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学長対談[参議院議員 岡田 直樹 氏]

学長対談 参議院議員 岡田直樹氏 最先端研究を地方創生の力に変えるために
 産学連携による地域活性化への取り組みや、スタートアップ創出に向けて北陸の大学・高専とタッグを組んだプログラムなど、JAISTでは地域貢献を目指した多彩な取り組みを推進しています。そこで今回は地元石川県出身の政治家であり、日本の地方創生政策を指揮された岡田直樹氏を迎え、地域の中で大学が果たす役割や可能性についてお話をうかがいました。

岡田 直樹 氏 プロフィール
寺野 稔学長 プロフィール

「糸が鉄を引っ張った」この独自の産業連関をさらに先へ

参議院議員 岡田 直樹 氏

寺野 岡田先生にはこれまで産学連携あるいはOISTとの関係強化などJAISTの様々な活動にご支援をいただいており、おかげさまで多くの成果が生まれています。

岡田 私は2022年より1年あまり地方創生担当大臣を務め、東京一極集中の打破と地方への分散に取り組みました。首都機能あるいは政府機能の地方移転は容易ではありませんが、先人からの努力の結晶として、文化庁を京都に移したり、東京国立近代美術館の工芸館を国立工芸館という形で金沢に移転したりと、今後のモデルケースになるような実例も生まれてきたかと思います。しかしながら、それに先立つ30年余りも前にJAISTがここ石川県能美市に立地したのは時代を大きく先取りした出来事だったと感じています。開学当時、私は北國新聞社の小松支社で新聞記者をしており、この辰口丘陵に最先端のJAISTができることにワクワクと胸を踊らせた記憶があります。最先端かつ国際的な知の拠点が日本各地に適切に配置されることは学術のみならず、産業経済分野にとっても必要なことといえるでしょう。

寺野 私は学長になる以前からどれだけこの地に恩返しできるか、という意識を持っていました。日本の産業構造の特殊性として、99.7%の企業が中小企業に分類され、その多くが地方に何らかの拠点を有しています。また、これらの企業は単なる大企業の下請けではなく、それぞれがユニークな技術力を持っています。このような企業をその地域にある大学がどれだけ元気にできるかが、地方の活性化に重要であると考えてきました。

岡田 私が新聞記者時代に書いた記事に、「石川の産業は糸が鉄を引っ張った」という見出しを打ったことがあるんですよ。この地域は江戸時代から羽二重など絹織物による繊維産業が盛んでしたが、明治になって津田米次郎という人物が絹を織る機械、力織機を開発し、さらにそうした繊維機械を製造するための加工機械が発達して、そこから国内外に誇れるほどの精密機器を生み出せる地域産業に発展した。それを担っているのは中小企業です。この地には昔からの手仕事に支えられた独自の産業連関があり、脈々と続くこの流れを今後さらに発展させてゆくには、学術の力、科学の力は外せないですから、それをJAISTが授けてくださることを期待します。

大学発スタートアップで見出された多くの宝

寺野 本学で先生方が取り組まれている最先端の研究は、そのまま地域に繋げるのは難しいところがあります。ですから、研究をベースとして地域とどういう形で連携していけるかについては、きちんとした方向づけをしていかないと地域活性化には繋がらないと考えています。

岡田 JAISTでは、非常に先端的でハイレベルな研究を応用面で生かす努力を様々な形でされていて、マッチングハブも、産学官、あるいは産学官金を繋げる活動ですね。私もこの試みを全国に普及させる仕掛けをさせていただいたつもりですが、もう一つ、岸田前首相の掲げたデジタル田園都市国家構想の下で、その担当大臣として"Digi田(デジでん)甲子園"と銘打って、全国の自治体や教育機関、企業からデジタルの力を活かした地方創生のアイデアを募集し表彰する制度を開始いたしました。そこで感じたのは先端技術を地域づくりに活用したいという強い熱気です。この動きは今後も私自身のライフワークとして推進していきたいですし、マッチングハブにも力を入れてお手伝いしていきたいと思っています。

寺野 稔 北陸先端科学技術大学院大学学長

寺野 ありがとうございます。マッチングハブは11年目となり、熊本の復興支援や小樽、長岡など北陸以外の開催も含め全体で20回を数えます(2024年11月現在)。北陸地域の企業を元気にするには北陸の中だけでは十分でないと考えて、マッチングハブの全国展開を進めています。また、このような既存企業への働きかけに加えて、北陸全体を巻き込んだ形でのスタートアップへの取り組みを開始しました。Tech Startup HOKURIKU(TeSH)といいまして、本学と金沢大学が主幹校になって獲得した文部科学省系のファンドで、北陸の12大学3高専が連携して大学・高専発のスタートアップを生み出そうという取組です。これまで北陸地域は大学発スタートアップに関して超後進地域でしたが、このプログラムを立ち上げて、今年は各大学・高専から実に60件くらい手が挙がり、審査の後に21件がGAPファンドによる支援を受けることとなりました。やはり宝が眠っていたのかなと感じています。

岡田 それは頼もしいですね。JAISTの主導的な役割に期待します。

寺野 少しでも北陸に貢献できるよう、我々がリーダーシップをとって地域の大学全体を引っ張り込んで動かしていく、そのためにマッチングハブとTeSHの両輪がうまく回り始めたかと思います。

JAISTの地域貢献の歩みをOISTへつなぐ

岡田 岸田内閣では内閣府特命担当大臣という肩書きで8つもの担当を兼務し、それぞれに大変良い経験をさせていただきましたが、そのうちの沖縄担当大臣を拝命した時に、私は瞬時にJAISTを思い浮かべたのですね。というのも沖縄にはOIST(沖縄科学技術大学院大学)があり、担当大臣としてOISTに関わる沖縄振興予算を編成し配分する仕事も担います。OISTは前学長がドイツ、現学長はスウェーデンの方、またOIST教授でやはりスウェーデン出身のスバンテ・ペーボ博士がノーベル生理学・医学賞を受賞されましたように、極めて国際的で先端的です。そうではあるけれども、学生も先生方も多くが外国人であり、国の税金を投入してOISTを育てていることに対して、どういう形で沖縄や日本のために貢献しているのか、といった質問が国会でも出てきます。卓越した教育研究機関として日本全体に与える大きな刺激は意義あるものと答弁でもそう申し上げましたが、同時にもっと地に足のついた成果・実績も挙げてほしいという思いは強く持っていました。

寺野 日本の地にしっかり足のついた教育と研究をしていただきたいということですね。

岡田 そうですね。そこで思ったのが、我が故郷石川にはJAISTがあって30年余り、産学連携など地域に根差した活動を実践されている。これまで地元の産業に、種を蒔き水をやってこられた、その努力をOISTにも学んでほしいと思いました。そこで研究連携の協定を結ばれてはどうかと考えたんですね。

寺野 最初に岡田先生と連携のお話をさせいただいてから少し経った頃に、お電話で「学長、あれ本気でやりませんか」と言われた。それが良いきっかけとなりました。その2日後には東京の岡田先生のところへ飛んで行って2人で構想を練り上げることができ、そこから「学術協力に関する基本協定」の締結へと繋がっていったと思います。その後、OIST側から我々が取り組んでいる地域貢献について具体的に学ばせてほしいと、事務職員を本学に派遣されるまでに密接な関係が築かれています。

岡田 両大学に対して押し付けがましいのではないかと懸念もありましたが、ぜひ大臣在任中のタイミングでという思いがありましたので、この連携が実現した時は本当に嬉しかったですね。

寺野 2023年の締結記念シンポジウムにはOISTからカレン・マルキデス学長以下10名以上ものトップマネジメントの方々が当地へお出でくださいました。今年は我々が沖縄に赴き、本格的な研究連携のために、関連分野の研究者同士による技術ミーティングに近いようなシンポジウムを実施する予定です。そして来年の3回目には、我々の連携からこんなに素晴らしい研究成果が出ているということを、例えば東京から広く発信するような機会にできればと構想しています。

創造的復興を目指して新しい種を蒔く

学長対談 参議院議員 岡田直樹氏

寺野 マッチングハブを熊本の復興支援で開催したと申しましたが、この度の能登半島地震において、本学では「復興支援タスクフォース」を立ち上げ、能登地域との共同研究やマッチングハブに能登の企業を招待するなど具体的な支援へ動き始めています。まず、それぞれの現状を知り、シーズとニーズを繋げることで、より早くより広がりのある復興が可能になると考えています。

岡田 能登半島地震は能登だけでなく石川県全体の大きな痛手でありますので、まずは復旧を急ぐとともに、「創造的復興」の旗の下、震災前より良き能登や石川のビジョンを描き実現せねばなりません。そこでは地域の伝統産業を活かした新たなビジネスの創出ができないかと考えています。そのためにスタートアップするような気概を持った経済人が、研究者の力を借りながら切り拓いていくということを切に願っていますので、ぜひJAISTにはお力添えいただきたいです。

寺野 おっしゃるように元に戻しただけでは能登の将来は見えてこない。では何を新しく作り込んでいけばいいのか、その種づくりの機会として今後は能登の中に入り込んでマッチングハブ能登を開催することも視野に入れていますし、しっかりフォローもしていくつもりにしています。

岡田 そういった活動を円滑に進めるためにも、石川県全体で能登にサテライト・キャンパスを設け、若い研究者や学生さんを呼び込もうという施策を本格的に考えています。集まった方々にはボランティアとして地域を助けていただくと同時にフィールドワークを実践してもらう、あるいは地元のお祭りに参加してキリコ(灯籠)を担いだり、山車を引いたりして地域に活気を呼び戻してもらえればと思います。能登空港には大学コンソーシアム石川能登分室がありますので、その周辺の立地が適しているだろうと考えているところです。

寺野 能登空港は半島の中央部に位置する高台の安全な場所ですから、奥能登の拠点として最適だと思います。そこに若者が集まる拠点が設けられれば、能登が新しい形で生まれ変わる第一歩になると思います。

岡田 能登の将来は石川県の浮沈に関わるもので、いま難しい岐路に立っています。なんとか能登を蘇らせるためにも、将来を切り拓いていく革新的な要素を与えてくれるJAISTのような教育研究機関の力が必要です。そういった学術の環境を充実させるためにも、少し話は飛びますが、現在進行中の金沢駅前再開発事業の一部として、これまでになかった本格的なコンベンションホールを新設し、アカデミックな活用を図っていくのも一案と思っているところです。

寺野 金沢駅前に1000席クラスのコンベンションに適したしつらえのホールができれば、北陸3県はもちろん、全国からも集まりやすく、学会や会議の開催には大変利便性の高いものとなるでしょう。実現することを大いに期待しています。

※TeSH…科学技術振興機構(JST)大学発新産業創出基金事業スタートアップ・エコシステム共創プログラムを委託されたプログラムであり、参画する大学・高専に所属する研究者(学生を含む)に対し、スタートアップを目指したGAPファンドによる支援を行う

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