Bolter'91(Y.Hayashi)

略図

略図とは, 現実世界を操作できるように単純化したモデルの, ある視点(切り口)における関係構造 を表したもので, 要素的に分節化されない互いに密接に関係した 全体的なシンボル(絵図記号) で1つの意味をなす. 略図のメリットは,
  1. 多様な再解釈を誘発すること,
  2. 本質を浮き彫りにすること,
  3. 新しい可能性やさまざまな吟味が可能なこと
である(現実からの省略部分が多様性を持つ). もちろん, 現実からモデル化された対象の変形操作性や, 多様な視点からの立場を探る時に, 予感や期待をこめて描かれた略図は個人的な ものであるが, 他人が共感できる思いめぐらしの入口でもある.

略図を探索の入口として人間が「わかった」と実感できる時は, 「わかることの原点」 としての下図の様な 「根源的表象系」 において, 現実世界と可能的世界, モデル的世界, 略図的世界, 記号的世界の相互の「表象のし直し」ができる時である.


「わかる」と「できる」のジグザグ運動

ものごとがある程度わかると, 「とりあえず, わかったこと」にして先に進み, 当 面「できる」ことを利用してさらに吟味する. そこで, また再びわかり直すというような, 「わかる」と「できる」のジグザグ運動を 通じて, 「理解」の深まりと広がりがダイナミックに変化する. これは, 解き方ではなく意味のわからない事態に対して, 表現形式の操作と意味の変化 に対応する 記号と略図の2つのシンボルを並用 して, 仮説と検証を繰り返しているのである. このような「わかる」と「できる」のジグザグ運動を駆り立てる人間の本性として, 以下の3つが指摘されている. [佐伯86]より


林 幸雄 (yhayashi@jaist.ac.jp)
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