1. 意義・動機
働き方改革や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等の影響により、リモートワークが急拡大しています。それに伴い、リモートワーク中でも円滑なコミュニケーションが可能になる、様々なアプリケーション(会議用ではZoomやCisco Webex、連絡用ではSlackやMicrosoft Teams等があります)が登場するようになりました。
その一方で、リモート環境の中では、「周りの様子を伺いつつ話しかけ、少し相談に乗ってもらう」等のコミュニケーションが行いにくい状況にあります。問題を解決する方法として、(上記に挙げた)会議用アプリケーション等を常時接続する方法も考えられます。しかし、その場合、 画面越しでは親しくない相手が常駐することへの圧迫が懸念されます。
つまり、既存の Webカメラ相互配信型 アプリケーションでは、人間関係に応じた対人距離を相手ごとに任意に調整ができないため、心地よさが保たれない課題があるといえます。
2. 提案内容
本研究では、利用者であるリモートワーカーが、対人関係によって相手との距離を調整できるシステムを構築しました。このシステムは遠隔オフィスにいるチームメンバーの映像を作業場に配置された付箋にそれぞれ投影いたします。
利用者は対人関係や状況共有の必要性に応じて、付箋を自分から近い場所(作業するPCのディスプレイの縁等)あるいは遠い場所(視野に入らない机のパーティションの上部等)に自由に貼り付け、相手との距離を任意に調整できます。また、距離に応じて相手の音量も変化します。具体的には、システム利用者に投影位置が近いほど投影されている相手の音声は大きくなり、システム利用者に対し投影位置が遠いほど投影されている相手の音声は小さくなります。
現在のシステムでは付箋の位置を固定し(ユーザの近くに1枚、離れた壁に2枚)、ジェスチャ操作で投影映像と音量を切り替える機能のみを実装しました。遠隔オフィスにいる相手の映像はインターネット通信を介して制御用PCに送信されます。制御用PCでは、対話者の映像の投影位置を付箋に合わせて調整します。
また、接続されたLeap Motion(ジェスチャを感知するセンサ)を用いてジェスチャの検出を行います。手を振る動作によって、遠隔オフィスの相手が投影される位置を切り替えることができます。更に、変更された位置に応じて相手の音量も変化させます。
3, 結果と展望
本研究では、リモートワーカーが心地よい空間を構築できるようにすることを目指し、相手の映像の投影位置の距離を設定できるようにすることで、相手の存在感の強度を調整できるシステムを提案しました。
実験結果では、本システムを利用することで心地よい対人距離を作れたという意見が得られました。今後は調整の自由度を向上させるために、投影位置を固定するのではなく、付箋と連動して自由に移動させられるようにしていきたいです。また、リモートワーカーが取得する情報強度の調整を可能にするだけに留まらず、オフィス側の情報強度の調整も目指していきます。双方向でのやり取りの仕方とオフィス側のシステムのインタフェースについては詳細に検討する必要があります。
執筆者:小林