生体膜の電圧を可視化し、ニューロン回路や細胞機能の謎に迫る
一つ、あるいは少数の細胞であれば、ガラス管微小電極を用いた手法できれいな電気活動記録を得ることができます。しかし多くの細胞を同時に計測対象とすることは容易ではありません。生き物の中で電気信号は一体どのように扱われているのか ? 根源的な問いに近づく事を目指して、細胞電気活動の時空間動態を計測しようとする試みがはじまったのは1960年の頃と言われています。例えばCohenらのグループはイカの神経軸索をさまざまな色素で染色し、吸収や蛍光、複屈折、など様々な光学特性の電位依存性をしらべるなど尽力し、この分野を発展させました。といっても、このような電位感受性色素で組織を染色する場合、特定の細胞だけを観察することは簡単ではありません。タンパク質で出来たプローブであれば、設計図を遺伝子として導入し、プローブそのものはプロモータと呼ばれるスイッチを利用することで特定の細胞に作ってもらうことができます。Isacoffらは電位依存性カリウムチャネルの電位依存的な構造変化をGFPの蛍光変化として検出する事に初めて成功しました。残念ながら、哺乳類細胞ではプローブがあまりよく発現しない事が分かり実用性が高いものとはなりませんでした。このような課題が認識されていた頃、岡村らによりホヤという海洋生物のゲノムからユニークなタンパク質が発見されました。VSPと呼ばれるこのタンパク質は電位依存性チャネルにみられるような膜電位変化により状態遷移を起こすドメインを持ち、これがC末側の脱リン酸化酵素の活性を制御します。このドメインの動きを利用することで、より性能の高いプローブ分子が作れることが分かってきました。ただし、細胞の電気活動を追うには、毎秒1000フレーム以上の時間分解能で