本学教員の研究シーズを紹介する3回目は、知能ロボティクス領域のホ アン ヴァン(HO Anh-Van)准教授のソフトロボティクス(柔らかいロボットを扱う研究)を紹介します。従来、生産性の向上や労働力の代替装置として産業用ロボットは大きな役割を果たしています。一方で、医療や介護等の現場でリスクの低減や人手の確保が求められている現状があります。これは工場から日常へ、ロボットが活動する領域が広がるニーズがあることを意味し、その際、ロボットには金属等でできた固いものではなく、強度的・構造的に適度な柔らかさがあるロボットの普及が期待されます。
速さとパワー、正確さが求められる産業用とは異なる
生物のような動作で、人間に優しく接するロボットを
産業用ロボットは一般的に固くて触覚がなく、稼働する環境下(工場等)では速さと正確さ、時にパワーが求められます。一方で、少子高齢化が進み、その影響が毎日の暮らしにも及んでいる現在においては、これまでのロボットとは異なる機能が求められています。ホ准教授は、「人間と生活を共にするケースでは、安全面から柔らかい材料でできたロボットであることが理想です。さらに、人間の求めに応じたり、その意図を汲んだ動作を出力したりするための知能が必要になります」と、研究領域であるソフトロボティクスの一端を話します。
ソフトロボットも産業用ロボットのように、特定の機能に限定した腕だけ、上半身だけのものも設計できますが、ホ准教授が目指すのはあくまでヒト型ロボットです。「私としては、ユーザー、つまり人間が違和感を感じることがない人のような機能を持ったロボットを開発したいので、柔らかさは必要不可欠な要素になります」とホ准教授は高い目標を掲げ、「ベイマックス(ディズニー映画のアニメキャラクター)が理想のカタチです」と笑顔で続けます。
ロボット制御の事例
課題だらけだったソフトロボット研究のスタート
「柔らかい」からこそ湧き上がる新たな課題の数々
ロボットの開発には幅広い技術や様々な条件が絡み合ってきますが、ソフトロボットの場合はソフトマテリアル(高分子、液晶、生体分子などの柔らかい物質)の開発において多くの課題が残されていたうえ、人間が身近にいることが前提になることから、その実現には新たなハードルが次々に現れます。ホ准教授は、「産業用ロボットの可動域は計算された制限域内で設定されますが、ソフトロボットは対象が人間になるので可動域の設定は無制限となり、モデリング(立体物の形状を計算し形成すること)の際のロボットの可動域の設定が難しくなります」と可動域の問題を口にします。さらに「ロボットが柔らかさを備えると、ロボットが人間に優しく接することと同じく、人間がロボットに接した時にもロボットには優しい対応、つまり判断と適切な反応が求められます」と話し、この点からも双方向の対応が迫られるソフトロボット開発の難しさが分かります。
ホ アン ヴァン准教授。後ろはドローンの研究をしている学生
ロボットに「知能」を持たせることで課題解消を
実現の条件はロボットが「感覚」を備えること
ロボットの体勢や腕の可動域をどう設計するのか。人間からの接触をどう理解するのか。この難しい課題をクリアするために、ホ准教授はロボットに「知能」を持たせる研究を進めています。しかし、その前に、ロボットが安全に、適切に動くためには、外部からの入力を検知、判断する「感覚」を持つことが求められます。ホ准教授は、「人間が持つ視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感のうち、ロボットには視覚と触覚が重要になります。これまでのロボット研究で視覚機能の実用化は普及していますが、触覚機能の普及はまだまだの状況です。そして、特に力覚(物体と接触した際に人間が感じる力感覚)センサーの開発のハードルが高く、できたとしても耐久性の問題を抱えています」と、ロボットに感覚を持たせるうえで、まだ多くの問題が存在していることを指摘します。
次回は、備えた触覚で人間からの入力を人工知能で判断する取り組みと、最新の研究の模様をお伝えします。
本件に関するお問い合わせは以下まで
北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@www-cms176.jaist.ac.jp
■■■今回の研究に関わった本学教員■■■
知能ロボティクス領域
ホ アン ヴァン 准教授