本プロジェクトでは、海洋プラスチックゴミ問題解決に資する方法として光スイッチ型分解システムを提案する。ここで、生分解性プラスチックを社会実装するために以下の2つの基本的システムを挙げる。
1)ON型光スイッチ:陸域の生活圏では材料として安定であるが、投棄後に海洋流出するまでの過程で生じる表面損傷などにより太陽光がプラスチック内部に届き生分解が始まる(ON)という「光スイッチ」である。陸上環境で散逸し海洋に流出しうるプラスチック製品で、特に、比重の低いもの、空気の含まれるもの、表面張力の高い繊維状物質(マイクロファイバーなど)が対応する。
2)OFF型光スイッチ:蛍光灯や太陽光暴露のある状態では生分解が抑制(OFF)され、海中・海底・コンポストなどの暗所の環境で生分解が始まるという「光スイッチ」である。従来の海洋分解性プラスチックに本光スイッチを施すため、水産用資材、農業用資材、レジャー用品などに適用される。特に、比重が1よりも大きいもの、重い物質と一体化しているものが対応する。
以上の2つの技術は異なる次元の光スイッチおよびその組み合わせであり、さまざまな用途に合わせた光スイッチの制御が可能となる。さらにこれらを組みわせたON/OFF具有型の光スイッチも進化型システムとして提案できる。
3)ON/OFF型光スイッチ:明所で生分解抑制、暗所で生分解開始という概念は、従来の海洋分解性プラスチックに施したOFF型光スイッチと同じであるが、これらは脂肪族ポリエステルであり熱的・力学的性能が低いことが問題点である。そこでより高性能なナイロンを主成分とするON型光スイッチをプラスチック内部に仕込んだ二重構造を構築することで性能アップさせ用途を格段に広げられる。また使用中は表面のOFF型が機能するが投棄後に漂流中に表面損傷し内部に太陽光暴露が行なわれることでON型スイッチが機能する仕組みである。プラスチックはそもそも軽い物質であり、比重はせいぜい1.4程度である。したがって、どのプラスチックも海流や対流の影響により浮沈が繰り返し行われ、他の浮遊や沈降物に絡まることも想定した理想的システムである。
さらには、海洋生物が誤飲しても消化管内で物理的障害や化学的毒性を生じない安全なプラスチックの開発を目指す。これはON型光スイッチに含まれ、従来の海洋分解性プラスチックには無い「軟化生分解」という機能に基づくものである。2030年にはこれらの海洋実環境における分解性を証明し衣料やビニール袋などの試作品を作製する。さらに、上記のシステムは広範囲のプラスチックに適用できるため、2050年までにはさらに多くのプラスチックへと展開し様々な種類や形態の光スイッチ型分解性プラスチック製品へと展開する。