研究

教員インタビュー(この人に聞く)

髙木 翼 准教授

計算機科学の理論的基盤を構築する

髙木 翼 准教授の写真です

JAISTにて2021年修士号(情報科学)、2023年博士号(情報科学)を取得。東京工業大学 日本学術振興会特別研究員(PD)を務めた後、2024年4月より JAISTに准教授として着任。専門は理論計算機科学、数理論理学、形式検証。

量子力学の原理に従って動作する量子コンピュータは、従来のコンピュータではできない超高速な計算を実現すると期待され、世界中で研究が進められています。一方で、量子コンピュータが実行する量子計算は、古典計算とは根本的に異なる原理に基づくことから、より信頼性の高い量子計算を実現するためには、量子計算が正しいかどうかを検証する技術が重要になります。
髙木翼研究室では、代数的仕様記述の手法を用いて量子計算の正しさを証明する理論研究に取り組んでいます。



量子計算や量子プロトコルを形式検証するための論理を追求

情報分野の研究には、ものごとの原理や仕組みを探究する科学的なアプローチと、現実的な問題に対処して実際のモノを作り出す工学的なアプローチがあります。私が取り組むのは前者、理論計算機科学の領域です。
理論計算機科学は、計算機やプログラムの振る舞いについて数学を使って研究する分野です。例えば、単にプログラミング言語を駆使してソフトウェアを作るのではなく、プログラミング言語の内部構造にまでさかのぼり、その仕組みをすべて数学をつかって定式化する、あるいは新たな仕組みを考案する、という研究などが該当します。
私自身は、特に量子コンピュータが実行する量子計算の代数的仕様記述という課題に取り組んでいます。


代数的仕様記述とは、簡単に言えば、プログラム、プロトコル、システムといったものを数学の代数として理解し、再構築する手法です。1970年代からさまざまな研究者が取り組んできた分野ですが、量子計算に対して適用するというのは私独自の視点であり、世界を見渡しても当研究室が唯一です。
量子計算や量子プロトコルの仕様を数学的に厳密に記述できれば、未来の社会で活用される量子ソフトウェアに最大級の信頼性を与えることができます。

研究は自分を表現するための手段

私は理論系の研究者です。日々の研究は、基本的には紙とペンとホワイトボードで進めます。人と議論するときがいちばん研究が進みますし、寝転がっているとき、散歩をしているときにアイデアが浮かぶこともあります。

研究者としてどんなモチベーションで研究に向かうのかは人それぞれですが、私自身は、研究は自分を表現するための手段だと捉えています。たとえば、「ソフトウェアを数学的に定式化する」といっても、やり方はひとつではありません。そこを「私はこうやって定式化する」「私は数学でこう表現する」と発信するのは、まさに私なりの自己表現なのです。アーティストが作品を通じて自分の世界観を伝えるように、私も研究を通じて自分の世界観を表現したいという思いがあります。
また、「理論は、理論のための理論であってはならない」とも考えており、常に理論的な面白さの先にある実装を見据えています。実際の研究活動では、計算機での実装を担当する共同研究者とタッグを組み、理論と実装の両輪で進めています。

100年続く学問の潮流を生み出す

研究者としてこうありたいと考えているのは、100年後にも読まれ続ける論文を世に出すことです。情報系の論文は、発表直後はインパクトがあるものの、数年経つと陳腐化し引用されなくなるケースが少なくありません。トップジャーナルに論文が掲載されたとしても、それはあくまでスタート地点に立ったということにすぎません。重要なのは、その後10年、100年と続いていく学問的な流れを生み出せるかです。自分の論文を起点に研究の水脈が広がり、いろんな人に影響を与え、100年後に残る豊かな学問の森が育っていく―。そんなイメージをもっています。

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バックグラウンドはさまざま、融合領域への意欲を持つ学生が集まる研究室

JAISTは学部を持たない大学院大学であり、留学生を含めさまざまな学生を受け入れる懐の深さがあります。私自身も文学部哲学科といういわば異色の分野の出身ですが、数理論理学の研究で国内屈指の研究実績があるJAISTに魅力を感じ、飛び入学でJAISTに進学しました。
現在、私たちの研究室には情報、数学、工学、哲学とさまざまなバックグラウンドを持つ学生が集まり、理論計算機科学という、数学と情報科学の融合領域に挑戦しています。
学生の皆さんに伝えたいのは、自分で自分の限界を決めてはいけないということです。「今、自分は博士前期課程で学んでいるからこれができればいい」「博士後期課程だからこれくらいでいい」など、周囲の目や既存のものさしで判断するのではなく、自分の思いを発散させ、やりたいことを追求する学生生活を送ってほしいと願っています。

令和6年12月掲載

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