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現代スポーツ科学における建造環境デザインが果たす役割

現代スポーツ科学における建造環境デザインが果たす役割

ポイント

  • アスリート中心のトレーニング建造環境デザインの構築
  • ファンやコミュニティとのエンゲージメントの強化
  • 統合的なアクセシビリティ整備
 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)創造社会デザイン研究領域のクサリ・モハマドジャバッド(KOOHSARI MohammadJavad)准教授、サウスカロライナ大学(米国)のAndrew T. Kaczynski准教授、早稲田大学スポーツ科学学術院の宮地元彦教授、岡浩一朗教授らの研究グループは、「アスリート中心のトレーニング建造環境デザインの構築」、「ファンやコミュニティとのエンゲージメントの強化」、「統合的なアクセシビリティの整備」のために設計された環境がアスリートのパフォーマンスをどのように向上させるかについて研究しました。
 本研究の斬新な視点は、現状に疑問を投げかけ、政策立案者や教育者がスポーツ科学における建造環境デザインの可能性を再考する必要があることを示唆しました。

【研究の背景と具体的な研究の内容】

 近年、スポーツ科学の分野では運動パフォーマンスの最適化が注目されています。しかし、主に身体的トレーニング、集中力、栄養、回復力など、すべてが重要な役割を果たす様々な要素の存在により、この目標を達成することは困難です。このような多面的な課題についての洞察を得るには、パフォーマンスの向上に向けて、筋肉や器具だけを中心としたアプローチだけでは不十分です。むしろ、パフォーマンスを最適化するための効果的な戦略を考案するには、学際的な視点が不可欠です。
 本研究では、都市デザインの観点から、建物、公園、スタジアムがアスリートのパフォーマンス向上にどのように役立つかを考える特別な視点が得られます。先行研究では、これら空間のデザインが人々の健康行動に影響を与え、それによって運動方法や摂取する食事に影響することもわかっています。しかし、建造環境のデザインがアスリートのパフォーマンスに与える影響は解明されていません。

【研究成果の概要】

 建造環境設計がアスリートのパフォーマンスに与える影響に関して、以下3つの視点から、具体的な研究の方向性と課題を整理しました。

  • アスリート中心のトレーニング建造環境デザインの構築
     建造環境デザインを工夫することにより、アスリートのニーズを優先したアスリート中心の環境を作り出すことができます。オープンエアのラウンジ、人間工学に基づいた家具、緑を備えたトレーニング施設等を設計するといった「アスリートのための余暇(リラクセーション)空間」や、特別な回復エリアや空間レイアウトを設計するような「個別化されたトレーニングゾーン」は、トレーニングの合間に休憩を取り、回復することもできます。さらに、そのような建造環境は、アスリートのタイプごとに独自の空間デザインを持つこともできます。これらの機能は、アスリートのパフォーマンス向上に重要な役割を果たすと思われます。
  • ファンやコミュニティとのエンゲージメントの強化
     2013年にブラジルで開催されたFIFAコンフェデレーションズカップ中に実施された調査では、スタジアムや都市中心部の交通手段が利用しやすくなれば、より多くのファンがスポーツイベントに参加するようになることを示しています。スポーツ会場と都市部をつなぐ安全で利用しやすい自転車道や歩道に代表される「アクティブな交通インフラ」の整備や、スポーツ施設に隣接する活気あるスペースを設計するような「コミュニティ参加ゾーン」の整備は、ファンやコミュニティとのエンゲージメントを醸成し、ファンやコミュニティからのサポートを受けることで、結果としてアスリートのモチベーションを高め、パフォーマンスの向上を図ることが期待できます。
  • 統合的なアクセシビリティの整備
     本研究では、医療センターの近くにスポーツ施設を設置することや、様々なスポーツ施設を結ぶ効率的な公共交通手段の整備、そして都市中心部にスポーツスタジアムを開発する便益についても検討しました。これにより、アスリートのパフォーマンスを向上させるだけでなく、周辺住民のウェルビーイングや行動にも改善がもたらされる可能性があることが分かりました。

 現在、日本各地で企業が建設して運営を手掛ける民設民営のスポーツ施設が続々と開業しつつあります。このような状況の中、本研究で議論したスタジアムやアリーナ、さらには周辺施設やその近隣環境を含めた建造環境デザインは政策立案者にとって重要であり、都市デザイン要素とスポーツ施設を統合する際の考慮事項となります。したがって、スポーツ科学、都市デザイン、環境心理学の研究者が協力し、共同でこの建造環境デザインの課題に取り組むことが重要です。

 本研究成果は、2024年3月14日に、学術雑誌「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」(オンライン版)に掲載されました。

【今後の課題】

 今後の研究の方向性として、アスリートのパフォーマンスに影響を及ぼす他の因子と比較した場合の建造環境の相対的な寄与を定量化すること、建造環境施設やインフラの開発・実施に必要な財政的・時間的投資について検討すること、建造環境内におけるアスリートのパフォーマンスを評価するための特定の評価基準を開発することなどの課題があります。

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イメージ図. 建造環境デザインが現代のスポーツ科学に与える影響
住宅やスタジアムなどの建造環境や人工空間が、パーソナライズされたアクセスしやすいデザインを備えていれば、
アスリートのパフォーマンスが最適化されます。
Openverseより引用]

 なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究(C)(23K09701)、基盤研究(B)(20H04113)の助成を受けて実施しました。

【論文情報】

雑誌名 BMJ Open Sport & Exercise Medicine
題 目 Building on Muscles : How Built Environment Design Impacts Modern Sports Science
著 者 Mohammad Javad Koohsari, Andrew T. Kaczynski, Motohiko Miyachi, and Koichiro Oka
掲載日 2024年3月14日
DOI 10.1136/bmjsem-2024-001908

令和6年4月10日

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