の一つであり、新鮮な発想、ユニークなアイデア、独創的な技術、情熱あふれる若者の挑戦に期待し、学生によるビジネスプランを競い合う場として設けられました。CVGへの出場をきっかけに活躍している起業家も多く、"学生起業家の登竜門"として広く知られています。
CVGは全国8地域で大会が開催され、各地域大会を勝ち抜いた学生が全国大会に進出します。全国大会では、「経済産業大臣賞」や「文部科学大臣賞」といった栄誉を目指し、ファイナリストたちが競い合います。
※参考:CVG
■受賞年月日
令和7年12月9日
■プラン名
豚凍結精液の販売ビジネス
■研究者、著者
加藤裕介
■受賞対象となった研究の内容
養豚事業者向けに、豚の精子を凍結する技術を開発・提供する事業を提案した。まずは豚精子用の凍結保護剤販売ビジネスとして開始し、その後凍結精液を販売するビジネスへと移行する。育種改良に携わるブリーダー・ブランド豚を扱う会社へのサービス、海外展開の可能性など、多様なニーズの存在をアピールした。
■受賞にあたって一言
このたびは大賞を頂き、大変光栄に存じます。本事業の共同研究者であり、指導教員である松村和明教授に、この場を借りて心より御礼申し上げます。また、本事業における研究開発およびビジネス可能性の評価には、TeSH GAPファンドプログラムよりご支援をいただいております。内田史彦特任教授をはじめTeSHプログラムに携わられている皆様と、日頃より多くのご助言をいただいている北陸RDXの水野惠介様に、深く感謝申し上げます。


令和8年3月18日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2026/03/18-1.html本学発ベンチャー企業「BioSeeds株式会社」と学生の加藤さんが「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2025」で最優秀起業家賞・優秀起業家賞を受賞
10月28日(火)、石川県地場産業振興センターで開催された「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2025」において、本学発ベンチャーであるBioSeeds株式会社が最優秀起業家賞を、学生の加藤裕介さん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、松村和明研究室)が優秀起業家賞を受賞しました。
本コンテストは、革新的な技術や独自性のあるビジネスプランをもとに石川県での起業を促進し、将来の成長が期待される起業家を認定するもので、平成19年から毎年開催されています。これまでに、バイオテクノロジー、IT関連など独自の技術を持つ企業や、地域活性化などをテーマとした企業など、ユニークなビジネスプランを含め、数多くのスタートアップ企業が誕生しました。
※参考:ISHIKAWA START UP!
■受賞年月日
令和7年10月28日
■最優秀起業家賞
新型RNA/DNA分析装置「BioMuRun(バイオミューラン)」の開発・製造そして世界への販売
BioSeeds株式会社 ビヤニ マニシュ氏
概要:
バイオミューランは、進化分子工学や電気化学などの技術を駆使して開発した装置です。新型コロナウイルスの流行時に浮き彫りになった、「高価な装置がないと検査ができない」「変異株が見分けられない」「大量の検査が困難」といった課題を解決する装置で、本体は1辺が12センチメートルのサイコロ型で、使い捨てのカートリッジをセットし、パソコンやタブレットに接続すれば、わずか5分で10検体を同時に検査が可能です。PCR検査と同等の高い精度を誇り、変異株の特定も可能。コロナだけでなく、インフルエンザやノロウイルス、結核などの検査など感染症に対応できます。
装置本体だけでなく消耗品のカートリッジで収益を上げるビジネスモデルを採用し、装置は石川県内の企業、カートリッジはインドで製造します。特許も取得済みで2026年に人口14億人を抱えるインド市場で、大学や研究機関向けに販売を開始。その後、日本市場でも販売を計画しています。2028年からは医療用途へも展開し、インドと日本、日本と世界の架け橋になろうと意欲を燃やしています。
受賞にあたって一言:
日本に来て28年目になります。BioMuRunは 2001年からコンセプトを創り、プロトタイプ1号から6号まで製作し本年やっと完成しました。インドと日本の合作で生まれた装置で、感染症の検査のみならず、DNA、RNAの分析など幅広く使用が可能です。
ポータブルで安価なこの装置をPCRなど大型機器を備えることのできない発展途上国などに普及し、将来のパンデミックに備えることを目指しています。ISICO主催のスタートアップビジネスプランコンテストで最優秀賞起業賞を頂き、その名に恥じぬよう石川県から世界に羽ばたく企業になるべく全力を尽くして参ります。引き続き皆様のご支援を期待しております。
バイオシーズ株式会社 社長 ビヤニ・マニシュ
バイオシーズ株式会社 社長 ビヤニ・マニシュ氏
■優秀起業家賞
新規凍結保存法を用いた豚精液の凍結保存事業
北陸先端科学技術大学院大学 博士後期課程3年 加藤裕介
概要:
本事業では、未だ実用化に至っていない「豚凍結精液」の確立を目指します。豚凍結精液は、現在広く普及している豚人工授精に多くの利点をもたらすだけでなく、豚精液の国際流通や付加価値の高い精子の販売といった、養豚業界の新たな市場を開拓する可能性を秘めています。
受賞にあたって一言:
このたびは優秀起業家賞を頂き、大変光栄に存じます。ファイナリストの中では唯一の学生でしたが、チームとして評価をしていただいたと思っております。本事業の共同研究者であり、指導教員である松村和明教授に、この場を借りて心より御礼申し上げます。また、本事業のブラッシュアップに多くのご助言をいただきました、株式会社SAKU代表取締役の谷沢鷹続様と石川県産業創出支援機構の皆様に、深く感謝いたします。
北陸先端科学技術大学院大学 博士後期課程3年 加藤裕介
博士後期課程3年 加藤裕介氏(右)
令和7年12月11日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/12/11-1.html学生のSUMALDEさんがPVSEC-36においてBest Oral Presentation Awardを受賞
学生のSUMALDE, Adrian Augusto Mendozaさん(博士後期課程2年、サスティナブルイノベーション研究領域、大平研究室)が36th International Photovoltaic Science and Engineering Conference(PVSEC-36)においてBest Oral Presentation Awardを受賞しました。
PVSEC-36は、令和7年11月9日~14日まで、タイ・バンコクのチュラロンコン大学(Chulalongkorn University)にて開催された、太陽光発電システムに関する国際会議です。同会議では、世界中の研究者や技術者が一堂に会し、最先端の研究成果について活発な議論が行われました。
※参考:PVSEC-36
■受賞年月日
令和7年11月14日
■研究題目、論文タイトル等
Development of encapsulant-less vertical crystalline silicon photovoltaic modules with various thermoplastic materials as module base
■研究者、著者
Adrian Augusto M. Sumalde, Kensaku Maeda, and Keisuke Ohdaira
■受賞対象となった研究の内容
Encapsulant-less PV modules were developed to address the recyclability concerns in conventional crystalline silicon (c-Si) photovoltaic (PV) modules. Specifically, these modules were conceptualized for vertical installations for building integration, targeting high urban density areas and/or locations with heavy snowfall conditions. This work evaluated the potential of several thermoplastics as primary material for module base, providing both physical stability and aesthetic appeal. The design utilizes grooves for easy installation and removal of module components, as well as "corner" and "bar" holding structures to minimize partial shading and vertical stability. Mini-modules were 3d-printed using black polycarbonate (PC), translucent polyethylene terephthalate glycol (PETG), and white acrylonitrile styrene acrylate (ASA). Electrical performance was evaluate using 1-sun illuminated J - V characteristics, EQE spectra, and electroluminescence imaging, while an initial 72-hour damp-heat test was conducted to investigate the response of modules to thermo-hygrometric stress. Using corner holding structures in the module base design, performance losses were successfully minimized, kept to as low as 0.36% ηabs for the white ASA modules. The translucency of PETG modules and white colors of ASA modules also resulted in cell-to-module ratios above 90%, with confidence that upscaling will improve these values. Future direction involves upsizing and redesigning for additional physical stability, to be evaluated using moisture ingress and vibration stability tests.
■受賞にあたって一言
I am truly honored to have received the award at PVSEC-36. It validated my efforts throughout the year and motivates me to continue working hard in my research and my PhD studies. I would like to thank Professor Keisuke Ohdaira and Senior Lecturer Kensaku Maeda for their continuous guidance and instilling discipline in my daily research activities in JAIST, as well as to NEDO and Specially Appointed Professor Marwan Dhamrin, The University of Osaka, for their technical support for the fabrication of our solar cells. Lastly, I would also like to thank Associate Professor Kotona Motoyama, Kanazawa University, who strengthened my awareness of responsible research and innovation. Through her, I am always reminded that whenever we communicate our research, the benefit to society is a common language that we all can understand.


令和7年12月9日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/12/09-1.htmlリチウムイオン電池の劣化原因をナノスケールで可視化 ― 新手法「ケプストラム照合解析」で電池現象の解明に貢献 ―
![]() ![]() |
北陸先端科学技術大学院大学 東京科学大学 |
リチウムイオン電池の劣化原因をナノスケールで可視化
― 新手法「ケプストラム照合解析」で電池現象の解明に貢献 ―
【ポイント】
- リチウムイオン電池の劣化につながる正極の結晶構造変化をナノメートルスケールで可視化
- 新開発の「ケプストラム照合解析」により、高空間分解能・広視野・低損傷を同時に実現
- 電池劣化の原因となる界面での構造変化を解明し、高性能電池開発への貢献に期待
| 北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域の麻生浩平講師、掛谷尚史大学院生(博士後期課程)、土田拓夢大学院生(博士前期課程)、大島義文教授、東京科学大学 物質理工学院応用化学系の伊藤広貴大学院生(博士前期課程)(研究当時)、淺野翔大学院生(博士後期課程)(研究当時)、渡邊健太助教、平山雅章教授、物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センターの三石和貴副センター長、木本浩司センター長、蓄電池基盤プラットフォームの篠田啓介エンジニア、エネルギー・環境材料研究センターの増田卓也センター長の研究グループは、リチウムイオン電池の結晶構造変化をナノメートル (nm:10億分の1メートル)スケールで可視化する新手法「ケプストラム照合解析」を確立しました。 新手法によって、従来の分析手法では困難だった、高空間分解能(約1 nm)・広視野(数百nm)・試料低損傷の三点を同時に実現しました。そして、この手法をエピタキシャル薄膜*1として作製したコバルト酸リチウム(LiCoO2)正極に応用することで、電解質との界面付近において、電池劣化の原因となるナノスケールの構造変化を可視化することに成功しました。今回、開発された手法は、電池における構造変化の理解を加速することで、電池の劣化原因解明や高性能化に役立つと期待されます。 本研究成果は、2025年10月21日(米国東部標準時間)に科学雑誌「Nano Letters」誌のオンライン版で公開されました。 |
【研究概要】
スマートフォンや電気自動車にはリチウムイオン電池(LIB)が欠かせません。その正極として広く用いられている材料が、層状の結晶構造(原子の並び方)を有するリチウム遷移金属酸化物(以下、層状正極)です。LIBの長時間稼働を実現するには、より高電圧で動かすことが重要となります。一方、高電圧で充放電を繰り返すと、液体電解質と接する界面において、層状正極がスピネル構造や岩塩構造*2に変化して、LIBの劣化を引き起こします。界面を起点として数nm のスケールで進行する構造変化を理解するために、解析が求められてきました。
従来の光やX線を使った観察では、空間分解能が数十〜数百nmに限られます。電子顕微鏡なら原子スケールで観察できますが、観察視野が約50×50 nm2に制限される課題と、多量の電子照射によって観察中に試料が損傷する課題がありました。つまり、「ナノ空間分解能」「広視野」「低試料損傷」の三つを両立して、層状正極の構造を解析できる手法がありませんでした。
本研究グループでは、層状正極の代表例であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)の構造(図1a)を調べるために、先進的な電子顕微鏡手法の一つである走査ナノビーム電子回折*3に注目しました (図1b)。これは、直径約1 nmの電子線をスキャンさせながら試料に照射し、結晶構造を反映する電子回折図形を得て、高速カメラに記録する手法です。高電圧で100サイクル充放電させたエピタキシャルLiCoO2について、あるスキャン位置での回折図形(図1c)と、結晶構造モデルから計算した回折図形(図1d)とで差異が認められます。電子回折図形には、結晶構造の情報に加えて、試料の厚さや僅かな傾きに依存するスポットの強度変化が含まれるため、比較が困難です。
そこで、音声信号処理で用いられるケプストラム解析*4に着目しました。ケプストラムは、回折図形の強度を対数変換してフーリエ変換し、その振幅を得ることで求められます。実験と計算のケプストラム(図1e、f)では、試料の厚さや傾きを反映する成分は中心スポットに、結晶構造の周期性を反映する成分は周囲のスポットにそれぞれ分離されます。構造由来のスポットは実験と計算でよく一致するため、この領域が層状構造だと分かります。この一致度は、相互相関関数(2つの画像が似ているほど高い値を示す関数)を用いることで、数値として評価できます。層状構造に加えて、スピネルや岩塩構造についても同様の解析を行い、試料各位置での構造を調べました。独自に開発した一連の解析を「ケプストラム照合解析」と名付けました。
結晶構造の合成マップ(図1g)では、LiCoO2正極の大部分はもとの層状構造を保持していましたが、電解質との界面から正極側へ約3 nmにかけてスピネル・岩塩構造が観察されました。本手法は、約1 nmの高空間分解能と、正極の内部と界面の両方をカバーする約300×100 nm2の広視野を同時に達成しました。さらに、原子分解能電子顕微鏡など電子線を多用する他の手法と比べ、本手法の照射量は2ケタ以上低いことが分かりました。観察中の試料損傷を低減でき、従来手法よりも信頼性の高い結果が得られます。
界面での構造変化に対して、LiCoO2正極を別の物質でコーティングして保護する対策や、異なる元素をわずかに添加する対策が提案されています。さらに、次世代デバイスとして注目を集めている全固体LIBでも、ナノスケールの構造変化が生じると報告されています。今後、本手法を活用することで、劣化メカニズムの詳細な解明や、コーティングや添加などの効果の検証を計画しています。本成果は、LIBの現象解明を目指す学術研究や、高性能LIB開発に広く貢献すると期待されます。

| 図1(a)[100]方位から見た層状LiCoO2の結晶構造モデル。(b)走査ナノビーム電子回折の模式図。(c)実験と(d)計算の電子回折図形。(e)実験と(f)計算のケプストラム。中心以外の明るいスポットが結晶構造に由来します。(g)結晶構造の合成マップ。青、緑、赤色が強いほど、層状、岩塩、スピネル構造であることを示します。 |
【研究資金】
本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS) 科研費(JP22K14473、JP25K18108、JP24H00042)、科学技術振興機構(JST) 革新的GX技術創出事業(GteX)プログラム(JPMJGX23S5、JPMJGX23S6)、同 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)、物質・材料研究機構(NIMS) 連携拠点推進制度、三谷研究開発財団、澁谷学術文化スポーツ財団、池谷科学技術振興財団、中部電気利用基礎研究振興財団、旭硝子財団、北陸先端科学技術大学院大学 研究拠点形成支援事業の支援を受けて実施されました。本研究の一部は、NIMS蓄電池基盤プラットフォーム、マテリアル先端リサーチインフラ(JPMXP1222JI0007、JPMXP1223JI0012、JPMXP1224JI0005)にて実施されました。
【論文情報】
| 雑誌名 | Nano Letters |
| 論文名 | Low-Dose Nanoscale Visualization of Crystal Phases in Epitaxial Cathodes via Cepstral Matching of Scanning Nanobeam Electron Diffraction |
| 著者 | Kohei Aso, Takafumi Kakeya, Takumu Tsuchida, Hiroki Ito, Sho Asano, Kenta Watanabe, Kazutaka Mitsuishi, Koji Kimoto, Keisuke Shinoda, Takuya Masuda, Masaaki Hirayama, and Yoshifumi Oshima |
| 掲載日 | 2025年10月21日 |
| DOI | 10.1021/acs.nanolett.5c03692 |
【用語説明】
目的の物質を、基板の結晶構造に合わせて成長させた薄膜。本研究ではチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)(111)基板上に成長させたLiCoO2薄膜を用いています。結晶方位や露出表面を制御できるため、通常の粉末多結晶正極よりも観察が容易になります。
おおむね、層状LiCoO2からリチウム(Li)が抜けて、そこに一部のコバルトが入り込んだ構造。層状構造ではLiイオンが(003)面内を2次元的に移動できますが、スピネル構造や岩塩構造ではその経路が失われるため、Liイオン伝導性が低下します。さらに、一度これらの構造に変化すると層状構造には戻りにくくなります。そのため、高電圧で充放電を繰り返すとLIBの劣化につながります。特に、充電の最大電圧が4.2V(vs Li/Li+)超えたときに現れやすいです。
細く絞った電子線を試料上で走査し、各位置で電子回折図形を記録する手法。回折波の配置を解析することで、試料の結晶構造を求めることができます。実空間2次元と逆空間2次元に対する強度を示す、複雑かつ膨大な4次元データが得られるため、適切なデータ処理を施して情報を抽出する必要があります。
音声を解析するために開発された、信号の細かく変化する成分となだらかに変化する成分を分離する信号処理手法。音声分野では、声帯での原音成分と、口や鼻での共鳴によって原音から変化した成分とを分離する目的で用いられます。
令和7年10月28日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/10/28-2.html令和7年度 第2回 超越バイオメディカルDX研究拠点 ネオ・エクセレントコアセミナー(科研費「新規細胞内氷晶形成測定法の開発と次世代三次元組織凍結保存」共催セミナー)
下記のとおりセミナーを開催しますので、ご案内します。
| 日時 | 令和7年10月24日(金) 13:30~16:55 |
| 場所 | JAISTイノベーションプラザ 2F シェアードオープンイノベーションルーム |
| 概要 | 本セミナーでは、凍結保存の新展開を切り拓く先端センシング技術を紹介します。高分子凍結保護剤の開発から、高磁場DNP-MAS-NMRやダイヤモンド量子センサー、スーパーコンピュータを活用した計算科学、さらにX線・中性子散乱による微細構造解析、液化窒素式機器の開発まで、量子・高磁場・放射光・計算科学の最前線研究を結集し、凍結保存の未来を展望します。 |
| プログラム | 13:30 開始 開会あいさつ 13:35 「高分子凍結保護剤の開発と凍結状態センシングへの挑戦」 松村 和明 教授 (北陸先端科学技術大学院大学) 14:05 「高磁場DNP-MAS-NMR法の装置と方法論の開発」 松木 陽 准教授 (大阪大学) 14:35 「ダイヤモンド量子センサーのバイオ応用概観」 安 東秀 准教授 (北陸先端科学技術大学院大学) 15:05-15:20 コーヒーブレーク 15:20 「JAISTスパコンを活用したデータ駆動型材料研究」 本郷 研太 准教授 (北陸先端科学技術大学院大学) 15:50 「X線/中性子散乱による凍結保存における細胞微細構造センシング」 中田 克 氏 (株式会社東レリサーチセンター) 16:20 「液化窒素式凍結保存機器の開発」 吉村 滋弘 氏 (太陽日酸株式会社) 16:50 終了 閉会あいさつ |
| 使用言語 | 日本語 |
| 参加申込 | ・参加費無料 ・要予約(定員30名) 下記の担当へ前日までにメールにてお申し込みください。 【本件担当・予約申込先】 北陸先端科学技術大学院大学 超越バイオメディカルDX研究拠点 拠点長 松村 和明 (mkazuaki |









