近年、飛躍的な発展を遂げているAI(人工知能)は、社会の様々な場面での活用が進んでいます。人間情報学研究領域の岡田将吾准教授は、このAI技術によって人間の性格やスキル、感情といった内面状態を分析し、医療や福祉の分野に役立てる研究を行っています。
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人の内面をAIで読み解き、医療の予知検知へとつなげたい。
人間情報学研究領域 岡田将吾准教授
人間のコミュニケーション能力や性格を推定するモデルを構築
人間のコミュニケーションには、言葉を交わしてお互いの考えを理解する「言語コミュニケーション」と、声のトーンや視線、表情、ジェスチャー(身振り手振り)といった言語以外を用いる「非言語コミュニケーション」があります。岡田教授は、そのコミュニケーションの両面に着目したAI研究を進めています。
岡田准教授の研究は、マイクやカメラ、センサーといった測定器を使って、言語情報と非言語情報を収集し、人工知能によってその人のコミュニケーション能力や性格の評価予測を行うというものです。実際に、AIに複数の人事採用経験者の評価を機械学習させ、就職面接の場で学生が行うグループディスカッションでの発言や聞き方動作などの情報から、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力の評価値を推定するというモデルを構築しました。
現在開発している面接訓練システムでは、まずバーチャルエージェントがAIの音声で質問を投げかけます。また、面接を受けるユーザーは、VRゴーグルを使うことでバーチャルな空間上で実際に面接を受けているような臨場感を体験できます。セッションの内容をもとに、AIを使ってユーザーがどのくらい上手に会話ができていたのかを評価し、積極性や自信度、論理性や言葉遣いといった項目で結果を表示します。」
ユーザーの点数は、レーダーチャートの青い部分(上図)として出力され、平均より劣っていた項目については、改善コメントを表示します。就職面接を受ける学生はみな、緊張した状況下で、自分の強みや入社後のキャリアについて上手に話さなくてはなりません。そういった能力を練習する絶好の環境になると考え、面接訓練システムの開発に着手しました。」
人工知能の研究が、認知症の予知検知へとつなげる可能性
岡田准教授は、こうした人の発話や行動から評価や予測を行うAIの研究を、社会におけるさまざまな課題の解決に役立てたいと考えています。その1つとして、発見の遅れが問題視されている認知症の予知技術の開発に取り組んでいます。
「高齢者施設に、いろいろな位置情報を観測できる受信機を設置し、福祉施設のどの辺りで高齢者が過ごしていたのかを計測ました。さらに、モバイルロボットとも対話をしてもらいました。これは、認知症傾向がある方はコミュニケーションの部分で普段の行動との違いが出てきますので、会話の様子を計測するためです。この二つのデータをもとに、認知症傾向を表すスクリーニングテストの点数をAIによって予測しました。実際、モバイルロボットと話をすることだけでは、期待していた精度は出ませんでしたが、どの場所で過ごしていたかという情報では、最大75%の推定精度がみられました。このようにして、複数のデータを組み合わせて学習、予測できることが、AIの強みと言えます。モバイルロボットとの対話履歴や、位置情報からの行動履歴を組み合わせると最大87%、平均78%の精度で、認知症傾向の可能性を推定できるという結果に至りました。」
この予測技術の精度をより高めるため、岡田准教授が着目したのが睡眠のリズムや,睡眠中の体動や心拍です。睡眠障害は認知症症状のひとつと言われていることから、睡眠行動から認知症のモデルを構築しました。そして、福祉施設のベッドに備え付けた睡眠センサーによって利用者の日頃の睡眠状況を管理し、そこにAIの評価モデルを追加することで、精神疾患の超早期発見のためのヘルステックの実現を目指しています。
「さまざまなセンサーで人の表情や音声を記録し、それに使用された言葉や日常行動などのデータを統合していくと、時事刻々と感情的な状態が良くなったり、悪くなったりすることを推定することも可能ではないかと考えています。そうすることで、例えばうつ病のような精神疾患に苦しむ方の状態について、できる技術につながる可能があります。そういった技術面から、社会をより住みやすい場所に変えていくヘルスケアAIの実現に貢献したいと考えています。」
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北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部
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