鍵盤レバー(key) を製作したことがない場合、初めのうちは試し試し進めていくしかないが、 慣れるにしたがって上達し、自信もついてくることだろう。キットには練習用 にライムの角材が入っているので、実際の作業に入る前に何度か練習するとよ い。初めのうちは時間と労力を要するが、経験を積むに従って徐々に調子が出 てくるはずである。各鍵盤レバー(key) はすでに5本の線が引かれているが、さらに上面 から4mmの深さで左右両面に短い線を引かなければならない。この作業には専 用の道具があると便利だが、ディバイザかコンパスでも十分である。最初の 鍵盤レバー(key) は、左側には第2線(第24章3節参照)の位置に、右側には第3線の位置に線を引 く。次の鍵盤レバー(key) は反対で、右側は第3線、左側は第2線の位置である。その次の 鍵盤レバー(key) は再び最初の鍵盤レバー(key) と同様である。この線は削るべき部分の最も深い位置を 示す目印である。特別製クランプを用意し、幅を鍵盤レバー(key) の後端部分の幅に合わ せる。高さ約2cmの板を作業台に置いたところへこのクランプを置き、もう一 つのクランプで作業台に軽く固定する。このとき側面のナットが容易に回せる ように配慮すること。同じくらいの高さ2cmの板をもう一枚用意し、鍵盤レバー(key) の残 り部分を載せたら、動かないように先ほどのクランプで今度はしっかりと固定 する。(付録の図7)
まず頭の中に、第3線のすぐ下から左側に印した第2線の位置、深さ4mmの線の ところまでつづくなだらかな坂を想い描く。そうしたら 3/4'' のノミを 用意し、刃先が手前向きで想像している線と平行になるようにして、鍵盤レバー(key) の 右側・第3線の位置に置く。(訳注:付録図7参照) 刃先を下向きに押し、想像 している線まで到達したら抜きとる。同じ細工を前方部分に施す際には、第3 線部分よりやや幅広なので作業を二段階に分けなければならないが、第3線部 分は幅が狭いのでノミを押し込むのは容易である。ライムウッドは植物学的に は堅い木に分類されるが、加工用には十分柔らかく感じられるだろう。この切 り込みが肩、つまりもっとも深く削り取られる箇所になる。
最初の鍵盤レバー(key) は右側を面とりする。出来上がりの状態として、手前側、対角線 のすぐ右側から始まって、第3線の切れ込みの所までつづくゆるやかな下り坂 をまず想い描く。そうしたら右斜面を第2線と第3線の中間あたりから後方へ削 り始める。鍵盤レバー(key) を正面ではなく横向きに固定しているので、ノミの刃先を下 にすればより細工がしやすいだろう。(つまり斜めになった面を上に、ノミは 水平に使う。) 仕上がりの面とだいたい平行になるように削るが、正確な角度 にしようと気を配る必要はない。あまり力を要しないで、切り込み部分で深さ 2mm、幅5mmとなる三角形の斜面ができるはずである。肩の位置は、そのあたり で削るのに要する力が少なくなることでわかるし、肩の切れ込み自体もノミを 止めるはずである。坂の角度を調べてから、もう一度、今度はほとんど仕上げ と同じくらいの面を手前側から後方へ削る。このとき、以前に引いた対角線ま で削ってしまわないよう注意する。この線は装飾の一部でなので、もし万一削っ てしまったら、美観のためにもう一度注意深く引き直すこと。鍵盤レバー(key) の右側を 見て、坂が以前に引いた線まで達しているか調べる。美観のため、次の鍵盤レバー(key) の左側面は同じ深さでなければならない。
慣れてくれば、品質のよいライムウッドは上手に削れるはずである。 Grindling Gibbonsもこの木を使っていた。ノミの斜めになった部分を下にし なければ削れない鍵盤レバー(key) があるかもしれない。この場合、表面を平らにするの は容易ではないかもしれないが、それでも満足のいくように仕上げられるだろ う。
鍵盤レバー(key) を板の上に載せて動かせることの利点は、作業台の上に直接置いた場合に 比べて、鍵盤レバー(key) の側面を加工するのが容易であることである。作業台に鍵盤レバー(key) を 固定しているクランプを緩めるだけで鍵盤レバー(key) を逆向きに固定し直すことができ、 そうしたら前方の切れ込みを入れて、もう一方の面を同じように削ることがで きる。両側を斜面に削ったら、最後に端を貝の形に削って仕上げる。後方の貝 形の方が鍵盤レバー(key) の幅が狭いので簡単である。クランプで鍵盤レバー(key) の前方を固定して、 後方を上の方へ向ける。もし右利きだったら左手で鍵盤レバー(key) の後方をつかむ。右 手に小刀を持ち、左手の親指で押しながら、鍵盤レバー(key) の左側(訳注:正面から見た 場合は右側。鍵盤レバー(key) の後方から作業していることを示唆している。)、第3線の 近くをまず小さく円形に削り取る。右手でえぐり取り、左手で削る力を加減す る。押すばかりでなく、あたかもノコギリで切りとるように小刀を引く動作を 加えるときれいに削れるだろう。二回目はもう少し深く削り取り、第4線と斜 面に削った部分のそれぞれすぐ近くまで削る。表面では四分の一の円になるよ う、また水平方向には切れ込みまで達するようにする。そうしたら、さらに表 面が設計図通りになるまで、また肩が切れ込み部分で1mmになるまで削る。後 方の肩は演奏者から見えるので、クラヴィコードの外観をよくするには重要な 部分である。写真28に完成した鍵盤レバー(key) を数本示す。熟練者は一つの斜面を削り 出すのに3、4回の動作、貝形を造るのに2、3回の動作で済み、約6時間ですべ ての鍵盤レバー(key) を加工できるが、初心者は木片で練習して、ゆっくりと注意深く作 業を進めるべきである。そうすればよい結果が得られるだろう。
注記: 木クズは頻繁に掃除して取り払った方がよい。そうしておけば、削る のに失敗したときにすぐわかり、誤って削ってしまった木片を探し出して、接 着し直すことができる。接着したらセロテープで固定しておくとよいだろう。 こうすれば失敗は目につかないはずである。
作業の際には、できる限り良い照明器具を使うこと。できれば、どの角度から でも照らせるよう角度が調節できるものがよい。よい照明器具を使えば、作業 は容易になり、加工精度も上がる。鍵盤レバー(key) のなかには、木目が逆目のために、 削り出し部分から肩のところまで削れないものがあるかもしれない。最初に削っ たときに、きれいに削れず割れたりすることからそれがわかるだろう。対応策 としては、切れ込み部分の近くから削り始めて、木目となるべく平行になる角 度で削っていくことである。そうしたら鍵盤レバー(key) を逆向きにして、最初に削り始 めるべきだった位置まで逆方向から削っていく。両方の削り面がぶつかる所は ノミで削るか、目の細かいヤスリか木片に巻いた紙ヤスリなどで仕上げる。