(後編)柔らかいだけではない、知性と優しさを備える次世代ソフトロボットの開発に邁進


ソフトロボティクス(柔らかいロボットを扱う研究)に取り組むホ准教授を紹介する2回目。触覚を備えたロボットが人工知能を駆使することでもたらされる状況と、最新の研究成果を見ていきます。

 

ロボットの「触覚」保持に向けて進む研究
その実現が人間に及ぼす影響は計り知れない

ホ准教授は、「ロボットが触覚を持つ意義は、人間に優しく接することが可能になることです」と「触覚」開発の効果の大きさを示します。例えば、医療や介護の現場において、ロボットは患者や医療従事者と安全に接するために、確実な動作とともに、触覚に含まれる「人間からの感情、思い」の判断が求められます。これは、言葉を使わずに患者や医療従事者の意図をくみ取り、適切に対応することを意味し、現在は、その実現にかなり近いところまで研究は進んでいると言います。「このことは、今で言えば新型コロナウイルスのPCR検査をロボットができるようになり、結果として検査実施者をはじめ、医師、看護師の感染リスクの低下がもたらされます。実は、既にその実現に向けたプラン、アイデアは私の中にあります。しかし、このようなロボットを開発するには予算的な制約がありますので、共同研究先が現れることを期待しています」と話すホ准教授は、次のステップを明確に見据えています。

※マニピュレーション(把持)

 

高性能触覚センサーを開発し人工知能と連携する
人間の感情や意図を判断し、対応できるロボット

人間との接触を通じて、言葉を介さずに人間の感情を判断できるようになると、会話能力が低下した高齢者のケアが効果的に行われることが期待されます。「例えば、ロボットの腕を、つねる、なでる等の動作をする人間の意図を判断するために人工知能を使います。ただこの場合、人によってつねる、なでる等に込める思いには個人差があるので、この状況ではこういうことだろう、という推定する能力がロボットに必要になります。その実現のために、様々なケースや多様な人々からデータを収集し、学習しながらAIの精度を高めることで、AIが適切に推察し、反応できるようになります」と、ホ准教授は人工知能を使ったロボット開発の有効性を指摘します。そのうえで、「現在、こういう研究をしているところは少ないのですが、それは高性能触覚センサーがまだ存在していないことが理由にあげられます。しかし、私たちは耐久性を備えた高性能触覚センサーを開発することができました。今後は、接触を通じて人間の感情を推定し、相手が望む対応ができるロボットの開発を加速していきます」とし、今後の研究に自信を見せます。

開発した触覚センサーの研究資料

 

着実に進んでいる駆動装置、感覚装置の開発
ソフトロボットは応用実験を経て実践の段階に

昨秋、JAISTのウェブサイトにホ准教授の研究を紹介する記事が掲載されました。
https://www.jaist.ac.jp/research/movie/topics/ho-anh-van.html
そこにある動物の優れた構造や機能に着想を得て進められている研究は、着実に進化しています。「まず、ウナギにヒントを得た水中を泳ぐロボットは、外付け状態だったケーブル等は全て内包化しました。ケーブルや制御回路はもとより、新たに開発したソフトアクチュエーター、バッテリーも内部に持ち、今はさらに洗練された動きになるよう改良を進めています。次に、アマガエルの手の吸盤を参考に開発した溝を持つ把持機構は、内圧を測定、把握、コントロールする仕組みを高度化できたので、コンタクトレンズを持ち上げる段階から、濡れた状態にある豆腐や玉子、こんにゃく等を安全に持ち上げられるまでになっています。そして、高性能触覚センサーを開発した触覚については、アームの部分はできあがっています。今は、頭、胸、指、そして指先に触覚を備える研究を進めています」と、ホ准教授は研究が全体的に着実に前進していることを強調します。

別に研究を進めているトンボの羽にヒントを得たドローンのプロペラの資料

 

ホ研究室にはソフトロボットの開発における、インテグレーション(異なる複数のものを組み合わせてまとめる)の力があると言います。前にも指摘しましたが、ロボットの開発には幅広い技術や条件が複雑に絡みあってくるので、それらをいかに有機的に統合できるかが問われます。「私の研究室では、それらの要件を高度に統合し、柔らかさを中心としたロボットの設計能力を十分に培ってきました。ですので、これまでに見たことがない技術を提供できます」と、ホ准教授は共同研究に向けた意欲を語ります。そして「既に私の研究室はベーシックな研究を十分に手掛けてきましたので、現在は応用的な研究に軸足を置いて活動しています。今後は、いろいろな企業と協力して、実践的な研究と開発に進みたいと考えていますので、ソフトロボットに関心がある方には、気軽に声を掛けていただければと思っています」と、ホ准教授は将来の共同研究への期待を示します。

 

<シーズレポート>柔らかいだけではない、知性と優しさを備える次世代ソフトロボットの開発に邁進(前編)はこちら。

 

本件に関するお問い合わせは以下まで

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@www-cms176.jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

知能ロボティクス領域
ホ アン ヴァン 准教授

https://www.jaist.ac.jp/areas/ir/laboratory/ho.html