経済産業省の令和3年度産学連携推進事業費補助金に採択された本学の「”超越”バイオメディカルDX研究拠点」事業は、データ駆動型の最先端DXを基盤とします。その拠点のメンバーの1人である本郷研太准教授は、AIやデータ科学と材料科学を融合させたマテリアルズ・インフォマティクス(※)を研究し、未知の物質材料の発見において数々の実績を残しています。そこで得られたデータ活用とDXに関する知見を携え、これまでになかったバイオマテリアルの発見に挑む本郷先生の研究をご紹介します。
(※)新素材の設計と開発、評価を行う材料科学とAI、データ科学等を融合させて、新しい物質、材料の開発を目指す研究。
思考の限界を凌駕するデータ科学のスペシャリスト
従来の研究手法では難しい未知の化合物を発見
研究者の長年に渡る経験や勘に依拠している材料開発の分野において、本郷准教授はマテリアルズ・インフォマティクスの手法を用いて、従来型の研究ではたどり着けなかった未知の材料を発見する研究を続けています。新しい化合物を発見する手法の開発を専門とする本郷准教授が、”超越”バイオメディカルDX研究拠点事業(以下、”超越”バイオメディカルDX)に期待しているのは、これまで手掛けてきた化合物等の静的な平衡の研究に対し、生物系の動的な平衡の研究に携わることです。物質と違って細胞のような生物系の研究対象、動くことで生体としての様々な機能が出てきます。そのような動的な対象を扱うことは、学問的に大いにチャレンジングなことだと言います。「バイオの世界は元々すごく興味がある分野でしたが、新規の参入は難しくて、これまでは携わる機会がなかなかありませんでした。その意味で今回は良いチャンスをいただいたと考えています」と本郷准教授は今後に期待を膨らませます。
生命科学と情報科学の異分野の融合が放つ
全く新しいシナジー効果に期待が高まる
“超越”バイオメディカルDXのメンバーには物質化学やバイオ機能を研究する先生方が名を連ね、そこに情報科学のスペシャリストである本郷准教授が加わることで、これまでになかったシナジー効果を発揮し、革新的な研究が繰り広げられることが期待されます。本郷准教授が専門とする計算科学やマテリアルズ・インフォマティクスをバイオマテリアルの分野に応用することで、DNAの解析などを通じてバイオの材料的、マテリアル的研究が飛躍的に拡大することが見込まれるからです。
本郷准教授が有するマテリアルズ・インフォマティクスの知見を本事業によって生命科学の領域の先生方が共有することは、バイオメディカルの研究において計算科学という一つの武器、ツールを手にすることになります。
本郷准教授のもとには松村教授(物質化学フロンティア研究領域)から分子動力学計算に関する依頼が寄せられています。これは例えば溶液の中にある特定のタンパク質等が細胞に入るとき、観察によって結果としては分かるもののどういうメカニズムで入っていくのかは分かっていません。「このケースでは、分子動力学計算は細胞にタンパク質等が入るかどうかをシミュレーションできるので、メカニズムの解明の一助になります」と本郷准教授は計算科学の効果を指摘します。
さらに本郷准教授は、課題解決のために有効な推論方法を指摘します。本郷准教授が研究している計算科学は、例えばニュートン方程式から導かれる因果関係を使うことで最終的にはこうなるはずだ、と推論する演繹の手法です。それに対して本事業のテーマであるDXで用いられるデータ科学は帰納的です。つまり、実験の観察を続けてそこから法則を導く従来の手法を、全てエビデンスを有するデータで行います。「今後は演繹と帰納の両方のアプローチを積極的に行うことで研究の幅を広げていきます。私はその両方が専門ですので、この点においても新しい武器を提供できると思います」と生命科学の研究に情報科学の手法を取り入れる意義を改めて示します。
大学で培われた知見を民間に還元したい
学生、社会人を問わず、人材の育成は責務
本郷准教授には過去の産学連携の経験から得た思いがあります。「例えば材料メーカー等はシミュレーションやインフォマティクス・データ科学の活用はあまり経験していませんので、コンサルティング的な指導を交えて共同研究を進めることに価値があると思います。実際に企業の方からお話を聞くと、民間の課題にはサイエンス的にすごく面白いものが多く見つかりました」。
産学連携に関心のある企業であっても、「バイオの分野で具体的にこんなことをしたい、というものがありますか?」と聞いても困惑してしまうケースも多いなか、研究の幅を広げ、研究を加速することにつながる計算科学等のアプローチ手法のメリットを伝えていくことが、企業の共同研究参入の後押しになるのではと本郷准教授は考えています。
また、本学の教員として、今ますます注目されるリカレント教育も含めて「人を育てる」ことは基本中の基本との強い信念を持っています。「社員を研究のために外部に出すことを是とする、リソースを割いてもいいとの考えを持っている企業はぜひ本学で研究に取り組んで欲しいですね。お勤めの方はモチベーションの高い人が多いので研究の進みが早いですから」と本郷准教授は意欲ある方の参加を呼びかけます。
本郷准教授の意向が反映されたスーパーコンピュータは共同研究でも大活躍
世界トップレベルの研究を続けている本学の生命科学と情報科学による、分野を越えた新たなコラボレーションの舞台となる”超越”バイオメディカルDX。「今回のバイオと計算科学の協業はいろんな意味合いで新しい可能性を引き出す契機になると思います」と本郷准教授が指摘するように、従来の手法では到達できない、想像も及ばない、人智を凌駕する発想が生み出す”超越”バイオメディカルDXの取り組みに一層期待が高まります。
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北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部
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