90Interview

戦略的にJAISTを狙って進学してくる学生たち

JAISTで活躍する現役学生に対するインタビューです。
プライバシー保護のため、学生名、インタビュア名ともに仮名としていますが、実在する学生へのインタビューです。
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現在博士後期課程一年の島田さんにJAISTに進学を決めた時のことを振り返ってもらいました。
  • 菊田/インタビュアの菊田です、本日はよろしくお願い致します。
    島田さんはJAIST3年目ということですが、まず、どういう経緯でJAISTをお知りになったのですか?
  • 島田/学部時代、しばしば、FireFoxなどパソコン関係のユーティリティをダウンロードすることがあったのですが、そのたびに、なんと言うんでしょうかミラーサイトですか、そこでJAISTのロゴが表示されるので「こんな大学院があるのか」と気になっていたのです、それで検索して調べてみると、国立の研究大学院というのが割と大きな規模で存在し、興味を惹かれる先進的な研究をしている場所があるんだなと。

  • 菊田/それでJAISTへの進学に興味をもったのですか?

  • 島田/JAISTに気がついたのは学部2年くらいだったので、その時点では何となく自分の大学(大阪大学)に進学するのかなと思っていました。

分野変更を発起し大阪大学からJAISTへ

  • 菊田/いつ頃、JAISTに来ようと思ったのですか?

  • 島田/自分は阪大基礎工のバイオ系脳科学の研究室に所属していたのですが、
    脳科学という事で自然と人工知能というキーワードに惹かれていきました。
    学部の研究室は主にバイオ系の実験が中心のラボでしたが、自分は、もう少し理論的な体系について学びたいなと思っていました。
  • 菊田/阪大にそのまま進む事は考えなかったのですか?

  • 島田/阪大の院試も受験し合格しましたが、次第に脳科学から情報科学の理論に興味が移りつつあり、
    また最初からアカデミックな道を強く意識していたので、今後、自分が参入して科学者として活躍出来る
    フィールドの選択において、阪大 に留まるよりも、もっと大きなチャンスはないかと考えました。
  • 菊田/日本の大きな大学だと殆どが自大にそのまま進学ですよね、不安はなかったのですか?

  • 島田/自分の父親が割とアカデミアに詳しくて、米国では学部と大学院で所属大学を変えるのが普通であるなどと
    聞かされていた事が影響したのかもしれません、アカデミアを目指す以上、国際的に活躍しようと思ったら、
    学部と大学院を変えて他の人達と差別化を図ろうという意図もありました。
  • 菊田/旧帝大の学生ですと別の旧帝大に移るという学生はチラホラいますが、JAISTに来るのは大きく環境や教育システム
    もかわりますし、少し勇気がいるのでは?
  • 島田/専門を変えることなく系列の研究に進むのであれば、学会などで繋がりのある別の旧帝大に移るということは友人も多く
    やっていましたが、自分の場合、バイオ出身の学生が情報科学の理論に進みたいという事で大きく分野がかわります。
    その場合、学部のある別大学に修士から参入するというのは、正直、抵抗がありました。
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大学院からの分野転向に不安はあった、と語る島田さん。

学部のない大学院大学の利点に着目

  • 菊田/どうしても自大出身者が学部4年からラボにいるところに新規参入ですもんね。

  • 島田/そう、どうしても新参者は遅れをとっているのではという不安が。
    研究室の先生も、どうしても学部4年から居る学生の方を気にかけるみたいな事があるんじゃないかと。
  • 菊田/それで学部のないJAISTを?

  • 島田/はい。JAISTでは全ての学生が大学院から同じスタートラインに立つという事で、
    新規参入者にはやさしい環境ですね、それから、JAISTのホームページを見て、この大学が専門外から
    参入した学生に系統だった講義コースを提供していて、不安なく研究実務レベルに到達できそうだという安心感がありました。
  • 菊田/同じ大学院大学でNAISTは考えなかったのですか?阪大ですと地理的に近いですよね?

  • 島田/母親はやはり、NAISTですと自宅から通えるし、そちらの方がという意見はありましたが、
    父親がこの点は、アカデミアに進むのであればと言うことでJAISTの方を推してくれました。
  • 菊田/といいますと?

  • 島田/JAISTの方が僻地にあると(笑)

僻地だからこそ最先端研究

  • 菊田/普通はネガティブと考えられる要因ですよね?

  • 島田/父親がアカデミックな世界の事を割とよく知っていて、最先端の研究なら実験設備が重要である事を
    よく言っていました。地味な所だと、電力設備は僻地でないと確保できないとか、実験台が重力の影響を
    受けないよう近くを国道や鉄道が通っていないことが重要だとか。
  • 菊田/お父様、なかなか事情通ですね。

  • 島田/諸外国を見ても最先端研究施設は大方僻地であるといっていました、なので親父の言によれば、JAISTの方が
    僻地だから最先端の研究をしていると(笑)。
  • 菊田/それは新鮮な切り口ですね(笑)。僻地の魅力って他にありますか?

  • 島田/これも親父が言っていたことですが、研究者として身を立てるのであれば、そこは、どうしても強い師弟関係というか、
    そういう「師匠に入門する」という側面になるんだというんです。そのとき、僻地の方が濃い関係、面倒見がよいというか、
    そういう面があると。
  • 菊田/大きな大学の大きなグループだと、どうしても教授に会う機会が少ない、教授はほとんど不在で、実質は博士課程の先輩から指導を受けるみたいな事はありますね。

  • 島田/僻地で構築された人間関係はより盤石だという事は、今の指導教員もいっていますね、大きな国際会議で学界の大物と握手して名刺渡しても、どうせか次の会議で「あんた誰だっけ?」となるけど、日本人なんか殆ど行かないようなアフリカでの小さな会議で一緒になるとキチンと名前を覚えてもらって、次の会議に御指名で呼ばれたりすると。

新規参入者に魅力的な教育体制

  • 菊田/NAISTにも情報科学はありますよね?

  • 島田/個別領域でのアクティビティはよく知らないのですが、情報科学へ新規参入しようとする者が眺めた時、
    JAISTの方がどちらかというと広く分野を集めていて、それらを系統立てた教育システムを新規参入者向けに
    整備しているなという印象を持ちました。
  • 菊田/情報科学の理論を志してJAISTに入学されたのですね?どうでした?

  • 島田/理論系の講義が非常に整備されていて、特に情報科学の場合、純粋数学系の講義で、自分は学部時代には
    なかなかついて行くのが難しかった講義について、少人数できめ細やかに講義してくれるので大変勉強と刺激になりました。
  • 菊田/純粋数学系の講義は、学部の大人数クラスですと、どうしても無機質になっちゃいますね。

  • 島田/あと英語での専門講義というのも自分にとって大変よかったです。
    新規参入の専門分野を英語で受講するというのは、どうしても抵抗感がありますが、JAISTの場合、
    これを受講するしか修了の道が無く否応無しという状況が逆に、自然に、こうしたグローバル教育の環境に自分を
    導き入れてくれたという感想をもっています。

学部生が憧れるような分野に進むな?知らぬ分野に飛び込む

  • 菊田/研究室は理論情報科学に進まれたのですか?

  • 島田/いえ、それが自分でも意外な事に、量子シミュレーション分野です。

  • 菊田/また意外ですが、それはどういう経緯で?

  • 島田/研究室紹介時期に聞いた話が大変新鮮で。JAISTというのは国立の研究大学院なのだから、
    ここでしか出来ないという特色があるというんです。こういう大学は「既に醸成した客寄せ効果の高い研究」で
    経営を成り立たせている教育大学ではなく、10年後20年後に実を結ぶように、若手教員がふんだんな研究資源を
    使って基礎研究を繰り広げているところだと。iPSの山中先生が確かNAISTでしたよね?
    そんな大学に進んできたのに、学部卒業者でも知っているような分野に進むのは「何が人間か」と(笑)。
  • 菊田/恐ろしいことをいう先生がいるのですね(笑)。。。それでシミュレーション分野に?

  • 島田/スパコンを使った量子力学系統のシミュレーション分野は、日本では、なかなか大規模計算機を使いこなせて、
    かつ、量子物理系統の基礎を備えた人材が少なくチャンスが多いと聞き、そちらに進みました。
  • 菊田/島田さんは量子物理なども学部時代に学ばれたのですか?

  • 島田/学部時代に量子力学などの講義はありましたが、専門ではないので素養は無いに等しかったです。
    ただ、現研究室の指導教員が「高校の数学や英語などの基礎力がきっちりしていれば全く問題ない」と断言されていて、
    研究室内でキチンとしたテキストを編纂して講義を提供してくれていて、楽しく学ばせてもらっています。
  • 菊田/先生がゼミで講義されるのですか?

  • 島田/ここはさすが僻地ゆえの面倒見の良さだと思いますが、殆ど毎週、夕方に先生のお部屋で、
    マンツーマンでホワイトボードを使って、解析力学とか熱力学、統計力学といった事項に個別講義を受けています。

学生に手厚い予算面からの研究支援

  • 菊田/ケンブリッジやオックスフォードの寄宿舎制みたいですね!研究は順調にすすんでおりますか?

  • 島田/はい、おかげさまで。この春に博士課程に進学しましたが、修士課程中、大変手厚いサポートを受けたと思います。
    これは同期で阪大に進んだ友達と話していても本当に感じましたが、JAISTの場合、自分の場合は博士後期に進む学生という事で
    修士課程で月額10万円の支給をうけました(返済の必要無)。これは本当に有り難かった。
    研究を志す学生を本当に大事にしていると感じます。この枠組みで博士に進むと月額15万円の支給になります。
  • 菊田/JAISTは、国立大学では異例の奨学支援を行っていると聞いています。

  • 島田/生活支援以上に、同期の阪大生と比べて有り難いなと思ったのは、海外出張旅費などの研究サポートですね、
    学部時代は漠然と「研究成果があがれば、大学のお金で海外に行かせて貰える」と想像していたのですが、
    実際には、科研費や運営費交付金というのは公金なので、国立大学では執行ルールが色々と複雑で、
    自身の研究成果があっても学生の出張旅費が手放しで全額サポートされるのは難しく色々な工夫が必要と聞きました。
    実際、高校時代の友人で旧帝大レベルでも、修士だと出張旅費は支弁されないといっていました。
  • 菊田/JAISTはどうだったのですか?

  • 島田/自分は修士の間に、イタリアの国際会議、ブラジルの国際会議、それから、インドでの研究打ち合わせと、
    3度の海外出張を経験しました。JAISTの場合、研究科が、学生の国際会議参加をプロモートするために、
    教員からの基金のようなものを運営していて、キチンとした成果が上がれば、確実に旅費が支弁されるようになっていると聞きました。

小規模ゆえの魅力;顔の見える間柄で研究をサポートしてくれる

  • 菊田/国際舞台で学生が活躍するには大変研究がやりやすい環境なのですね?

  • 島田/お金の上の支援だけでなく、事務職員や技術職員が一緒になって研究をサポートするという雰囲気は強く感じました。
    これは大学規模が小さい故の大きなメリットですね、阪大にいたときは、事務職員の対応が、すごくお役所的で手続きの説明も
    わかりにくかったのですが、こちらではキチンと顔と名前を認識して貰って「ああ、あの案件ですね」と顔の見える関係でサポートを
    受けられます。大学院レベルで研究が進んでくると出張手続きとか予算申請手続きで事務職員とやりとりする機会が増えるので、
    この点は、同期で阪大に進んだ友人と話していても対応の差をすごく感じます。
  • 菊田/技術職員に関しては?

  • 島田/自分の研究ではスパコンを駆使するのですが、JAISTには4台の商用スパコンがあって、これを保守管理している技術系職員の方々が
    大勢おられるのです。この方々とは、もう修士の頃から顔の見える関係で、夜の10時にメールで質問を投げても、すぐに返ってくるとか(笑)、
    たまに向から研究室に来てくれて「最近は不都合ないですかぁ」とか。
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JAISTは教育・研究環境、サポートしてくれる職員の方々に非常に恵まれている、と熱く語る島田さん。

学生一人当たりの研究クオリティに重きを置く大学

  • 菊田/現在の研究室環境はどうですか?

  • 島田/博士1年に自分がいて、修士2年に後輩が一人、今年の修士1年配属がたぶん2名くらい入ってくるというペースで、
    学生4名程度に対して、先生(准教授)と助教の先生、研究補助員の女性が1名という、学生には手厚いメンバー構成です。
    各研究室毎にキチンと助教が配されているのは学生にとっては有り難いですね。学生と先生だけだと、どうしても聞きづらいこともありますので。
  • 菊田/各研究室に助教が居るのですか?

  • 島田/はい。阪大をはじめ旧帝大もそうですが、研究主務の大学でないと各研究室に助教を配する形式はとらないと、
    地方国立に進んだ友人が指摘していました。
  • 菊田/助教の先生の部屋には度々質問に行くのですか?

  • 島田/いえ直ぐ隣に座っています。阪大などの旧帝大と違って研究スペースが広く仕切りが少ないんです。
    阪大だと教員室に教授が居て、それと同じくらいのスペースの部屋を2〜3室くらい一つの研究室が占有して学生が適宜、
    分散して配置されるという形ですが、JAISTの情報の場合、一つの建物の1フロアが2研究室分、仕切りなく拡がっています。
    学生や助教はパーティションで適当に区切って広々と使っていて、奥に教員個室があります。
    なので先生とも距離感が近いですね、暗い廊下で隔たっていない。

寄宿舎では外国人に囲まれて生活

  • 菊田/スペースが広いのですか?

  • 島田/ものすごく広い。学生一人当たりの机スペースは十分大きくとってあって、理論やシミュレーションをする学生にとっては、
    ゆったりしたスペースがあると研究も捗ります。
  • 菊田/JAISTは社会人コースももっていますよね?

  • 島田/はい。自分の研究室にも品川キャンパス(東京サテライト)に現役SEなどの社会人学生が3名いて、たまに品川キャンパスで交流をもったりします。

  • 菊田/品川にキャンパスがあるのですか?

  • 島田/はい、品川駅前のインターシティという高層ビルの19階ですが、石川キャンパスから、大学のシャトルで小松空港直行、
    羽田空港からは京急線で一本なので、実は東京へのアクセスは下手な東京近郊より便利だと感じましたね。
  • 菊田/外国人学生はいますか?

  • 島田/JAISTは自分たちが居る石川キャンパスで、4割が外国人というグローバル環境です。寄宿舎に生活する学生が殆どなので、
    講義だけでなく生活のあらゆる場面で英会話は自然と必須になりますね。寄宿舎での、生活全般に亘っての深いつきあいでは、
    論文が読める/書けるというレベルだけでなく、自然と、生活一般の語彙も増えていき、
    海外留学などへのいい導入になっていると思います。

小規模ゆえのフレキシブルな研究環境を戦略的に狙う学生達

  • 菊田/島田さんのように旧帝大クラスから進学してくる学生は割と居るのですか?

  • 島田/まだ多くはありませんが、毎年数名程度、アカデミアでの活躍を狙って意識して戦略的にJAISTを選ぶ学生が何人かいますね。
    そうした友人達は、やはり「米国では学部から別に移るのが通例」という事を意識して移っているのと、将来的に国際的に活躍したいと
    考えている点は共通な気がします。既成の大きな研究分野の系列で活躍しようと思うのであれば、たぶん旧帝大に留まった方が安全
    なのかもしれませんが、JAISTに旧帝大から移ってくるような友人達は、みんな割とヤクザっ気があって、
    「じゃあ、その既成分野の萌芽期に参入した人達はどうやって分野を開拓したのだろう?」という事に興味があって、
    新規分野の最初の方の世代として活躍したいよね、みたいな事を言っています。そういう学生は、JAISTの先生方で海外に直接パイプが
    あって比較的萌芽期のコミュニティで活躍されている先生の所をキチンと調査して狙って進学してきていますね。
  • 菊田/将来的には、じゃあ島田さんも海外を念頭に置いているということですか?

  • 島田/先生にはそのように仕向けられているというか(笑)、先生が言うのは、「まずオレの所で原著論文成果を上げろ、
    それで海外にいって新しいミキシングで独自の特色を作れ」と。「オレと同じ内容を続けてアカデミアに進んでも、
    いつまで経ってもオレのお弟子さんで終わる。別の特色を作って、そこで第一人者になれ」と。
    「既に有名な老教授の所にいくより、顔を覚えて協働が続くような若手に売り込む。そのようなパイプを紹介する」との事です(笑)。
    この期待に応えることが出来れば素晴らしい話ですが。。。(笑)、そうなるように精進しています。
  • 菊田/将来がますます楽しみですね!今日はどうもありがとうございました。

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