キットには二種類のタンジェント(tangent) が提供されている。平らなタンジェント(tangent) は普通のブ ラス弦用で、上が曲がっているタンジェント(tangent) は銅線が巻いてある弦用である。(写 真26と31を参照) Hubert は銅線が疎に巻かれている弦でもしっかりと打てる よう、このような上が曲げてあるタンジェント(tangent) を使った。
tangent を取り付けるには、まず、木片でタンジェント(tangent) 取付用ジグを製作する。 (付録の図15を参照のこと。) 素材はできればブナがよい。タンジェント(tangent) を金槌 で軽く叩くか強く押すかして支えていなくても倒れないようにしたら、 タンジェント(tangent) がスロットに収まるようジグを置き、ジグの上面の高さまで金槌で タンジェント(tangent) を打ち込む。鍵盤レバー(key) の後方にある黒い点がタンジェント(tangent) を打ち込む位置 の目印になるはずだが、多少前後にずらさなければならないかもしれない。修 正しなければならないとしても、目印が役立つはずである。タンジェント(tangent) を打ち 込む角度は設計図の部分図CCに示してある。
高音部10音の鍵盤レバー(key) にタンジェント(tangent) を打ち込む際には細心の注意を払うこと。なぜ なら鍵盤レバー(key) の後端近くなので、そこから割れてしまう恐れがあるからである。 タンジェント(tangent) 先(平面でない方)を金ヤスリで削って尖らせる。1.5mmの穴をあけ て、そこへタンジェント(tangent) を差し込んでやれば鍵盤レバー(key) を割ることなく取り付けられる はずである。タンジェント(tangent) が木目に沿って差し込まれるからである。念のために 鍵盤レバー(key) の側面を特製クランプ1つで押さえて置くとよいだろう。その他の鍵盤レバー(key) に ついてはタンジェント(tangent) を取り付けるために穴をあける必要はない。木が割れる心 配はないからである。
音を出すために、タンジェント(tangent) の左側に一時的にフェルトのリボンを巻かなけれ ばならない(リスティング(listing) という)。単に赤いリスティング(listing) 用リボンを対になった弦の 間に押し込めば十分である。リボンで小さく輪をつくり、ナイフの背かドライ バーの先で軽く押し込む。2、3cm幅の布の切れ端が手元にあれば、一時的に リスティング(listing) するのに重宝するだろう。
タンジェント(tangent) は垂直に取り付けられたときにもっともよく働き、また見た目にも 整っているのだが、調律のために多少左右に傾けることがある。弦を共有して いる音の鍵盤レバー(key) を同時に押してタンジェント(tangent) を弦に当て、その間の距離を測る。ど ちらか一方、または両方の鍵盤レバー(key) を取り外してタンジェント(tangent) を曲げ、だいたい垂直 に、なおかつ弦があたっている位置の距離が設計図通りになるよう調整する。 別のやり方としては、取り付けたままの状態で先の長いプライヤーで注意深く 曲げてもよい。タンジェント(tangent) 先が弦に対して直角に当たるように調整すること。 タンジェント(tangent) を当てる弦の組は大まかに調律するが、最終的なピッチよりも高い 音にしないよう注意する。
次の組の弦(つまり.27mmゲージ)に進み、e2 まで、一時的にリスティング(listing) し、 タンジェント(tangent) を取付け、弦が当たる位置の距離を調整し、大まかに調律する、と いう作業を繰り返す。他のゲージの弦についても同様である。
設計図通りにフレットを設定すれば、弦の長さが正確ならタンジェント(tangent) 間の距離 も正確なはずである。多少の弦長の違いはそれほど問題ではないが、フレット の距離は設計図と同じ比率に調整しなければならない。正確な調律のためには、 フレットは正確に設定されなければならず、ミリ単位の調整では十分ではなく、 特に高音部では0.1mmの違いも重要である。もし手元にあればカリパス (caliper)を使って、間隔をコンマ単位で調整すること。(訳注: Table に各音の弦の標準的な長さ、対応するフレット長、および弦 の長さに対するフレット長の比率を示す。[比率 = 標準弦長 / フレット長]と いう関係にある。もし実際の弦の長さが標準弦長と異なっていたら、比率を基 に正しいフレット長を計算しなければならない。)
もし弦長が設計図通りではなかったら、正確なフレットの間隔を計算すること。 このフレットは(John Burnesによる)6分の1コンマ調律用である。John Burnes はバッハの平均率クラヴィーア曲集における長3度の使用を統計的に分析し、 この調律法を提案した。(詳細はEarly Music 誌、1979年4月号、236ページか ら始まる論文に掲載されている。) 5度インターヴァルのうち、f-cと、c-g、 g-d、d-a、a-e、b-f#は6分の1コンマで修正されており、あとの6つのイ ンターヴァルは純正である。(e-b、f#-c#、c#-g#、g#-e 、 e -b 、b -f) 調律方法は第35章で説明する。 この調律方法は平均率よりも調律が容易で古楽を演奏するにはより適切である。
注記: 万一鍵盤レバー(key) の後ろ端が割れてしまったら、ガイドタング(guide tongue) とタンジェント(tangent) を取り外し、ガイドタング(guide tongue) を差し込んでいたスロットにドライバーを差し込 んで割れ目をこじあけ、そこへ接着剤を流しこむ。接着剤を万遍なく塗るには、 太めの針金の先を金槌で叩いて平にしたものを使うとよいだろう。そうしたら クランプでその割れ目を挟み、完全に接着剤が乾くのを待って、もう一度 タング(tongue) とタンジェント(tangent) を取り付ける。
先が曲げてあるタンジェント(tangent) を取り付けるとき、金槌で打ち込んでいる最中に曲 がらないよう、ジグで支えなければならないかもしれない。その場合は、打ち 込んでいる間、ジグを持ち上げて上面をタンジェント(tangent) の頭と合わせる。ジグの片 面は上面にタンジェント(tangent) が曲げてある部分がちょうど収まるように彫り込みがは いっている。ジグの下面が鍵盤レバー(key) の表面に触れるまで、先がまがっている タンジェント(tangent) を打ち込むこと。
もし弦が切れたら、それは系結ピン(hitch pin) にかけているループかもしくは調律ピ ンの巻きに問題があったせいである。
新しい弦は伸びるので、何度も調律を繰り返さなければならない。