研究内容
- 高温超伝導エレクトロニクスデバイスの開発
半導体デバイスの更なる集積化が難しくなりつつある今、次世代の論理素子として超低消費電力、超高速演算の可能な素子が強く求められています。超伝導ジョセフソン素子はそのような条件を満たす素子として期待されていますが、トランジスタのように on/off を自由に行き来できるような原理のジョセフソン素子は実現していません。
我々は、高温超伝導体 RE-Ba-Cu-O(RE = Y, Nd, ...)にペロブスカイト型 Mn 酸化物を組み合わせることで新しい機能を持ったジョセフソン接合を作製する研究を行なっています。ペロブスカイト型 Mn 酸化物は高温超伝導体と結晶構造が近いうえ、後述するようにそれ自体が他に類を見ない面白い物性を持っています。ペロブスカイト型 Mn 酸化物の力を借りて、高温超伝導コンピュータを作りたいというのが大目標です。
- ペロブスカイト型 Mn 酸化物の基礎物性の研究
近年になって La-Sr-Mn-O の超巨大磁気抵抗効果や Pr-Ca-Mn-O の磁場誘起絶縁体金属転移といった驚くべき性質が単結晶について報告され、一連のペロブスカイト型 Mn 酸化物は一躍ホットな物質群となりました。A1-xBxMnO3(A:+3価、B:+2価のイオン)という化学式で表されるこの系は、A サイトと B サイトに用いる元素の組み合わせによって電気・磁気特性がさまざまに変化します。未開発の組み合わせはまだ無数にあり、今後新たな組成において他に例のない物性が発現する可能性も十分にあります。現在、我々が素子応用を研究している中心的な物質は、Pr1-xCaxMnO3です。この物質は(磁場だけでなく)電場をかけても抵抗率が著しく減少するという性質を持ち、スイッチング回路への応用が期待できます。
- 高品質酸化物薄膜の作製手法の改良
- ドロプレットはどうすれば防げるのか?
レーザーアブレーション法(PLD法)で作製したYBCO薄膜には、表面上に直径1μm程度のドロプレットが分布するという難点があります。ドロプレットの発生に関する従来の論文を見ると、「レーザーパワー密度が強すぎるとドロプレットが増える」「いや、弱いと増える」と両方の説が存在しています。どうして正反対の説が存在するのでしょう。実はレーザーパワー密度が均一でないにもかかわらず、見かけ上の平均パワー密度で議論をしているからではないでしょうか。通常のエキシマレーザー光をそのまま集光してYBCOターゲットに入射すると、強い光が当たった部分の周辺に弱い部分が存在するのがわかります。ドロプレット生成のメカニズムを議論するには、まずレーザースポットを均一なものにすることが前提であると思われます。
- 熔融バルクターゲット
PLD法において、YBCO単結晶をターゲットに使えばおそらく良い膜ができるけれども、そんな大きい単結晶は手に入らない。ならば単結晶のようにグレインの大きい熔融バルクを使えばいいか、と考えたのが事の発端でした。しかし熔融プロセスは包晶反応を含んでいるため、通常のYBCO熔融バルク内部には非超伝導相のYBCO211微小粒が分布します。そのようなバルクをターゲットに使うと、膜の組成が123からずれるので好ましくありません。我々は熔融プロセスを検討し、まだ数mm程度と小さいものの完全123組成の擬単結晶粒を含むバルクの作成に成功し、これを製膜ターゲットに用いたところドロプレットの少ない膜が得られました。粒がさらに大型化すれば、単結晶基板としての利用も可能になるかもしれません。
- ラザフォード共鳴散乱法による薄膜中酸素量の非破壊測定
ラザフォード後方散乱法は、試料の元素組成を非破壊的に調べることができる魅力的な手段ですが、軽い元素ほど散乱断面積が小さく、観測精度が低くなる欠点があります。ところが酸素だけは、ある特定のエネルギーで入射してきたHeイオンに対して共鳴散乱と呼ばれる原子核相互作用を起こし、結果、通常のラザフォード過程に比べシグナル強度が1桁程度増強します。この現象を用いて、他の手段では難しかった薄膜中の酸素量の測定を非破壊で行なっています。よく知られているようにYBCO123の酸素量は超伝導臨界温度と密接に関係しますし、ペロブスカイトMn酸化物においても酸素量のずれがMn3+/Mn4+存在比のずれをもたらし、ひいては電気磁気特性に強く影響します。酸化物薄膜の物性を調べる場合に、共鳴散乱による酸素量同定技術は極めて強力なツールとなるでしょう。
- その他、共同研究など
- 触媒CVD/レーザーアブレーション(PLD)複合プロセスの開発(増田淳助手らと共同)
薄膜をCVD法で堆積させると同時に、ドーパントをPLD法により添加する新しい製膜方法を開発しました。通常は薄膜堆積の「主」であるPLD法を「従」にまわした方法です。レーザー周波数や雰囲気を変化させることでドープ量を制御できる、膜厚全体にドープが可能、装置が簡便、などのメリットがあります。本手法で作製した Er 添加 a-Si:H 薄膜は、室温でも強い PL 発光を示し、発光材料としての有望性が実証されました。
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