Neteco06 Oral (Y.Hayashi)

第2回シンポ 招待講演概要

招待講演1
中野 勉 氏, 関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 助教授
題目:大規模工業集積における「エリート集団」の存在とネットワーク統合メカニズム
概要: 産業集積における中小企業のネットワークの優位性を初めて理論的に説明したのはピオリとセイブルの「柔軟な分業」(1984) の概念であり、以来ソーシャル・キャピタルの立場から世界的にさまざまな集積の定性的な研究が行われてきた。しかしながら、90年代以降には世界的な規模で情報化と高度な機械加工技術の発達により多国籍化したOEMがいっそう強くなった結果、資源に乏しい中小企業の経営は厳しさを増しているように見える。1994−95年の企業間取引のデータから大規模ネットワークを分析した結果、近年の情報化と高度な機械加工技術の発達を基礎とする大規模集積は、企業の規模でなくノードの関係性を説明変数とした視点に立つと、企業間の階層性、分業構造、パワー・ロー的なリンクの分布の中に、ネットワークを統合するエンジンとしてのコアとなる「エリート集団」が存在することが明らかとなった。

招待講演2
松下 貢 氏, 中央大学理工学部 物理学科 教授
題目:ネットワーク科学におけるフラクタル分析
概要: ネットワークは生態系, 食物連鎖, 細胞内化学反応系, 電話網, WWW, インターネットなど, 自然界や社会に普遍的に存在する. 私達は意識するとしないに関わらず, 経済, 社会活動を通じていろいろなネットワークの中に生きている. ここでは一般的な複雑性科学の視点から, 現実に見られるネットワークの構造を分析し, 多くのネットワークに共通した特徴・性質を議論する. さらにそれらの性質を持つ始源的なモデルを考察し, 現実のネットワークと比較することにより, モデルの有効性, 問題点などを議論する.

第2回シンポ 一般講演概要

小島 一浩(産業技術総合研究所)
題目:産業技術総合研究所における異分野連携にみるネットワーク特徴
概要: 産業技術総合研究所(以下,産総研)には3000人の研究者が所属し,さらに外部研究者も含めると7000人にも及ぶ研究者が研究活動を行っている.さらに,その研究分野は,ライフサイエンス,情報通信・エレクトロニクス,ナノテクノロジー・材料・製造,環境・エネルギー,地質,標準・計測とその幅はひろく,研究領域を超えた異分野連携が行われている.このような大規模かつ異分野融合研究を実施している研究機関は,日本のみならず世界的にも希少であると思われる.本研究では,産総研の研究者間の関係,特に異分連携をネットワークとして見たときにどのような特徴がみて取れるか調査する.

会田 雅樹(首都大学東京)
題目:通信トラヒックの power law から見たネットワーク構造
概要: 通信トラヒックのデータには社会活動の特性が反映されていると考えられるため,適切な分析を行うことで何らかの社会的な構造を抽出することができる.本発表では,携帯電話のトラヒックに現れる power law に着目し,ユーザのネットワーク構造について考察する.

柴田 尚樹, 内田 誠(東京大学大学院 工学系研究科)
題目:ブログ記事ネットワークにおけるトピックマップの作成
概要: 近年、ウェブログ(以下、ブログとする。)の普及によってワールド・ワイド・ウェブ上に公開される情報が急増している。本研究ではブログ記事のもつネットワーク性に着目し、膨大な記事のもつ情報とその成長・変遷の様子をネットワーク分析と自然言語処理を用いて俯瞰する手法を提案する。ブログの記事をノード、トラックバックをエッジとするネットワークに対し、トポロジカルなクラスタリング手法によって記事クラスターを特定する。そして、記事の本文から自然言語処理の手法で、クラスターごとの特徴語を抽出することで、膨大なブログ記事で扱われているトピックをクラスターによって俯瞰するトピックマップを作成する。また、ネットワークの時系列的成長の様子と併せて可視化することで、ブログの記事に現われるトピックの時系列的な成長や変遷の様子を示す。

風間 一洋, 斉藤 和巳, 山田 武士(日本電信電話(株))
題目:ブログのトラックバックネットワークにおける中心性の可視化と分析
概要: ネットワーク分析において中心性は興味深い指標であるが,半面多くの中心性が使用されており,その違いは必ずしも明らかではない.そこで,本発表では,次数中心性,距離中心性,媒介中心性,PageRank,HITSなどの中心性に基づいて,現実のブログのトラックバックネットワークを可視化する.さらに各中心性の値に基づいてブログエントリを順位付けし,各中心性の結果がどのように異なるのか,またはSEOコンテストなどの作為的な行為にどのように影響されるかを分析して,それぞれの特徴を明らかにする.

小野 泰正, 林 幸雄(北陸先端科学技術大学院大学)
題目:頑健なネットワーク上での情報収集の効率と信頼性
概要: 本研究では、災害時の情報収集において頑健性をもち、信頼のおける情報を効率よく集めるプロセスと構造を見出すことを目的とする。まず、災害時に起こりうる様々な故障に対して通信が頑健性を持ったネットワーク上での情報収集プロセスについて議論し、効率よく信頼のおける情報を収集するための方法を検討する。

内田 誠, 白山 晋(東京大学大学院, 人工物工学研究センター)
題目:複雑ネットワーク構造における伝播ダイナミクス
概要: 口コミによるうわさの伝播や世論形成、またコンピューターウィルス等の疾病伝播など局所的な相互作用による創発が鍵となる現象では、相互作用そのものによる影響に加え、相互作用の空間構造としてのネットワーク構造から受ける影響も大きい。 本研究では、ネットワーク構造上に単純な局所的相互作用による情報伝播のモデルを導入し、BAモデルをはじめとする理論的な構造モデルやいくつかの現実のネットワークの事例を用いながら、伝播ダイナミクスの構造依存性を計算機シミュレーションとその可視化によって分析する。 その結果として、伝播の起点によってその後のダイナミクスが大きく異なり、ネットワーク構造に依存するある種の振動モードが発現することを示す。さらに、統計的な構造指標が似通ったネットワークでも挙動は大きく異なり、伝播ダイナミクスがネットワークの構造的な特徴量として利用できる可能性について論じる。さらに、現実世界のいくつかのネットワークに提案手法を適用し、結果を考察する。

海和 建太(会津大学), 豊泉 洋(早稲田大学)
題目:コンピュータウィルスの拡散の観測および理論モデルとの比較
概要: 本論文では、発信源のPCに保存されているアドレスを検索し、次の感染先を探し出すといったメール型のコンピュータウィルスの特徴を踏まえ、コンピュータウィルスの動的拡散過程をメールアドレスネットワーク上の拡散過程としてモデル化する。ウィルスの拡散過程の理論的なモデル化は既に研究されているが、本発表では、実際のネットワーク上でのコンピュータウィルスの挙動と比較し、理論的なモデルの妥当性をについて考察する。また、その結果から防御ストラテジーの有効性についても論じる。

相馬 亘, 藤原 義久 (ATRネットワーク情報学研究所), 青山 秀明(京都大学理学研究科), 家富 洋(新潟大学理学部), 池田 裕一(日立総合計画研究所), 海蔵寺 大成(国際基督教大学教養部)
題目:相関行列とネットワーク
概要: 相関行列からネットワーク構造を抽出する方法について議論する。この方法の一つとして、最小広域木(MST)の手法が知られている。だがこの手法は木を作る手法であり、できあがったネットワークはクラスターを含んでいない。この問題を克服する簡単な方法の一つは、相関係数に閾値を設けて、その閾値以上の大きさを持つ行列成分だけを使って、ネットワークを構成する方法である。また、その他の手法としては、相関の強い順にノードをつなげていき、ネットワークが埋め込まれる多様体のジーナスが変化するところまで繰り返す方法である。そうすることによって、球面上、ドーナツ上、トーラス上に埋め込められたネットワークを構成できる。そして、このように構成されたネットワークは、クラスターを含んでいる。本研究では、企業の売上高などの財務指標を用 いることによって企業間の相関行列を構成し、上記の手法を用いてネットワークを構成する。 そしてそのネットワークと、実際の取引ネットワークや、株所有ネットワークや、それらのネットワークの重なる部分から構成されるネットワークと比較することによって、上に述べた手法の特徴や問題点を明らかにする。

来見田 裕一, 小野 廣隆,定兼 邦彦, 山下 雅史(九州大学)
題目:Random and Determinstic Search Strategies for Complex Networks
概要: WWW空間上でのクローリングなど,グラフにおいて起点頂点より辺で繋がった頂点をたどり,できるだけ少ない頂点を経由して目標頂点に到達したいという問題がある.グラフの全情報が分かる小規模なグラフでは,ダイクストラ法等のアルゴリズムにより最短経路を予め計算し,これを利用することができる.しかし実世界の大規模なネットワークにおいて,全頂点を訪問することになりうるこれらのアルゴリズムは,必要な記憶量が膨大になるため事実上適用不可能である.そこで,限定された局所的な情報だけを用いて目標頂点に到達する手法が必要となる.過去にはランダムウォークに基づく手法などが多く提案されているが,本研究では,別のアプローチとして決定的に動作する探索手法を提案し,スモールワールドやスケールフリーという特徴を持つネットワークをモデル化したグラフにおいて,その能力を計算機シミュレーションにより検証する.

斉藤 和巳, 山田 武士, 風間 一洋(NTT コミュニケーション科学基礎研究所, 未来ねっと研究所)
題目:k-dense 法によるネットワークのコア部抽出
概要: ネットワークにおいて密結合するコア部抽出には、従来のK-core分解法や最近提案されたK-cliqueコミュニティ抽出法などが知られている。ただし、K-core法は効率的ではあるが詳細な構造を求めることが不向きで、逆に、K-clique法の計算量は大きく大規模ネットワークへの適用は困難となる。本発表では、k-dense コミュニティと呼ぶ新たな概念を導入し、実際にブログなどの大規模ネットワークから、K-clique法に匹敵する精度のコア部群を効率良く抽出できることを示す。

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