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リチウムイオン電池の熱暴走を抑制するナノレベル材料設計技術を開発

リチウムイオン電池の熱暴走を抑制するナノレベル材料設計技術を開発

ポイント

  • 材料にナノレベルの元素添加を行って熱暴走に強いリチウムイオン電池を設計できる技術を開発した。
  • 熱暴走がどのような化学反応式で表現されるかという可能性を絞り込み、コンピュータシミュレーションに持ち込むことで、多大な可能性を高速に探索し、「この元素を添加すれば、もっとも抑制効果が大きい」という予測を立てることに成功した。

【背景と経緯】
 スマートフォンやパソコンのバッテリーなど身近なところで使用されているリチウムイオン電池には、熱暴走による発火や爆発の危険が存在します。電極材料に別の金属イオンを添加し元素置換すると熱暴走が抑制されるという報告は知られていましたが、どのようなメカニズムで抑制されるのかはよく解明されていませんでした。そのため、どのような金属元素を添加すれば最も熱暴走を抑制する効果が高いのかについては、気の遠くなるような実験の組み合わせを探索しなければなりませんでした。
 このたび、北陸先端科学技術大学院大学 サスティナブルイノベーション研究領域の前園 涼教授本郷 研太准教授らのグループは、元素添加による熱暴走の抑制を説明するような化学反応のモデルを建てて、これを電子レベルのシミュレーションで取り扱うことにより、実験に依らない網羅的な探索を行いました。その結果、タングステンによる置換が熱暴走抑制に有望であるという予測を得ました。

【研究の内容】
 熱暴走の過程で、電極材料のミクロな原子配列構造は、層状岩塩型からスピネル型を経て立方岩塩型へと変化することがこれまでの実験報告から知られていました。原子配列がわかっていれば、それを満たすような元素比率をある程度絞り込むことができます。研究グループは、この点に注目しました。絞り込まれた元素比率で進むような化学反応式にいくつかの候補を建てて、熱分析の実験結果などと矛盾しないような化学反応式を更に絞り込みました。
 化学反応式がわかると、反応前後のエネルギーをシミュレーションで計算することができます。エネルギーが高くなるような反応は進みづらく、逆にエネルギーが下がるような反応は勝手に進んでしまい熱暴走のような事態を招きます。置換元素を色々に取り替えてみては、反応エネルギー変化をシミュレーションするという自動プログラムを駆使した結果、「最終的にはエネルギーが高くなるが、最初の段階でエネルギーが下がって熱暴走が進んでしまうような置換元素」、「全体的にはエネルギーは高くなるが、その変化高が少なく、熱暴走抑制にはあまり効果的ではない置換元素」といった特色を明らかにすることができました。その結果、タングステンによる置換が最も効果的で、化学反応の全体に亘って大きなエネルギー上昇を与え、したがって熱暴走反応が進みづらくなる効果が得られるということを解明しました(図)。
 本研究成果は、2022年5月16日(米国東部標準時間)に米国化学会の科学雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」のオンライン版に掲載されました。

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 電極材料のミクロな原子配列構造に別元素を添加して熱暴走を抑制する(左図)。
 熱暴走の化学反応により原子配列はスピネル型(Spinel)から岩塩型(Rocksalt)に変化するが(右図)、その過程でエネルギーが高くなるか低くなるか(右図縦軸)をシミュレーションで評価することができる。リン(P)やタンタル(Ta)を添加するとエネルギーは岩塩構造に至る最終過程では大きく上昇するが、スピネル型に至る出だしのところで低下するため反応が進んでしまう。一方、タングステン(W)を添加すると、出だしの反応でエネルギーが上昇するため、反応は進みづらくなり、最後に岩塩構造に至る過程では高いエネルギー上昇を伴うため発火や爆発の危険は大きく抑えられる(シミュレーションによる予測)。

【今後の展開】
 熱暴走の化学反応モデルが絞り込まれた意義は大きく、これによって、従来のような試行錯誤による実験的な材料探索を、シミュレーションによる系統的探索に置き換えることができます。今後は研究グループが得意とするデータ科学的な探索方法と結びつけて、コンピュータ科学によって、より性能の良い電池材料をナノレベルで設計し開発していくことができます。

【論文情報】

掲載誌 ACS Applied Materials & Interfaces
論文題目 Computational Design to Suppress Thermal Runaway of Li-Ion Batteries via Atomic Substitutions to Cathode Materials
(リチウムイオン電池の熱暴走を抑制するナノレベル材料設計)
著者 Yuki Yoshimoto, Takahiro Toma, Kenta Hongo, Kousuke Nakano, Ryo Maezono
掲載日 2022年5月16日(米国東部標準時間)
DOI 10.1021/acsami.2c01607

【リンク】

前園研究室 (日/英) [https://www.jaist.ac.jp/is/labs/maezono-lab]

令和4年5月25日

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