睡眠の質改善に向けた身体活動の重要性を解明 -日本人中年女性の良質な睡眠のためのライフスタイルを実証-
国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 学校法人早稲田大学 |
睡眠の質改善に向けた身体活動の重要性を解明
-日本人中年女性の良質な睡眠のためのライフスタイルを実証-
ポイント
- これまでの研究によって示されている良質な睡眠を促すための身体活動の重要性を、日本人中年者を対象に初めて実証的に示した。
- 特に日本人中年女性では、日常生活において、座位行動や軽い強度の身体活動を減らす代わりに、中程度から高い強度の身体活動を増やすことが、睡眠の質の改善につながることを明らかにした。
- 日常生活にスポーツなどを取り入れた活動的なライフスタイルの構築が、睡眠障害の予防につながることを示唆し、今後の睡眠障害の予防に関する研究に寄与することが期待される。
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)創造社会デザイン研究領域のクサリ モハマドジャバッド(KOOHSARI MohammadJavad)准教授ならびに早稲田大学(総長・田中愛治、東京都新宿区)スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授と石井香織教授らの研究グループは、日本人中年者を対象に、日常生活における座位(座っている状態)での行動や身体活動と睡眠の質との関連について調査を行い、1日60分の座位行動や低強度の身体活動を減らす代わりに、60分の中高強度の身体活動を増やすことが、特に日本人中年女性の睡眠の質の改善につながることを明らかにした。 |
【研究の内容と背景】
睡眠障害は世界中に蔓延しており、日本だけではなく、世界中の多くの人々が、不眠症等の睡眠障害に苦しんでいることが報告されている。睡眠障害は、人々の身体的・精神的な健康に悪影響を及ぼすことから、睡眠の質を改善させる要因を明らかにすることが公衆衛生上の喫緊の課題となっている。
その課題に対し、以前から栄養バランスのとれた食事や身体活動の増進などの健康的なライフスタイルが、良質な睡眠を促す可能性が研究されているが、日本人中年者を対象とした、座位行動を含めた1日の身体活動と睡眠の質との関連を体系的に検討した研究の例は少ない。また、1日の生活の中で、具体的にどのような活動の時間を減らし、どのような活動の時間を増やすことが睡眠の質の改善につながるのかは明らかになっていない。
今回、北陸先端科学技術大学院大学のクサリ准教授(早稲田大学兼任研究員)は、早稲田大学の岡浩一朗教授、石井香織教授、文化学園大学の安永明智教授、筑波大学の柴田愛准教授、国立台湾師範大学(台湾)のYung Liao教授、カルガリー大学(カナダ)のGavin R. McCormack准教授、北陸先端科学技術大学院大学の永井由佳里教授と共同で、さまざまな健康課題に直面する日本人中年者に焦点をあて、座位行動や身体活動が睡眠の質に与える影響について実証的に検討を行った。
本研究は、日本の2つの都市(東京都江東区、愛媛県松山市)それぞれに在住する40~64歳の成人日本人のうち、同意を得た683人 を対象に実施した。対象者の睡眠の質については、調査票を用いて調査し、また、座位行動や身体活動については、活動量計を使用し、対象者の身体活動レベルを7日間モニターするなど、客観的かつ精確に評価した。具体的には、Isotemporal Substitutionアプローチと呼ばれる統計手法を用いて評価し一定時間の座位行動や低強度の身体活動を、等量の中高強度の身体活動に置き換えた場合の睡眠の質への影響について検討を行った。
その結果、1日60分の座位行動もしくは低強度の身体活動を減らし、その減らした分の時間を中高強度の身体活動に置き換えることが、特に日本人中年女性の睡眠の質の改善につながるに良い影響を与えることが示された。この身体活動と睡眠の質との関係は、女性のみに示された。
これらの調査結果は、睡眠の質を改善するためには、日常生活においてスポーツや運動などの中程度から高い強度の身体活動の時間を増やしていくことが重要であることを示唆しており、このことから、日本人中年者の睡眠障害の予防に向けて、活動的なライフスタイルを構築していくことが重要であると考えられる。また、今後の睡眠障害の予防に関する研究に寄与することが期待される。
本研究成果は、2023年1月20日、英国ネイチャー・リサーチ社が発行する学術誌「Scientific Reports」のオンライン版で発表された。
【論文情報】
雑誌名 | Scientific Reports 13,1180 |
題目 | Sedentary behaviour and sleep quality |
著者 | Mohammad Javad Koohsari, Akitomo Yasunaga, Gavin R. McCormack, Ai Shibata, Kaori Ishii, Yung Liao, Yukari Nagai, Koichiro Oka |
掲載日 | 2023年1月20日 |
DOI | 10.1038/s41598-023-27882-z |
図1. 健康に悪影響を及ぼす睡眠障害は世界中に蔓延している。
(photo by Blondinrikard Fröberg [flickrより引用])
図2. 活発な身体活動が日本人中年女性の睡眠の質を改善する。
(freepikより引用)
令和5年1月31日