(前編) 人が「コンピュータやサイバー空間の中にある情報」と簡単に、より深く、関われる世界の実現を目指す


本学教員の研究を紹介する4回目は、ヒューマンライフデザイン領域、佐藤俊樹准教授のヒューマン・コンピュータインタラクション(Human-Computer Interaction:HCI)です。HCIは、実世界とサイバー空間の間で、情報交換のための新しい方法を研究する領域です。コロナ禍でのネット活用の広がりや5G時代の到来を迎え、ますますサイバー空間との接触が増えることが見込まれるなか、サイバー空間との新しい情報交換の方法とはどのようなものなのでしょうか。

 

実世界とサイバー空間との境にあるディスプレイの「壁」
HCIはこの「壁」を取り除くことを目指す研究分野

現在、私たちがコンピュータやインターネットを介したサイバー空間と様々な情報を交換する時は、マウス、キーボード、タッチスクリーンを操作し、ディスプレイを通して行います。HCIはこのディスプレイ等のインターフェース(異なるものを結ぶ時に共用する部分、接触面)の障壁を取り除き、より自然な操作で人と情報との対話の実現を目指す研究です。佐藤准教授は、「コンピュータを介した人と情報との対話をより自然な形でできるようにしたいですね」と想いを口にし、その方法として「Computer Vision/Graphics技術をベースにしたコンピュータのインターフェース技術、ディスプレイ技術を拡張することで、人と情報、人とモノ、人と人とがより直接的に対話ができる新しい手法を研究しています」と続け、高度情報化が加速する中にあっても、人ありきの研究を続ける姿勢に期待が膨らみます。

HCIの概念と研究の方向性

 

これまでになかった表現ができる新しいディスプレイで
メディアアートからエンタテインメントまで分野を拡大

HCIはとても広い分野をカバーします。その中でも佐藤准教授は、サイバー空間とより自然な対話を可能とする新しい入力検出技術をゼロから創造するなどし、全く新しい表現を可能とする研究を進めています。その一環として、新しいディスプレイ技術、インターフェース技術を使って医療や教育、エンタテインメントの分野にも踏み出しています。それぞれの研究成果の一例を見てみましょう。

ヒューマンライフデザイン領域の
佐藤俊樹准教授

 

メディアアートの分野では、プロジェクションマッピングにインタラクティブの付加価値を与える「MlioLight(エムリオライト)」があります。「これは投影されているプロジェクションマッピングに懐中電灯型のデバイスから信号を照射することで、新しい情報を映像に重ねることができるものです」と説明する佐藤准教授は、プロジェクションマッピングの機能拡張に向けた取り組みを進めています。プロジェクションマッピングは、立体的な構造物に複数のプロジェクターから映像を投影することで、実世界とグラフィックスを高い没入感で融合させる映像コンテンツです。しかし、複数のプロジェクターが必要になり、またそれらのキャリブレーション(較正、調整)が容易ではないことから、実行できる環境やコンテンツが限られるという課題があります。そこで佐藤准教授は、新しいプロカムシステム(プロジェクタ・カメラシステム)の基盤技術を確立し、インタラクティブなプロジェクション(投影、映写)体験がどこでもできるように研究に取り組んでいます。

MlioLight(エムリオライト)

 

エンタテインメントの分野では民間企業との共同開発となる、「PacPac(パクパク)」というテーブル型のインタラクティブディスプレイがあります。天井に設置した高感度カメラがディスプレイに接していない手指の動きを感知し、テーブルディスプレイに動きを反映させる高速手指ジェスチャ検出システムで、エンタテインメント向けのアプリケーションです。その試遊機が東京の大学のほか、科学博物館や美術館の企画展、遊戯施設等で展示を行っています。「開発した新しい入出力技術を積極的に“人を楽しませる”システムに応用したいと考えています。私たちの研究技術が、楽しく世界に広がる試みも進めています」との佐藤准教授の話からは、ワクワクする雰囲気が感じられます。

PacPac(パクパク)

 

次回は、ディスプレイの表面(サーフェス)を拡張し、人命救助の場面での活用が期待されている最新の研究等を紹介します。

本件に関するお問い合わせは以下まで

 

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@www-cms176.jaist.ac.jp

 

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

ヒューマンライフデザイン領域
佐藤俊樹 准教授

https://www.jaist.ac.jp/areas/hld/laboratory/sato.html