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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。特殊なダイヤモンドの針を開発し超高速で変化する電場の局所計測に成功
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| 国立大学法人筑波大学 国立大学法人 慶應義塾大学 |
特殊なダイヤモンドの針を開発し
超高速で変化する電場の局所計測に成功
NV中心と呼ばれる格子欠陥を導入したダイヤモンドを原子スケールの空間分解能を持つ原子間力顕微鏡(AFM)の探針(プローブ)に用い、二次元層状物質の表面近傍の電場をフェムト秒(1000兆分の1秒)・ナノメートル(10億分の1メートル)の時空間分解能で計測することに成功しました。
| ダイヤモンドの結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、すぐ隣に炭素原子の抜け穴(空孔:Vacancy)ができることがあります。これをNitrogen-Vacancy(NV)中心と言います。そして、NV中心を導入したダイヤモンドに電界を加えると、その屈折率が変化するようになります。これは電気光学(EO)効果と呼ばれる現象で、ダイヤモンド単体では実現していませんでした。 本研究チームはこれまでに、NV中心を導入した高純度ダイヤモンドに1000兆分の1秒という極めて短時間だけパルス光を放出するフェムト秒レーザーを照射し、ダイヤモンドのEO効果を計測することで、ダイヤモンドの格子振動ダイナミックスを動的に高感度に検出することに成功しています。このことは、ダイヤモンドが超高速応答するEO結晶として利用可能で、電場を検出する探針(ダイヤモンドNVプローブ)となり得ることを示しています。 そこで本研究では、NV中心を導入したダイヤモンドの超高速EO効果と、原子スケールの空間分解能を有する原子間力顕微鏡(AFM)技術とを融合し、フェムト秒(fs=1000兆分の1秒)の時間分解能とナノメートル(nm=10億分の1メートル)の空間分解能で局所的な電場のダイナミックスを測定できる、時空間極限電場センシング技術を開発しました。そして、このセンシング技術を用いることで、二次元の原子層が層状に重なった二次元層状物質であるセレン化タングステン(WSe2)試料の表面近くの電場を500 nm以下かつ100 fs以下の時空間分解能でセンシングできました。 ダイヤモンドNVプローブはスピンや温度の変化にも感度があるため、本研究成果は、電場の検出に加え、磁場や温度を検出するためのセンシング技術としても展開されることが期待されます。 |
【研究代表者】
筑波大学数理物質系
長谷 宗明 教授
北陸先端科学技術大学院大学ナノマテリアル・デバイス研究領域
安 東秀 准教授
慶應義塾大学理工学部
ポール フォンス 講師(研究当時、同大学同学部電気情報工学科教授)
【研究の背景】
ダイヤモンド中の不純物には窒素やホウ素などさまざまな種類があります。その中でも、点欠陥に電子や正孔が捕捉され、発光を伴う種類のものはダイヤモンドを着色させるため、「色中心:カラーセンター」と呼ばれます。色中心には周辺環境の温度や磁場の変化を極めて敏感に検知して量子状態が変わる特性があり、温度や電場を読み取る量子センサー注1)として用いられています。
量子センサーの中でも、ダイヤモンドに導入した窒素―空孔(NV)中心注2)と呼ばれる複合欠陥を用いたセンサーは、まだまだ発展途上の技術ですが、高空間分解能・高感度が要求される細胞内計測やデバイス評価装置のセンサーへの応用など、新しい可能性が期待されています。
本研究チームは、フェムト秒(1000兆分の1秒)の時間だけ近赤外域の波長で瞬くフェムト秒超短パルスレーザー注3)を用い、NV中心を導入したダイヤモンドの電気光学(EO)効果注4)を実時間分解計測することで、ダイヤモンドの格子振動ダイナミックスを動的に高感度に検出することに成功しています参考文献 a)。このことは、ダイヤモンドが超高速応答するEO結晶になり、電場検出の探針(プローブ)となり得ることを示すものです。
これまでもダイヤモンドを原子間力顕微鏡(AFM)注5)と組み合わせた電場センシングの試みはなされていましたが、局所ダイナミックスを動的に評価できる手法はほとんどありませんでした。特に時間分解能に関しては、発光測定に基づく従来の手法ではナノ秒程度が限界であり、ピコ秒以下の超高速時間分解能に関しては、全く開拓されていませんでした。
【研究内容と成果】
本研究では、量子光学(フェムト秒超短パルスレーザーを用いたダイヤモンドのEO効果)と走査プローブ顕微鏡(SPM)の一種である原子間力顕微鏡(AFM)技術を融合することで、光の回折限界を超える空間分解能に加えて、今までの検出限界を超える超高速時間分解能で局所的な電場計測を実現することを目指しました(図1)。
極めて不純物が少ない高品質のダイヤモンド結晶の表面近傍(深さ40nm)に、密度を制御したNV中心を導入し、そのダイヤモンド結晶をレーザーカットおよび集束イオンビーム(FIB)技術注6)を駆使することで、先端径が500 nm以下のダイヤモンドNVプローブに加工することに成功しました。このダイヤモンドNVプローブを、フェムト秒超短レーザーを組み込むことが可能な、ピエゾ抵抗効果注7)に基づく自己センシング方式注8)のAFMのカンチレバーに取り付けました(図2)。
このシステムを用いて、まずガリウムヒ素(GaAs)半導体基板の表面電場を調べました。フェムト秒超短パルスレーザーの出力光をビームスプリッタで約10対1に分岐し、強い方を励起のためのポンプ光、弱い方を探索のためのプローブ光とします。電子が電流を運ぶn型GaAs試料は高強度のポンプ光で励起され、プローブ光はダイヤモンドNVプローブに入射されます(図3a)。まず、ダイヤモンドNVプローブの有無による時間分解EO信号の検出感度を確認するため、ダイヤモンドNVプローブを用いないマクロ計測により時間分解EO信号を計測したところ、励起直後(Time delay=時間遅延0 ps)に立ち上がり、数ps(ps=1兆分の1秒)以内に緩和しポンプ光を当てる前に戻る信号が得られました(図3b)。またNVセンターを導入したダイヤモンドNVプローブを通じて、n型GaAsの表面電場を検出することに成功しました(図3c)。ダイヤモンドNVプローブの導入によりEO信号の大きさは約1/42に減少しましたが、局所計測に成功したと言えます。
さらに二次元層状物質注9)であるセレン化タングステン(WSe2)単結晶をシリコン基板上に転写した試料を用いて実験を行いました。このWSe2試料では、場所によって結晶の厚さが異なっていますが、光学顕微鏡で銀白色のバルク(Bulk)結晶(厚さが10原子層以上の結晶)を見つけ、このバルク結晶と接する紫色の単層(1 ML)部分との界面に着目しました(図4a)。この厚さの異なる界面を用いて、局所的な表面電場の計測を行ったところ、単層部分とバルク部分のキャリア特性を反映した表面電場信号を、500 nm以下かつ100 fs以下の時空間分解能でセンシングすることに成功しました(図4a,b)。また時間分解EO信号の減衰を指数関数を用いてフィッティング(モデル化)したところ、単層部分では約200フェムト秒で緩和する成分のみが観測されました。一方、バルク部分では、この成分に加えて、約2psで緩和する遅い成分の寄与があることが分かりました(図4c)。このことは、単層部分では電場は基板との相互作用などで高速に緩和するのみなのに対し、バルク部分では、表面電場と結合したキャリアのバンド内緩和やバレー間緩和注10)が寄与していることを示しています。n型GaAsの時間分解EO信号による電場検出感度を見積もると、約100 V/cm/
(Hzは周波数)となりました。これは発光測定に基づく従来の手法で得られたマイクロ秒時間領域でのDC(直流)電場センシングと同等の検出感度を達成したことになります。最近のマイクロ秒時間領域でのAC(交流)電場センシングに関する検出感度には2桁及びませんが、本手法ではDC(直流)電場センシングと同等の検出感度で500 nm以下かつ、100フェムト秒というマイクロ秒を遙かに凌ぐ高い時空間分解能が得られることが示されたと言えます。
【今後の展開】
今回開拓した時空間極限センシング技術は、例えば炭化ケイ素(SiC)などのパワー半導体材料や燃料電池材料内での局所電場検知、トポロジカル絶縁体における局所電場検知など、基礎物理・化学のための基盤技術となることが期待されます。また、NV中心を含むダイヤモンドNVプローブはスピンや温度の変化にも感度があるため、本研究のアプローチは、電場の検出に加え、磁場や温度を検出するためのセンシング技術としても展開可能であると言えます。例えばレーザー医療や分子レベルでの細胞の計測や制御を通じて、癌の治療をはじめとする量子生命科学の分野にも波及しうる革新的な展開が期待されます。
【参考図】

| 図1 本研究で行なった実験の概要図 ダイヤモンドNVプローブを用いた超高速ポンプ・プローブ電場センシング測定の概略図。試料上の各指定点においてAFMプローブを垂直に接近・後退させる「ピンポイントモード」で測定を行った。また試料はピエゾスキャナーを用いてx-y方向に走査される。 |

| 図2 本研究で作製したダイヤモンドNVプローブ概要図 (a) FIBで作製したダイヤモンドNVプローブ(探針)の走査型イオン顕微鏡像。マイクロメートルサイズに加工されたダイヤモンド結晶の一部が探針となっている。(b) ダイヤモンドNVプローブの探針部分のフォトルミネッセンス画像。赤色の部分から探針の直径が500 nm以下であることが分かる。(c)カンチレバーに取り付けたダイヤモンドNVプローブの光学顕微鏡像。カンチレバーは自己センシング方式用の回路部分の上部に位置しており、その先端に探針部分を含むダイヤモンドNVプローブが取り付けられている。 |

| 図3 ダイヤモンドNVプローブを用いたn型GaAs表面の電場センシング (a)ダイヤモンドNVプローブ先端近傍の表面バンド曲げと接触モードの配置図。表面状態はフェルミエネルギー(EF)を示すベル形状の破線で表され、下側のバンドは電子(-)で占有されている。VBは価電子帯、CBは伝導帯を示す。(b)ダイヤモンドNVプローブを用いないマクロ計測によるn型GaAsウェハーからの時間分解電気光学信号。(c)ダイヤモンドNVプローブを用いたn型GaAsからの局所的時間分解電気光学信号。(b)のマクロ計測の場合に比べてEO信号の大きさは約1/42になっているが、検出感度が十分であることが確認された。 |

| 図4 WSe2のEO信号の時空間測定 (a) ダイヤモンドNVプローブを用いた60 µm ×60 µm領域のトポグラフ画像。色の薄い部分がバルク(Bulk)結晶である。左上の挿入図は光学顕微鏡像であり、銀白色の部分はバルク(Bulk)結晶である。 局所計測では、単層(1ML)領域(P4)からバルク(Bulk)領域(P11)までを500 nmステップで計測する。(b)ダイヤモンドNVプローブを用いて得られた局所的な時間分解電気光学信号。P4からP11に行くに従い、単層(1ML)からバルク(Bulk)領域を測定している。図(b)の黒実線は、単一指数関数(単層=1ML領域のデータについて)または二重指数関数(バルク領域のデータについて)を用いたフィッティング(モデル化)を示す。(c) P4からP11の異なる位置における500 nmステップで得られた時間分解電気光学信号へのフィッティングにより得られた緩和時間定数。エラーバーは標準偏差を示す。 |
【用語解説】
量子化した準位や量子もつれなどの量子効果を利用して、磁場、電場、温度などの物理量を超高感度で計測する手法のこと。
ダイヤモンドは炭素原子から構成される結晶だが、結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、すぐ隣に炭素原子の抜け穴(空孔:Vacancy)ができることがある。この窒素と空孔が対になった「NV(Nitrogen-Vacancy)中心」はダイヤモンドの着色にも寄与する色中心と呼ばれる格子欠陥となる。NV中心には周辺環境の温度や磁場の変化を極めて敏感に検知して量子状態が変わる特性があり、この特性をセンサー機能として利用することができる。このため、NV中心を持つダイヤモンドは「量子センサー」と呼ばれ、次世代の超高感度センサーとして注目されている。
パルスレーザーの中でも特にパルス幅(時間幅)がフェムト秒(1000兆分の1秒)以下の極めて短いレーザーのこと。光電場の振幅が極めて大きいため、2次や3次の非線形光学効果を引き起こすことができる。
物質に電場を加えると、電場の強度に応じて物質の屈折率が変化する効果のこと。
先端が鋭い探針で試料の表面を走査し、探針と表面との間に働く微少な力を測定して表面構造を原子スケールの高分解能で観察することができる顕微鏡のこと。AFM探針は、バネのようにしなるカンチレバーの先端に取り付けられており、コンタクトモードでは、この探針と試料表面を微小な力で接触させ、カンチレバーのたわみ量が一定になるように探針・試料間距離をフィードバック制御しながらX―Y方向(水平方向)に走査することで、表面形状を画像化できる。
イオンビーム(荷電しているイオンを高電界で加速したもの)を細く絞ったものである。物質の微細加工、蒸着、観察などの用途に用いられる。
半導体材料などに機械的なひずみ(力による変形)を与えたとき、材料の電気抵抗が変化する効果のこと。
通常のAFMでは、レーザー光をカンチレバー背面に照射し、反射したレーザービームの位置変化を位置センサーで計測することで、カンチレバーのたわみ量(表面構造によりたわんだ量)を読み取る。カンチレバーのたわみ信号を光で読み取ることから、これを光てこ方式と呼ぶ。一方、自己センシング方式のAFMでは、光てこ方式のようにレーザーと一センサーを必要とせず、ピエゾ抵抗効果などのカンチレバー自身の物理量の変化からカンチレバーのたわみ量を読み取ることができる。
共有結合が二次元方向だけに伸びている結晶のこと。原子一層レベルの二次元原子層が、ファンデルワールス力で積層して三次元結晶を形成している。炭素の二次元原子層であるグラフェンが積層したグラファイト、近年盛んに研究されるようになった遷移金属カルコゲナイドなどがある。本研究で調べたセレン化タングステン(WSe2)も遷移金属カルコゲナイドである。
半導体などにおいて、バレーとは電子バンドの極小点を指す。異なるバレー間にキャリアが散乱(遷移)することでエネルギーを失う緩和過程をバレー間緩和と呼ぶ。
【研究資金】
本研究は、科研費による研究プロジェクト(25H00849, 22J11423, 22KJ0409, 23K22422, 24K01286, 24H00416, 23H00264)、および国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST「ダイヤモンドを用いた時空間極限量子センシング」(研究代表者:長谷 宗明)(JPMJCR1875)の一環として実施されました。
【参考文献】
a) T. Ichikawa, J. Guo, P. Fons, D. Prananto, T. An, and M. Hase, 2024, Cooperative dynamic polaronic picture of diamond color centers. Nature Communications. 15, 7174 (10.1038/s41467-024-51366-x).
【掲載論文】
| 題名 | An ultrafast diamond nonlinear photonic sensor. (超高速ダイヤモンド非線形光センサー) |
| 著者名 | D. Sato, J. Guo, T. Ichikawa, D. Prananto, T. An, P. Fons, S. Yoshida, H. Shigekawa, and M. Hase |
| 掲載誌 | Nature Communications |
| 掲載日 | 2025年9月25日 |
| DOI | 10.1038/s41467-025-63936-8 |
令和7年9月26日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/09/26-1.htmlがん光免疫療法のための多機能性液体金属ナノ複合体の開発に成功! ~乳酸菌と液体金属の革新的融合により、がんの可視化・診断・治療の一体化を実現~
がん光免疫療法のための多機能性液体金属ナノ複合体の開発に成功!
~乳酸菌と液体金属の革新的融合により、がんの可視化・診断・治療の一体化を実現~
【ポイント】
- 乳酸菌成分と液体金属からなる革新的ナノ複合体の作製に世界で初めて成功
- マウス移植がんの可視化と治療効果を実証
- 免疫賦活化(活性化)と光熱変換の相乗効果により、近赤外光照射でがんを完全消失
- 優れた生体適合性を確認、新たながん診断・治療技術創出への期待
| 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの研究チームは、液体金属*1表面に乳酸菌*2成分と近赤外蛍光色素(インドシアニングリーン*3)を被覆した多機能性ナノ複合体の開発に成功しました。 開発したナノ複合体は、EPR効果*4により、がん細胞を標的とする能力に優れており、大腸がんを移植したマウスの腫瘍内に効果的に集積することを確認しました。さらに、生体透過性の高い近赤外レーザー光*5照射により、以下の治療効果を実現しました。
実際に、近赤外光を2日に1回5分間、計2回照射することで、マウスの移植がんを5日後に完全消失させることに成功しました。また、包括的な生体適合性試験により、本ナノ複合体の高い安全性も確認されています。
本研究成果は、診断と治療を統合した革新的ながん光免疫治療技術の創出につながる可能性が期待されます。 |
【研究背景と内容】
液体金属ナノ粒子への着目
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温液体金属は、優れた生体適合性と物理化学的特性を有し、バイオメディカル応用において世界的に注目されています。都教授らは、「免疫賦活化物質を液体金属と組み合わせ、がん患部に選択的送達できれば、強力な抗腫瘍効果と近赤外光を用いた診断・治療の統合が実現できる」との着想から研究を開始しました(図1)。

図1. 多機能性液体金属ナノ複合体を活用したがん光免疫療法の概念図
腫瘍内細菌叢の活用
近年の研究により、腫瘍組織内には固有の細菌叢(さいきんそう:細菌の集まり)が存在することが明らかになっています。都教授らは、これまでに腫瘍内から多種の細菌の単離に成功し、これらを活用したがん治療技術開発を進めてきました(既報プレスリリース:「阿吽の呼吸で癌を倒す!(※1)」「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発(※2)」)。
(※1)https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/05/08-1.html
(※2)https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/06-1.html
革新的ナノ複合体の創製
本研究チームは、Ga/In液体金属、乳酸菌成分、インドシアニングリーンを混合し、超音波照射するだけで球状ナノ粒子を形成する簡便な製法を確立しました。この手法により作製されたナノ複合体は以下の特性を示しました。
・高い安定性:7日以上の粒径安定性を維持
・優れた細胞親和性:高い膜浸透性と無毒性
・効率的光熱変換:近赤外光照射による発熱機能
卓越した治療効果の実証
大腸がん移植マウスを用いた評価実験では、ナノ複合体の尾静脈投与24時間後、740~790 nmの近赤外光照射により、がん患部のみが鮮明に蛍光発光し、EPR効果による選択的腫瘍集積が確認されました(図2A)。
続いて808 nmの近赤外光を患部に照射(2日間隔で各5分間、計2回)したところ、免疫賦活化と光熱変換の相乗効果により、5日後にがんの完全消失を達成しました(図2B)。

| 図2. (A) 液体金属ナノ粒子の標的腫瘍内における蛍光特性 (B) 液体金属ナノ粒子による抗腫瘍効果(腫瘍は完全消失) |
対照実験の結果
乳酸菌単独投与:免疫賦活化によりある程度の抗腫瘍効果を確認
免疫非活性化ナノ粒子(ポリエチレングリコール-リン脂質複合体*6被覆):レーザー照射後も顕著な抗腫瘍効果なし
これらの結果から、乳酸菌成分による免疫賦活化と液体金属の光熱変換の相乗効果が、強力な抗腫瘍作用をもたらすことを明確に示しています。
優れた安全性の確認
細胞毒性試験:マウス大腸がん細胞(Colon26)およびヒト正常線維芽細胞(TIG103)において、ナノ複合体投与24時間後もミトコンドリア活性を指標とした細胞生存率に低下はなく、細胞毒性がないことを確認しました。
生体適合性試験:マウス静脈内投与後の血液検査(1週間)および体重測定(約1ヵ月)において、生体への悪影響は極めて軽微であることが判明しました。
【研究の意義と今後の展望】
本研究成果は、開発したナノ複合体が次世代がん診断・免疫療法の基盤技術となり得ることを実証するものです。さらに、ナノテクノロジー、光学、免疫学の学際的融合による材料設計の新たな技術基盤として、幅広い研究領域への貢献が期待されます。
今後は、他のがん種への適用拡大や臨床応用に向けた更なる安全性・有効性検証を進め、患者さんにより優しく効果的ながん治療法の実現を目指します。
【掲載誌情報】
本成果は、材料科学系トップジャーナル「Advanced Composites and Hybrid Materials」誌(Springer Nature社発行)に9月19日(現地時間)に掲載されました。
【研究支援】
本研究は、文部科学省科研費 基盤研究(A)(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、本学超越バイオメディカルDX研究拠点ならびに本学生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものです。
【論文情報】
| 掲載誌 | Advanced Composites and Hybrid Materials |
| 論文題目 | Bacterial-adjuvant liquid metal nanocomposites for synergistic photothermal immunotherapy |
| 著者 | Nina Sang, Seigo Iwata, Yun Qi, Eijiro Miyako* |
| 掲載日 | 2025年9月19日にオンライン版に掲載 |
| DOI | /10.1007/s42114-025-01434-7 |
【用語説明】
室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス約39℃)、ガリウム(融点約30℃)、ガリウム-インジウム合金(融点約15℃)がある。
糖から乳酸を生成する性質を有する細菌の総称。本研究で用いた乳酸菌は都研究室にて腫瘍内から単離したものである。
肝機能検査に用いられる緑色色素のこと。近赤外レーザー光を照射すると近赤外蛍光と熱を発することができる。
100nm以下のサイズに粒径が制御された微粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみ、がん組織に到達して患部に集積させることが可能である。これをEPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)という。
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
ポリエチレングリコールとリンを含有する脂質(脂肪)が結合した化学物質。脂溶性の薬剤を可溶化させる効果があり、ドラッグデリバリーシステムに良く利用される化合物の一つ。
令和7年9月25日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/09/25-1.html物質化学フロンティア研究領域の都教授らの総説論文がCell Biomaterialsに掲載
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの総説論文「生きた医薬(リビングドラッグ):治療応用における素晴らしい進化(Living Drugs: A Wonderful Evolution for Therapeutic Applications)」が、国際学術誌 Cell Biomaterials(Nature姉妹誌と同等レベルに格付けされているCell Pressの新興フラッグシップジャーナル)に掲載されました。
なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、本学超越バイオメディカルDX研究拠点ならびに生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものです。
掲載誌 :Cell Biomaterials
論文題目:Living Drugs: A Wonderful Evolution for Therapeutic Applications
著者 :Soudamini Chintalapati, Nina Sang, Mikako Miyahara, Seigo Iwata, Kei Nishida, Eijiro Miyako*
掲載日 :2025年9月8日にオンライン版に掲載
DOI :https://doi.org/10.1016/j.celbio.2025.100193
■論文概要
本総説では、細菌・ウイルス・ファージなどの「生きた医薬(Living Drugs)」が持つ治療応用の最前線と将来展望について包括的に解説しています。特に、がんや多剤耐性菌感染症において、これらの生物を利用した革新的治療法が急速に進展しており、免疫応答の回避、標的精度の向上、複合療法モデルの構築など、多様な技術的ブレークスルーが紹介されています。さらに、臨床応用に向けた課題として、投与方法や安全性評価、規制面での対応などが議論され、治療カテゴリーごとの将来方向性や研究優先課題についても提案しています。
本総説では、都研究室が開発を進めている2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」(プレスリリース参照)を用いた新規がん療法についても取り上げています。AUNは低酸素性腫瘍微小環境に選択的に集積・増殖し、免疫依存性と免疫非依存性の両経路を介して腫瘍を攻撃する自然由来の細菌療法です。特に、免疫不全状態でも効果を発揮し、腫瘍内血管の選択的破壊や細菌変形などによる直接的な腫瘍壊死誘導が確認されています。遺伝子改変を必要とせず高い安全性を維持できることから、臨床応用への展望が広がっています。
本総説は、Living Drugs研究の現状と課題、そして都研究室発のAUN療法を含む次世代治療の可能性を示す重要な指針となるものです。
プレスリリース詳細:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年9月9日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/09/09-1.html学生のNGUYEN, Kim Loc Thiさんらの論文が、Advanced Science (WILEY) 誌の表紙に採択
学生のNGUYEN, Kim Locさん(博士後期課程3年、サスティナブルイノベーション研究領域、桶葭研究室)らの「パターン形成:分割現象における「対称性の破れ」を実証」に係る論文が、Advanced Science (WILEY) 誌の表紙に採択されました。
■掲載誌
Advanced Science, volume 12, issue 32 (2025)
掲載日:2025年9月1日
■著者
Thi Kim Loc Nguyen, Taisuke Hatta, Koji Ogura, Yoshiya Tonomura, Kosuke Okeyoshi*
■論文タイトル
Symmetry breaking in meniscus splitting: Effects of boundary conditions and polymeric membrane growth
■論文概要
自然界には様々な幾何学パターンがあり、例えば雪の結晶の形は、気温と水蒸気の量で多様に変化します。また、乾燥環境は水の蒸発を引き起こし、生物であればその成長過程で非対称なパターンをつくります。これまで、この幾何学性や非対称性について、数理的な解釈がなされてきたものの、物理化学的実験に基づいた再現はなされてきませんでした。本研究は、界面分割現象のパターン形成において、対称性が破れることを実証しました。この分割現象は「ワインの涙」として知られる粘性フィンガリング現象を展開したものです。有限空間からポリマー水分散液が乾燥する際、空間中心からずれた位置にポリマーを析出して乾燥界面を分割します。これは、界面科学や高分子科学だけでなく、生体組織など自然界に見られる非対称なパターン形成の理解に重要です。
表紙詳細:https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.71215
論文詳細:https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202503807
プレスリリース:https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/06/04-1.html

令和7年9月8日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/09/08-1.html学生の井上さんがANTEC® 2025においてBest of ANTEC® 2025に選出
学生の井上貴博さん(博士後期課程3年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)がAnnual Technical Conference(ANTEC® 2025)においてBest of ANTEC® 2025に選出されました。
ANTEC® 2025は、米国プラスチック技術者協会(SPE:Society of Plastics Engineers) が主催し、令和7年3月3日~6日にかけて、米国フィラデルフィアにて開催された国際会議です。
ANTEC® 2025では、プラスチックおよび高分子科学に関する産業界、研究機関、学術機関、そして国際的な研究における最先端の成果が紹介され、新たなプラスチック技術、プロセス、高分子研究、新素材など幅広いテーマが取り上げられる中、今年は特に科学的・技術的・産業的な課題とその解決策に焦点が当てられました。
SPEは、ANTEC® 2025において、特に影響力の大きかった発表を厳選し、「Best of ANTEC® 2025」としてオンデマンドで限定配信しています。このコレクションは、令和7年12月31日までいつでも視聴が可能です。
また、「Best of ANTEC®」に選出された発表者には、"Outstanding Presentation"(優秀発表)の認定証が授与されます。
※参考:ANTEC® 2025
■受賞年月日
令和7年7月15日
■研究題目、論文タイトル等
Enhancement of Polypropylene Crystallization by Addition of Novel Nucleating Agent
■研究者、著者
井上貴博、山口政之
■受賞対象となった研究の内容
新しく開発されたポリプロピレン用結晶核剤の性能を調べ、結晶化温度など核剤性能を評価する指標が既存の材料よりも優れていることを明らかにした。
■受賞にあたって一言
この度は、ANTEC® 2025におきまして、Best of ANTEC®という賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究を遂行するにあたり、日頃よりご指導ご鞭撻いただいている山口政之教授に心より御礼申し上げます。引き続き、研究活動に努めてまいりたいと思います。
令和7年9月1日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2025/09/09-1.htmlサイエンスヒルズこまつで子ども向け科学教室 「JAISTサイエンス&テクノロジー教室」を開催
8月23日(土)、サイエンスヒルズこまつにおいて、「JAISTサイエンス&テクノロジー教室」を開催しました。同教室は、小松市との包括連携協定に基づく青少年の理科離れ解消に向けた取組のひとつであり、サイエンスヒルズこまつが小松駅前に開館して以来、毎年実施しているものです。
今年度の第1回目「スーパーボールの弾み方を変えてみよう<不思議な変形・流れを示す材料の観察>」には、6組の小学生と保護者が参加しました。先端科学技術研究科(物質化学フロンティア研究領域)の山口政之教授の説明を聞きながら、温度や材質によるスーパーボールの弾み方の違いを体験しました。その後、形状記憶プラスチック等が配られ、子どもたちは温度によって異なる応答を示す物質の不思議な様子に夢中になっていました。




令和7年8月26日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/26-2.html能美市の中学生の皆さんが来学
8月21日(木)、能美市の中学2年生20名の皆さんが施設見学のため来学しました。
中学生の皆さんは、本学と学術協力の基本協定を締結している沖縄科学技術大学院大学(OIST)を9月に訪問する予定で、その前に地元にある本学(JAIST)を知るため、見学に来られました。
はじめに学長から挨拶があり、附属図書館の『解体新書』(杉田玄白著)や情報社会基盤研究センターの超並列計算機システム「KAGAYAKI」、ナノマテリアルテクノロジーセンターを見学しました。その後、サスティナブルイノベーション研究領域の小矢野 幹夫教授による研究紹介があり、熱電ミニカーの走行体験をしました。中学生の皆さんにとっては、本学の研究環境に触れるよい機会となったようです。

学長挨拶

附属図書室の見学

大規模並列計算機
KAGAYAKIの見学

ナノマテリアルテクノロジー
センターの見学

小矢野研究室による
熱電ミニカーの走行体験
令和7年8月26日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/26-1.html人と安全に協働できる"ソフトロボットリンク"を開発 触れてわかる、近づいて感じる-近接覚と触覚のハイブリッドセンシング技術「ProTac」
人と安全に協働できる"ソフトロボットリンク"を開発
触れてわかる、近づいて感じる-近接覚と触覚のハイブリッドセンシング技術「ProTac」
【ポイント】
- 透明・不透明を切り替えられるソフトスキンと視覚センサーを用い、近接センシングとスキン変形の解析による触覚センシングを備えたマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」を開発
- 市販ロボットアームにも取り付け可能
- 従来の剛体リンクでは困難とされる、接触の多い環境下での動作制御が可能
- 農業や介護など、人とロボットが協働する作業への応用に期待
- AI駆動型センシングフュージョン技術
| 北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域のクアン・ハン・ルウ研究員、ホ・アン・ヴァン教授らの研究チームは、透明・不透明を電圧により切り替えられるソフト素材と視覚センシング技術を融合し、近接・触覚の両モードを切り替えて検知できるマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」を世界で初めて開発しました。ProTacを用いたソフトロボットリンクは、周囲の物体を検知する近接センシングとマーカー画像の変化から触覚情報を読み取る触覚センシングを一台で切り替えて行うことができ、人との接触が多い環境で安全に動作制御が可能です。なお、本研究成果は、2025年7月28日にIEEE Transactions on Robotics(T-RO)に掲載されました。 |
【研究概要】
近年、人と同じ空間で安全かつ柔軟に作業できるロボットのニーズが高まっています。これに応えるため、私たちの研究チームは、ソフト機能材料と画像や映像から情報を取得・解析する技術である視覚センシング技術を融合した新しいマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」(図1)を開発しました。
ProTacは、電圧をかけることで透明・不透明を切り替えられるポリマーディスパースド液晶(PDLC)フィルム注1)と内蔵カメラを組み合わせています。透明時には視界を活用して周囲の物体の近接を検知し、不透明時にはマーカー画像の変化から触覚情報の取得を実現します。また、最新の深層学習ベースの視覚アルゴリズムを用いることで、安定したリアルタイムセンシングが可能です。

図1:ProTacのイメージ図
この技術を用いたソフトロボットリンクは、市販のロボットアームやカスタム製作されたソフトロボットにも取り付け可能で、障害物検知に基づく速度調整や接触時の反射動作など、多様な制御戦略を実現します。ProTacを備えたソフト多機能センシングアームは、人とロボットが密に連携する場面や、従来の剛体リンクでは困難な動作制御において高い性能を示しました。
今後は、この技術を手足や胴体などロボットの各部位に応用し、高機能なマルチモーダルスキンを備えたヒューマノイドロボットの実現が期待されます。また、農業、家庭サービス、介護分野など、幅広い分野での応用も見込まれます。
【研究資金】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 特別研究員奨励費(24KJ1203)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)さきがけ(JPMJPR2038)による財政的支援を受けて実施されました。
【論文情報】
| 掲載誌 | IEEE Transactions on Robotics |
| 論文タイトル | Vision-based Proximity and Tactile Sensing for Robot Arms: Design, Perception, and Control |
| 著者 | Quan Khanh Luu, Dinh Quang Nguyen, Nhan Huu Nguyen, Nam Phuong Dam, Van Anh Ho |
| 掲載日 | 2025年7月28日 |
| DOI | 10.1109/TRO.2025.3593087 |
【用語説明】
電圧により透明・不透明を切り替えられる液晶材料。柔軟であり、ディスプレイやスマートウィンドウなどの光の透過を制御する用途に使用される。
令和7年8月22日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/22-1.html本学教員がEurekAlert! Feature Storyに掲載されました
AAAS(アメリカ科学振興協会)が運営する世界最大規模のオンラインニュースサービス「EurekAlert!」ウェブサイト内の「Feature Story」に、上原教授、岡田教授、栗澤教授および谷池教授が紹介されました。この「Feature Story」は、世界中の大学や研究機関の研究成果について、研究の背景や意義、研究者の視点や社会への影響などを深堀して、わかりやすくまとめた内容となっています。
それぞれの記事は、以下からご覧ください。
- 上原隆平教授(コンピューティング科学研究領域)
"Unfolding patterns: The computer science behind origami, puzzles, and games"
折り紙・パズル・ゲームに潜む計算複雑性を理論コンピューターサイエンスの視点から解析。最適な折り手順を導くアルゴリズムの開発が、太陽電池の設計やドラッグベクター(薬物輸送体)などへの応用にも期待されています。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093788
- 岡田将吾教授(人間情報学研究領域)
"Bridging the emotional gap in human-AI communication"
視線・身振り・声の抑揚などのマルチモーダル情報から感情を認識し、より人間に寄り添うAIの実現を目指すアフェクティブ・コンピューティング(※)研究。教育や精神医療への応用にも期待が広がります。
※Affective Computing:人間の感情や情動を計算論的に理解・指定・活用する学際的研究領域
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093782
- 栗澤元一教授(物質化学フロンティア研究領域)
"Toward multitasking drug carriers that do more than just deliver"
緑茶成分「EGCG」を活用し、ドラッグキャリアそのものに治療効果を持たせたナノ粒子を開発。高い薬物搭載率と長寿命を両立し、がんや白血病の治療効果向上に貢献する革新的DDS(Drug Delivery System:薬物送達システム)が注目されています。
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093781
- 谷池俊明教授(物質化学フロンティア研究領域)
"Accelerating materials design with high-throughput experiments and data science"
機械学習とハイスループット実験(※)を組み合わせ、材料探索を飛躍的に加速。未知の反応や触媒の発見が可能となり、資源循環・化学プロセスの革新、持続可能な社会づくりに貢献する研究基盤を構築しています。
※ハイスループット実験:多数のサンプルや条件を同時に、または短時間で処理する実験手法
https://www.eurekalert.org/news-releases/1093790
令和7年8月19日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/19-1.html都教授らの研究成果に関する記者発表を文部科学省で実施
8月4日(月)、物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授は、「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて」の研究成果について、文部科学省記者会見室にて記者発表を行いました。
本研究では、T細胞やB細胞などの免疫細胞の力に頼らずがんを制御する新しい治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発しました。このアプローチは、免疫不全状態にあるがん患者への新たな選択肢となる可能性があり、今後のさらなる研究と検証が期待されます。
記者発表では、都教授から研究・技術の背景や内容、今後の計画について説明がなされ、その後、記者との活発な質疑応答が行われました。
参加した記者からは、2種の細菌「AUN(阿吽)」によるがん治療のメカニズムや具体的な適用癌種、投与方法、副作用の管理、さらにはスタートアップ事業化に向けた今後の展望など、多岐にわたる質問が寄せられ、本研究への期待と関心の高さがうかがえました。
なお、本研究に関する論評がAdvanced Science誌に掲載されているほか、研究の背景やエピソードなどを紹介した記事がSpringer Nature Research Communities の「Behind the Paper」にて公開されています。ぜひご一読ください。
プレスリリース:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―

記者発表の様子
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-3.html物質化学フロンティア研究領域の都教授らの論文がSpringer Nature Research CommunitiesのBehind the Paperで紹介
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの最新の論文「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―」が、Springer Nature Research CommunitiesのBehind the Paperにて紹介されました。研究開発の発端、裏話などが紹介されています。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING) 未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、公益財団法人 発酵研究所、公益財団法人 上原記念生命科学財団、本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターならびに第一三共株式会社の支援のもと行われたものです。
■論文概要
本研究では、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。
研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストームの発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。
本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。
プレスリリース詳細:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-2.html物質化学フロンティア研究領域の都教授の論評がAdvanced Scienceに掲載
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの「阿吽の呼吸で癌を倒す! -灯台下暗し:最強の薬は腫瘍の中に隠されていた-」と「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―」に係る論評(Commentary)が、バイオ・化学系のトップジャーナルAdvanced Science誌に掲載されました。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、科学技術振興機構 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)の支援のもと行われたものです。
掲載誌 :Advanced Science
論文題目:Reply to "Exploring Bacteria-Based Cancer Immunotherapy"-- Comment on "Discovery of Intratumoral Oncolytic Bacteria Toward Targeted Anticancer Theranostics"
著者 :Eijiro Miyako*
掲載日 :2025年7月14日(オンライン版)
DOI :https://doi.org/10.1002/advs.202511325
■概要
本研究では、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。
研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストームの発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。
本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。
プレスリリース:阿吽の呼吸で癌を倒す! -灯台下暗し:最強の薬は腫瘍の中に隠されていた-
プレスリリース:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-1.html2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
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北陸先端科学技術大学院大学 筑波大学 科学技術振興機構(JST) |
2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発
―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
【ポイント】
- T細胞やB細胞などの主要な免疫細胞に依存せずにがん細胞を攻撃する、新しいがん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発
- 免疫機能が低下した状態でも抗腫瘍効果が期待される
- 社会実装に向け、スタートアップ創業を視野に研究を推進中
| 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授の研究グループは、第一三共株式会社(代表取締役社長兼CEO・奥澤宏幸、東京都中央区)ならびに筑波大学(学長・永田恭介、茨城県つくば市)生命環境系の高谷 直樹教授らとの共同研究によって、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。 研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis*1[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris*2[吽形(UN-gyo)]です(図1)。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました(図2にメカニズムの一部を提示)。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストーム*3の発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。 本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。 本成果は、2025年8月5日にSpringer Nature社の発行するNature Biomedical Engineering誌のオンライン版に掲載されました。 |


【研究の背景と内容】
がん免疫療法は、1868年にドイツの医師Buschが細菌感染を意図的に引き起こしたがん患者の治癒例を報告したことに端を発し、1893年にはWilliam Coley博士が「細菌を用いたがん治療法」を提唱して以来、150年以上にわたり発展を続けています。Coley博士は「がん免疫療法の父」と称され、彼の遺志は現代の免疫チェックポイント阻害剤やCAR-T細胞治療へと受け継がれています。
しかしこれまで、細菌療法を含むがん免疫療法は「免疫細胞の力」が不可欠とされてきました。また、化学療法や放射線治療などの標準治療を受けたがん患者の多くが免疫不全状態にあり、このような状況では、免疫細胞の力が抑えられるため、効果が著しく制限されてきました。
本研究では、T細胞やB細胞などの主要な免疫細胞に頼ることなくがんを攻撃する、世界でも類を見ない新しい治療へのアプローチを明らかにしました。登場するのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この2種が"阿吽の呼吸"で共存することで、各種ヒトがん細胞を皮下移植した担がんモデルマウスに対して明確な腫瘍抑制効果を発揮しました(図3)。

そのメカニズムは極めてユニークで、まさに"阿吽の呼吸"のように2つの細菌が協調し、以下のような一連の現象を連携して引き起こします(図2にメカニズムの一部を提示)。
- 腫瘍血管とがん細胞の選択的破壊
- がん代謝物による阿形(A-gyo)の構造変化(線維状化)による抗腫瘍強化
- 細菌間の構成比率の変化による機能最適化(ポピュレーションシフト)
- 病原性の抑制と副作用の回避(サイトカインストームの軽減)
さらに、吽形(UN-gyo)は、阿形(A-gyo)と共存・混在することによって、両者の病原性を抑制しながら、がん細胞に対する特異的な毒性を高める"制御役"として機能する可能性があります。この2種の細菌が示す絶妙なバランスと相互作用こそが、腫瘍抑制効果の鍵となっている可能性があります。
【社会的インパクト】
この治療へのアプローチは、免疫不全状態にあるがん患者への新たな選択肢となる可能性があり、今後のさらなる研究と検証が期待されます。実際に、本研究では免疫細胞が機能しにくいマウスモデルやヒトがんモデルにおいても、細菌が自律的にがん細胞および腫瘍血管を標的として作用する様子が確認されました。このようなT細胞やB細胞といった"免疫細胞に依存しない"方法は、従来のがん免疫療法とは異なるアプローチとして注目されています。
また、本成果の社会実装を見据え、がん細菌療法の実用化に向けたスタートアップの創業準備も進行中です。150年以上前から構想されてきたがん細菌療法の概念に、新たな技術的進展を加えることで、その応用可能性を慎重かつ段階的に検討していく段階に入っています。
【論文掲載情報など】
本成果は、2025年8月5日に医学・薬学系ジャーナルのNature Biomedical Engineering誌のオンライン版に掲載されました。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING) 未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、公益財団法人 発酵研究所、公益財団法人 上原記念生命科学財団、本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターならびに第一三共株式会社の支援のもと行われました。
【論文情報】
| 掲載誌 | Nature Biomedical Engineering |
| 論文題目 | Tumour-resident oncolytic bacteria trigger potent anticancer effects through selective intratumoural thrombosis and necrosis |
| 著者 | Seigo Iwata1, Taisei Nishiyama1, Matomo Sakari1, Yuki Doi2, Naoki Takaya2, Yusuke Ogitani3, Hiroshi Nagano3, Keisuke Fukuchi3, Eijiro Miyako1* 1 北陸先端科学技術大学院大学 2 筑波大学 3 第一三共株式会社 |
| 掲載日 | 2025年8月5日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1038/s41551-025-01459-9 |
【用語説明】
酸素の存在下および不在下の両方の環境で生存可能な腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌(通性嫌気性菌)。運動性、鞭毛を有する数マイクロメートルの棒状の形態を有する。寒天培地上では、Swarming(群化)により独特の波状のコロニー(白色)を形成する特性がある。
酸素の有無に関わらず生存可能な通性嫌気性の紅色非硫黄細菌に属し、運動性のある数マイクロメートルの棒状のグラム陰性桿菌。また、バクテリオクロロフィルから成る光捕集タンパク質を介した光合成を行う。
サイトカインストームとは、体がウイルスや細菌などに反応して免疫物質(サイトカイン)を大量に放出しすぎることで起こる、過剰な免疫反応のこと。この反応が強すぎると、自分自身の体の組織を傷つけてしまい、重い症状や臓器不全を引き起こすことがある。
令和7年8月6日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/06-1.html糖鎖による抗体ダイナミクスの制御機構を解明 ~分子経絡が抗体医薬設計の新たな鍵に~
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| 大学共同利用機関法人 国立大学法人 東京科学大学 公立大学法人 名古屋市立大学 ⼀般財団法人 国立大学法人 大阪大学 国立大学法人 |
糖鎖による抗体ダイナミクスの制御機構を解明
~分子経絡が抗体医薬設計の新たな鍵に~
自然科学研究機構(生命創成探究センター)の谷中冴子 准教授(現 東京科学大学 准教授)、加藤晃⼀ 教授(生命創成探究センター、名古屋市立大学)らは、抗体の糖鎖修飾、特にガラクトース付加が、抗体分子の構造と動態に及ぼす影響を原子レベルで解明しました。
本研究の成果は、国際科学雑誌 「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」に掲載予定です。論文は日本時間2025年8月5日の週にオンライン公開される予定であり、DOIおよび掲載URLは公開後に付与されます。
【発表のポイント】
私たちの体には、病原体から身を守るための免疫システムが備わっています。その中心的な役割を担うのが「免疫グロブリンG(IgG)」注1) と呼ばれる抗体です。IgGは、特定の抗原を認識して結合するだけでなく、Fc受容体や補体といったエフェクター分子との相互作用を通じて、様々な免疫応答を誘導します。本研究では、IgGのFc領域 注2) に結合した「糖鎖」の修飾が、IgGの動的な構造変化を制御し、その結果として免疫機能が調節されるメカニズムを、計算科学と実験科学を融合したアプローチで明らかにしました。特に、本研究では、糖鎖修飾による影響が、あたかも私達の体の中に張り巡らされた経絡のように、分子レベルで伝播していく「分子経絡」注3) の重要性に着目しました。
【研究の背景】
治療用抗体は、がんや自⼰免疫疾患など、さまざまな疾患の治療に用いられています。抗体の効果は、標的抗原への結合だけでなく、Fc領域を介したエフェクター機能 注4) の発揮によっても大きく左右されます。Fc領域の糖鎖修飾 注5) は、抗体のエフェクター機能を調節する重要な因子であり、そのメカニズム解明は、より効果的な抗体医薬品の開発につながると考えられています。
【本研究の手法と成果】
研究グループは、遺伝子工学的手法と酵素反応を組み合わせることで、糖鎖構造が異なるIgG1-Fcを調製しました。これらについて、安定同位体標識NMR分光法 注6) を用いてFc領域の動的構造を解析するとともに、分子動力学シミュレーション 注7) によって糖鎖修飾がFc領域のコンフォメーション変化に与える影響を評価しました。また、動的ネットワーク解析を用いて、「分子経絡」を同定しました。NMR分光法と分子動力学シミュレーションの結果から、ガラクトース 注8) 残基は糖鎖の動きを止める「錨」およびFc領域全体の動きを抑える「楔」としてはたらき、フコース 注9) 除去は特定のFc受容体との結合に関与するアミノ酸残基の動態を変化させることが明らかになりました。これらの結果は、糖鎖修飾がIgGのFc領域の動的構造を制御し、エフェクター機能を調節するメカニズムを原子レベルで理解する上で重要な知見となります。特に、「分子経絡」の存在は、糖鎖修飾の効果がFc領域全体に伝播する様子を示唆しています。

| (図)(A)糖鎖のガラクトース残基での構造変化がFc分子内を伝わる様子を示している。(B)ガラクトース残基は糖鎖(黄色の丸)の動きを止める「錨」およびFc領域全体の動きを抑える「楔」としてはたらき、エフェクター分子との相互作用を助けている。 |
【成果の意義および今後の展開】
本研究成果は、治療用抗体の開発において、Fc領域の糖鎖修飾を最適化するための合理的な設計基盤を提供します。今後は、糖鎖修飾と抗体の構造・機能相関に関するさらなる研究を進めることで、また「分子経絡」の操作という新たな視点を取り入れることで、より効果的かつ安全な抗体医薬品の開発に貢献できると期待されます。
【用語解説】
【論文情報】
| 掲載誌 | Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America |
| タイトル | Exploring Glycoform-Dependent Dynamic Modulations in Human Immunoglobulin G via Computational and Experimental Approaches |
| 著者 | Saeko Yanaka, Yoshitake Sakae, Yohei Miyanoiri, Takumi Yamaguchi, Yukiko Isono, Sachiko Kondo, Miyuki Iwasaki, Masayoshi Onitsuka, Hirokazu Yagi, Koichi Kato*(*責任著者) |
| DOI | |
| 掲載日 |
【著者情報】
東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所)
名古屋市立大学大学院薬学研究科)
【研究サポート】
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP20K15981 および JP23K24018 谷中冴子、JP19H01017 および JP24H00599 加藤晃⼀)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP21ae0121020 および JP23ak0101209 谷中冴子、JP21ae0121013 加藤晃⼀)、文部科学省研究大学総合研究育成事業:研 究大学強化促進事業(CURE)課題番号JPMXP1323015488(Spin-LプログラムNo. spin24XN014)、生命創成探究センター共同利用研究(24EXC901、25EXC603)、および科学技術振興機構(JST)戦略的 創造研究推進事業(CREST)(JPMJCR21E3 加藤晃⼀)の助成を受けたものです。また、本研究は文部 科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(分子・物質合成)、大阪大学蛋白質研究所共同利用・共 同研究拠点 NMRCR-16-05, 17-05, 18-05, 19-05, 20-05, 21-05、計算科学研究センター(24-IMS-C197)、文部科学省先端研究設備共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)JPMXS0441500024、国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出(DEJI2MA)プロジェクト、およびヒューマングライコームプロジェクトの支援を受けて行われました。
令和7年8月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/05-1.htmlIIP(アイ・アイ・ピー)金沢示野校の生徒の皆さんが来学
7月30日(水)、IIP(金沢示野校)のロボット教室およびこどもプログラミング教室に通う生徒の皆さんと保護者の方々が、施設見学のため本学を訪れました。
当日はキャンパス内のさまざまな施設を巡り、研究や学びの現場を間近にご覧いただきました。なかでも、ロボット工学に関心のある生徒に実際の研究現場を見学させたいとのご要望を受け実施した、人間情報学研究領域の池勇勳准教授の研究室訪問では、池准教授や学生による無人移動ロボットの実演などが行われ、実際にロボットが目の前で動く様子を見ながら、研究の説明に熱心に耳を傾ける姿が印象的でした。
また、情報社会基盤研究センターに設置されている大規模並列計算機「KAGAYAKI」や貴重図書室に所蔵されている『解体新書』(杉田玄白著)、パズル展示施設「JAISTギャラリー」も見学しました。ギャラリーに併設されたプレイルームでは、生徒たちが展示されているパズルに実際に触れ、夢中になって楽しむ様子も見られました。
今回の訪問が、生徒の皆さんにとって今後の進路選択や学びへの関心を深めるきっかけとなるとともに、保護者の方々にとっても、本学の教育・研究活動への理解を深めていただく機会となれば幸いです。






令和7年8月4日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/04-3.html次世代プロトン電池へ期待 ―多孔質MXene(マキシン)フィルムが高容量・高速充電を実現―
次世代プロトン電池へ期待
―多孔質MXene(マキシン)フィルムが高容量・高速充電を実現―
ポイント
- 次世代電池「プロトン電池」の鍵となる多孔質MXene (マキシン)フィルムを開発
- 素材の穴の量(細孔密度)を調整することで、従来を大きく上回る電池容量と充電性能を実現
- 長寿命でエコな電池づくりに前進、持続可能なエネルギー社会に貢献
| 北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域のLinh Chi T. Cao大学院生(博士後期課程)、青木健太郎助教、長尾祐樹教授らは、タイ・タマサート大学シリントン国際工学部(SIIT)およびタイ・国立電子コンピューター技術研究センター (NECTEC)と共同で、再生可能エネルギーの普及や電気自動車の進化に伴い需要が高まる高性能エネルギー貯蔵デバイスの実現に向け、次世代型プロトン電池*1の鍵となる多孔質MXene*2,3アノード(陽極)の開発に成功しました。 本研究で開発された多孔質MXeneフィルムは、MXeneを用いた先行研究の中で最高の性能を発揮し、高容量と超高速充電を両立できることが示されました。この成果は、環境負荷の低い、持続可能な電池技術の発展に大きく貢献すると期待されます。 |
【背景】
現代社会では、電気自動車の普及や携帯端末の進化に伴い、効率の良いエネルギー貯蔵システムの重要性が高まっています。長く市場を牽引してきたリチウムイオン電池は、リチウム資源の限界、環境への影響、安全性といった課題を抱えており、資源の乏しい日本が持続可能な発展を遂げるためには、多様なエネルギー資源の活用と高効率な変換技術の確立が不可欠です。
そこで注目されているのが、プロトンと呼ばれる水素原子(H+)を電荷キャリアとして利用するプロトン電池(図1)です。プロトン電池は、水素イオンを使って電気をやりとりする電池で、材料が豊富でエコ、かつ素早く充電できる可能性を秘めており、次世代エネルギー貯蔵の有力候補として注目されています。二次元のナノ材料であるMXeneは、その優れた電気伝導性や高い表面積から、プロトン電池の有望なアノード候補です。しかし、従来のMXeneを薄膜状にしたMXeneフィルムは、MXeneのシート間の相互作用が強く、反応が起こる場所が減少したり、プロトンの輸送が阻害されたりといった課題を抱え、その性能を十分に引き出せていませんでした。

図1 本研究のプロトン電池の模式図
【成果】
本研究では、MXeneアノードの性能向上を目指し、ある物質を鋳型(テンプレート)として利用してその鋳型を犠牲にすることで目的とする物質構造を形成する合成手法である「犠牲テンプレート法」を用いて、細孔密度を系統的に調整した多孔質MXene(P-MX)フィルムを開発しました(図2)。特に、ポリ乳酸(PLA)とMXeneの比率が1:8の条件で合成された「1:8P-MX」アノードは、1 A g−1で104.8 mAh g−1という高容量を達成し、2000サイクル後も96.7%の容量維持率を維持しました(図3)。これは、これまでに報告されたMXeneアノードの中で最高の性能です(図4)。これは、電池を繰り返し使う中で、電解液が素材のすき間にしみ込みやすくなり、さらにプロトンが出入りすることで、素材同士がくっついてしまうのを防ぎ、性能の低下を抑えることができ、反応が起こる場所の増加に繋がったためと考えられます。
さらに、1:8P-MXアノードと銅鉄プルシアンブルー類似体*4(CuPBA)カソード(陰極)を組み合わせた「フルセル」プロトン電池を構築しました。この「フルセル」は、1 mol L−1 H2SO4電解液中で、1 A g−1(17 C)で57.9 mAh g−1、そして10 A g−1(188 C)という高速充電レート*5においても53.3 mAh g−1という高い容量を保持しました。二次電池(充電可能な電池)の充放電におけるエネルギー効率を表す指標である「クーロン効率」は200サイクル後も97%と安定して高い値を示しましたが、容量維持率は65.4%に低下しました。これは、主にCuPBAカソードの電解液中での溶解・分解に起因すると特定され、今後の課題となります。これらの結果は、MXeneアノードにおける細孔設計が、容量とレート性能の両方を向上させる上で極めて重要であることを示しています。

図2 多孔質MXene(P-MX)フィルムの走査電子顕微鏡観察

図3 1:8P-MXフィルムのサイクル特性:電流密度1 A g-1、
電位範囲 −0.7~0.2 Vにおける容量(左軸)および容量保持率(右軸)

図4 本研究におけるMXeneベースのアノード性能と文献との比較
【社会への還元として期待できる内容、今後の展望】
本研究の成果は、最適化された細孔設計を持つMXeneアノードが、高容量で高速充電が可能な次世代プロトン電池の実現に大きく貢献することを示しています。特に、高濃度酸性電解液や追加の活性材料を用いずに、MXeneのみで高性能を実現した点は、環境への影響を低減し、より持続可能なエネルギー貯蔵システムを開発する上で重要な進歩です。今後は、フルセル電池の長期安定性をさらに向上させるため、CuPBAカソードの電解液中での安定性改善に焦点を当てた研究を進めていきます。これにより、1:8P-MXアノードの優れた性能を最大限に引き出し、プロトン電池の実用化を目指します。
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(グラント番号 JPMJCR21B3)による財政的支援を受けて実施されました。
【論文情報】
| 掲載誌 | Chemical Engineering Journal |
| 論文タイトル | Porosity-controlled MXene anodes for enhanced rate and long cycle life performance in aqueous proton batteries |
| 著者 | Linh Chi T. Cao*, Kentaro Aoki, Shu-Han Hsu, Sakoolkan Boonruang, Yuki Nagao*(筆頭著者も責任著者) |
| 掲載日 | 2025年7月15日 |
| DOI | 10.1016/j.cej.2025.165882 |
【用語説明】
プロトン(水素イオン、H+)を電荷キャリアとして利用する二次電池の一種です。資源の豊富さや高速な電荷移動が特徴です。
二次元遷移金属炭化物の一種で、高い電気伝導性と表面積を持つ有望な新素材です。
微細な穴(細孔)を多数導入したMXene材料で、電解液の浸透性やイオン輸送経路を改善し、電池性能を向上させます。
プロトン電池のカソード材料として研究される化合物群です。
電池の充電および放電速度を示す指標です。1Cは定格容量を1時間で充放電する速度を意味します。
令和7年7月17日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/07/17-1.html






