触媒遺伝子「触媒シークエンシング」を発見 ~触媒インフォマティクスを駆使した新しい触媒開発に成功~
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触媒遺伝子「触媒シークエンシング」を発見
~触媒インフォマティクスを駆使した新しい触媒開発に成功~
ポイント
- 触媒遺伝子「触媒シークエンシング」を触媒ビッグデータから発見。
- 触媒組成を従来の周期表の元素記号ではなく、ゲノム配列のように記号で表現。
- 触媒遺伝子を用いた触媒設計を提案し、実験実証に成功。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の髙橋 啓介准教授、髙橋 ローレン学術研究員、藤間 淳特任准教授、宮里 一旗特任助教らの研究グループは、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科物質化学領域の谷池 俊明教授らと共同で、触媒遺伝子「触媒シークエンシング」を触媒ビッグデータから発見しました。 これまで触媒組成は周期表の元素記号で表現されてきましたが、反応場での真の触媒の状態は複雑なため、触媒組成を記述する真の触媒記述子*1の決定が困難を極めています。そのため機械学習などを用いる触媒インフォマティクス*2において、触媒物性を記述する上で情報的制約がありました。 そこで本研究では、独自に開発したハイスループット実験装置で得られたメタン酸化カップリング反応の触媒ビッグデータに対して、触媒インフォマティクス・信号処理*3・パターン認識*4・自然言語処理*5を駆使し、新たな触媒の記述方法である「触媒の遺伝子」を定義し提案しました。この「触媒の遺伝子」を用いることで、触媒組成の情報を、生物の塩基配列のように記号で表現することが可能となります。この触媒特有の配列を「触媒シークエンシング」と名付けました。この「触媒シークエンシング」を用いると、従来の元素記号での表記では全く異なる触媒組成であっても、同じ機能を持つ触媒は同じ「触媒の遺伝子」として表現することが可能となります。触媒組成は周期表の元素記号で表現されるのが一般的でしたが、本研究により提案された「触媒遺伝子」により、今後触媒は「触媒シークエンシング」で記述することが可能となります。 この「触媒遺伝子」の有効性を確認するため、同じ「触媒遺伝子」を持つ触媒群の元素を再編成することにより、同じ触媒遺伝子を持つ触媒の設計を行い、実験実証にも成功しました。結果、高いC2収率を達成する新規触媒が発見でき、「触媒遺伝子」が触媒設計に大変有用であることが証明されました。また発見された触媒が既知の触媒と似た遺伝子を持っているのか、もしくは全く新種の触媒遺伝子なのかなど、バイオインフォマティクスで見られる遺伝子解析のような、全く新しい視点での触媒情報の解析が可能となり、より発展的かつ実用的な適用が期待できます。 本研究成果は、米国東部時間2021年7月30日(金)午前6時公開のThe Journal of Physical Chemistry Letters誌にてオンライン版が掲載されました。 |
【背景】
マテリアルズインフォマティクス・触媒インフォマティクスの登場により材料・触媒科学は大きな転換期を迎えています。マテリアルズインフォマティクス・触媒インフォマティクスでは、第4の科学であるデータ科学を用い、材料・触媒データのパターンから材料・触媒設計を行います。そのような中、触媒組成は周期表の元素記号で表現されてきましたが、反応場での真の触媒の状態は複雑なため、触媒組成を記述する真の触媒記述子の決定が困難を極めています。そのため機械学習などの触媒インフォマティクスにおいて、触媒組成の記述方法が大きな障壁となっています。周期表の元素記号に頼らず、触媒の特徴を反映した触媒組成の記述方法を決定する必要があります。
【研究手法】
独自開発したハイスループット実験装置で得られたメタン酸化カップリング反応の触媒ビッグデータを用い、触媒インフォマティクス・信号処理・パターン認識・自然言語処理を駆使し、触媒ビッグデータに隠されているパターンから「触媒の遺伝子」を提案しました。
【研究成果】
発見された「触媒の遺伝子」は生物の塩基配列のように記号で表現することができます。この触媒特有の配列を「触媒シークエンシング」と名付けました(図1)。この「触媒シークエンシング」を用いると、従来の元素記号での表記では全く異なる触媒組成であっても、同じ機能を持つ触媒は同じ「触媒の遺伝子」として表現することが可能となります。「触媒遺伝子」を持つ触媒群の元素を再編成することにより、同じ触媒遺伝子を持つ触媒の設計を行い、実験実証にも成功しました。
【今後への期待】
今回提案した「触媒遺伝子」は、様々な触媒データに適用することにより、発見された触媒が既知の触媒と似た遺伝子を持っているのか、もしくは全く新種の触媒遺伝子なのかなど、バイオインフォマティクスで見られる遺伝子解析のような、全く新しい視点での触媒情報の解析が可能となります。したがって、触媒インフォマティクスにおける触媒データの取り扱い手法の基盤技術として、より発展的かつ実用的な適用が期待できます。
【謝辞】
なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田 渉)における「実験・計算・データ科学の統合によるメタン変換触媒の探索・発見と反応機構の解明・制御」(研究代表者:髙橋 啓介)の支援を受けて行われました。
【参考図】
図1 発見された触媒遺伝子-触媒シークエンシング
【論文情報】
論文名 | Catalysis Gene Expression Profiling: Sequencing and Designing Catalysts(触媒遺伝子発現プロファイリング:触媒シークエンシングと設計) |
著者名 | 髙橋 啓介1 、藤間 淳1、宮里 一旗1、中野渡 淳2、藤原 綾2、Thanh Nhat Nguyen2、谷池 俊明2、 髙橋 ローレン1(1北海道大学大学院理学研究院、2北陸先端科学技術大学院大学) |
雑誌名 | The Journal of Physical Chemistry Letters(物理化学の専門誌) |
DOI | 10.1021/acs.jpclett.1c02111 |
公表日 | 日本時間2021年7月30日(金)午後8時(米国東部時間2021年7月30日(金)午前6時)(オンライン公開) |
【用語解説】
*1 触媒記述子...触媒の特徴を数値化して表現したもの。
*2 触媒インフォマティクス...データ科学手法を用いて触媒設計・触媒解析を行う学問。
*3 信号処理...信号を数理処理によって解析・処理する技術。
*4 パターン認識...データの中から規則性を取り出す技術。
*5 自然言語処理...言語や記号をコンピューターで処理する技術。
令和3年8月2日