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ビッグデータが拓く新時代の触媒化学

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北陸先端科学技術大学院大学
北海道大学
熊本大学
科学技術振興機構

ビッグデータが拓く新時代の触媒化学

ポイント

  • ハイスループット触媒評価装置による材料ビッグデータの取得
  • データ科学に立脚した触媒とプロセスの同時設計
 北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、先端科学技術研究科物質化学領域の谷池俊明准教授西村俊准教授らは北海道大学(総長・名和豊春、北海道札幌市)の髙橋啓介准教授、熊本大学(学長・原田信志、熊本県熊本市)の大山順也准教授らと共同で、ハイスループット実験・材料ビッグデータ・データ科学を基盤とした触媒インフォマティクスを実現することに成功した。

 近年、自然科学においても人工知能(AI)という言葉が頻繁に聞かれるようになった。特に、機械学習などのデータ科学的な方法論を駆使し、材料科学の研究開発を飛躍的に加速せんとする試みをマテリアルズインフォマティクス(MI)と呼ぶ。我々は、MIを触媒開発に利用することを試み、メタンの酸化カップリング反応(OCM)*1において、日に4000点もの触媒データを自動取得可能なハイスループット触媒評価装置*2を設計し、これを用いて過去30年で蓄積されたデータ数を一桁上回る12000点ものデータをわずか3日で取得することに成功した。さらに、得られた触媒ビッグデータを機械学習などによって分析し、その結果に基づいて固体触媒や反応プロセスを通してOCMの反応収率を大きく改善することに成功した。
 MIは概念的な意味では良く研究されてきたが、これが真に材料科学に革新をもたらすか否かは、質・規模共に十分な材料データが用意できるかどうかにかかっていた。
これまで研究者らが科学論文という形で積み上げてきたデータは、研究者の実験方法や興味を強く反映しており、また、性能の低い材料データを含まず、機械学習には不向きであった。我々はハイスループット実験によってこの問題を突破し、30年の研究が、実働1ヵ月に満たない短期間で実施できることを実証した。今後、同様な方法論がさまざまな材料分野における研究開発を飛躍的に加速させ、人類社会の持続的な発展に大きく貢献する材料を次々と生み出していく時代が来ると期待される。
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 本成果は、2019年12月25日0時(米国東部標準時間)にACS Publications発行「ACS Catalysis」のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括: 上田渉)における「実験・計算・データ科学の統合によるメタン変換触媒の探索・発見と反応機構の解明・制御」(研究代表:髙橋啓介)の支援を受けて行われた。

【論文情報】

掲載誌 ACS Catalysis (ACS Publications)
論文題目 High-Throughput Experimentation and Catalyst Informatics for Oxidative Coupling of Methane
著者 Thanh Nhat Nguyen, Thuy Phuong Nhat Tran, Ken Takimoto, Ashutosh Thakur, Shun Nishimura, Junya Ohyama, Itsuki Miyazato, Lauren Takahashi, Jun Fujima, Keisuke Takahashi, Toshiaki Taniike
掲載日 2019年12月25日0時(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載
DOI 10.1021/acscatal.9b04293

【用語解説】
*1 メタンの酸化カップリング反応(OCM)
普遍的に存在するメタンはそのままでは化学的な有用性が低く、これを触媒によって別の有用化合物へ変換することが望ましい。メタンの酸化的カップリングとは、メタンと酸素分子の反応を通してエタンやエチレンを直接合成する高難度反応である。

*2 ハイスループット触媒評価装置
実験の回転速度をスループットと呼ぶ。ハイスループット実験装置とは高度な並列化や自動化によってスループットを劇的に改善する装置を指す。

令和元年12月25日

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