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吉岡研究室

環境と社会のサステナビリティに貢献する意思決定科学

吉岡研究室 YOSHIOKA Laboratory
准教授:吉岡 秀和(YOSHIOKA Hidekazu)

E-mail:E-mai
[研究分野]
環境数理科学、社会システム工学
[キーワード]
サステナビリティ、資源管理、環境管理、知識創造、意思決定支援、確率制御理論、数理科学

研究を始めるのに必要な知識・能力

 応用数学の知識があると研究の幅が広がるとともに質が深まるため、可能な限り身に着けておくことを推奨します。また、日々の自己研鑽を絶やさないこと、一見して互いに全く異なる事象の間に存在する未知の相似性を見出せるような想像力の獲得を野心的に追及すること、を求めます。誰しも、限られた時間内に限られた物事しか学ぶことができません。そのため、「研究は時間との闘いである」という認識も求めます。

この研究で身につく能力

 数理的な視点から資源や環境の持続的な管理を考究するための知識やスキル、とりわけ制御理論や最適化理論に関わるもの。また、野外における現場等の研究フィールドにおいて求められる様々な状況判断能力。

研究内容

yoshioka1.jpg写真1:漁獲されたアユ(斐伊川).

yoshioka2.jpg写真2:水位・流量観測所がある手取川鶴来地点周辺.

yoshioka3.jpg写真3:斐伊川において、土砂が枯渇する河川環境を改修するための「土砂還元」の様子.

 環境と社会の持続的な共存は人類に課された課題です。とくにいま、自然環境がもたらす様々な生物資源(魚や作物)やエネルギー資源のワイズユースが切望されています。さらにはカーボンニュートラル、すなわち脱炭素社会の実現に向けて、地域から国、個人から団体に及ぶ、多様なスケールでの取り組みが求められています。
 こうした大局を捉えつつ、本研究室では資源や環境管理の現場が直面する意思決定に関する様々な課題を解決するための研究に取り組んでいます。とくに、現代数理科学における諸概念を積極的に取り入れつつ常に斬新な発想を模索し、理論と応用(現場)、双方のスパイラルアップを野心的に追及しています。
 以下に研究事例を示します。いずれにおいても異分野融合による学際的研究を目指しています。研究の現場としては、石川県手取川や島根県斐伊川等があります。

内水面水産資源「アユ」の資源管理

 日本人にとって馴染み深い内水面水産資源であるアユ(Plecoglossus altivelis altivelis)は、1年で一生を終える独特のライフサイクルを持っています(写真1)。わが国では1990年代以降アユの漁獲量が減少し続けている一方、その資源管理の役割を担う漁業協同組合は漁業者や組合員の減少と高齢化により衰退の一途を辿っています。こうした難局を打開するためには、限られたコストの中で賢く情報を収集しつつ、その中から費用対効果が良い資源管理方針を抽出する、すなわち情報を知識化することが必要です。この研究では、アユの生態に関わる生物学的な情報の自発的収集に始まり、アユの個体や個体群の成長の数学定式化、さらには最適制御理論に基づいた資源管理スケジュールの導出に取り組んでいます。

水圏環境の数理的な理解深化

 河川や湖沼といった水圏環境(写真2)には、アユに限らず数多くの生物が生息しています。こうした生物の栄枯盛衰は、水圏環境のダイナミックス(すなわち水の量と質)に左右されます。また、水力発電や農業、工業、生活のための水資源利用は、水圏環境と相互的に影響し合っています。この研究では、簡素でありながら水圏環境のダイナミックスを巧みに抽出できる数理的方法論について、必ずしも既存の水理・水文学的な枠組みに捉われずに探求しています。例えば、経済や金融、保険の分野で論じられてきた無限次元確率微分方程式系を応用することで、河川流量の物理特性を再現できることを見出しています。一見して「水」とは全く無関係なものの適用可能性を与える事例として、大変に興味深いです。

リスク・不確実性下での意思決定支援

 上述した(1)、(2)の研究と関連します。資源や環境の管理において発生し得る著しく好ましくない事象であるリスク、ならびに情報の質や量の不足に起因する不確実性という、実務において必ず直面する困難と向き合う意思決定を考究しています。この研究でも、数理的な基礎から実世界への応用をカバーすることを目指しています。例えば、前者ではOrlicz空間等の豊かな数理構造を有する関数空間を介して不確実性下でのリスク指標を理解するとともに、その数値計算アルゴリズムを開発しています。後者では、水力発電や土砂還元(写真3)、環境モニタリング等における、リスク指標の実世界での持続的な制御に取り組んでいます。

主な研究業績

  1. Yoshioka H. and Yoshioka Y.: Assessing fluctuations of long-memory water environmental indicators based on the robustified dynamic Orlicz risk, Chaos, Solitons & Fractals, Vol. 180, 114336, March 2024. https://doi.org/10.1016/j.chaos.2023.114336”
  2. Yoshioka H., Tanaka T., and Aranishi F.: Limit equations of the adaptive Erlangization with their application to environmental management, Computers & Mathematics with Applications, Vol. 146, No. 9, September 2023, pp. 271-293. https://doi.org/10.1016/j.camwa.2023.07.003
  3. Yoshioka H., Tsujimura M., Hamagami K., and Tomobe H.: Time-average stochastic control based on a singular local Lévy model for environmental project planning under habit formation, Mathematical Methods in the Applied Sciences, Vol. 46, No. 9, June 2023, pp. 10572-10601. https://doi.org/10.1002/mma.9140.

研究室の指導方針

研究テーマは学生の自主性を尊重しつつ、教員との相談により決定したいと考えています。数理解析や数値計算等の内業に加えて、河川・湖沼・ダム貯水池・農地などの研究フィールドにおける現地調査等の外業といった、様々な研究テーマが想定されます。フィールドでのデータ取得は常に一期一会であり、限られたデータから現象の背後に潜む数理構造を見出す必要に迫られる場面が多い。そのために、研究室のゼミでは学生のみならず教員も発表者に加わり、多様な数理手法を互いに学究していきたいと考えています。

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