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最近「複雑系」と名打った本が沢山出ているが、いい加減なも のが多いですね。これもその一つ。著者は工学博士で、どこか のコンサルティング会社に勤めていた人なんですが、まあ、いわ ゆるビジネスマン向きの啓蒙書なんですね。装丁がちょっと良 いだけで、ビジネス街の書店に溢れている新書版の、人生語っ ちゃったり、経営語っちゃったり、歴史上の人物をいっぱい出 して来てリーダー論ぶっちゃったりしているのと全く変わらな い。
内容は、カオスとか自己組織化とかの科学用語を持って来て、 いい加減なこといっぱい書いてる。下でも 書いたように、カオ スのエッセンスの一つは初期値(摂動)敏感性なんですが、「人 生こそ摂動敏感!」そりゃまあそうなんですけど、厳密に定義 された力学系の用語をそういう風に当てはめちゃったらなー。
ビジネスマン、管理職や経営者はこういうのをありがたく読ん じゃうのかな。
著者:藤原正彦
出版社:新潮社
出版年度:1997年
三人の数学者、Newton、Hamilton、Ramanujanの生涯を追っ たエッセイです。著者は藤原正彦という数学者です。 それぞれに天才的な数学者ですが、やっぱり変人でも あるし、天才なりの苦労、孤独があったようです。
これは伝記ではなくエッセイなので、著者がそれぞれの生誕の 地などを尋ね、資料を見せてもらった時の交流、現地のホテル で苦労したり(特にインド)したときのエピソードなどが沢山書 かれていて、不思議な臨場感というか共感があります。
ちなみに、著者も数学者で新田次郎と藤原ていの長男らしいで す。
もうちょっと3人の業績について書いて欲しかった。業績自体 の解説(そういう本は他にも多いから著者はそこを書かなかっ たらしいが)、および、それが世に出たときの状況や当時の受 け取られ方、それがどういう経緯を経て今我々が受け取ってい るようなものに変わったのかなど。でも、そういうのは科学史 の分野になるのかな。
Newtonはもちろん力学で、Hamiltonは解析力学、量子力学などで 物理でも有名です。Ramanujanはあまりに純粋数学すぎて物理 にはあんまり出てこないですが、最近Ramanujanが見つけた公 式と実世界との対応が研究されているとか。 これからの発展 が楽しみですね。Ramanujanがもっと長く生きていれば、もっ ともっと謎の公式をつくり出したのかな。残念です。
著者:E.N.Lorenz
出版社:共立出版
出版年度:1997年
カオスを最初に発見した科学者のひとりローレンツが、一般向き の講演を元に、やさしいカオスの解説書として記した本の翻訳 です。一般向きと言っても流石にローレンツ、本当に数式をほ とんど使わず、まさにカオスのエッセンスが書かれています。 ローレンズはカオスに関する最初の論文え、最近の発展を含むカ オスのエッセンスを見通していたとよく言われるんですが、僕 はまだその論文を読んでいません。
ローレンツは気象学者なんですが、カオスが見つかるまでの気 象学における経緯も面白く語られています。グリックの『カオ ス』(新潮文庫)に、カオス発見のサクセスストーリーが書か れているのですが、気象学の部分はあんまり書かれてないから、 相補的でいいですね。 付録では本文で使っているモデルの簡単な数学的解説もあり、 学部向きのカオスの授業に使えるネタもあります。
ローレンツの述べるカオスのエッセンスの一つとは「初期値敏 感性」のことだと思うのですが、最近は準周期とカオスの間の 複雑な運動とか、トランジェントの示すダイナミクスに興味が あるのですが、そういった動的なシステムのエッセンスへと 研究が進んでほしいです。(って、自分でやらなきゃな)
著者:竹内薫、茂木健一郎
出版社:徳間書店
出版年度:1995年12月31日
通常の「科学」と言われるものの中にはまだほとんど未知の部
分があり、「これは○、こっちは×」と割り切れるものではな
いことを科学哲学者と脳科学者が紹介している。題名は
「トンデモ本の世界」を皮肉ってつけたもの。「トンデモ本の
世界」は、疑似科学(いわゆる行っちゃってる)の紹介をした
本ですが、科学の最先端はマークシートのようにそんな簡単な
もんじゃないことがわかる。
これ以上の感想は内容に触れる部分があるため、読みたい人だ
けどうぞ。
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