(後編) 人が「コンピュータやサイバー空間の中にある情報」と簡単に、より深く、関われる世界の実現を目指す


実世界とサイバー空間の間で、情報交換のための新しい方法を研究している佐藤准教授を紹介する後編。心肺蘇生法の胸骨圧迫動作を一般の人が習得できるように取り組んでいる様子や、将来の展望をお聞きしました。

 

救命士の方々との話し合いを重ねて研究が進む
正しい胸骨圧迫動作を習得するためのシステム

佐藤准教授が白山野々市広域消防本部の救命士の方と協力している研究に、心肺蘇生法の胸骨圧迫動作を計測するシステムの開発があります。このシステムは、圧力分布センサーを蔵した人形に胸骨圧迫動作を施すと、それが正しく行われているかを計測するシステムです。計測した数値はモニター画面に映し出され、その場で評価を行えます。動作の行為者はVRゴーグルをつけていて、ゴーグルの中ではリアルな人形の表情が見え、動作によって人形の表情や血の巡りの変化が分かるようになっています。佐藤准教授は「胸骨圧迫動作は肘や手首の角度、押し下げのペース、深さなど非常に難しい基準が複雑に関係し合う動作です。このシステムを使うことで、複雑な胸骨圧迫動作を細部まで一般の人も学習することができます」とシステムの有効性を指摘します。

胸骨圧迫動作を計測するシステム

「救命士の方からの聞き取りで、こういうことをやりたいという意見をいっぱいもらっています」と話す佐藤准教授は、「胸骨圧迫動作がさらに正確に行えるように、プロ向けと初心者向けに分けてアドバイスをするシステムを作っています。実は、これはとっかかりで、来年度はさらに一段階上がったことに取り組もうと考えています」と続け、このシステムの次のステップを明確に描いています。詳しい内容はまだ公表できないとのことですが、現場の緊迫感の拡張提示、災害現場再現要素の追加といった現場の状況を意識したものや、ゴーグルを使わないAR方面でのアプローチの研究のようです。今年は新型コロナウイルスの影響で、このシステムを披露するイベントが中止になりましたが、近い将来、佐藤准教授の研究を目にすることができるかもしれません。

 

シンプルな構成は絶対条件。誰もが使えて、楽しめる
「人とサイバー空間の情報」との自然な対話を目指す

20世紀末に描かれた、未来のオフィスをイメージした絵があります。そこには、オフィスにいる人に加えて遠隔地にいる仲間が立体的に映し出され、今のズーム会議のようなことをしている様子が描かれています。佐藤准教授はこの絵を示しながら、「家の天井にこんな風にプロジェクターやカメラを沢山つけたいですか? つけたくない人もいますよね?」と話し、プロジェクターを使わなくともこの様なオフィス、環境の実現を目指す研究を行っています。

 

佐藤准教授は、「我々が必要とするのはスポットライトのようなプロジェクターではなく、シーリングライトのようなものではないでしょうか。部屋の中心に1個置けば部屋全体にプロジェクションができるものです」と研究が目指す方向性を語り、「ランタンのように持ち運びができて、持ち運んだ先で吊るせば、その部屋の全周囲にプロジェクションマッピングができるものも可能だと思います」と続けます。さらに「将来的には今のようなプロジェクターではなく、壁のスイッチでオンオフする照明機器のようにプロジェクションができるプロジェクターを考えています」と将来を見据えます。

シーリングライトタイプのプロジェクターイメージ

 

ランタンのようなプロジェクターのイメージ

 

共同研究は新しいコンピュータを介した人と情報との
インタラクション(相互作用)を目指したものを

共同研究について佐藤准教授は「インタラクティブディスプレイの実用化とHCIやその周辺技術をベースとした応用研究が考えられます」と意欲的に語ります。インタラクティブディスプレイに関しては、美術館・科学博物館等や企業イベントでの展示といったことが想定されます。また、HCI等の応用研究については、プロジェクションマッピング技術、リアルタイム動画像処理技術、小型センサーを用いた入力動作のリアルタイム計測技術をベースにした研究開発が見込まれます。具体的には、新しいインタラクティブディスプレイシステムの研究開発、新しいディスプレイシステム・入力計測システムの研究開発などです。一方で、医療、教育、スポーツ、エンタテインメント等の分野で研究技術を応用する取り組みにも積極的な姿勢を見せ、これからに期待を寄せる佐藤准教授です。

 

<シーズレポート> 人が「コンピュータやサイバー空間の中にある情報」と、簡単に、より深く、関われる世界の実現を目指す(前編)はこちら。

本件に関するお問い合わせは以下まで

 

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@www-cms176.jaist.ac.jp

 

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

ヒューマンライフデザイン領域
佐藤俊樹 准教授

https://www.jaist.ac.jp/areas/hld/laboratory/sato.html