Best Paper Award
 

優秀論文賞

『 人工言語の共創課題を用いたことばへの気づきの誘発に関する試み 』
A case study to induce meta-linguistic awareness using a formation task of artificial language

金野 武司 (金沢工業大学)、橋本 敬 (北陸先端科学技術大学院大学)

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 2016年度知識共創フォーラム「優秀論文賞」は,編集委員会が定めた複数の評価者による厳正なる論文評価のもと,上記論文に対して与えることを決定致しました. 本賞は知識科学研究の発展に大いに寄与することが期待される論文に対し与えられるものです.

 本論文は、我々の多くの活動に根底にある基礎的な言語・ことばに対して、単にその使用だけではなく、それ自体が何であるかという気づきをどのように得るか問うことを目的としている。
こうした「言語・ことばとは何か」という気づき得るために、通常の教育では、母国語と外国語の文法や語用の比較を行うなどの手法がとられる。このような自然言語を用いた教育では、教育効果上求められる言語の側面以外にも、ジェスチャーや事前知識など非言語的な要素が複雑に混在し、ことばへの気づきを得る上で十分な効果が得られない場合が多い。こうした背景を受けて、本論文は、通常用いる自然言語とは異なる、人工言語を材料として用いる事で、ことばの意味を参加者自らが構築する経験を通じて、ことばへの気づきを促すことを提案する。この手法では、二者が特定の課題を達成する上で、取り決めのない記号のやり取りを通じてコミュニケーションをすることが求められ、自らそして相手の記号の用法を収斂させるための積極的に努力が促される。すでに社会で出来上がった言語を学習するのではなく、自らの手でことばを作り上げる体験を設計し、その言語教育の場での活用は、本論文独自の着想であり、高くに評価できる。また高校生や大学院生を対象としたワークショップで実施した結果や、参加者の発話、活動報告や体験を踏まえた事後的な感想から、ことばへの気づきを考察しており、一定の教育効果があることを実証している。
 「ことばへの気づき」という本質的に取り扱いが難しい言語能力を対象としていることから、本研究だけで十分には、人工言語の構築体験による教育効果の実証には至っていない。しかし、今後、こうした実証的な研究を通じて、「ことばへの気づき」とは何か再定式化を行い、理論・実証の両面から研究が発展することが期待できる。
 以上のことから,本論文を知識共創フォーラムの趣旨に準じた優れた論文とし、優秀論文賞を授与するものである.