Research

研究内容

研究テーマ

両親媒性ソフトマターである脂質分子は、自己集合して膜を形成します。脂質膜は、2次元膜面内での相分離や、3次元空間でのベシクル変形などの多様な物理現象を示し、その構造は弾性エネルギーにより支配されます。
生体細胞は、この脂質膜を器・界面として利用しています。ミトコンドリア・小胞体のような複雑な構造体を形成したり、膜の融合・分裂などのダイナミックな動きが物質輸送を行っています。また、脂質膜小胞は、ドラッグデリバリーや化粧品などの材料としての応用開発も進められています。
私たちは、人工的に作製したマイクロメートルサイズの膜小胞(人工細胞膜、リポソーム、脂質ベシクル等と呼ばれる)を用いた実験により、膜の新奇現象を発見し、膜の新たな可能性を表現することを目的に研究を進めています。様々な膜の形や動きを創り出し、物理化学的な解析を使って、膜の世界を探求します。


     解説記事» "人工細胞膜のダイナミクス解析と構造制御" 応用物理, 86, 875 (2017)


1. 力学応答
    

せん断流れ場によるシアストレスや浸透圧による伸展張力をベシクルに加えた際の、膜の相分離構造の変化を調べました。流れ場が誘起する相分離の非平衡パターン(ストライプ構造や波の伝播)を可視化し、膜中のコレステロール量依存性を明らかにしました。また、張力により膜が相分離し、秩序相ドメインが形成されることを発見しました。

"Shear-Induced Nonequilibrium Patterns in Lipid Bilayer Membranes Exhibiting Phase Separation" T. Hamada, et al., Langmuir, 40, 8843–8850 (2024). doi
"Domain dynamics of phase-separated lipid membranes under shear flow" T. Hamada, et al., Soft Matter, 18, 9069-9075 (2022). Open Access
"Osmotic-Tension-Induced Membrane Lateral Organization" N. Wongsirojkul, et al., Langmuir, 36, 2937-2945 (2020). doi
"Lateral phase separation in tense membranes" T. Hamada, et al., Soft Matter, 7, 9061-9068 (2011). doi PDF


2. 光コントロール

光応答性分子を膜に導入することで、膜の融合、相分離の生成・消滅、小胞の開閉(細胞のオートファジーに類似した動き)、膜の出芽(細胞のエンドサイト-シスに類似した動き)等のダイナミクスを光で制御することに成功しました。ナノメートル領域の膜分子の反応を、マイクロメートル領域の膜ダイナミクスに変換する機能システムを、膜の物性に基づき設計します。

"Photo-induced fusion of lipid bilayer membranes" Y. Suzuki, et al., Langmuir, 33, 2671-2676 (2017). doi "Photochemical control of membrane raft organization" T. Hamada, et al., Soft Matter, 7, 220-224 (2011). doi PDF
"Membrane disc and sphere: controllable mesoscopic structures for the capture and release of a targeted object" T. Hamada, et al., J. Am. Chem. Soc., 132, 10528-10532 (2010). doi
"Reversible Control of Exo- and Endo-Budding Transitions in a Photosensitive Lipid Membrane" K. Ishii, et al., ChemBioChem, 10, 251-256 (2009). doi
"Reversible photoswitching in a cell-sized vesicle" T. Hamada, et al., Langmuir, 21, 7626-7628 (2005). doi


3. コロイドとの相互作用

膜とコロイド粒子の複合化ダイナミクスに関する実験を行っています。相分離した膜にコロイドを加えると、小さいサイズの粒子は秩序相へ、大きなサイズの粒子は無秩序相に分配されることを見出しました。また、膜への吸着度合いに依存して粒子の拡散係数が変化することや、膜に張力を加えることで吸着した粒子が膜を透過することが分かりました。

"Lateral Tension-Induced Penetration of Particles into a Liposome"K. Shigyou, et al., Materials, 10, 765 (2017). doi
"Lateral diffusion of a submicron particle on a lipid bilayer membrane" K. Shigyou, et al., Langmuir, 32, 13771-13777(2016). doi
"Size-dependent partitioning of nano/micro-particles mediated by membrane lateral heterogeneity" T. Hamada, et al., J. Am. Chem. Soc., 134, 13990-13996 (2012). doi


4. 微小空間効果

マイクロメートルスケールの微小空間である細胞内では表面効果が大きくなるため、細胞内の分子は膜と相互作用することでバルク系とは異なる振る舞いをすることが考えられます。人工細胞内に分子システムを閉じ込めたモデル実験から、空間サイズに依存してDNA分子が高次構造を変化させることや、膜小胞内部の化学反応が促進することを発見しています。

"Molecular behavior of DNA in a cell-sized compartment coated by lipids" T. Hamada, et al., Phys. Rev. E., 91, 062717 (2015). doi
"Gene Expression Within Cell-Sized Lipid Vesicles" S-i. M. Nomura, et al., ChemBioChem, 4, 1172-1175 (2003). doi

5. 非平衡ダイナミクス

界面活性剤による膜の可溶化プロセスにて、ベシクルが開閉する自励振動を解析しました。界面活性剤の濃度やベシクルのサイズに依存して、振動のON/OFFや周期が変化することを明らかにしました。また、可溶化の全プロセスを観察することによって、振動を伴う膜ダイナミクスの分類に成功しました。

"Physicochemical profiling of surfactant-induced membrane dynamics in a cell-sized liposome" T. Hamada, et al., J. Phys. Chem. Lett., 3, 430-435 (2012). doi
"Rhythmic pore dynamics in a shrinking lipid vesicle" T. Hamada, et al., Phys. Rev. E, 80, 051921 (2009). doi PDF

6. 相分離と曲率

膜面に形成された相分離ドメインは、膜の曲率変化を誘導します。これまでに、サイズの小さなドメインから順に出芽変形が起きる事や、ペプチドが作用し粘性が変化した膜での出芽ダイナミクス、荷電脂質を含むベシクルの相分離構造と形状(膜孔形成)のカップリング機構などを見出しました。

"Coupling between pore formation and phase separation in charged lipid membranes" H. Himeno, et al., Phys. Rev. E 92, 062713 (2015). doi
"Charge-induced phase separation in lipid membranes" H. Himeno, et al., Soft Matter 10, 7959 - 7967 (2014). doi "Endo- and Exocytic Budding Transformation of Slow-Diffusing Membrane Domains Induced by Alzheimer’s Amyloid Beta" M. Morita, et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 16, 8773-8777 (2014). doi PDF "Dynamic Processes in Endocytic Transformation of a Raft-Exhibiting Giant Liposome" T. Hamada, et al., J. Phys. Chem. B 111, 10853-10857 (2007). doi


HOME Page top