(前編)高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出


「産学官連携の取り組み」の第2回目は、物質科学領域の松見紀佳教授の研究室と、スペースリンク(株)、加賀電子(株)との共同研究である「次世代蓄電池として期待される大容量のキャパシタ(急速充電を得意とするエネルギーデバイス)の実現に向けた炭素系電極開発」を取り上げます。

現在、EV(電気自動車)や再生可能エネルギーの分野で補助電源として使われているキャパシタですが、単位重量当たりの蓄電能力が低いことがネックとなっています。その大容量化に向けて、加賀電子(株)が、独自のナノカーボン制御技術を持っているスペースリンク(株)との共同研究を本学に持ち掛け、リチウムイオン2次電池等の研究をしている松見教授の研究室との取り組みが始まりました。

 

急速な充放電が可能で耐久性にも優れるキャパシタ
理想的なエネルギーデバイスの、蓄電大容量化に挑む

今回の共同研究について、加賀電子(株)技術統括部FAE技術グループの内尾誠一郎氏は、「スペースリンク(株)はナノ構造解析機器、測定機材、サンプル作製設備等が不足しているので、JAISTの高度な知見と経験がある研究員の方によって、炭素系材料の分析と実験データによる理論的な考察、助言をお願いしたいと思いました」とスペースリンク(株)と本学とのマッチングの背景を話します。

松見教授は以前から、大容量で充放電サイクル寿命に優れる等の特徴を持つスーパーキャパシタには大きな可能性を感じていたと言います。また、「加賀電子さんとスペースリンクさんが開発されている環境負荷の少ないグリーンキャパシタは、私たちの研究室でもグリーンなテクノロジーを目指したい思惑や方向性が一致していたので、ぜひご一緒にやらせていただきたいと思いました」と当時を振り返ります。

スペースリンク(株)の梶浦尚志次世代蓄電デバイス事業部長は、共同研究を始めるに当たり、「既に社内で炭素素材に関する興味深い実験データが得られていたので、JAISTの最先端の分析装置で炭素材料の高精度な評価をしていただくことや、松見教授や研究室メンバーとの議論を通じて学術的に実験結果の考察が深められばと思いました。そして、学術的な考察を反映した電極構造設計につなげたかった」との期待を持っていました。

開発が進むスーパーキャパシタのイメージ画像(スペースリンク社のホームページより)

 

スペースリンク(株)の優れた炭素素材を詳細に解析
構造の把握がその後の材料作製プロセスを確かなものに

実際の分析では、スペースリンク(株)は非常に良い炭素材料を持っていましたが、その構造の詳細は分かっていなかったと松見教授は言います。そこで、その炭素素材の構造を詳細にキャラクタリゼーション(材料の構造や性質の調査、測定)するところから研究は始まりました。

炭素素材の構造が明らかになると、素材の合成手法を確立するための実験に移ります。構造の変化がどのような影響を与えるのか、合成処理の方法と構造のモディフィケーション(部分的な変更や修正。加減)にどのような相関関係があるのか等の解明に臨みました。そして、これらを通じて、求めている材料開発の方向性を明確にして、材料の作製方法やそのプロセスの簡略化を図るとともに、コストの低減にもつながる開発を一緒に取り組みました。

様々な材料の構造が明確化され、言わば材料の現在地が示されると、これまでは見えていなかった多様な事実を目にできました。この時のことを梶浦氏は「共同研究の成果が形となって現れたことに、興奮を抑えきれませんでした。同時に、更なる展開を可能にするためにはどうするべきかを考えるよう、自分を落ち着かせました」と、当時の熱い気持ちを振り返ります。

電気化学的特性評価の模様

 

 < episode 2 > 高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料の創出(後編)はこちらです。

■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■

物質科学領域 松見紀佳教授
https://www.jaist.ac.jp/areas/mc/laboratory/matsumi.html