著者:池澤夏樹
出版社:
新潮文庫
出版年度:1993
ひさしぶりに池澤夏樹の小説を読んだのですが、あいかわらず いいです。あいかわらずっていう言い方は変ですね。別に新作 というわけではないですから。よかったんですが、『スティル・ ライフ』とかの他の作品とは違った感触でした。ほかの作品は もっと静かな澄み渡った感じがするのですが、これはもうちょっ と動きが感じられる。テーマが音楽だからかな。
ストーリーは中東の革命の戦士が日本に不法入国し東京で生き て行く姿を追ったものです。当然まったく知合いのいない中で、 老獣医と出会うところが第2章にあるんですが、この章の最後 の部分で、主人公が出て行ったときに老獣医が自分が老境にあること を感じるのですが、ここが非常に感動的。感動というのは、えて して共感から来るものだと思うのですが、僕はまだまだ老境に はさしかかっていません。でも共感のようなものを感じること ができたんですね。これが作家の力というものなのかな。
著者:ビートたけし
出版社:Web新潮
出版年度:1997
昨年公開され話題だった北野武の映画『キッズ・リターン』の 続きをたけし自身が書いています。とてもビジュアル を喚起されます。映画監督が書いているからでしょうか、『キッ ズ・リターン』を見ているから場面が浮かびやすいからでしょ うか。なにか、映画の脚本というかほとんど絵コンテを読んで いるような気がしました。カメラ割まで頭の中に浮かび上がり ます。
映画の最後、
「オレたち、これで終わったわけじゃないですよね」
「バカ、まだ始まってもいねえよ」
と、言っていた二人は3年後、ヤクザをやめたマサルはおでん の屋台を、ボクシングをやめたシンジは米屋の配達をして働い ているが、やがて二人は再びヤクザ、ボクシングの道へと帰っ ていく。そこにしか生きる場所がないことを自覚して。
短篇なので、感想を書いていると最後の部分に触れてしまうの で、読みたい人はこちらを どうぞ。