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「理論モデル」についてのアドバイス
技術・サービス経営の博士論文・修士論文における「理論モデル」についての
よくある学生さんの誤解とアドバイスをまとめてみました.
徐々に充実させていきたいと思います.
「理論モデル」の目的
ニュートン力学は、下記の3つの法則から構成される。
厳密には相対性理論や量子力学などがあり、ニュートン力学は
「真理」ではないが、我々の身近な力学の現象は
ニュートン力学で説明できる。
- 第1法則(慣性の法則)
- 第2法則(ニュートンの運動方程式)
- 第3法則(作用・反作用の法則)
技術・サービス経営の諸現象が説明できるものが、技術・サービス経営における「理論」であろう。
すなわち、「理論」は経営学の現象(メカニズム)を汎用性をもって論理的・整合的に説明できるものである。
汎用性があっても論理的に説明できなければ「理論」ではない。
その理論の目的に関しては、下記の理解で良いと思われる。
"The primary goal of a theory is to answer the questions of how,
when, and why, unlike the goal of description,
which is to answer the question of what."
(Bacharach, Samuel B. "Organizational theories: Some criteria for evaluation." Academy of management review 14.4 (1989): 496-515.)
「理論の主な目的は、『何が』(what)を叙述するものではなく、
『どのように』(how)『いつ』(when)そして『なぜ』
(why)に答えることである」(訳:入山章栄、
「世界標準の経営理論第一回」、
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2014年9月号)
入山は、『どのように』(how)、『いつ』(when)、『なぜ』(why)を
下記のように解説している。
- 『どのように』(how):事象の因果関係(メカニズム)
- 『なぜ』(why):因果関係の論理的・整合的な説明
- 『いつ』(when):その理論が適用できる範囲
(入山章栄、
「世界標準の経営理論第一回」、
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2014年9月号)
また、「理論モデル」とは、「理論」を説明するための簡単な具体的なもので、
特に幾何学的な図形を用いた概念や物体である(Wikipedia)。
博士論文・修士論文の中に登場する理論モデルは、たいがい幾何学的な図形で記述されている。
この定義によれば、複雑な数式で現象を説明するものは「理論」ではあるが、
「理論モデル」ではないことになる。
良い「理論モデル」とは?
上記の「理論モデル」の定義を持たしているとして,良い「理論モデル」とはなんでしょうか?
技術・サービス経営では,多くの研究者が引用し,使いたくなるモデルであると思います.
そのためには,より本質的なものを可能な限りシンプルに示すことが大事です.
物理学では,理解するのに数年の勉強を要する理論モデルもあるかもしれません.しかし,
技術・サービス経営では複雑で説明や理解するのに努力を要するものは,良い「理論モデル」
でないと私は考えます.
もちろん,シンプルなモデルの奥にある知識をすべて理解するのには時間がかかることもあります.
例えば,SECIモデルはとてもシンプルでそのメカニズムの肝は容易に理解できますが,
実際の現象を共同化,表出化,連結化,内面化にあてはめる際には,悩む場合や誤解がある
場合も多いかもしれません.
「理論モデル」に関する誤解
博士論文・修士論文で記載されている技術・サービス経営の
実際の事例はたいへん興味深いのですが,
論文にまとめる際に,理論的貢献はなんでしょうか,理論モデルとして
書いてみましょう,と指導教員が言います.
社会科学の研究経験のない学生さんは,
「理論モデル」と言われても困るようです.
よくある誤解をまとめてみました.
「理論モデル」はイメージ図/ポンチ絵ではない
プレゼンテーションで,説明・主張したいことを
わかりやすくイメージ図やポンチ絵で書くことがありますが,
それは理論モデルではありません.
「理論モデル」は業務・処理のフローではない
事例の業務プロセスの流れや処理の手順を記述したものは理論モデルではありません.
事例の説明としては有効ですが、前述の「How」,「Why」, 「When」が書かれていません。
同様に,新しい概念の説明図も,概念の説明には必要ですが,
その概念が価値をどのように生み出すのかのメカニズムが記述されていなければ,
理論モデルではありません.
「理論モデル」はフレームワークではない
例えば,ビジネスモデルキャンパスやSWOT分析などのテンプレートは、
ツールではあるが理論モデルではありません.
ただし、フレームワークは、何らかの理論に基づき導出される場合も少なくありません。
「理論モデル」の記述に関するアドバイス
なぜそうなるのかの論理が示されている
「理論モデル」には,その中になぜモデルが成り立つのかの論理が
明確に記載されている必要があります.その論理が本当に正しいかは,
モデルの検証が必要になりますが,モデルの中で論理的な説明が
できなければなりません.
先行研究に対する新規性が一目でわかる
特許の明細書のブロック図と同じで、先行研究に対する新規性が差分で一目でわかることが望ましい。
意味が明確でない図形や矢印や色を使わない
理論モデルの説明図で,様々な図形や矢印を不用意に多用しているケースが
見受けられます.四角や丸などの図形を使う場合は,意味を明確にして
使い分けてください.
汎用的・本質的でないことは書かない
「理論モデル」は,事例の説明ではないので,事例に登場する要素も
汎用的でないことは書かない.また,主張したい『どのように』(how)、
『いつ』(when)、『なぜ』(why)に本質的関係しない,
削除可能な概念は持ち込まない(勉強した概念をいろいろ書きたくなりますが,
書くことでかえって本質がぼやけてしまいます).
問い合わせ先:内平直志 uchihira@jaist.ac.jp