また次々と新しい高温超伝導体をデータ科学の手法で予測
また次々と新しい高温超伝導体をデータ科学の手法で予測
ポイント
- データ科学的手法とスーパーコンピュータシミュレーションの連携によって、高温超伝導を実現する水素化合物の新しい結晶構造が次々と解明されている。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)サスティナブルイノベーション研究領域の前園 涼教授、本郷 研太准教授、中野 晃佑助教らのグループではスーパーコンピュータシミュレーションで新しい水素化物高温超伝導体物質を予測する研究を続けているが、これまでに発見した[La/Y系](2021年12月13日 JAISTからプレス発表)、[Y/Mg系](2022年1月25日 JAISTからプレス発表)、[Mg/Sc系](2022年2月8日 JAISTからプレス発表)に引き続き、また新たな水素化合物[Y/Ce系]、[La/Ce系]で超伝導体が見つかった。 3種の元素を組み合わせた超伝導体予測は、組み合わせが大量で難しい問題であるが、世界中で精力的に超伝導体探索の競争が繰り広げられる中、データ科学の手法をスーパーコンピュータシミュレーションと組み合わせて次々と新しい組み合わせの発見が続く快挙となっている。 |
【背景と経緯】
超伝導(電気抵抗ゼロ)現象は、エネルギー損失のない送電、電気供給なしでの電磁力保持など、社会や産業にインパクトをもたらす技術原理である。しかしながら、物質をマイナス200度以下といった転移温度以下に冷やさないと超伝導は発現しない。このため、転移温度を高め、低い冷却コストで実現する超伝導体の模索が半世紀近くに亘って続けられている。
より低コストな冷却で超伝導になりそうな物質(高温超伝導体)として、水素を含んだ結晶体が候補とされてきた。最近では、コンピュータミュレーションを使って、どのような元素を水素と組み合わせたときに、低コスト冷却の超伝導体が実現できるかを予測する研究が盛んに行われてきた。
【研究の内容】
北陸先端科学技術大学院大学サスティナブルイノベーション研究領域の前園 涼教授は、同大学の本郷 研太准教授、中野 晃佑助教らとともに、同大学が保有するスーパーコンピュータシステムを活用して、より低い冷却コストで超伝導になりうる物質を発見した。元素の組み合わせを2種から3種と増やしていくと、低コスト冷却に向けた未知の可能性は広がるが、組み合わせが膨大となりコンピュータ予測の難しい問題となる。研究グループでは遺伝的アルゴリズム[*用語解説]と呼ばれるデータ科学の手法を用いて、実現性スコアの高い構造が選択されやすいような探索技術の活用に取り組んでいる。本研究グループではこの手法を用いて、これまでに「La(ランタン)とY(イットリウム)」、「YとMg(マグネシウム)」、「MgとSc(スカンジウム)」といった2種類の元素と水素を組み合わせた三元化合物(例えば、LaとYとH(水素)の3種類からなる化合物)で実現する超伝導体の構造を次々と予測してきた。
このたび「LaとCe(セリウム)」、「YとCe」からなる三元化合物についても、新しい高温超伝導体をコンピュータで予測し、結晶構造を解明した。(図)
本研究成果は、2022年10月5日(英国時間)にエルゼビア社発行の科学雑誌「Materials Today Physics」のオンライン版に掲載された。
図 コンピュータシミュレーションを用いて新しく発見された、
Y(イットリウム)とCe(セリウム)とH(水素)からなる超伝導体の構造
【今後の展開】
コンピュータシミュレーションを用いることにより、いろいろな元素を組み合わせて、未知の結晶構造が安定に存在できるかどうかを予測することができる。研究グループでは、「超伝導が発生する温度をなるべく高くなるような(さほど冷やさなくても発生するような)」元素の組み合わせを探索するシミュレーションに取り組み、これまでも次々と新構造の化合物の予測に成功してきたが、その他にも所望の特性向上を実現するような新しい元素の組み合わせを予測することができる。これにより、超伝導材料の更なる研究開発の加速が期待される。
【論文情報】
掲載誌 | Materials Today Physics |
論文題目 | Potential high-Tc superconductivity in YCeHx and LaCeHx under pressure (Ce系水素化物の高圧化超伝導) |
著者 | Peng Song, Zhufeng Hou, Kousuke Nakano, Kenta Hongo, Ryo Maezono |
掲載日 | 2022年10月5日(英国時間) |
DOI | 10.1016/j.mtphys.2022.100873 |
【用語解説】
コンピュータのプログラミングにおいて、染色体の交叉・突然変異・自然淘汰といった生物の遺伝子の振る舞いと役割を模すことにより解を求める手法。
【リンク】
研究室 (日/英)
[https://www.jaist.ac.jp/is/labs/maezono-lab]
令和4年11月11日