JAIST Nishimoto Laboratory

「弾いてみた動画」で楽器の練習.でも,なかなか「ちょうどいい」動画が見つからない.

古くから多くの人々が「楽器を弾けるようになりたい」という願望を持ち続けています. 従来,楽器の練習は,専門の教室に通うか,あるいは教則本を買って独学で勉強するかのどちらかでした. しかし近年,動画投稿サイトが普及し,「弾いてみた動画」と呼ばれるジャンルの動画が多数投稿されるようになってきました. 弾いてみた動画とは,動画投稿サイトのユーザがなんらかの楽器でなんらかの楽曲を演奏した様子を撮影したものです. このため近年,弾いてみた動画をお手本にして楽器の練習をするという新たな練習スタイルが普及してきました. しかし,弾いてみた動画の奏者の技量は初心者レベルから熟練者レベルまで様々であり,演奏される楽曲も多種多様であり,しかも投稿された動画の数も膨大であるため, 練習のお手本としてちょうどいいレベルの動画を見つけ出すのが困難という問題があります. 現在の動画投稿サイトでは,試聴数や「いいね」の数に基づくランキング付けが行われています. このランキング手法は,特に優れた演奏を見つけるのには適していますが,お手本に適した「自分の技量よりも少し上」の演奏を見つけることはできません. 弾いてみた動画の演奏レベルに基づく,動画のランキングづけ手段が求められます.

Us Practicing は,弾いてみた動画を参考にして楽器を練習する多くの人々が,それぞれにお手本として参考にする動画情報を集約することで, 弾いてみた動画のランキング付けを徐々に集合的に行う,楽器練習支援システムです. Us Practicing のユーザは,システム上で練習のお手本として適した動画を見つけたら,その動画を「参考にする」ことを登録したのち,その動画を利用して楽器を練習します. その動画での練習が終ったら,もう少し上のレベルのお手本となる動画を探し,これを参考とすることを登録して練習します.これを繰り返します. このようにして,多くのユーザから「どの弾いてみた動画をどういう順番でお手本として練習したか」という情報を収集すれば, 弾いてみた動画の「楽器練習のためのお手本」という視点でのランキングづけが,次第に実現されることが期待されます. 本研究では,このような集合的なランキングアルゴリズムがうまくいくことをシミュレーションによって確認しました. さらにユーザスタディにより,Us Practicing によって適切な弾いてみた動画を効率的に見つけ出すことができることが示唆されました.

金澤 優太:「弾いてみた動画」を活用した 楽器の継続的練習支援システムに関する研究,修士論文,北陸先端科学技術大学学院大学,2017年3月.(学内のみ公開)
金澤優太,西本一志:Us Practicing:「弾いてみた動画」を活用した楽器の継続的練習支援システム,インタラクション2017論文集,2-406-59,pp. 597-600,情報処理学会,2017.
金澤 優太,西本 一志:楽器練習者の楽器練習者による楽器練習者のための「弾いてみた動画」順位付け手法,情処研報,Vol.2017-EC-43,No. 11,pp.1-7,2017.