分子センサーを創り、生きた細胞の活動を読み取る。
筒井研究室 TSUTSUI Laboratory
准教授:筒井 秀和(Tsutsui Hidekazu)
E-mail:
[研究分野]
分子生物学、生理学、生物物理学
[キーワード]
ニューロン、細胞膜電位、蛍光タンパク質、バイオセンサー
研究を始めるのに必要な知識・能力
(予備知識)分子・細胞生物学や電気回路の基礎などを理解しているとスムーズに研究を開始できますが、初学者にも丁寧に指導します。
(求める人材)実験が好きな人。決められた実験を行うだけではなく、試行錯誤や寄り道の楽しさを理解している人。
この研究で身につく能力
分子・細胞生物学、基礎生理学、生物物理学に関する基本的な研究方法や実験手技を理解し、体得します。多くの生命現象が未だに謎に包まれたままである中で、さまざまな生命現象の仕組みや分子的基礎がどのようにして解明されてきたかを学びます。新しい技術を創り出し、今までアクセス不可能だった領域に踏み入る道を切り開く面白さや意義を学びます。こうした新しい領域の探索を通じ、生命現象の理解のみにとどまらず、長期的には社会や産業にいかに還元し技術革新を起こしていくかを考える能力を身につけます。
【就職先企業・職種】 医療、光学、電気、IT、食品、公務員など
研究内容
生命現象は驚くほど緻密に制御されていますが、その背後にはどのような分子の「仕組み」があるのでしょうか? そんな素朴な疑問を大切にし、その「仕組み」を今までにない技術革新につなげるような研究を行っています。本研究室では、以下の2つのトピックを中心に据えています。
【細胞の活動を観る・測る】
(左)分子センサーの性能試験の様子(中央)分子センサーを発現した神経細胞(右)微細加工技術で試作した細胞インターフェイス
脳神経系は究極の生体組織です。回路を構成する細胞の、わずか数 nm の細胞膜に、0.1V 程度の電圧信号が発生します。この信号は回路網を素早く伝播し、自律的に組織化され、同時に処理されます。この過程を理解することは、現代科学の大きな挑戦であり、さらにその先にはさまざまな病態の理解、未知の情報処理アルゴリズムの解明、そして究極的には人工システムとの統合という展開も期待されています。しかし、そこには数多くの難関があります。例えば、現在の技術では生体電気信号の時空間パターンの詳細な計測が不可能であることは、最も根本的な難関となっています。
一方で、生体はこの電気信号を解読するための仕組みを備えています。例えば、細胞膜には電圧に反応する特殊な蛋白質が存在し、電圧信号を増幅したり、それを解読して細胞内の環境を変化させたりしています。このような分子を部品のように巧みに組み上げれば、生体電気信号を可視化する人工膜電位センサーを創ることが出来ます。本研究室ではこれまでに単一細胞の単一スパイクの可視化に成功しており、みなさんとともに、さらなる高速・高感度化を目指したいと考えています。また、近年は微細加工技術を駆使した新しい計測原理などにも注力しています。多様な研究者や技術が集結する本学の資質を最大限に活用し、遊び心を大切にしながら新しい技術領域の創成を目指しています。
(左)細胞内で自発成長した蛍光タンパク質の挙動 (右)直接構造解析の結果
【蛍光タンパク質の多様な物性とその応用】
蛍光タンパク質の多様な物性は、細胞観測技術において様々な革新を与えてきました。研究室では新しい物性を開拓し、様々な応用へと展開していく研究を行っています。例えば、生きた細胞内で結晶を作ってしまう現象や、界面と呼ばれる特殊環境でのみ起きる不思議な物性をこれまでに発見してきました。これらの現象はタンパク質の高速構造決定や新しい細胞観察技術へと発展していく可能性を秘めており、さらに詳細な研究を行っています。
主な研究業績
- Farha et al., Interface-specific mode of protonation–deprotonation reactions underlies the cathodic modulation of fluorescence protein emission. Appl. Phys. Express 13 (2020).
- Farha et al., Electric-field control of fluorescence protein emissions at the metal-solution interface. Appl. Phys. Express 12 (2019).
- Tsutsui, H. et al., Improved detection of electrical activity with a voltage probe based on a voltage-sensing phosphatase. J. Physiol., 591, 4427- 4437 (2013).
使用装置
各種光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡
電気生理・電気化学計測関連機器
薄膜作成・微細加工装置
細胞・組織培養関連機器
分子生物学関連機器
研究室の共同専攻における強み
研究室では生物の仕組み・ロジックを解き明かすという基礎生理学の立場から、関連する計測技術の開発や生体分子の物性研究をしています。これらの中には、例えば、薬をより早く安全に創ることや、効率的な水素生産を行うことに貢献できる可能性など、従来の伝統的な研究の枠組みを超えたところでも様々な潜在性を持つものが含まれています。学生達の自由な発想と共同専攻の様々な最新技術・知見を融合することで、新しい時代を切り開く「芽」を創るような研究に挑戦することが出来ます。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/tsutsui/wordpress/