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勤労者のウェルビーイングを高めるための活動的で健康的な職場づくりに必要な要素とは?

logo_jaist2021.png pr20221219-logo-u-waseda.png 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
早稲田大学

勤労者のウェルビーイングを高めるための
活動的で健康的な職場づくりに必要な要素とは?

ポイント

勤労者のウェルビーイングを高めるための活動的で健康的な職場づくりに必要な要素を特定する上で、勤労者の座位行動や身体活動とオフィスデザインの関係について検討するため、以下の3つが今後の検討課題であることを特定しました。

  • 職場の規範や文化と勤労者のオフィス内行動との関連の検討
  • オフィスのレイアウトと勤労者のオフィス内行動との関連の詳細な検討
  • 勤労者のオフィス内行動の革新的な手法による精確な評価
 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)創造社会デザイン研究領域のクサリ・モハマドジャバッド(KOOHSARI MohammadJavad)准教授、早稲田大学(総長・田中愛治、東京都新宿区)スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らの研究グループは、オフィス内のデザインがどのように勤労者の行動変容を促すかについて、これまでの研究を概観した結果、十分な検討を行う必要がある重要な検討課題を特定しました。これらは、今後、活動的で健康的な職場づくりを目指した介入方策を開発する上で不可欠です。

【研究の背景】

 身体活動不足や長時間の座位行動(いわゆる、座りすぎ)は勤労者に非常に多くみられ、様々な健康リスクや経済負担をもたらすことが知られています。しかしながら、勤労者の座りすぎを減らし、身体活動を増やすためには、健康増進を目的とした個別介入だけでは不十分であり、オフィスのデザインのような環境への介入についても考慮する必要があります。オフィスのデザインは、そこで働く勤労者の身体活動を促進し、座位行動を減らすことに大きく貢献する可能性があります。

 社会生態学モデルのような多くの行動科学の理論・モデルは、複数の要因がどのように相互に作用して、勤労者の身体活動や座位行動に影響を与えるかを示しています。これらのモデルでは、行動変容を促す上で、職場環境の影響を特に重視しています。先行研究では、職場内外の物理的環境要因が勤労者の身体活動を促進することが明らかにされています。本研究では、これら関連する先行研究を概観し、活動的で健康的な職場づくりに向けて今後さらに検討すべき課題を明らかにしました。

【研究内容】

 私たちは今後検討すべき課題として、職場の規範や文化、オフィスの空間レイアウトが勤労者の行動に及ぼす相互作用を検討することと、これらの文脈において勤労者の行動を精確に評価することの必要性に焦点を当てました。

  • 職場の規範や文化と勤労者のオフィス内行動との関連の検討
     職場の規範や文化は、そこで働く勤労者の身体活動や座位行動に影響を与えます。しかしながら、この分野の研究の多くは、主に欧米で行われているため、異なる地理的環境であることを考慮した上、職場の規範や文化を理解するためには、異文化間の研究が必須です。さらに、職場の規範を遠隔地やハイブリッドな職場環境に拡張することも今後は検討する必要があります。
  • オフィスのレイアウトと勤労者のオフィス内行動との関連の詳細な検討
     これまでの研究では、オフィス内の個々のデザインが身体活動や座位行動にどのような影響を与えるかが検討されてきました。一方、壁、ドア、窓、移動ルートなどの空間的配置である建物全体のレイアウトについては、内部空間の機能性を大きく有するものの、どのようなオフィスレイアウトが勤労者の身体活動を促進し、座位行動を減らすのかについて、依然として十分に分かっていません。本研究では、グラフベースの推定量を用いて空間レイアウトを定量化する方法である「スペースシンタックス理論」を応用することの重要性を強調しました。今後は、個々の設計要素だけでなく、建物全体の空間レイアウトを考慮に入れることで、共用スペースの位置やワークステーションの配置といったオフィスのレイアウトが、勤労者の行動に与える影響を検討する必要性を指摘しました。
  • 勤労者のオフィス内行動の革新的な手法による精確な評価
     オフィスデザインが勤労者の身体活動・座位行動に、どのような影響を与えるのかを見極めるためには、身体活動と座位行動を精確に測定するとともに、これらの行動がどのような場所で行われているのかを特定する必要があります。この目的を達成するために、これまで全地球測位システム(GPS)と加速度計の組み合わせが一般的に使用されてきましたが、GPSの場合、屋内では信号の精度が低いという欠点があります。そのため、代わりにWi-FiとBluetoothを用いた屋内測位システム(IPS)を使用することで、屋内環境で正確に人の位置を特定することができます。行動を追跡するためのウェアラブルデバイスと統合することで、勤労者の動きや活動強度、その他の生体データも収集できます。さらに、地理空間データを分析するため、IPSと地理空間AI(GeoAI)を組み合わせることで、職場内の人の位置を正確に特定し、勤労者の移動に伴う行動パターンを分析することもできます。

本研究成果は、2024年5月17日に、学術雑誌「British Journal of Sports Medicine」(BMJ Publishing Group)に掲載されました。

なお、本研究は、科研費基盤研究(C)(23K09701)、基盤研究(B)(20H04113)の助成を受けて実施しました。

【今後の展開】

 オフィスのデジタル化・自動化が進むにつれ、そこで働く勤労者における座位行動は今後も増加することが予想されています。今後の研究では、職場の規範と文化が身体活動や座位行動に及ぼす相互作用について検討し、その類似点と相違点を明らかにするために、特に諸外国とは職場の規範や文化が異なる日本での研究を行うべきであると考えます。また、オフィス内の行動やその行動が生起する場所を精確に評価するために、IPSやGeoAIなどの革新的な測定方法を採用することも重要です。さらに、勤労者のオフィス内行動に及ぼす空間レイアウトの影響を探るために、スペースシンタックス理論を応用することで、勤労者の身体活動を促進し、座位行動を減らすオフィス環境のデザインに貴重な洞察を与えることができます。

 結論として、職場における座位行動を減らし、身体活動を促進するための介入方策を開発し、健康的で生産的なオフィス環境を設計し、最終的に勤労者のウェルビーイングを高めるためには、本研究で示したとおり、既存の知識との差異に対処することが極めて重要であることを示唆しています。

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イメージ図. 職場の物理的環境が勤労者の身体活動と座位行動に与える影響
活動を促進する特徴を持つ職場は、勤労者の身体活動を増加させ、座位行動を
減少させることで、彼らの健康と全体的な幸福を向上させる可能性があります。
Openverseより引用]

【論文情報】

雑誌名 British Journal of Sports Medicine
題 目 Active Workplace Design: Current Gaps and Future Pathways
著 者 Mohammad Javad Koohsari, Andrew T. Kaczynski, Akitomo Yasunaga, Tomoya Hanibuchi, Tomoki Nakaya, Gavin R. McCormack, and Koichiro Oka
掲載日 2024年5月17日
DOI 10.1136/bjsports-2024-108146

令和6年5月31日

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