1. 背景
たまり場
企業のオフィスでは、知識共有のためにワーカー同士の雑談などのカジュアルな交流が重要視されています。こうした交流を促すために、誰でも気軽に集まることができる「たまり場[1]」といった場所が作られてきました(図1)。
ハイブリッドワーク
一方、近年の働き方改革やコロナ禍で企業での働き方は大きく変わりました。2020年頃から2年経った執筆時点の現在でも、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)が全世界で猛威を振るっています。コロナの影響によって企業では、在宅勤務を可能とし、オフィスでも個人宅でも働くことができるハイブリッド型の勤務形態を導入する企業も増えてきています[2]。
特徴
ハイブリッド型の勤務形態の特徴は、オフィス側と在宅勤務側の環境が非対称であることです。特に、オフィスは公的な空間ですが、個人宅では公的な空間と私的な空間が混在しています(図2)。
問題点
ハイブリッド型の勤務形態の問題として、働く場所の環境の非対称性によって主にプライバシーの問題や、話しかけやすさが違うといったことが挙げられます。また、全員がオフィス勤務である場合と比較して、たまり場の利用者数が減少し、たまり場の効果が低下してしまうことが考えられます。
つまり、オフィス勤務者と在宅勤務者の間の情報共有や雑談などの機会が減少し、知識継承に影響が出てきます。
2. 提案内容
概要
本研究では、オフィス内のたまり場スペースと在宅勤務者を常時接続し、在宅勤務者がたまり場の交流に参加できるシステムを構築しています(図3/図4)。
オフィスのたまり場には、大型ディスプレイとWebカメラ、マイクを設置し、システムを使用します。在宅勤務者の個人宅には、タブレット端末を設置し、システムを使用します。
オフィスのたまり場では、大型ディスプレイに表示されたシステムを通じて、在宅勤務者が今どのような状況なのかを文字やアイコンを通じて知ることができます。また、状況に応じて在宅勤務者と会話できます。
在宅勤務者の個人宅では、タブレットに表示されたシステムを通じて、オフィスのたまり場の映像を確認でき、今どのような人がいるのか、どのような事をしているのかを知ることができます。デフォルトでは、在宅勤務者は映像の代わりに現在の状況(忙しい、離席中など)をテキスト形式で配信します。また、状況に応じてたまり場に居る人と会話できます。
ポイント
非対称性を考慮した情報配信
主な情報共有の手段として、映像・音声・テキストが用いられます。従来の情報共有システムでは接続される環境が対称であることが前提であり、伝達する情報は双方で同じ程度(映像-映像/音声-音声/テキスト-テキスト)であることが求められていました。
しかし、ハイブリッド型の勤務形態の特徴は、オフィス側と在宅勤務側の環境が非対称であることです。この特徴により、プライバシーを懸念する度合いや、相手側からの興味の度合いといった違いが出てきます。
そこで、本システムのデフォルト設定として、オフィスのたまり場側は映像のみ、在宅勤務者側はプライバシー侵害への強い懸念から,情報が最も少ないと考えられるテキストを自己申告式で配信します。なお、在宅勤務者は任意でたまり場の会話に参加することができ、会話に参加することで、たまり場の音声を聞くことができるようになります。さらに、任意で在宅勤務者の映像・音声を配信することができるようになります(図5)。
3. 実験
方法
本研究は、たまり場と個人宅の環境の非対称性を考慮して配信アウェアネス情報を設計し,その有効性を検証することを目的としています。
そこで、実際の企業内のたまり場をフィールドとして実験を行いました。本研究では、(1) プライバシー侵害への懸念、(2)相手側からの興味の喚起 という観点で有効であるか調査しました。
結果
プライバシー侵害の懸念
たまり場側と在宅勤務者側のどちらも懸念を感じていないことが分かりました。そのため、問題は無いと考えられます。
興味の喚起
在宅勤務者は、ビデオオフ・ミュートの状態で会話参加機能を用いていたことから、在宅勤務者は、映像の配信を望まず、たまり場側の音声に興味を持っていることが分かりました(図6)。
今後の展望
結果より、たまり場の音声に興味があるということから、臨場感を高めるためのたまり場側の音声配信機能の追加を検討し、プライバシーを損なわない工夫とともにシステムの改善をしていく必要があります。
参考文献
[1] 建築環境・省エネルギー機構. 知的創造のためのワークプレイス計画ガイドライン. 丸善出版, 2013.
[2] “WeWork Japan 合同会社. 2人に1人がオフィスとテレワークを組み合わせるハイブリッドワーク希望 [調査リリース]”. https://weworkjpn.com/news/news29/,(参照 2021-12-14).
執筆者:村尾