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汎用プラスチックの極細繊維で圧力センシング -ウェアラブルな生体動作センサーや発電素子の低コスト化と省工程化に貢献-

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汎用プラスチックの極細繊維で圧力センシング
-ウェアラブルな生体動作センサーや発電素子の低コスト化と省工程化に貢献-

1.発表者:
石井 佑弥(京都工芸繊維大学繊維学系 助教)
栗原 慎太郎(京都工芸繊維大学工芸科学研究科先端ファイブロ科学専攻 博士前期課程2年)
北山 流星(京都工芸繊維大学工芸科学研究科先端ファイブロ科学専攻 博士前期課程2年)
酒井 平祐(旧所属:北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科応用物理学領域 講師)
     (現所属:国士舘大学理工学部電子情報学系 准教授)
仲林 裕司(北陸先端科学技術大学院大学ナノマテリアルテクノロジーセンター 技術専門職員)

2.発表のポイント:

  • フィルムでは圧電挙動を示さない汎用プラスチックが、電界紡糸法による極細繊維化により、高度の圧電特性(正圧電特性)を示すことを世界に先駆けて明らかにし、この発現メカニズムも解明した。  
  • これまでは、フィルムでも圧電性を示す圧電プラスチックのみが、電界紡糸法による極細繊維化により圧電特性を示すことが知られていた。本発見は、この固定概念を覆す新発見である。
  • 高価な圧電プラスチックに限定されずに、安価な汎用プラスチックで高感度な圧力センサーや発電素子を製造できる可能性が示された。ポーリングが不要なため、作製プロセスの省工程化も期待できる。

3.発表概要:
 京都工芸繊維大学の石井佑弥助教、栗原慎太郎博士前期課程生、北山流星博士前期課程生、国士舘大学の酒井平祐准教授、北陸先端科学技術大学院大学の仲林裕司技術専門職員らの共同研究チームは、フィルムでは圧電(注1)挙動を示さない汎用プラスチック(ポリスチレン)が、電界紡糸法(注2)による極細繊維化のみにより、高度の圧電特性(正圧電特性)を示すことを世界に先駆けて明らかにしました。さらに、その発現メカニズムも解明しました。これまで圧電繊維の研究領域では、フィルムでも圧電性を示すいわゆる圧電プラスチック(ポリフッ化ビニリデンなど)を電界紡糸法により極細繊維化し、これらの圧電特性が多数報告されている状況でしたが、本発表は材料選択の可能性を大きく広げる発見です。本発見は、例えば高価な圧電ポリマーに限定されずに、安価な汎用ポリマーで高感度な圧力センサーや発電素子を製造できる可能性を示しました。加えて本繊維体は、通常の圧電材料に必要なポーリング(注3)などの後処理を必要としないため、作製プロセスの省工程化や省エネルギー化が期待されます。

4.発表内容:
 近年IoTが注目されるなか、動作情報を電気信号に変換しセンシングする、もしくは発電する圧電素子が大きな注目を集めています。これまでに、圧電特性の高さからチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミック系圧電材料が広く普及してきましたが、今後大きな需要が予想される生体センシングの点では、より着用感の快適なフレキシブルかつ軽量なセンサーが求められます。他方、フィルムでも圧電性を示す圧電プラスチック[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン/三フッ化エチレン(PVDF-TrFE)、ポリ-L-乳酸(PLLA)など]のフィルムや、多孔性プラスチックフィルムのエレクトレット(注4)がフレキシブルな圧電素子として開発されていますが、圧電特性がPZTに比べて低い、もしくはポーリングが必要などプロセス上の煩雑さがありました。

 一方で、圧電性を示すプラスチックナノ/マイクロ繊維(プラスチックナノ/マイクロ圧電繊維)は、フレキシブルかつ極軽量、また通気性に優れるため着用感の快適なセンサーとして有望な新素材です。2010年に電界紡糸法で作製した圧電プラスチック(PVDF)からなるナノ繊維が圧電特性を示すことが報告されて以降、圧電プラスチックからなるナノ/マイクロ圧電繊維に関する研究が数多く報告され、また圧電性の発現メカニズムはフィルムと同様のメカニズムで説明されている状況でした。

 このような世界的な潮流のなか、当該共同研究チームは、フィルムでは圧電挙動を示さない汎用プラスチック(ポリスチレン)が、電界紡糸法による極細繊維化のみにより、既成概念に反して高度の圧電特性(正圧電特性)を示すことを世界に先駆けて明らかにしました。加えて、その発現メカニズムも初めて解明しました。これまでに、石井助教らの共同研究チームは、フィルムでは圧電挙動を示さないプラスチック(ポリメタクリル酸メチルなど)からなる電界紡糸ナノ/マイクロ繊維のアクチュエータ動作を世界に先駆けて報告してきましたが、圧力センサーや発電素子への応用に直接関係する圧電特性(正圧電特性)や、動作メカニズムは世界的に報告例がない状況でした。

[具体的な実験方法と実験結果]
 初めに、ポリスチレン溶液から、電界紡糸法により不織布状のポリスチレン繊維膜(図1)を作製しました。同繊維の平均直径は3.88 μm、平均膜厚は121.6 μmでした。次に、この繊維膜の圧電特性を、新規に開発した圧電特性評価装置[リードテクノ株式会社(滋賀県大津市)と共同開発.特許出願済み]を用いて評価しました。新規開発の理由は、PZTや圧電ポリマーのフィルムの圧電特性評価に用いられる従来の評価装置では、非常にやわらかい当該繊維膜の評価が困難であったためです。金属平端子を周期的に当該繊維膜に押しあてたときに発生する電荷量を印加した負荷の値で除することにより、見かけの圧電 d 定数を評価しました。なお圧電 d 定数は、圧電性能の指標の一つです。印加負荷が0.05 Nから0.28 Nにおいて、見かけの圧電 d 定数は1400×10-12 C/Nから950×10-12 C/Nと高い値を示すことが分かりました(図2)。なお、圧電ポリマーであるPVDF、PVDF-TrFE、PLLAのフィルムの圧電 d 定数は、d ≤ 40×10-12 C/Nです。本装置は、前記の金属平端子の押し込み深さも同時に測定が可能であるため、当該繊維膜の変形特性からやわらかさを評価したところ、ヤング率(注5)が6.40×103 Paと非常にやわらかい膜であることが分かりました。なお、圧電ポリマーであるPVDF、PVDF-TrFE、PLLAのフィルムのヤング率は1×109 Pa以上です。

 この圧電挙動の発現メカニズムを解明するために、異なる積層方向で当該ポリスチレン繊維膜を積層したときの表面電位(注6)を測定しました(図3)。単層の繊維膜の表面電位は約439 Vであり、電界紡糸で使用した正の高電圧と同極性の表面電位をもつエレクトレットであることが分かりました。次に、2枚の当該繊維膜を順方向積層と逆方向積層し表面電位を測定したところ、順方向積層で約536 Vと増加する一方で、逆方向積層で約-26 Vと相殺されるように大きく減少することが分かりました。以上の結果から、当該繊維膜の上側付近に正電荷が偏って担持され、繊維膜の下側付近に負電荷が偏って担持されたエレクトレット(図4)であることが示され、これが圧電特性の発現メカニズムであることを明らかにしました。

 さらに、多孔性プラスチックフィルムのエレクトレットの解析モデルを応用して、実効的な表面電荷密度を見積ったところ、良好に帯電していることが分かりました。以上の結果と解析モデルの式を照らし合わせることにより、電界紡糸ポリスチレンマイクロ圧電繊維膜が高度の圧電 d 定数を示した理由が、良好に帯電しかつ非常にやわらかい性質に由来することを明らかにしました。なおこの性質は、他のナノ/マイクロファイバー作製法(複合溶融紡糸、メルトブローなど)では発現せず、高電圧を使用する電界紡糸法でのみ発現する性質と考えられます。

 本発見は、例えば高価な圧電ポリマーに限定されずに、安価な汎用ポリマーで高感度な圧力センサーや発電素子を製造できる可能性を示しました。加えて当該繊維膜は、通常の圧電材料に必要なポーリングなどの後処理を必要としないため、作製プロセスの省工程化や省エネルギー化が期待されます。今後は、本圧電繊維からなる圧力センサーまたは発電素子を衣服に実装して、実際の人体の動作センシングや人体の動きによる発電を目指します。

ファンディングエージェンシー:
・文部科学省卓越研究員事業
・JSPS科研費 No. 19K15421
・公益財団法人マツダ財団第34回マツダ研究助成
本発表関連の出願特許:
【発明名称】発電素子および発電素子の製造方法
【出願番号】特願2019-072448

5.発表雑誌:

雑誌名 Smart Materials and Structures
Volume 28, Number 8, 08LT02, 2019
https://dx.doi.org/10.1088/1361-665X/ab2e3a(2019年7月19日web公開)
論文タイトル High electromechanical response from bipolarly charged as-electrospun polystyrene fibre mat
著者 Yuya Ishii, Shintaro Kurihara, Ryusei Kitayama, Heisuke Sakai, Yuji Nakabayashi, Taiki Nobeshima, Sei Uemura
DOI番号 https://dx.doi.org/10.1088/1361-665X/ab2e3a
アブストラクトURL https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-665X/ab2e3a

6.用語解説:
(注1)圧電:本資料では、物体に圧力を加えたときに電荷が生じる現象のことを圧電と表している
(注2)電界紡糸法:プラスチックの溶液もしくは溶融体を高電圧で帯電させ、静電引力によりナノ/マイクロファイバを紡糸する方法
(注3)ポーリング:高電界などを利用して物質内の電荷の偏りの方向をそろえる処理方法
(注4)エレクトレット:半永久的に電荷を保持する材料
(注5)ヤング率:物質のやわらかさや硬さを表す指標の1つ
(注6)表面電位:物質表面の電位

7.添付資料:

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図1 電界紡糸ポリスチレンマイクロ圧電繊維膜サンプルの概説図と各顕微鏡像

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図2 異なる負荷を印加したときの見かけの圧電 d 定数の測定値

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図3 異なる積層方向で当該ポリスチレン繊維膜を積層したときの表面電位測定の概説図

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図4 電界紡糸ポリスチレンマイクロ圧電繊維膜の帯電モデル

令和元年7月29日

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