研究

教員インタビュー(この人に聞く)

大平圭介 教授

新しいプロセス技術を駆使し、シリコン系次世代太陽電池を開発

桶葭興資 准教授の写真です

東京大学博士(工学)。広島県福山市出身。東北大学金属材料研究所 博士研究員を経て2005年に本学材料科学研究科(当時)に着任。2018年より現職。専門は太陽光発電、半導体工学、薄膜形成。

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太陽のエネルギーを太陽電池により直接電気に変換する太陽光発電システムは、2012年に固定価格買取制度(FIT)が導入されて以降、加速度的に増えています。 2050年カーボンニュートラルの実現に向けさらに導入を拡大していくためには、より安価で、性能が高く、耐久性に優れた太陽電池を実現する技術開発が重要になります。また太陽光パネル(太陽電池モジュール)を含む発電設備の廃棄問題も、避けて通ることはできません。シリコン系次世代太陽電池の研究に取り組む本学サスティナブルイノベーション領域の大平圭介教授にお話をうかがいました。



長く、安定して使える太陽光発電を考える

私たちの研究室では、安価で、性能が高く、耐久性に優れたシリコン系太陽電池を実現する基盤技術の確立を目指して研究を進めています。
太陽光発電パネル(太陽電池モジュール)を導入する際、多くの方が注目するのが初期発電性能と販売価格ですが、太陽光発電の本当の電力コストは、製造コストと発電性能だけでは決まりません。太陽電池モジュールが製造され、メンテナンスしながら使用され、廃棄されるまでに要した全コストと、それまでに生み出した全エネルギーの比率を考慮する必要があります。

「大学の役割は起きている現象を解明することですが、それを産業化に結びつけるためには企業との連携が欠かせません」と語る大平教授。研究室では産学連携による企業との共同研究を積極的に推進しています。

さらには今、森林を伐採してメガソーラーを建設するのではなく、環境保全と両立させるかたちでの太陽光発電の普及が模索されています。 東京都では、新築戸建て住宅への太陽光パネル設置義務化を目指して改正条例が成立しましたが、今後は建物の屋根や壁面に太陽電池モジュールを設置する事例も増えるでしょう。そうした場合、建物の寿命と同じくらい長く使える太陽電池モジュールのあり方を考える必要があります。

修理や再利用が可能な新概念のモジュールを提案

現行の太陽電池モジュールは、太陽電池セル、ガラス、バックシートを封止材で接着した構造になっています。封止材を使ってガチガチに固めることで機械的な強度や耐久性が保たれているわけですが、同時に「紫外線により封止材が黄変して入射光が遮蔽される」「昇温・降温の繰り返しにより配線が切れる」「ガラス板などからナトリウムイオンが封止材中に拡散してセルに侵入する」など封止材由来の劣化も生じます。また構造を分解できないため、廃棄時に部材をリサイクルすることは困難です。

こうした課題に対し、私たちは封止材を用いない、新しい概念のモジュールを提案しています。封止材由来の劣化を抑止できることに加え、カバーガラスが開け閉めできる仕様になっているため、太陽電池セル一つひとつの修理や取り換えができ、最終的に廃棄する際には分別、リサイクルが可能です。

これは一研究室で完結するテーマではありません。ニュースでも取り上げられていますが、太陽光発電の急速な普及に伴い、近い将来、大量の太陽電池モジュールが廃棄され、多大な環境負荷をかけるのではないかと懸念されています。今の太陽電池モジュールは、廃棄やリサイクルのしやすさまで配慮した構造にはなっていません。私たちの研究をきっかけに、モジュール構造を根本的に見直そうという研究が世界的に活発になることを期待しています。


Cat-CVD装置を駆使し、結晶シリコン太陽電池に“やさしく”薄膜を形成

太陽電池セル(発電素子)そのものの質を高める研究も進めています。

結晶シリコン太陽電池では、変換効率を向上させるためシリコン表面に薄膜を形成する技術が用いられます。主流は加速した電子を原料ガスに衝突させて分解し、薄膜を形成するプラズマ励起化学気相堆積(プラズマCVD)法ですが、ガス分解の過程で電荷を持ったイオンが形成され、試料表面に衝突することで損傷を及ぼすという欠点があります。

これに対して私たちは、触媒化学気相堆積 (Cat-CVD)法により薄膜を形成する研究に長年取り組んでいます。これは通電加熱した触媒体線で原料ガスを分解するもので、シリコン表面にやさしく(低損傷で)膜を形成できます。

Cat-CVD法は、水に弱い部材を保護する、いわゆるガスバリア膜の堆積にも利用できます。この技術の展開例のひとつが、次世代の太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイトとシリコンとの「タンデム型」の太陽電池は、変換効率が30%を超えるという研究結果が出ています。30%という値はシリコン太陽電池の効率の理論限界(約29%)を超え、太陽光電池の新たな展望を見出すものです。ペロブスカイトは水や酸素に弱いことが以前からの研究で分かっています。ここにCat-CVD法によるガスバリア膜の形成技術を応用し、太陽電池の高信頼性化に貢献したいと考えています。


フラッシュランプアニール(FLA)を用いた低コスト太陽電池の実現に向けて

瞬間的には地上での太陽光の数万~数十万倍のエネルギーを持つミリ秒台のパルス光(フラッシュランプアニール光)を使って、薄膜結晶シリコン太陽電池をつくる研究にも取り組んでいます。この方法では、シリコン基板を使った太陽電池に比べ変換効率は低くなりますが、安価なガラス基板の上に堆積させた非晶質シリコンに対し瞬間的な加熱を行って多結晶シリコン薄膜を形成するため、高い生産性を持ち、低いコストで製造できる太陽電池の実現が期待されます。

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学生の成長と日常をサポート

私たちの研究室では、「朝会」と称して毎朝8時にメンバー全員でミーティングを行っています。夜間や土日は安全面から危険な実験は行わないため、平日の朝からしっかり活動するという目的で始めた日課ですが、学生の規則正しい生活の習慣づけや研究のサポートの意味合いもあります。研究室を立ち上げてから今まで10年以上、退学や消極的な理由で休学した学生は一人もおらず、ひとつの効果が表れていると思っています。

研究活動以外では、親睦を深める場として、キャンパスの近くに畑を借り、雑草と戦いながら野菜を栽培しています。昨年はズッキーニ、ナス、トマト、五郎島金時、源助大根などを収穫しました。2年に1度の白山登山も研究室の恒例行事となっています。JAISTで過ごす学生時代、緑に囲まれた環境も楽しんでほしいと思っています。

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家庭菜園ならぬ研究室菜園「リトルガーデン」で五郎島金時を収穫。一画には封止材を用いない太陽電池モジュールの試作品を設置し、改善点や問題点を検証しています。



令和5年3月掲載

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