高温超伝導を実現する水素化合物の新しい構造をコンピュータシミュレーションで次々と解明
高温超伝導を実現する水素化合物の新しい構造を
コンピュータシミュレーションで次々と解明
ポイント
- スーパーコンピュータシミュレーションによって、高温超伝導を実現する水素化合物の新しい結晶構造が次々と解明されている。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST) 環境・エネルギー領域の前園 涼教授、本郷 研太准教授、中野 晃佑助教らのグループではスーパーコンピュータシミュレーションで新しい水素化物高温超伝導体物質を予測する研究を続けているが、これまでに発見した[La/Y系]「高温超伝導を実現する水素化合物の新しい構造を解明」(2021年12月13日 JAISTからプレス発表)に引き続き、また新たな水素化合物[Y/Mg系]で超伝導体が見つかった。 3種の元素を組み合わせた超伝導体予測は、組み合わせが大量で難しい問題であるが、データ科学の手法を用いてこの問題を解決した。 |
【背景と経緯】
超伝導(電気抵抗ゼロ)現象は、エネルギー損失のない送電、電気供給なしでの電磁力保持など、社会や産業にインパクトをもたらす技術原理である。しかしながら、物質をマイナス200度以下といった転移温度以下に冷やさないと超伝導は発現しない。このため、転移温度を高め、低い冷却コストで実現する超伝導体の模索が半世紀近くに亘って続けられている。
より低コストな冷却で超伝導になりそうな物質(高温超伝導体)として、水素を含んだ結晶体が候補とされてきた。最近では、コンピュータミュレーションを使って、どのような元素を水素と組み合わせたときに、低コスト冷却の超伝導体が実現できるかを予測する研究が盛んに行われてきた。
【研究の内容】
北陸先端科学技術大学院大学 環境・エネルギー領域の本郷 研太准教授は、前園 涼教授、中野 晃佑助教らとともに、同大学が保有するスーパーコンピュータシステムによるシミュレーションを活用して、より低い冷却コストで超伝導になる物質を発見した。元素の組み合わせを2種から3種と増やしていくと、低コスト冷却に向けた未知の可能性は広がるが、組み合わせが膨大となり、コンピュータ予測の難しい問題となる。グループでは遺伝的アルゴリズム*と呼ばれるデータサイエンスの手法を用いて、実現性スコアの高い構造が選択されやすいような探索技術の活用に取り組んでいる。2種構成化合物の範囲内では、ランタン(La)、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)といった元素が低コスト冷却を実現する材料に利用されている。そこで、これらを組み合わせた3種構成化合物を探索したところ、前回発見された[La/Y系]に引き続き、[Y/Mg]の組み合わせでもカゴ状の化合物をブロック状に組み上げた新しい構造で、低コスト冷却の超伝導体が実現する可能性を示した(図)。
本研究成果は、2022年1月18日(米国東部標準時間)に科学雑誌「Advanced Theory and Simulations」のオンライン版に掲載された。
図 コンピュータシミュレーションを用いて新しく発見された超伝導体の構造。かご状構造からなる構造が、転移温度の高い超伝導体を実現することが計算によって示された。
【今後の展開】
コンピュータシミュレーションを用いることにより、いろいろな元素を組み合わせて、未知の結晶構造が安定に存在できるかどうかを予測することができる。研究グループでは、「超伝導が発生する温度をなるべく高くなるような(さほど冷やさなくても発生するような)」元素の組み合わせを探索するシミュレーションを続け次々と新構造の解明に成功しているが、その他にも所望の特性向上を実現するような新しい元素の組み合わせを予測することができる。これにより、超伝導材料の更なる研究開発を加速させることができる。
【論文情報】
掲載誌 | Advanced Theory and Simulations |
論文題目 | The Systematic Study on the Stability and Superconductivity of Y-Mg-H Compounds under High Pressure(Y-Mg-H化合物系における高圧構造の安定性と高温超伝導発現機構の系統的研究) |
著者 | Peng Song, Zhufeng Hou, Pedro Baptista de Castro, Kousuke Nakano, Yoshihiko Takano, Ryo Maezono, Kenta Hongo |
掲載日 | 2022年1月18日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1002/adts.202100364 |
【用語解説】
*遺伝的アルゴリズム:
コンピュータのプログラミングにおいて、染色体の交叉・突然変異・自然淘汰といった生物の遺伝子の振る舞いと役割を模すことにより解を求める手法。
【リンク】
- 研究室 (日/英) [https://www.jaist.ac.jp/is/labs/maezono-lab]
令和4年1月25日