3者の強力なタッグで進む共同研究
今回の共同研究は(株)白山が熱電材料の開発を、石川県工業試験場が構造解析を、そしてJAISTが電子構造計算に基づく物性予測から研究の指針を示すこと、をそれぞれが担当して進められました。
(株)白山は当初は県外の開発拠点で熱電開発をしていましたが、開発の効率化を求めて拠点を移したのが石川県工業試験場でした。石川県工業試験場で共同研究を担当した電子情報部の豊田丈紫氏は移転の理由を次のように語ります。「熱電研究で優れた成果を世界的に発信されているJAISTとの産学連携の素地が石川県にあることが評価されたのだと思います」。
高分解能分析走査電子顕微鏡
石川県工業試験場と(株)白山の開発は、事業化が難しいとされる熱電開発分野で外部資金を確保しながら進められ、産業化の指標となる熱電性能指数ZT=1を示す素子材料を安定的に生産する製造プロセスを確立する、という大きな結果を生みます。
その後、(株)白山の関係者がJAIST金沢駅前オフィスで開かれた小矢野教授のセミナーに参加したことを通じてJAISTも共同研究に加わることとなり、熱電材料の開発はNEDOの産学官プロジェクトにつながったのでした。
従来の3倍の出力因子の性能を有する熱電材料の創製に
世界で初めて成功
内田氏が開発を進めるうえで苦労したのは再現性の難しさでした。「良いモノができても再び同じモノができないのです。その時、なぜ良いものができたのかという根拠を、宮田助教がスーパーコンピュータで計算してその都度明らかにしてくれたことはとて有益でした」と言います。
宮田助教は、「スーパーコンピュータは材料の設計指針を立てるのに、材料の電子密度はどのあたりに最適値があるのか、どのような合成条件であれば電子密度の最適化ができ、性能を上げることができるのか、と予測ができたところが大きいですね」とスーパーコンピュータの有効性を指摘します。
そして、3者の共同開発は世界初の成果に結びつきました。
従来、高温部がプラスになるn型熱電材料と比較してその約2割程度の出力因子しか得られていなかった高温部がマイナスになる性質をもつp型熱電材料において、約2割程度から6割以上の性能を有する多孔質p型マグネシウムシリサイド系熱電材料の創製に世界で初めて成功したのです。
今回の新しい技術は、空孔を含まない熱電材料と同程度の導電率を保持しながら低熱伝導率である特殊性を備え、また一般的な生産方式に準じているため、工業生産への移行が容易であるという特徴があります。
※「熱電材料」熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する特性を持つ材料
JAISTのスーパーコンピュータ
材料開発と並行して進むモジュールの製作
お互いの強みを活かしながら研究は続く
熱電材料を実際に利用するには”モジュール“という形にくみ上げる必要があり、この研究も進んでいると内田氏は言います。「研究を続けていて改めて思い知らされるのが、我々だけで原理原則、理論を見極めることの難しさです。これまでの3~4年の間にJAISTからのアドバイスはすごく役に立っているので、これからも引き続き指導をお願いしたいです」と内田氏は期待を口にします。
試作した熱電変換モジュール
一方の宮田助教は、「今回の共同研究は、JAISTはシミュレーションや基礎物性の解析など、大学ならではの強みを活かしたアプローチ法で製品化を目指す試みと言え、この手法は凄く良かったと思います」と指摘し、共同研究に確かな手応えを感じています。
内田氏と豊田氏、そして小矢野教授、宮田助教が繰り広げる熱電材料開発の共同研究は、環境に優しい熱からの発電を可能にする材料の創製に向けて、着実に歩を進めています。
産学官連携本部と包括共同研究契約を結ぶ
加賀電子株式会社が確かな存在感を発揮
「今までの熱電変換素子が持つ課題の解決を目指して現在研究中である熱電変換素子の技術が確立されると、全く動力を使わない新しいデバイスとして今まで以上に利用できるようになります。利用される領域としては、車や家電ほか様々な分野で活用されることが期待されます」と、熱電変換の今後を見通しているのは加賀電子(株)の清水正之経営企画室事業開発プロジェクト長(当時)です。
加賀電子(株)は、JAIST産学官連携本部と包括共同研究契約を結んでおり、様々な共同研究において、研究資金の提供だけなくアドバイザーとしても関わっています。小矢野教授は、「加賀電子(株)は商社なので、デバイスの現在の市場の状況や今後の展開について、ビジネスの現場から様々なサジェッションをしてくれるので、大変ありがたい存在です」と、的確なアドバイスに感謝の言葉を口にします。
様々な領域での活用が期待される熱電材料
金沢駅前オフィスのセミナーから始まった3者の共同研究は、世界的な創製に結びつきました。現在は、経済産業省が実施する「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に採択され、モジュール製造機や評価装置を導入するなどして、製品化に向けた取り組みが進められています。小矢野教授が「体温の熱でも発電できるようになれば、人々の暮らしにとって最も良いエネルギーになる」と語った熱電材料の実現に期待が膨らみます。
< episode 1 > 熱をエネルギーに変える材料開発に挑む(前編)はこちらです。
■■■今回の共同研究に関わった本学教員■■■
環境・エネルギー領域 小矢野幹夫教授
https://www.jaist.ac.jp/areas/ee/laboratory/koyano.html
小矢野研究室 宮田全展助教
https://fp.jaist.ac.jp/public/Default2.aspx?id=678&l=0