Best Paper Award
 

優秀論文賞

『 知識と行動意図の不一致に着目した情報モラル教育プログラムの提案:
定量的分析と定性的分析による有用性の評価 』
Proposal of an education program in information ethics
focusing on inconsistency between knowledge and behavior intention:
Evaluation of the learning effects with quantitative and qualitative approaches

三輪 穂乃美(関西大学),田中 孝治,池田 満(北陸先端科学技術大学院大学),堀 雅洋(関西大学)

【PDF(1.02MB)】

 2017年度知識共創フォーラム「優秀論文賞」は,編集委員会が定めた複数の評価者による厳正なる論文評価のもと,上記論文に対して与えることを決定致しました.本賞は知識科学研究の発展に大いに寄与することが期待される論文に対し与えられるものです.

 本論文は,知識の習得と活用の視点で倫理教育の課題を捉え,さらにその教育実践に向けた提案をしている知識科学研究である.教育の中でもとりわけ倫理教育は,「正しい知識を習得すること」とともに「知識をもとに正しく行動にすること」が問われる.
 本研究では大学での情報モラル教育を対象とし,400名程度に知識と行動のギャップに気づかせる教育プログラムを適用,効果分析をしている.そして定量・定性分析の結果,同プログラムが学習者の学習意欲を高め,状況判断において多様な視点を持ちうることを見出した.
 人間は日常的に,於かれた状況において(自分が保有する)どの知識を真とし活用するか,という信念創造に関わる判断を行っている.本研究はそのいわば知識行動プロセスを基盤に倫理教育を捉えなおすものであり,提案する「ギャップに気づかせる取り組み」は,知ることを知るというメタ的次元を持った判断教育として発展性が期待される.また,本研究を通じて,本質的に求められる倫理教育の在り方は,知識とそれを選び取る際の信念の判断プロセスをより良いものに方向づける活動だ,ということにも気づかされる.これは知識科学研究として対象を見つめなければ見出すことが難しい重要な視点である.
 なお,筆者らはフォーラムでの参加者の質疑から論点を洗練させたことも共創シートからうかがえ,知識共創の成果がこの論文に結実したといえる.
 本論文はこうした点で,今後の知識科学研究を発展させる示唆に富むものであり本論文を知識共創フォーラムの趣旨に準じた優れた論文とし、優秀論文賞を授与する.