ちょうど年も明けたことなので、今回はNHK紅白歌合戦の視聴率について語りましょう。実は(1)を書いたときから、次のネタはこれでいこうと考えていたのだが、なんとなく季節はずれになって今まで延ばしてしまっていたのであった。 ビデオリサーチ調査による2001年末の紅白の視聴率が新聞に出た。数字を転載してはいけないので大まかに紹介すると、関東地区では前半は約38%、後半は48%と49%の間であった。それぞれ前年に比べ1.1%減、0.1%増。さて新聞というものは主張を持っていなければならない(と自分で思っている)ものだから、こういう数字を報道するとき、単に「○○%であった」という客観的事実だけでなく、何らかの見方を付け加えずにはおかない。比べてみるとやはり新聞によって表現が違う。今回、同じ数字を示しながら、毎日新聞は「ほぼ前回並み」と評したが朝日新聞は「またも50%割れ」と厳しい見方をした。相変わらず冷淡な朝日の記事だった。 思えば昔の紅白はコンスタントに70〜80%を維持し、前稿にも書いたように、今とは比較にならないほど人々の間で紅白が話題になっていた。70%を0.1%でも下回ろうものならNHKはあわてふためいたという話も聞く。それが目に見えて下降し始めたのは1985年。前年は都はるみの引退ステージということで大盛り上がりで、史上最高視聴率に迫りそうな勢いだったのだが、次の年はいきなり12%ダウン。以後数年間、転げ落ちるように減少を続ける。年ごとの視聴率をグラフにプロットしてみるとはっきりとわかる。数字を転載してはいけないので(しつこい)イメージ図として見ていただきたい。84年と89年を比べると、わずか5年でなんと31%も減少している。NHKの偉い人はさぞ青ざめたことだろう。 ここ10年間くらいは、たまたま数字が50%近辺にいるので、あたかも「50%」が一つのボーダーラインであるかのように扱われることがある。1%下回っただけで「50%割れ」と見出しをつける今年の朝日はその例である。だがそのような見方にはあまり意味はないと思う。なぜなら、発表された数字は誤差を含んでいるからだ。 よく知られているように、視聴率調査はすべての家庭を対象にせずに、ピックアップされた一部の家庭(関東地方は600世帯)のみについて行われている。だから、調査対象の600世帯から得られた数字が50%だったとしても、関東地方のすべての世帯での本当の視聴率が正確に50%であるかどうかは定かでない。どの程度なら定かであるかというと、「本当の視聴率は50%±4.1%の範囲に、95%の確率で入っている」ということは統計学的に言える。ややこしいね。つまり算出された視聴率が49%だったときに、実際の数字は45%かもしれないし、53%だとしてもおかしくない、それくらいの誤差が含まれるということ。だから50%をほんのちょっと割ったくらいで鬼の首とったようにあげつらうのはあまり意味がないし、逆に「前回より0.1%上回った」と誉めるのもやや的外れなのである。 「50%」という数字が無意味である理由はもう一つあって、おそらくみんな気が付いていると思うが、それはこの数字が第2部のみの視聴率であるということだ。いったいなぜいつも1部を無視して2部の数字のみを云々するのか、理解に苦しむ。もちろん、9時までは裏番組にレコード大賞があってどうしても視聴率が伸びないから、1部2部に分けて数字を算出してもらおうというNHKの苦肉の策だろうが、それだったら全体を10部ぐらいに分けて一番数字の高かったコーナーだけを評価したっていいはずだ。だがそれをやり出すと限りなく最大瞬間視聴率に近くなる。1部2部ごとの数字を出すのもよいが、やはり「今年の紅白の視聴率」と言った時には1部2部合わせた平均視聴率も算出しないと公平ではないのではないか。 そこで、89年に紅白が2部制になって以来の、1部と2部の視聴率と放送時間から各年の総合視聴率を計算してみた。一度は38%まで落ち込んだ年もあるが、まあコンスタントに40%台を維持している。だいたいこんなものだと考えておいたほうがよさそうだ。 というわけで、「紅白」の視聴率はとっくの昔に40%台に落ち込んでいたことがわかったが、これが即、紅白の低迷を物語るものであると言うつもりはない。昔に比べるとコンビニもできたし開いている店も増えたしTV離れもあるし、大晦日の夜にTVを見ている人自体が少なくなっているはずだ。この時間にTVをつけている人の中で紅白を見ている人の割合はまだ多いのではないか。 よしんば紅白に以前ほど人気がなくなったとしても、30%とっていれば大丈夫。ドラマの場合は30%取れば大当たりと言われ、週刊誌などがその番組に便乗した記事や企画を載せたがる。紅白も同じで、低迷低迷と言いながら実際には美川憲一の衣装や森昌子の久々の登場を話題にしていた人は多かったでしょう。30%以上の人が見ている限りは堂々と続ければ良いと思う。もし10%まで落ちたら、ちょっと考えたほうがいい。 私の実家では今回の紅白は視聴率100%だった。もっとも受像機が受像していただけであって、本当に人々が視聴していたかどうかは怪しい。 (02. 1. 5) |