研究

教員インタビュー(この人に聞く)

本郷研太 准教授

マテリアルズ・インフォマティクスで「那由他」の世界に挑戦。

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情報社会基盤研究センター エネルギー・環境領域 本郷研太 准教授

東北大学金属材料研究所博士研究員(2005-2007)
JAIST情報科学研究科博士研究員(2007-2009)
ハーバード大学日本学術振興会海外特別研究員(2009-2011)
統計数理研究所データ同化研究開発センター特任研究員・特任助教(2011-2012)
JAIST情報科学研究科・助教(2012-2017)
JAIST情報社会基盤研究センター・准教授(2017-)

冶金工学、物質科学、情報科学、理論化学、統計科学の分野を渡り歩き、現在は計算材料科学、シミュレーション、マテリアルズ・インフォマティクスの研究を進めつつ、JAISTの情報環境の管理者を務める。

研究室ガイド 研究室HP

材料開発は日本が得意としてきた分野であり、これまで実験系の研究者の経験と職人技によって新たな材料を合成し、その材料の特性を調べることによって進められてきました。
これに対し、材料開発の新しい潮流として世界中に広がっているのが、データ科学やAIを使って新たな材料を開発しようという「マテリアルズ・インフォマティクス」です。JAISTが所有するスーパーコンピューターを駆使し、マテリアルズ・インフォマティクスの研究を進める本郷研太准教授にお話しをうかがいました。



「コンピュータによる物質・材料設計」という夢を叶える

マテリアルズ・インフォマティクスは、AIやデータ科学と材料科学とを融合させた新しい研究分野で、従来型の研究ではたどり着けなかった未知の材料の発見に繋がる可能性を秘めています。マテリアルズ・インフォマティクスに関する研究は、アメリカが2011年に「Materials Genome Initiative(MGI)」をスタートさせたのを皮切りに世界中に広がり、EU、スイス、中国、 韓国、そして日本でも戦略的に進められています。

この世に存在する物質はすべて元素からできていますが、現在までに確認され周期表に並んでいる元素は100個程度です。
では元素を組み合わせてできる化合物の数はどれくらいあるのでしょうか。
2種類の元素を組み合わせるとすれば100×99=990個、3種類になると100×99×98=970,200個、同様に計算して5種類を組み合わせると、90億(9.0×109)個と、その数は指数関数的に増えていきます。 実は、可能な化合物の数は「那由他」=1060にのぼると言われています。その中から望みの性質や機能を持つ化合物を見つけるのは、砂漠の中で一粒の砂金を探すようなものです。理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」をフル活用したとしても、研究者が人生において計算できる物質数は12億(1.2×109)程度です。やみくもに探索するのではなく、新しいアプローチが必要です。 私の研究室では、AIやデータ科学の手法を使って、この那由他の世界に挑戦しています。

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2本柱の研究で多数の競争的資金を獲得

私たちの研究活動は、大別すると
・量子モンテカルロ法などの第一原理シミュレーション研究
・データ科学やAIを使った新材料の開発
の2本の柱から成ります。

前者のプロジェクトは、科研費新学術研究(H28-32年度)および科研費若手B(H29-30年度)の支援を受け、京大、東工大、九大、産総研の研究者と協同で研究を進めています。後者は、JST さきがけ(H28-31年度)、JST イノベーションハブ構築支援事業(H27-30年度)、科研費基盤B(H27-30年度)の支援を受け、物質・材料研究機構、東大、東工大、大阪大、統計数理研究所、ハーバード大の研究者と協同で研究を進めています。

材料開発にデータ科学の手法を適用するためには、当然のことながらデータが必要になります。材料分野では世界中で化合物のデータベースが構築されています。またデータベースにない化合物についてもシミュレーションによってデータを作成することも可能です。特に、我々が得意とする量子モンテカルロ法という特殊な手法を用いると、良質なシミュレーションデータが作成できます。統計解析に関連してよく言われる「Garbage In Garbage Out」(データが誤っていれば、誤った結果しか出てこない)を回避でき、探索精度が上がります。

大量に集めたデータをAIに学習させ、ほしい物性を持つ新材料の候補をデータから導き出す点については、さまざまなアプローチがあります。データをランダムにサンプリングするというのもひとつのアイデアですが、これでは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」です。
求める化合物・物質をより賢く、効率よく探索するために私たちが使っているのが「ベイズ統計」と呼ばれる統計学の手法です。ベイズ統計は、身近なところでは迷惑メールを自動的に選り分ける迷惑メールフィルターの頭脳として採用されています。知りたいことに対して何か新しい情報を得るたびにその「確率」をアップデートしていく特徴があり、データが多くなればなるほど推定の信頼性が高まります。

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実際、AIがいくつか新物質の候補を提案してくれる、という段階まで研究は進んでいます。AIがなぜこの物質を提案するのか、その判断を理解するときには、再びシミュレーション技術が役に立ちます。 そこから実際にモノを作る際は、実験系の研究者がこれはいけそうだというものを選択し、合成を行っています。今後は合成可能な条件・方法をAIで予測するという部分にも踏み込んでいきたいと考えています。

誰も見たことがない化合物を見たい。
世界で初めての「事実」を知りたい。

研究の進展により、私たちは今まで誰も見たことがないような化合物をコンピュータの中で見つけることができるようになりました。
たとえば、AIを使って高熱伝導率のポリマーを探索し、実際に合成することに成功しています。
ポリマーは他の工業材料に比べてかなり熱伝導率が低い材料ですが、熱伝導率が高く放熱性があれば、金属材料の代替として使うことができ、デバイスの軽量化が可能になります。
ほかにも電気自動車の廉価化や燃費の向上に関連する材料の開発にも携わっており、大容量かつ安価な電極材料や、より磁力の高いモーター用磁石材料の探索を行っています。

量子モンテカルロ法はあらゆる物質に適用できますし、JAISTには優れた計算機リソースがあります。
特定の分野の材料を探索するのではなく、さまざまな物質系に対象を広げ、企業とも積極的にコラボレーションしていきたいと考えています。
材料は世の中に大きなインパクトを与えます。これからも社会に還元できるような成果を出していきたいですね。

最後に、私たちのマテリアルズ・インフォマティクスの研究推進のカギとなっているのは、JAISTの充実した情報環境であることを強調しておきたいと思います。
本学では材料科学や情報科学、AIやアルゴリズムの開発といった最先端の研究を行うための学内共同利用システムとして、「Cray XC40」をはじめとする3台のスーパーコンピューターを保有しています。学生は入学時にアカウントが付与され、無料で利用できます。複雑な利用申請書を提出する必要もありません。これは他の大学にはない、JAISTならではのメリットです。学生のみなさんには、ぜひこの充実した環境で、新しい研究に取り組んでほしいと願っています。


令和2年2月掲載

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