■ 食べる 〜感謝感激雨あられ〜

 成田発デトロイト行のノースウェスト機で、初めての機内食を経験する。メインディッシュは2種類から選べ、給仕されるときに "Beef or chicken? " と聞かれる。答えるとすぐ小学校の給食で使ったようなお盆に全ての品が載ったセットを手渡される。狭い飛行機で大勢の乗客に給仕せねばならないので多少の見栄えの悪さは致し方ない。とにかく飛行機の中で食事が出てくるというだけで楽しかったので、食器がプラスチックだろうがなんだろうが全然構わなかった。
 チキンソテーを頼んだ。味のほうは…わりといけるが、味付けが濃厚で油っぽい。バターをふんだんに使っている。米国機だから調理も米国風なのだ(と思う)。カロリーを必要以上に摂取しているアメリカの食生活を垣間見た思いがする。今回のアメリカ食べあるき(べつに食べあるきが旅行の目的ではなかったが)はこの機内食から始まった。
 初めてのアメリカなので、旅行中あえて和食は食べず、1週間アメリカ食に浸ろうと決める。

 米国に来て3日目。ちょっとアメリカ食にも飽きてきた。
 ホテルの自室でデスクワークしていたら、ふと荷物の中にある日本のあられ(ピーナツに醤油味の衣がかぶせてあるやつ)の袋が目についた。出発前に家族が持たせてくれたものだ。「荷物になるなー」とぶつぶつ言いつつせっかくだから持ってきた。なんとなく袋を開けて1個口に含む。

 うまいっっ。

 後を引く。ポリポリポリ、気がつけばあっという間に1袋空けてしまった。うーむ、さすが海外経験豊富な人はこんな時に何が欲しくなるか知ってるなあ。くやしいが俺の負けだ(何に?)。何のヘンテツもないあられだが、たった3日間アメリカ食に浸っただけでこんなにも旨く感じるとは驚きだった。
 このとき、自分が早くも日本の味を渇望していることに気づかされた。そして残りの4日間をどうやって過ごせばいいのか…と、ちょっと途方に暮れた。

 バージニアビーチにも和食レストランはある。今回の自分の行動エリア内で見かけたのは「Osaka」という店。どう見ても日本風ではないあやしい着物を着た女性の絵が窓硝子に描いてある。一緒になった日本の人達は何回かこの店に夕食を食べに行っていた。寿司が中心で、安くて旨い、となかなかの評判であった。1度くらい現地の和食レストランがどんなものか行ってみてもよかったのだけど、私は夜は時差ボケでホテルでダウンしていたのでついに行く機会がなかった。そして1週間(ピーナツのあられ以外は)アメリカ食で通した。最後にはもはやそれは苦行の部類に入るものであった。

 最終日、デトロイト空港内をうろついていると、どこからか懐かしい匂いが漂ってくる。そこにはなんと、うどん、そば、ラーメンの立ち食いスタンドが! 一瞬ここは西武池袋駅の地下改札口かと錯覚してしまった。この空港は日本人利用客が多いらしく、建物内の案内表示に日本語が併記してあるなど、やたら日本色が濃いのである。そのスタンドから発せられる醤油ラーメンの匂いは、1週間ベーグルやオムレツやスペアリブばかり食していた私の唾腺と涙腺を刺激してやまず、私はノックダウン寸前となった。かろうじて踏ん張ったけど。

うどん・そば西武池袋駅地下改札口前…ではなく、デトロイト空港内の立ち食いスタンド。やはりお客は日本人が多いですね。

 情けないが、日本食が懐かしかった、という平凡な結論に落ち着いてしまう。これはもうDNAレベルで刷り込まれているとしか言いようがない。日本人の遺伝子には、醤油とかだしの風味に引きつけられるDNAが備わっているに違いない。中国などに旅行したらまた違う印象を持つのかもしれないが、ことアメリカにいると日米の食に対する感覚の違いをまざまざと認識させられる。
 帰国して最初に何をしたか? 天ぷら屋と寿司屋をはしごしたさ。(00.10.29) (revised 01.7.22)



After 5