前編では、本学との共同研究によって、優れたオリジナル素材を始め様々な材料の構造や性質が明らかになり、今後の開発の道が開けたことを紹介しました。後編では、これからの展開や共同研究の裏側を見ていきます。
求める材料を作製するデザイン手法を確立
スーパーキャパシタの実現は安全性もカギ
松見教授は、共同研究の現在について、「グラフェン(炭素原子が蜂の巣状に互いに強く共有結合した単原子シート)やカーボンナノチューブを用いた様々な処理方法を検討し、本学の充実した装置群を活用して材料キャラクタリゼーションを繰り返してきました。今は、求める材料を必要十分なプロセスで作製できるデザイン手法の確立に近づいています」と手応えを語ります。
共同で開発した材料を取り出して確認
一方で、高精度なキャパシタ・電池の開発は安全性の担保が不可欠です。松見教授が研究しているリチウム電池の安全性は、例えば、有機溶媒(水に溶けない物質を溶かす有機化合物の総称)を使わないことで発火や爆発を回避するものであることに対して、スペースリンク(株)が開発を目指しているスーパーキャパシタはより安全な電解質を使って安全性に対応するものです。
また、同社は環境負荷が少ないデバイスであることも目指しているので、再利用できる電解質であったり、最初から環境負荷が全くないカテゴリーの電解質であったり、いわゆるグリーン溶媒と言われるものを使用することも重要になると考えています。松見教授は、「その点では、我々もリチウムイオンの研究でグリーンな溶媒を使うことに取り組んでいるので、環境負荷の少ないデバイスの開発はお互いに有意義な研究です」と話します。
共同研究を経験して広がった将来の可能性
サポイン事業に採択され、新たなステージへ
今回の共同研究を通じて梶浦氏は、「分析結果、実験結果、考察などの信頼性が非常に高いと感じました。このことは松見研究室に優秀なスタッフ、学生がいるからだと思います。共同実験を何度か行う中で、実験の準備や進め方、評価方法など、参考になるところがとても多かったです」と感想を話します。さらに「共同研究を行うまでは、この実験結果はおそらくこのようなことが起きているのだろう、といった定性的な考察しかできませんでしたが、共同研究による分析結果に基づくことで定量的な考察ができるようになりました。また、いただいた学術的な知見に基づいたコメントによって、次にやるべきことがより明確になりました。今回、令和元年度サポイン事業の交付が決定したのも、JAISTとの共同研究が大きな影響を及ぼしたと考えています」とその意義を強調します。
※サポイン事業の採択理由は「オールカーボンキャパシタからなる蓄電デバイスの開発。①急速充放電が可能であり、②リチウムイオン電池に相当する大容量を有し、③高い安全性を担保し、かつ④長寿命である蓄電デバイスが強く求められてきている。弊社は、これらニーズに応えるべく、カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノ炭素材料を活用したオールカーボンキャパシタからなる蓄電デバイスを開発する」。
遠心分離実験にて(内尾氏)
情報の共有は英語で行われるWeb会議やメールで
熱い想いで地理的なハンデを乗り越えて続く研究
加賀電子(株)の内尾氏は、「共同研究は期待していた以上に進んでいます。実験の経過はその都度、WEB会議で報告していただいています」と研究の進み具合を評価します。
今回のケースは、加賀電子(株)は東京都秋葉原に、スペースリンク(株)は神奈川県川崎市に拠点があり、地理的なハンディキャップを抱えながら共同研究が進んでいます。このハンデを乗り越えるには、双方のモチベーション、熱意が重要になると松見教授は指摘し「加賀電子(株)、スペースリンク(株)の皆さんは非常に熱心に研究と向き合ってくださっています」と、両社の熱い姿勢を口にします。さらに、「私の研究室のメンバーは外国人研究者が多いのですが、両社の担当の方も英語が堪能であるのに加えて、非常にオープンに接してくれるので、メンバーも大変喜んでいます」と、研究員の指導においても成果は少なくないことを指摘します。
月次定例会の様子。定例会はスケジュールやこの1ヶ月の成果、現在の位置を確認し、次に何をすべきかを議論する
今後の展開について松見教授は「最終的なアウトプットに向けては、本研究室がかねてから取り組んでいる高電圧対応の電解質の研究とも融合させて、さらに高いレベルのスーパーキャパシタの実現を目指したい」と話します。一方の梶浦氏は「松見教授が研究されているリチウムイオン二次電池とスーパーキャパシタ両方の特性を持ち合わせた新規エネルギーデバイスを創出したいですね」と、大きな目標を掲げます。
スーパーキャパシタの登場が社会に与える影響は非常に幅広いものがあります。身近なところでは、スマートフォンやタブレット等の端末は1分以内で充電が完了します。またEVやロボット、あるいはドローン等の充電時間が大幅に短縮されると、それらの稼働率の劇的な向上につながります。スーパーキャパシタの実現に向けて、炭素系材料による電極開発に向けた共同研究は今も熱く続けられています。
研究室メンバーとの食事会は常に刺激的な会話に溢れる
< episode 2 > 高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出(前編)はこちらです。
■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■
物質科学領域 松見紀佳教授
https://www.jaist.ac.jp/areas/mc/laboratory/matsumi.html