奨励賞
『 記号コミュニケーション課題におけるコミュニティ抽出法を用いた脳波位相同期ネットワーク構造の解析 』
Analysis of Phase Synchrony Network Structure of EEG using the Louvain Method
for Community Detection on Symbolic Communication Task
藤原正幸,橋本 敬,李 冠宏(北陸先端科学技術大学院大学),奥田次郎(京都産業大学),
金野武司(金沢工業大学),鮫島和行(玉川大学),森田純哉(静岡大学)
2017年度知識共創フォーラム「奨励賞」は、複数の審査員による厳正なる発表評価のもと、上記発表に対して与えることを決定致しました。本賞は、シーズセッションにおける発表研究を対象とし、将来、知識科学の展開に大いに寄与しうる優れた研究に対して与えられます。
本研究は、我々の社会的活動の根底にある記号の意味のすり合わせによる調整・協調行動について、脳のダイナミクスやネットワークの視点からアプローチするもので、コミュニケーションを通じて2者が言外の意味の共通理解に至るメカニズムを解明することを目指している。
こうした言外の意味の共通理解に至るメカニズムを対象とするために、実験記号論の実験パラダイムで研究成果が積み上げられているが、本研究の新規性は、脳全体をネットワークとして捉え、大域的な神経指標にネットワーク解析と行動指標を用いた推定モデルとの対応をもって認知活動を検討することで、記号の言外の意味の認知活動に関する記号コミュニケーションの成立の理解に新たなる知見を与えている点にある。
実験では、成人のペアが、取り決めのない記号のやり取りというコミュニケーションを通じて行動の調整を達成することが求められる。そこで得られた行動データから、メッセージで意図された言外の意味を推定し,その記号コミュニケーション時の脳波位相同期ネットワークのコミュニティ抽出を行うことで、言外の意味の共通理解に至るメカニズムを分析している。
結果として、相手へメッセージを送る際に、そのやり取りの順序に応じた言外の意味に関連する、二者の過去の移動結果の想起や記号の解釈に関する認知活動を反映していることが確認されている。本論文で示されたことは、大きくはないが目的に対して最初の一歩に違いない。
論文では、着想から結論まで専門的に十分に吟味して論述されており同分野の研究者には厳密性と了解性に優れている。今後は、知識科学の発展のための異分野共創の基礎となるように、知識科学のなかでの位置づけ、広く・長期的な視点での研究目的記述を、より深く吟味し、熱く論じていただきたい。
我々の社会的活動の基礎的な調整的・協調的認知活動を解明しようという挑戦的・意欲的な研究テーマに、脳科学を基礎にして先駆的に取り組んでいる点、また、発表時に活発かつ有意義な共創的議論がなされていた点を高く評価し、知識共創フォーラムの趣旨に準じた優れた研究とし、奨励賞を授与するものである。