研究

教員インタビュー(この人に聞く)

内平直志 教授

IoTを活用したイノベーションを「デザイン」する手法を追求

内平直志教授
知識マネジメント領域 内平直志 教授 Uchihira Naoshi

東京工業大学博士(工学)、北陸先端科学技術大学院大学博士(知識科学)。株式会社東芝 研究開発センター次長、技監を経て、2013年よりJAISTに着任。日本MOT学会理事、研究・イノベーション学会総務理事。専門はソフトウェア工学、サービス科学、イノベーションマネジメント。

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企業での長年にわたる研究開発マネジメントの経験を活かし、イノベーションマネジメントの研究を行っている内平教授。最近ではIoTやAIのイノベーションをいかにしてつくりだすか、という方法論を「IoTイノベーションデザイン」と呼んで研究を進めています。2019年2月には、「IoTやAIを導入したいが、具体的に何をしていいのか分からない」(内平教授)という中堅・中小企業の経営者の指南書となる『戦略的IoTマネジメント』(ミネルヴァ書房)を上梓しました。

戦略的IoTマネジメント 内平直志著



あらゆるビジネスで実践できるイノベーションの方法論を求めて

大学を卒業後、企業の研究所で主にソフトウェアの生産技術や人工知能などの研究に従事しました。第2次人工知能ブームで、日本では第5世代コンピュータプロジェクトが進行していた時代です。
30代後半になると、プロジェクトマネジャーとして研究開発成果の事業化に携わるようになります。ここでさまざまな困難を実感したことから、JAIST東京サテライトにて技術経営・イノベーションマネジメントについて学ぶようになり、知識科学の博士号を取得しました。現在はJAISTに研究室を構え、社会人を含めた多くの学生、そして地域の企業との議論を通じて、イノベーションマネジメントの研究を進めています。

現在取り組んでいる具体的な研究テーマは3つあります。

一つめは「知識科学に基づく技術経営・イノベーションマネジメント」です。特に、自らの経験を踏まえて「研究開発プロジェクトマネジメントの知識の継承」に焦点を当てています。
研究開発プロジェクトを成功させるためのマネジメントの知識は非常に属人的で、ベテランから新人へとシステマティックに継承されていないことが珍しくありません。私たちは、知識科学の視点から、過去のプロジェクトで得られた知識を現在進行しているプロジェクトのマネジャーにどう継承、移転するかという研究を進めています。
最近は、機械学習やデータマイニングによる気づきの支援など、人工知能の技術の活用についても検討しています。またITシステムの開発も対象とするなど、より深く広い研究を展開しています。

二つめは「製造業のサービス化」と「IoTイノベーションデザイン」です。
従来、製造業はモノをつくって売る業態でした。しかしそれだけでは価格競争になってしまい、国内の企業は生き残れません。モノとサービスをセットにして、顧客に新たな価値を提供しようという流れが製造業のサービス化です。
製造業のサービス化を強力に支えるのがIoTです。IoTや人工知能、クラウドなどの新技術が安価に利用できるようになったことで、中堅・中小の製造業には飛躍のチャンスが訪れています。
私たちは、IoTを使った新たなサービスビジネスをどう設計するかという手法として「IoTイノベーションデザイン」を提唱し、研究を進めています。これは私自身が長年ソフトウェア生産技術に携わっていたことに根差しています。プログラミングはかつて職人技であり、一部の優秀な技術者のみが質の高いソフトウェアを生み出せるという状況でした。しかし今では工学的な手法を用いることで、特別な人でなくても大規模な開発が可能になっています。それと同様に、「IoTイノベーションデザイン」という、多くの人が簡便に使えるガイドラインがあれば、スティーブ・ジョブズのような特別な人でなくてもイノベーションのチャンスを活かせるのです。


人間センサー(五感)から得られる「気づき」をIoTイノベーションに活かす

三つめは「音声つぶやきシステム」です。
これはもともとは看護・介護の現場で活用することを想定して研究開発を始めたもので、患者・入居者のちょっとした表情の変化や発言内容など、ケアスタッフの些細な気づきを記録するTwitterのようなシステムです。実際に介護施設で試行評価を行ったところ、スタッフの連携の向上、ケア記録の品質の向上、業務の品質向上といった効果が確認できました。現在は看護・介護に限らず、農業、 警備、設備保守など対象分野を広げ、音声つぶやきによる「気づきプラットフォーム」の研究を展開しています。

音声つぶやきシステムは、IoTイノベーションのための「人間の活用」にスポットライトを当てた研究です。背景には、IoTを機械だけの閉じたシステムにするのではなく、もっと人間が関与することでより使いやすいものにできるのではないか、という発想があります。
たとえば現在、農業では省力化と高品質化を目指してIoT化が進行しており、さまざまな物理センサーを駆使して温度や湿度などの栽培環境データを収集、活用しています。一方で、農作物の生育状況や病害虫の発生などは、経験豊かな人間が目視で行っています。ここでは物理センサーよりも、人間の持つ五感というセンサーが有効なのです。人間センサーが得た気づきを音声つぶやきシステムで収集すれば、高額な物理センサーをわざわざ導入する必要はありません。
私は、人間センサーと物理センサーの連携と融合が、今後のIoTイノベーションのポイントだと考えています。IoTの未来形は、モノからの情報に加えて人間の「気づき」の情報も活用する「IoE(Internet of Everything)」なのです。


最先端のIoTイノベーションは人工知能と人間の知能の融合から生まれる

音声つぶやきシステムに限らず、今後の研究活動全般で、人工知能と人間の知能をどう融合させるかという点に焦点を当てていきたいと考えています。そのためにはコンピュータを研究するだけでは不十分で、人間をどう扱うか、両者をどう組み合わせるかが重要になります。それができるのが、人間の知能と人工知能の双方を扱う「知識科学」という学問であり、社会科学系の知と情報科学系の知が融合したJAISTなのです。知識科学は今の時代に一番必要な研究領域であり、内平研究室ではそれが実感できるはずです。

私が研究室を運営する上で大切にしていることは、重箱の隅をつつくような研究ではなく、ゼロからイチをつくるようなワクワクする研究を行うということです。世の中にないものを概念としてつくっていきたい、少々型破りでも面白いと思える研究を求めていきたいと考えています。

教育については、ゼミや勉強会を通じて論理的思考力を徹底的に高めることを重視しています。抽象論ではなく具体的な事例を扱えることが当研究室の強みです。地元の企業に入り込んで研究を進める、あるいは東京サテライトに通う社会人学生と議論を交わす、といったことも可能です。企業が抱えるリアルな課題を踏まえた研究ができるのは、当研究室とJAISTの大きな魅力であり、そこに惹かれて入学したという学生も少なくありません。

平成31年2月掲載

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